DRI テレコムウォッチャー



20世紀末におけるグローバルテレコムの点景

2001年1月1日号

 元旦を迎え21世紀の初年度に入ったが、誰しもあまり晴れやかな顔付きをしていない。消費に回復が見られず、わが国経済はまたもや不況局面に逆戻りするのではないかとの懸念がささやかれている。海を隔てた米国では票数を巡っての異例の長引いた争いの後、共和党のブッシュ氏が次期大統領に定まった。ところがブッシュ氏自身、人柄の良さはともかく、強い指導力を発揮するタイプの大統領になりそうもないとの下馬評である。また米国経済が今や調整過程に入ったことは、大方のアナリストたちが認めている。
 このような状況の下では、世界のテレコム市場の見通しについて景気の良いご託宣を述べられるはずがない。いずれ折りをみて(つまり欧米、日本のアナリスト諸氏の予測を見定めた上で恐る恐る自説を開陳するということである)21世紀初頭のグローバル電気通信市場に関するクリスタルゲイジング(将来占い)を試みたいと考えているが、取り合えず今回は、特に2000年12月中に生じた2、3のトピックス及び主要IT・電気通信事業者の戦略とその成果(成功・不成功)について解説する。


NTTDoCoMoの米国進出、早くもわが国の携帯電話市場にインパクトを及ぼす

 Vodafoneは日本テレコムの株式15%取得で同社と合意した(日本テレコムには外資としてすでにAT&TとBTがそれぞれ15%ずつの株式を所有している)。
 さらにAT&Tは日本テレコムに有する同社の15%の株式を売却する意向であり、どうやらBTとVodafoneの両社が買い手として日本テレコムに接触、あるいは交渉中だという。現在当事者であるはずの4社(日本テレコム、AT&T、BT、Vodafone)はこの案件について沈黙を守っている。しかし3Gサービスを早くも本年秋に実施するJ-phone筆頭株主である日本テレコムへの影響力を強めるための株式の買い増しは欧州諸国での3Gサービスの円滑な実施を至上の課題とするBT、Vodafoneの両社にとっては絶好の投資対象である。VodafoneもBTもJ-phoneから3Gサービス提供の経験、ノーハウを得て欧州の3Gサービス提供に役立てたいと考えている。
 この株式争奪戦がどのような形で収まるかはそのうち明かになろうが、次ぎのような判断の連鎖により、まずVodafoneが日本市場での影響力行使の強化に動き、BTがその後を追ったことは容易に推測できる。
 即ちAT&TWireless、NTTDoCoMoの両社によるAT&Tの日本テレコム株売却の予想(AT&Tとしては新たにDoCoMoのiモード戦略にコミットした以上、DoCoMoの競争会社に資本を有している必要はない)→DoCoMoの海外進出に対する対抗策としてDoCoMoの本拠である日本市場での競争業者(J-phone)への支配強化を図る→第1着手としてJ-phone筆頭株主の日本テレコム株15%を取得し、当面同社に対しAT&T、BTと同一の株式数を取得する→第2着手としてAT&Tが日本テレコムに有する株式も入手することによりBTを追いぬき、同社最大の株主になる。
 いずれにせよ今回のVodafoneの動きは携帯電話事業の競争がいかにグローバルに行われ、ある時点でのある業者のある国でのアクションが他国の他の事業者の戦略に影響をもたらすかをよく示した事例であろう。ことほどさように、携帯電話市場での競争は真にグローバルなものになっている。

イングランド銀行、3Gへの投資が不良債務になる危険を警告

 イングランド銀行は2000年12月14日、報告書を発表し欧州の携帯電話諸会社の投資金額が膨大であり、しかも返済計画が定かでないので不良債権になる可能性があると警告した。
これまで、欧米の証券、金融筋から3Gの免許取得およびネットワーク構築に要する費用が過大に過ぎるとの危険について多くの指摘がなされてはいた。現にDT(ドイツテレコム)、FT(フランステレコム)、BT(ブリティシュテレコム)、KPN(オランダ最大の電気通信会社)など、3Gに関連し多額の債務を負う企業は軒並み、格付け機関から債権格付けを引き下げられた。しかし権威あるイングランド銀行(わが国の日銀に相当する発券銀行)の警告となるとその重みはきわめて大きい。
 イングランド銀行は2001年度には、3Gの免許料支払いおよびネットワーク構築で必要とする資金は総額2500億ドルに達し、このため幾つかの携帯電話会社は「金融会社がリスクを避けようとして高い利子で負債を抱えざるを得なくなる」→「このため利子の返還がますます難しくなる」→「資金繰りが難しくなると倒産も起こりかねない」との負の循環のサイクルが生じる可能性を指摘する。(2000.12.14付けyahoo.com "Bank of England Warns of Phone Debt")
 またイングランド銀行が上述の警告をした数日前の12月12日、米国の高名なIT評論家Negroponte氏はバルセローナのさる会合(Credit Suisse First Bostonの大口顧客が多数出席)で講演した。氏は特に携帯電話会社によるGPRS(欧州の現行WAPによるインターネットモバイルのパケット版、DoCoMoのiモードと同じように、常時インターネット接続が可能になりサービス向上による飛躍的な利用者の増加が期待されている)が2001年の前半に各国で続々と導入される事態を指摘し、「GPRSが失敗すれば、ますます3G投資への資金が集めにくくなる。またGPRSが成功すれば、加入者から莫大な投資を要する3Gへの移行を急がなくてもよいとの抵抗が生じる」と論じた。パケットを利用した過渡の段階が3G実施を困難なものにし兼ねないことを示した鋭い指摘であろう。結論として同氏は携帯電話会社が加入者から応分の料金を徴収できるシステムの構築が必要であり、これができなければ携帯電話会社は破滅するという「2000.12.12付けBloomberg.com "Negroponte's Cell Phone Talk Causes Indigestion:Mark Gilbert"」(因みにNTTDoCoMoによる情報への課金、自社の料金請求書によるソフト提供業者料金の代理徴収と自社の手数料収納はわが国で現に成功している料金モデルである)。
 Negroponte氏も携帯電話会社の事業運営に厳しい警告を行ったわけである。上記のイングランド銀行Neguroponte氏による2つの警告は携帯電話会社諸社及びこれら会社が実施する3Gの前途が多難であることを予想させる。

