欧州携帯通信事業の最近のトピックスー最大の課題は深刻な負債の重荷の解消―
2001年9月15日号 BTは最近、2001年末までにBT本体から分離して株式上場する予定のBTWireless(BTの携帯事業部門)の株式名および運営会社の社名をO2(発音は“オー・ツー”)にすると発表した。数ヶ月にわたりマーケティング調査を行った結果、このブランド名がもっともユーザーにアピールすると確信して、この名称に決めたとのことである。
BT、2001年に分割、株式上場する携帯電話会社の名称を「O2」に
社名、商品名を簡潔で親しみやすい名称にしようとするブランド作戦がグローバルに行なわれている。携帯電話業界は機種の種類こそ多くても、「携帯サービス」の販売ということで、社名にもサービス名にも同一名称を付けて、顧客の認知度を高めることができるからブランド名の優劣はこの業界の業績に大きく影響するといえよう。
BTが今回、携帯電話部門のブランド名開発に力をいれたのは、上記のような背景によるものであるが、それにしても「O2」の選択は思い切った決断であった。ずばり、生命の根源である大気(酸素)の力に賭けたわけである。大方のアナリスト達はこの決定に賛同している模様であるが、このブランド名が、BTが予期している起死回生の魔力(酸素吸入効果のように)をユーザーに及ぼすかどうかは興味のあるところである。
片やフランステレコムは、最近発表した2001年上半期決算の発表で、同社携帯電話事業部門のオレンジの業績好調を強調している。オレンジは、当初は香港のWhampoaグループが創始した携帯電話会社であったが、その後ドイツのマンネスマン・グループが買収した。さらに、世界最大の携帯電話会社ボーダホンが劇的なマンネスマンに対するTOBに成功して一時、ボーダホンがオレンジを取得したが、その後フランステレコムがこれを買収したものである。欧州携帯業界においても、「オレンジ」というブランド名は当時異色のものであったが、オレンジは使い方によっては固定電話と異ならない料金を打ち出すなど優れたマーケティング戦略により着々と顧客数を増やし、フランステレコム傘下に入ってから1年間で遂に、BTのBTセルネット、ボーダホンを抜き、一躍、英国で第汕ハの携帯電話会社の地位を占めた。ブランド名のオレンジも好評のようであり、前述のBTによる新ブランド「O2」の開発は多分にオレンジに触発されたものであろう。
ところで、上記の2社およびDT(ドイツテレコム)の欧州の3大電気通信事業者は、ともに莫大な債務を抱えており、これの解消が最大の課題となっている。BTが「O2」を開発したのも、その最大の狙いは来るべき携帯電話事業部門の株式上場に当って、できるだけ多くの売却金を入手し債務額を減らしたいとの願いに基づくものであった。フランステレコムも、激しく同社の負債の大きさを批判する格付け会社、金融筋の追及に対する説明のため、同社の将来が洋々たるものであることを示す効果を狙ったのである。
ところがこういった努力にもかかわらず、BT、フランステレコム、ドイツテレコムの株価は連日,低落を続けており、欧州株式市況全体を引き下げる大きな圧力となっている。それほどまでにここ1、2年来の3Gに関連した投資を中心とした過大投資(一言で言えば3Gバブルの崩壊)後の3大事業者の財務は信用を受けていないということだろう。
以下、上記の点についてさらに詳しく解説する。
BTは2001年9月4日、2001年末までに予定している同社携帯電話事業部門の分割、株式初上場に当たり、その運営会社の名称を「O2」にすると発表した(2001年9月3日付けのBTのプレスレリース、"BTWiereless to adopt new brand,O2")。その発表の要旨は次ぎの通りである。
- 新会社(現在BTWirelessの名称でBT事業部門)は“O2”の名称で株式上場する。
- 各運営会社の名称は2002年春までに“O2”に変更する。
- 携帯電話事業持ち株会社の名称は、BTからの分割時点で"mmO2plc"とする。
BTWirelessの傘下にある各国の携帯電話会社(それぞれ、BTの100%子会社)は、BTCellnet(英国)、Viag Intercom(ドイツ)、Telfert(オランダ)、Esat Digifone(アイルランド)、Manx Telecom(マン島)であり、これら会社の総加入者数は1,610万である。
フランステレコム、オレンジの急成長を大きく喧伝
BTは、このように現在は異なっている各運営会社の名称を「O2」に統合することにより、総合的なマーケティング戦略の展開を狙っている。
もっとも他の欧州の大手携帯電話会社もすでに統合ブランド名を採用している(例えば、英国のボーダホン、ドイツのT-Mobile、フランスのオレンジ)。BTは遅まきながら他社に追いつく努力をしたに過ぎない。従って今話題を呼んでいるのは、BTの統合ブランド採用ではない。BTが採用した「O2」というブランド名の新規さがニュースになっている。
