DRI テレコムウォッチャー




フランステレコム、オレンジの買収により携帯電話事業の拡大をめざす

2000年6月15日号


5月30日フランステレコムオレンジ(英国第3位の携帯電話会社)の買収でヴォーダフォンエアタッチ(オレンジの親会社)と合意したと発表した。
オレンジは英国政府から3G(次世代携帯電話)の免許を取得したばかりであり、フランステレコムのほか3Gの潜在性を高く評価する幾社かの携帯電話会社が同社の買収を狙っていた。特にMCI WorldcomKPN Mobile(オランダ最大の携帯電話会社)Telefonica(スペイン最大の電気通信事業者)がこれを強く望んでいると報じられていた。フランステレコムとしては、昨年12月ドイツ第3位の携帯電話会社E-Plusの株式取得について合意成立後にオランダのKPN、米国のBellSouth連合によりその権利を奪われドイツ市場への進出を阻まれた苦い経験がある。今回のオレンジ取得により前回の失地回復を英国市場で果たすとともに苦杯をなめさせられたKPN Mobileに一矢報いた。
フランステレコムは、今後取得するオレンジのCEOのSnook氏に新オレンジ(オレンジおよびフランステレコムの携帯電話事業イティネリスを統合し創設する新会社)の経営を委ねるという思い切った決断をした。この会社はヴォーダフォンエアタッチに次ぐ欧州第2位の携帯電話会社となるが、すでにSnook氏は今後他社の取得、提携による事業拡大により欧州第1位の携帯電話会社を目指すと明言している。
また売却に合意したヴォーダフォンエアタッチにしても、先にマンネスマンを買収したことにより大きな借金を抱え、今回また英国をはじめ欧州の幾つかの諸国で3Gの免許料支払いに莫大な資金を要するため現金を必要としていたため、プレミアム付きの高値(マンネスマンがオレンジを買った時より28%増)でオレンジを売却できたことは大成功であった。
今回の両社の合意でもっともショックを受けたのはオレンジの取得に経営戦略遂行のかなりの部分を託していたKPN MobileとTelefonicaであろう。両社は大手通信事業者(携帯電話会社を含む}に吸収されず独自路線を歩むためには、今後新たな合従連衡策を策定せざるを得まい。
このように欧州携帯電話業界の動きが激しくなってきた背景としては、次世代携帯電話サービスに対する期待と他社に遅れをとらずこの新サービス提供のため準備を進めなければならないという焦り、並びに欧州政府が財源確保のため3Gの免許交付に多額の納付金を課しつつあるという事実がある。これにより免許交付料プラス3Gサービス実現のための投資資金の調達ができない携帯電話会社は競争から脱落せざるをえず、今後欧州携帯電話会社のM&Aは急ピッチで進むものと見られる。
以下、今回の合意の概要、新生オレンジを担うSnook氏の特異なキャラクター、今回の合意がKPN Mobile、NTTドコモに与える影響等について解説する。


フランステレコム、巨額の資金を投じてオレンジを買収

オレンジ買収に関するフランステレコムとヴォーダフォンエアタッチの合意の概要は次の通りである。

●フランステレコムはオレンジ取得の代金として251億ポンド(約4兆1400億円)を支払う。同社はさらにオレンジの有している負債18億ポンド(約2970億円)を肩代わりし、オレンジが英国政府から取得した3G(第3世代携帯電話)の免許料41億ドル(約6760億円)も支払う。

●フランステレコムはオレンジ取得代金のうち138億ポンド(約2兆2700億円)に相当する分を現金で支払い、残りはフランステレコム発行の新株1億2920万株で支払う。同社は新株発行後、いつでもまたどれだけの分量でもヴォーダフォンエアタッチから買い戻すことが出来る。(つまりヴォーダフォンエアタッチによるフランステレコム株の取得は10%未満で暫定的なものである。フランステレコムは新オレンジ株式上場により得た利益により、ヴォーダフォンエアタッチから自社株式の買戻しを予定している。)
なおフランス政府は現在フランステレコムの株式61%を所有しているが、新株発行後この株式比率は54%に下がる見込み。(上記は主として5月30日付けフランステレコム発表のプレスリリースによった)