FTC(米国連邦取引委員会)、AOLとタイムワーナーの合併を認める

 世界最大のISP企業のAOLと新聞・雑誌・放送・CATV・映画スタディオを傘下に置く巨大メディア会社のタイム・ワーナーの両社が合併について合意したのは、2000年1月10日であった(データーリソース分析レポートvol.8 "合併に向かうAOLとタイム・ワーナー" を参照)。この案件の審査に当たったFTCは2000年12月14日、長期間にわたる審査の後、タイム・ワーナーが有するCATV網を他のISP業者に開放することを条件として両社の合併を認めた。
 両社はすでに欧州委員会、両社株主から合併について承認を得ている。FCCも2000年末あるいは2001年初頭には合併を承認する。
 新企業AOLTimeWarner Incは2001年早々には発足するものと見られ、ここに世界で類のない巨大インターネット・メディア会社が出現することとなった。この合併が承認されたのは年間を通じオールドエコノミー(既存の電気通信事業者)を追撃したニューエコノミー(携帯電話会社、インターネット会社、ブロードバンド関連会社)が世紀末最後の月にも大きな勝利を収めた事を意味するものとして象徴的である。  委員長のPitofsky氏を始めFTC委員全員が両社の合併に賛成票を投じたが、内部ではかなり深刻な議論があり、委員長も最後まで判断に迷ったと伝えられている。AOLとタイムワーナーの側はFTCから提示された合併のための条件としての高速ディジタルCATV回線のISP競争業者への開放に同意し、最大の競争業者のEarthLinkといち早くこの件についての協定を結んだ。それにしてもAOLの2600万に及ぶインターネット加入者の基盤とAOLの諸種のメディアに関する膨大なコンテンツの結合によるシナジー効果はきわめて大きい。1部の委員から反対意見が提起されたにもかかわらず、最終意見に取り入れられなかったのは、結局、異業種関の合併がもたらすシナジー効果を反独占と断定する手法を欠いていたためだという(2000.12.13付けのwww.fool.com "AOL/ TimeWawner:The limit of regulation")。
 どの事業者でも電気通信サービスの提供ができ、さらに電気通信と放送の垣根も崩れた今日、加入者基盤が大きく確固としたサービス提供のプラットフォームを築くことができる業者は多彩な通信・放送サービスを提供することにより、既存の電気通信事業者をバイパスできる。すでに米国でディジタル放送が開始されたのを契機として、AOLがPCによる放送受信サービスを開始し、かなりの成功を収めているという。 最先端を行くIT・通信の巨大企業として、AOLTimeWarnerの動きには今後も目が離せない。

IT・電気通信事業者の戦略の成功・失敗例

 2000年全期を通じて主要電気通信事業の経営者は激しい競争の中で、自社の戦略を策定、実行に移し業績の拡大に努めた。株式市場は毎日、当該企業の業績測定を株価の高低により行い、また最近では四半期ごとの決算で経営者の予測した業績が上がらないと厳しくその責任を追求するようにもなった。この結果2000年末には自社の戦略が効を奏して将来に明るい展望が開けた成長企業が生じた一方で、戦略通り事態が推移せず業績の低下に悩みさらには極端なケースとして、Mannnessman のようにTOBを掛けられて他社に吸収され経営者がその地位を追われるケースも生じた。
 本稿の最後に、これら成功企業と失敗企業を4社ずつ表1、表2に示す。