BT携帯部門の責任者であるPeter Erkine氏は、このブランド名について、「われわれはモダンでどこでも通用する(ユニヴァーサル)ブランド名を採用した。われわれは、顧客が真に価値を認める有用かつエクサイティングなサービスを提供することにより、顧客との切り離されることがない「きづな」を築くことを目的にしている。O2は顧客へのこの誓約(コミットメント)の象徴である」と語っている。BTは、専門会社のLambie Nairn社とともに、数ヶ月を掛けて、このブランド名を開発、ユーザーの意見も充分に吸収しており、このブランドの認知度の潜在性は高く、国際性が強いことを確認したという。
事実、アナリスト達からの評判もおおむね好評のようであるが、なかには酷評する向きもある。背景としては、BT携帯電話事業への冷めた判断があろう。BTは負債軽減のため、いくつかの国における携帯電話事業(例えばスペイン、スイス、日本)を整理したところであるが、欧州では、ボーダホン、オレンジ、T-Mobileの後塵を拝した4位の地位に甘んじている。総加入者数1,610万も、いかにも少なく、例えば自国フランスと英国だけで優に2000万を超える加入者を持つオレンジと比べてもはるかに見劣りがする。このような状況で、利害関係者の間には、「なにをいまさらブランド名を変えたって」というシニシズムが底流にあることも否めない。ブランド名発表後も、依然BTの株式は冴えず、じわじわと低落が続いている。
フランステレコムは9月5日、同社の2001年上半期の決算を発表した(2001.9.5日付けの同社のプレスレリース、"Half-Year Results 2001: France Telecom Posts a 14% Increase in EBITA; Fast Pace of Growth Confirms Success of France Telecom's Strategy")。これによれば、この期間の同社の総収入は204億ユーロであって、前年同期に比し33.3%伸びた。
フランステレコムの主要部門別の収入を示したのが、次表である。表1 フランステレコム主要部門の2001年上半期収入(単位:100万ユーロ、括弧内は前年同期の数値)
事業部門 売上高 前年対比伸び率(%) オレンジ 7,082(3,290) 115.3 ワナドゥウ(Wanadoo) 689(456) 51.1 固定電話・音声・データ(国内) 11,542(10,128) 14.0 固定電話・音声・データ(海外) 3,078(2,509) 22.7 この表によれば、フランステレコムの主要事業部門はいずれも高い成長率を示しているが、利益の点からみると決して楽観できない同社の財務実体が浮き彫りされる。なにより、フランステレコムの同期間における純利益は19.5億ユーロであって、昨年の38.2億ユーロに比し半減している。
後述するように、成長の著しいオレンジも赤字は減少しつつあるとはいえ、まだ純利益を生み出す段階に至っていない。ISPであるワナドゥウに至っては、赤字幅が増大している。結局、成長の鈍い固定通信部門が新規事業分野の投資を財務面で支えているという推測が成り立つ(フランステレコムは上表の通り、音声分野、データ分野の収入の内訳を示していないので不明であるが、フランステレコムでも固定電話からの収入は低落しているのではないかとも推測できる)。
ところで、今回の決算でフランステレコムがもっとも力点を置いているのは、同社の携帯電話会社オレンジの目覚しい成長振りである。現在、英国で端末を積極的に使っている携帯電話加入者数は、オレンジが1,190万、BTセルネットが1089万、ボーダホンが1,054万であるという。激しい販売合戦の末、オレンジはまだ2位、3位との差は小さいとはいえ、英国最大の携帯電話会社となった。またオレンジは、フランス、英国の他、ベルギー、デンマーク、オランダ、ルーマニア、スロバキアを含む22カ国で事業展開を行っており、ボーダホンに次ぐ欧州第2位の携帯電話事業の地位を不動のものにした。今回の決算1年間で収入を倍以上に増やしたのは、同社の活発な事業活動の財務面への反映である。未だ赤字が続いているとはいえ、その額は前年度の5.82億ユーロから5億ユーロに減少した。フランステレコムのCEO兼会長のボン氏は、決算発表に当りオレンジの目覚しい発展と将来性について、「オレンジはわれわれの期待を大きく上回る成果を示した。カルチャーショックを予期していた人もいるが、われわれが現に目にしているのは、次ぎから次ぎへと起こる目覚しい成果である」と自画自賛している(フランステレコムが2000年5月にオレンジを買収した当時どのような将来予測がなされていたかについては、DRIテレコムウオッチャー、2000年6月15日号「フランステレコム、オレンジの買収により携帯電話の拡大をめざす」)。
大幅な負債を抱えたBT、FT、DTの3社と返済に疑念を持つ欧州金融機関BT(ブリティシュテレコム)、FT(フランステレコム)、DT(ドイツテレコム)の欧州3大通信事業者は、多額の負債を抱えている。これは3Gに伴う経費(免許料の支払いと3Gインフラ構築費用)および、事業拡大のための他の通信事業者の取得,直接投資に伴う過大な支出によるものである。
