DRI テレコムウォッチャー




急ピッチでシェア拡大を計るボーダフォン(世界最大の携帯電話会社)  −わが国でも電気通信分野の外資系最大企業にー

2001年3月15日号

 不況による株価低落、3G免許取得に伴う多額の資金支出によりM&A活動が全般的に鈍っているさなかにあって、英国の携帯電話会社、ボーダフォンの世界市場への進出は一向に衰えを見せていない。
 他企業の取得、提携によりグローバルな世界進出を行うというのが、同社CEOジェント氏の強い信念である。事実、同社は1999年秋の米国におけるエアタッチの取得(現在この会社はVerizon社との合弁会社で米国最大の携帯電話会社のVerizon Mobileになっている)、2000年初頭のドイツ大企業Mannesmann(ドイツ最大の携帯電話会社、Mannesmann Mobileをも所有していた大企業)の取得を始めとする欧米主要国での携帯電話事業への進出、さらに最近はアジア地域にも重点を向け、昨年後半から本年に掛けての精力的な交渉が実を結び、ますます市場シェアを伸ばしている。わが国でも日本テレコムの最大株主になり、その子会社のJ-フォン(わが国大手の携帯電話会社)に対する影響力を行使し得る地位に立つとともに、中国ではChina Mobileと緊密な提携関係を持つに至った。
 わが国通信市場へのこれまでの主な進出企業は2000年にそれぞれ20%ずつの株式取得により、日本テレコムの大株主になったAT&T、BT及びC&W(わが国では国際通信会社のIDCを合併し、現在C&W IDCを運営)であった。ところがAT&Tの日本テレコムからの資本撤収、短期間でのボーダフォンによる日本テレコムへの資本進出により、わが国での外資の力関係は大きく変化した。
 BTはゆくゆくは日本テレコムに有する資本を売却する可能性もあるとの観測も流れており、今後当分の間はわが国でのもっとも強力な外資系通信事業者はボーダフォン、C&Wの両社になるものと見られる。両社ともに英国のBTに対する競争事業者であって、わが国への参入状況からしても老舗企業であるBTの退潮がみられる。
 さらに、欧州市場における特に2000年後半からのボーダフォンの進出も著しいものがある。
 以下、今や7870万の加入者(2000年末)を有するに至った世界最強の携帯電話会社 ボーダフォンの市場拡大の状況をフォローする。


アジア市場―日本、中国の両市場に強力な拠点を確保―

1、わが国第3位の電気通信事業者、「日本テレコム」の筆頭株主に

 ボーダフォンは昨年12月に、JR西日本およびJR東海から日本テレコム株式15%を2800億円で取得し、すでに同社に20%ずつの資本を所有しているAT&T、BTに次いで第3番目の外資系株主になった。
 さらにボーダフォンは、2001年2月27日、昨年末に流布されていた噂通り、AT&Tから同社が日本テレコムに有している株式10%を13億5000万ドルで買い取ると発表、日本テレコムの最大株主になることとなった(ボーダフォンの日本テレコムへの投資活動に対し、NTTドコモのAT&T Mobile取得がキッカケを与えた点についての説明については、2001年1月1日のテレコムウオッチャ‐「20世紀末におけるグローバルテレコムの点景」を参照されたい)。
 なお、ボーダフォン、BTの両社は日本テレコムの携帯電話サービス提供子会社、J-フォングループにも、株式(ボーダフォン26%、BT20%)を有している。日本テレコム、J-フォン持ち株会社に対する株式所有の関係は次表の通りである。