表1 成功したIT・通信事業者の事例
事業者名
主要戦略とその成果
NTTDoCoMo(日)
iモードにより世界唯一の巨大なモーバイルインターネット業者になった。また、欧州、米国、アジアでマイノリティー資本取得による幾つもの携帯電話事業者と提携を果たし、2001年以降のiモード、3Gに基づく海外サービス展開の基礎固めをした。
Vodafone(英)
かねてから、企業取得により世界最大の携帯電話会社になる戦略を明確にしていた。その戦略は2000年1月の劇的なドイツの巨大会社Mannessmann (子会社として欧州第2の携帯電話会社Mannessman Movileを有していた)の公開市場での取得により実現した。その後も活発な各国の携帯電話取得・資本参加を続けている。
C&W(英)
IPベースの企業顧客にワンストップショッピングサービスを提供し、この目的以外の資産はすべて売却するという思い切った戦略を追及し、大きな成功を収めている。数字を発表していないが、2000年の利益は記録的なものとなる見込み
AOL(米国)
インターネットのプラットフォームで最大限のコンテンツ、サービスを最大限の加入者に提供するとの戦略により、成功を収めている。2000年末には年初に合意した念願のTimeWarner社との提携が規制機関からクリアされ、年初には同社との合併が実現する。

 表1の4社のうち、2社(NTTDoCoMoとVodafone)は携帯電話会社であり、他の2社はいずれもインターネット網によるサービス提供を業とする会社である。共通点として、(1)市場の見通しについて強い信念を有しており、明確な目標を掲げそれの達成に努めている(2)業績、加入者数の伸びも大きく、売上、利益ともに2桁台の伸びを優に達成している(3)自社サービスが世界のどこででも利用されることを信じ、海外進出とこれに伴う外国企業への資本参加を積極的に行っている(4)サービス提供に対する考え方が柔軟であり、マーケットオリエンテッドの態度に徹している(これは、利用者のニーズの徹底的な分析から、iモードのビジネスモデルを開発したNTTDoCoMo、ケーブル網の競争業者への開放に同意したAOLに特に見られる)。
 オールドエコノミーからニューエコノミーへの移行する市場の流れをよく見極めた骨太の戦略が効を奏したと言えよう。
 なお、米国の市内通信会社のVerizon、SBC Communications、BellSouthの3社も業績が優れており成功した通信事業者の部類に入る。ただ、成功の理由は多分に市内市場を競争業者から守り、準独占の地位を固守できているという点にある。各社独自の攻めの戦略に帰する部分が少ないと考えるので、本表には加えなかった。

表2 失敗した通信事業者の事例
事業者名
主要戦略とその成果
Mannessmann(独)
ドイツ第1、欧州第2の携帯事業を有していた同社はVodafoneからのTOBを防ごうと懸命の努力をしたが、遂に敗れ2000年2月Vodafoneに吸収された。同社のCEOのエッサー氏は有能な経営者であったが、携帯電話事業のほか固定電話事業も兼営するとの氏の戦略は、携帯電話のみの運営に専念するとのVodafoneのCEOのゲント氏の戦略ほどの支持を得る事が出来ず株主の支持が少なかった。オールドエコノミーよりニューエコノミーを好む欧州市場の意思を如実に示した例となった。
AT&T(米)
事業全体の業績はさほど低下していないが、一般加入者向け長距離電話事業の売上が前年同期を下回ったため、株価が3月の最高値に比し約3分の1になった。さらに、アームストロング会長が主導した高度ケーブルテレビ網を利用しての電話・ケーブルテレビ・インターネット接続のバンドルサービス提供計画も100億ドルもの巨額の資金を投じながら、所期の成果を収めていない。
WorldCom(米)
同社は1999年秋に締結したスプリントとの合併により、同社の携帯電話、市内通話部門を加え、長距離、市内通話、携帯電話、インターネットを統合的に提供する戦略を掲げていた。しかし2000年夏、Sprintとの合併計画を欧州委員会、FCCが拒否したため、同社は方向性を失った。業績は良好であるにもかかわらずAT&Tの場合と同様に株価は大きく値を下げている。
BT(英)
英国最大の電気通信事業者である同社は英国におけるフラッグシップ(旗艦)であるという自負のもとに、すべての電気通信サービスを自社の名のもとに行ない、また海外電気通信市場にも薄く広く投資する政策を行ってきた。このため事業部門の分社化は欧州の競争業者のドイツテレコム、フランステレコムより遅れた。本年夏、英国、ドイツ両国における3B免許の料金が高額に及ぶことから、BTの微温的で焦点が定まらない戦略が批判され株価が大きく下がっている。

 上記のように、表2に揚げた4社のうちVodafoneを除く3社はそのいずれもが、ほんの1年前まで優良会社として、株式市場でも人気が高かった。WorldComのCEO Ebbers氏は同社がSprintとの合併で合意したときに、「ドイツテレコムなどはドイツ政府が背後にいなければ何時でも買収できる」と豪語したものである。
 このように、明かに旧長距離会社は逆風のなかで金融筋、株主の信用を回復するため、懸命の努力を余儀なくされている。しかしここでは2000年末に特に株式市場の評価が辛かった3社を挙げたに過ぎない。他のオールドエコノミー主体で運営している多くの電気通信事業も今後引き続き、金融・証券筋、株主の厳しい審査の目(時には偏見があるのではないかと思われるほどに)をパスすることが生き残りの最大要件となる。これら業者にとって試練の時期はまだまだ続く。





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