最近の上記3社の負債額と返済計画を表2に示す(本表作成に当っては、2001.9.6付けのCBSMarketWatch,"DeBT worries back in force in telecos"に負うところが多かった)。表2 欧州3大電気通信事業者の負債額およびその返済計画
事業者名 負債額 返済計画 BT 150億ポンド 2001年初頭に270億ポンドあった負債を短期間にほぼ半額に減らした。2001年末までには、O2の株式上場による収益金を返済に当てる見込み。年初には最大の負債を抱えた問題会社とされていたが、負債問題は峠を超えた模様である。 FT 600億ユーロ 8月末、これまで2003年末に350億ユーロに負債を減らすという計画を修正し、同年末の負債残高を400億ユーロから450億ユーロとした。 FTの負債計画の不充分な点とそれにもかかわらず、強気の同社の事業見通しは欧州金融機関筋、債権格付け機関の反発を招いており、同社の債権は格下げになる傾向が強い。 DT 600億ユーロ 2002年末までに150億ユーロを償還して、負債額を450億ユーロにすると発表。2002年に株式上場を計画しているT−Mobileからの収益金を返却に当てる見込み。 このようにBTの負債返却が大きく進んだため、株主、金融筋の注目は巨額の負債を抱え返還に長期を要すると見られるFT、DTの行動に注がれている。
特にFTのボン会長は「今後も機会があれば海外の携帯電話事業の取得を継続する」と強気の構えであり、自制を求める金融筋と意見が対立している(2001.9.7付けウォールストリート・ジャーナル"France Telecom Says Its Debt Won't Derail Some Expansion")。なお、大手通信事業者の負債の処置を巡る議論は、負債累積のキッカケを作った3Gの将来性見通しの検討にも及ぶこととなった。この点については稿を改めて論ずるだけの価値は充分あるが、事業としての3Gへの関心は、ユーザーからも金融筋からも、大きく減退している。
問題は、将来の携帯事業は3G(さらにはモーバイルインターネットを提供するWAP、GPRSの2.5Gも)抜きでも、可能ではないかの議論も誘発している。例えば、欧州のジャーナリズムで強い力を持つファイシャルタイムスは、この主張を推し進める急先鋒であって、最近この方向の記事を多く掲載している。(たとえば2001.9.5 日付けのフィナンシャルタイムズ、"How the world caught third-generation fever"および2001.9.6日付けのFTMarketWatch、"The future is bright, the future is 2G")。これに対し、事業者の側は依然として3Gの旗印はおろさないまでも、明かに守勢に立たされている。世界最大の携帯電話事業者であり、3Gのもっとも熱心な主唱者であるボーダホンは、同社が2001年から始める3Gはスピードを落し、動画抜きのサービス実施を行うのではないかとのファイナンシャルタイムスの予測記事に反駁して、「わが社は2002年の下半期に3Gプログラムの3GPP(Third Generation Partnership Program)に基づいたサービスを実施する」との趣旨の声明を発表した(2001.9.7付けのボーダホン社のプレスレリース、"Vodafone comment on press speculation")。しかし既定方針堅持だけの発表では、ジャーナリズム、金融筋から提起されている「巨額の債務を抱え、需要の不透明、技術面の隘路等の諸問題に対する懸念」に対する回答には程遠い。
ちなみに最近発刊された「OECD通信白書 Communications Outlook 2001」によると、「OECDのワイヤレス市場の規模は1999年に1,970億ドルで1998年に比して33%の増加、1997年に比して58%の増加であった。1993年には、ワイヤレス通信市場は全通信市場収入の7%に過ぎなかったが、1999年までにこの数値は28.7%まで上昇している。2000年には電気通信事業者の全収入の3分の1が移動体通信から上げられることになりそうである。より衝撃的なこととして、いくつかのOECD諸国では全電気通信サービス収入の半分が、まもなく移動体通信サービスから上げられる所にまで来ている」との記述がある(同書、第3章電気通信市場の規模P47)。
現在世界的な株式低落のさなかにあって、特にIT、電気通信の将来発展までにあまりにも悲観的な観測が多く行なわれている。しかし先に紹介したオレンジの大幅な業績の伸びは、ITバブルの崩壊が進行し始めた2001年上半期にあっても、欧州携帯電話サービスに対する需要は堅調を継続していることを示しているのであって、OECD報告書が述べるように今後も欧州の携帯電話需要は当分減退しないとの主張をささえる1つの証拠となろう。
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