表 日本テレコムをめぐる新たな出資関係

 ところで、BTもAT&Tの株式取得を望んだが、時価に対し37%のプレミアム価格を現金で提示したボーダフォンに対抗できず、自社株式20%を維持し、当面ボーダフォンと協調する道を選んだ。日本テレコムはそのプレスレリースにおいて、「BTからは引き続き、当社に全面的にコミットして頂けるものとのコメントを頂いている」と述べているが、すでに1部の外紙は将来、BTは日本テレコムから資本を撤収する可能性がある」との観測をしている(例えば2.27付けのFTMarketWatch、"Vodafone to up Japan Telecom stake")。
 ボーダフォンは日本テレコムの筆頭株主になることにより、C&Wと並び、わが国の電気通信市場において外資系大株主となった。また同社は携帯電話サービスの分野での世界制覇を目指しているだけに、本年5月から世界に先駆けてNTTドコモがスタートさせる3Gサービス(次世代携帯電話サービス)に強い関心を有している。同社は欧州市場で他社に先駆けた3Gサービスの開始を目指しており、ドコモの競争業者 J-フォンの大口株主の立場から、3Gサービスに関する技術上、マーケティング上のノーハウの獲得に期待を寄せている。
 なお日本テレコムは、本来の固定通信の分野では、NTTに対抗する競争業者としてDDIに次ぐ事業者である。しかし、携帯電話子会社のJ-フォンへの参画のみを期待して日本テレコム株を買収したボーダフォンが、将来大口株主としての立場を利用してJ-フォンの経営権を要求、固定電話部門での権益の放棄を求める事態も十分に考えられる。その際には日本テレコムの日本側経営陣は難しい対応を迫られることともなろう。

2、中国ではChina Mobileと戦略的提携

 ボーダフォンは日本テレコムの株式買増しを発表したのと同日の2月27日、昨年10月に合意済みになっていたChina Mobileとの戦略的提携の正式調印を結んだ(2.27付けの同社プレスリリース、"Signinng of strategic alliance agreement between Vodafone and China Mobile")。
 この提携の内容については、2000年11月1日付けのテレコムウオッチャー「躍進する中国携帯電話会社のChina Mobile(中国移動通信)−営業エリアを拡大しボーダフォンと提携へー」を参照されたい。
 ボーダフォンのジェント会長はChina Mobileとの提携に当たり、「当社はChina Mobileを長期にわたる戦略的パートナーとして、同社と成功裡に協働して行くことを期待している」と熱いエールを送った(同社のプレスリリース)。実際、ボーダフォンに次ぐ世界第2位の携帯電話事業者(2000年11月現在の加入者数4270万)を有し、今後も強い成長が予想されるChina Mobileとほぼ、排他的な提携関係を結んだことはボーダフォンにとり大成功であった。
こうしてボーダフォンは、これまで手薄と見られていたアジア市場において、それぞれ大手携帯電話事業者への大幅な資本参加(日本)、最大の携帯電話会社との戦略的提携の締結(中国)を同時に発表した。これにより同社はグローバルな市場獲得戦略がアジア地域においても、着々と実施に移されている事実を誇示したのである。


欧州では資金不足の環境を利用して携帯電話事業者への資本参入を推進

 ボーダフォン自体の株価も昨年後半以来、大きく下がっているが、他の携帯電話事業者に比し、相対的に値下がり率は低い。また、BT、DT、FTの既存電気通信事業者3社に比して株価水準が高かったこと、資産の運用管理が巧みであることによるのであろうか、負債の額も少なく、金融筋の信用もまずまず厚い。なんといっても世紀のM&A合戦となり、2000年初頭に終了したドイツのマンネスマン社の買収が同社の財務に大きく貢献した。例えばボーダフォンは2000年7月当時、マンネスマン傘下にあった英国の携帯電話会社オレンジをフランステレコムに対し、現金及びボーダフォンとフランステレコムの株式交換(フランステレコム側からの買戻し特約付き)で譲り渡した。ところが最近、オレンジ株を株式公開(10%程度)したフランステレコムは株式市況の低調の中で、予定の3分の1の収入(45億ユーロ)しか得られなかった。また上記の特約に基づき、多額の自社株式買い戻し金(127億ドル)をボーダフォンに支払わざるを得なくなった(3回の分割払い)。ここで、明かに得をしたのはボーダフォンの側であった。
 ボーダフォンは特に昨年後半、携帯電話会社の買収、新たな資本傘下、持ち株比率の引き上げを計り、市場シェアの拡大に努めている。他の携帯電話会社が資金不足に悩む今こそ、積極的な直接投資を行うに最適の機会であると考えているようでもある。その主なものは次ぎの3件である。