ところで、実のところヴォーダフォンエアタッチは本年1月のヴォーダフォンエアタッチによるマンネスマン(電気通信、鉄鋼製品製造等を業とするドイツの大手コングロマリット)取得により、オレンジ(本来香港のHutchson Whampoaの所有であったが、1999年マンネスマンが同社から買収したばかりであった)を取得したのであるが、EU(欧州委員会)はヴォーダフォンエアタッチに対し必ずしもオレンジの売却を命じたわけではない。他の選択肢としてヴォーダフォン株式を市場開放させ、自社で同社を所有する道も開いていた。ヴォーダフォンエアタッチがこの方策を選ばなかったのは、なによりも同社が早急に現金を得たかったからである。(さらに敢えて推測すれば、ヴォーダフォンエアタッチCEOのGent氏は有能だが奇癖があり、自説に固執するオレンジCEO Snook氏を忌避し、オレンジ社とともに同氏を熨斗をつけてフランステレコムに進呈したのではなかろうか。) いづれにせよ親会社の意向により3回も所属を転転とし、本来ならお役ご免になってもおかしくないSnook氏は、フランステレコムのボン会長からその異才を大きく評価され、一躍欧州第2位の携帯電話会社の最高責任者に伸し上がった。幸運児というべきだろう。(新オレンジの経営陣とその戦略については、本論後半の項で紹介する)


欧州第1の携帯電話会社を目指す新オレンジ(New Orange)

(1)欧州第2の携帯電話会社となる新オレンジ

新オレンジは2000年末か2001年初頭にはロンドン、パリ、ニューヨークで株式を公開し、親会社フランステレコムとは独立した携帯電話会社として全欧州において「オレンジ」のブランドで活動を開始する予定である。本社の所在地はロンドン。
新オレンジの傘下会社は以下の通りで加入者数は2200万を超え、ヴォーダフォンエアタッチに次ぐ欧州第2の携帯電話会社となる。 (フランステレコム傘下の携帯電話加入者数が1560万、オレンジおよびオレンジ傘下の携帯電話加入者数が700万の総計。前者はフランステレコム発表の1999年度決算に関するプレスリリース(2000.5.10付)による数字である。後者は携帯電話加入者数に関するOrange社のプレスリリース(2000.6.15付)による。)

1、フランステレコム傘下の携帯電話会社
携帯電話会社名
所属国
株式所有比率
加入者数
(単位100万)
Itinerisフランス
100%
10.9
Mobisterベルギー
50.9%
1.1
MobiRomルーマニア
67.8%
0.7
Dutchtoneオランダ
80%
0.5
Mobilixデンマーク
53.6%
0.4
Globtelスロバキア
64%
0.4
Cellisレバノン
67%
0.3
Voxtelモルドバ
53.7%
0.02
MobilComドイツ
28.5%
2.2
Windイタリア
24.5%
1.9
Optimusポルトガル
20%
0.9
PTK Centertelポーランド
34%
0.7
Mobinilエジプト
23.5%
0.5
MobileComヨルダン
35.2%
-
14社
加入者数計
1560万人


2、オレンジおよびオレンジ傘下の携帯電話会社
携帯電話会社名
所属国
株式所有比率
加入者数
(単位100万)
Orange英国
100%
6
Hutchson Telecomドイツ
100%
0.5
Huchison Telecomフランス
100%
0.2
Connectオーストリア
17.5%
0.7
Orange Communicationスイス
42.5%
0.45
KPN Orangeベルギー
50%
0.2
6社
加入者数計
700万人