  • Swisscomの携帯電話部門の株式25%を取得(2000年11月)
  • Eircell(アイルランド最大の電気通信事業者Eircomの携帯電話子会社)を40.9億ドルで買収(2000年12月)。なおこの出来事は小国の携帯電話事業者が大手であっても、丸ごと他社に買収されてしまうことを示した最初の事例である。巨額の投資を要する3Gの展開に伴い、このような事例は今後増加するだろう。
  • Airtel(スペインの携帯電話事業者)への73.8%の資本参加(2000年後半)。昨年半ばまでボーダフォンの出資比率は22%、英国BTの出資率とほぼ同様であった。その後ボーダフォン、BTとのAirtelの経営権争奪争いの結果、ボーダフォンが勝利を収めたものである。なおBTは現在のところ、Airtelに17.8%の株式を有してはいるが、呉越同舟の仲の両社のことであるから、BTが最後までこの権益を守り切れるか定かではない。わが国の日本テレコムにおけるボーダフォン、BTの関係と状況は似ている。

 なお、ボーダフォンは本年1月、汎欧州統一料金によるサービスのEUROCALLを3月から提供すると発表したことも同社のサービス提供に掛ける意気込みを早くも示したものとして注目される(2001.1.16付けプレスリリース "Vodafone introduces EUROCALL―The simple way to call across Europe―")。
 このサービスによれば、ボーダフォンと提携している欧州諸国(具体的には英国、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン)で国際携帯電話サービスが分当たり0.8ユーロドルで利用できる。ボーダフォンはこれまでローミングサービスには、曜日、時間帯、発・着信国に応じて、一万もの多様な料金があったが、これを1本化したと自負している。
換言をすれば、携帯電話がマグドナルドが世界各国で販売するハンバーグ並みの大衆商品になったことを示すものである。


悩みを抱えるボーダフォンー離陸しないインターネットモーバイル、迫られる3Gの早期実施

 このように、他の欧州携帯電話会社を大きく引き離しいわば独走体制にあるボーダフォンであるが、将来の不安がある点は他社とかわらない。小さいところでは、同社が資本を所有しているイタリアの固定系電話会社InfostradaのENEL(イタリア最大の電力会社)への売却が進捗していない。この交渉が長引くか、また、当初金額(110億ユーロ)を大きく下回る額しか得られないと、今後の同社の負債返済計画に支障を来すことになり兼ねない。
 最大の問題は、これだけグローバルな地理的拡大を続けていながら、インターネットモーバイルの面では他社と同様にサービスの伸び悩みが解消していないことである。ボーダフォンはフランスの大手メディア会社のVivendiと提携し、インターネットモーバイルのポータル企業Vizzavi(折半の資本提供による合弁会社)を運営している。ところが最近のカンヌにおける携帯電話会社の会議の席上、VivendiのCEOのMessier氏はVizzaviのサービス展開が順調に進んでいないことを明かにした(2000.2.26付けFT Deutchland,"Wap nicht reif fur Massenmarkt")。
それでも、ボーダフォンはインターネットモバイル、3Gの将来について強気であり、欧州では年内に(多分スペインで)サービス提供開始すると確言している。スペイン政府は3Gの早期実施を期待し、そのためビューティーコンテスト方式によらず、安く免許を附与したとの経緯もある。またボーダフォンにしたところで、最大のライバルであるNTTドコモが2001年5月にサービス開始を行う以上、意地でも年を越したサービス提供にはしたくないとの考えであろう(この記事を書いているさなかに、わが国でのJ-フォンによるサービス提供が本年末から、来年へと7ヶ月延期になったとの報道が入った。ボーダフォンは多分、欧州での年末から年初に掛けての3Gサービス提供を遅らせることなろう。欧州における3Gサービス提供繰り延べの流れは大きくその理由も多様であって、この案件については、別項の論説を必要とする)
 ところで、ボーダフォンはそのアグレッシブな企業行動のゆえに、かなりの批判を受けていることも事実である。しかし、最近のIT・技術株の大幅な低下の状況の下に、株式の買い手がいなくなれば、事態はますます悪化するばかりであろう。従って、ボーダフォン社は欧州の携帯電話事業推進に当たって、この点でも真に大きな存在だと言うことができる。
 さらに最近欧州のジャーナリズムで、「NTTドコモのiモードによって、インターネットモバイルの実需があるということが証明されており、心強い」との論が良く聞かれるようになった(例えば2001.2.26付けteledotcomのJeyyITa Haldar氏による論説、モWAP Gets Some Respectモ)ことも付言しておく。NTTドコモは欧州事業者にとっては、アジアからの欧州市場への闖入者として大きく警戒されている存在である。しかし、皮肉なことに、ドコモのiモードは欧州携帯電話加入業者が事業推進をするに当たっての精神的な支えになっていることも疑いない。




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