これに対しヴォーダフォンエアタッチの発表によれば3月末の携帯電話加入者総数は3910万であった。

ヴォーダフォンエアタッチの発表資料はこちら(PDFファイル/180K)(2000.5.30)



(2) 将来に対して強気なフランステレコムと新オレンジ経営陣

フランステレコムは新オレンジの加入者数は本年末には3000万を突破すると発表しているが、最近のイティネリスの急激な加入者数の伸びからしてこの推計には確実な根拠があるものと見られる。
フランステレコムの発表によれば、本年3月末までの1年間で同社携帯電話部門のイティネリスは490万(76.7%)伸びてついに1000万第台の大台を越え1090万に達した。同社はフランス全土の携帯電話の48.2%を占めているので、逆算すると現在携帯電話加入者数は2000万を超えているはずである。フランスは欧州諸大国の中では比較的携帯電話の普及率が低いと言われてきたが、昨年から本年に掛けての急成長により一気に携帯電話大国に伸し上がったこととなる。本年末には普及率は40%を超えるという。
携帯電話の好調が大きく影響してのことではあるが、フランステレコム自体の業績もすこぶる好調である。同社が最近発表した年次報告書によると1998年に比し営業収入は17.4%伸びた。
このように好調な業績を背景として、フランステレコムのボン会長も新オレンジのCEOに予定されているスヌークス氏も共に新オレンジの将来に対し楽観的かつ強気である。
ボン氏はヴォーダフォンエアタッチとのオレンジ社取得に際してのプレスリリースで「オレンジの買収及び新オレンジ(New Orange)の創設は携帯電話の分野において欧州のリーダーになろうとするフランステレコムの国際戦略の重要な一環である。オレンジの経営陣は有線不要(Wirefree)の将来を定義し、これを実現させる点で業界のリーダーとしての力を実証済みである。(Wirefreeが何を意味するかについては事項で説明)新オレンジはフランステレコム社とは別会社として設立され、Hans Snook氏が統率するが、われわれはこの会社がフランステレコムの職員、株主、顧客に利益をもたらすことを確信する」とSnook氏への強い信頼を示しエールを送っている。(2000.5.30付フランステレコムのニュースリリースより)
またSnook氏はすでに今後他社の買収、提携により、オレンジを拡大する路線を歩むことを明らかにしており、ライバルはあくまで首位の座を占めるヴォーダフォンエアタッチであるとしている。
英国紙のサンデイタイムによれば、投資銀行筋の情報としてオレンジはKPN Mobile及びTelefonicaと携帯電話業務の統合について話し合いに入ったという(2000.6.5付フランス紙フィガロの記事、Orange envisage des acqisitionsより孫引き)。確認はされていないがありそうなことである。(この件については、再度本論末尾の「フランステレコム及びヴォーダフォンの合意がKPN Mobile及びNTTドコモに及ぼす影響」の項で触れる)
いずれにせよ、携帯電話に生涯を賭けた新オレンジの経営陣が今後ヴォーダフォンエアタッチと競い合い、激しい競争の下で携帯電話市場の再編を進めていくことは確実であろう。


異色の新オレンジ経営陣と懸念されるフランステレコム幹部との相性(ケミストリー)

新オレンジのCEO Snook氏は敏腕のマーケティングに長けた経営者であるが極めつきの変人(maveric)でもあるらしい。氏は長く香港に生活し夫人が中国人であることも影響してか「風水」(方角占い)が趣味である。また記者会見には黒の皮ジャンパーを着て現われるのが常だという。最近数ヶ月で氏は親会社の意向により、Huchson WhampoaからMannesmann、ヴォーダフォンエアタッチと雇い主を換え、結局フランステレコムに落ち着いた。ところが親会社のフランステレコムの巨大な携帯電話部門をも吸収した新オレンジ社のCEOへと目覚しい栄進を遂げることとなった。実質的にはオレンジがフランステレコム携帯部門を取得した(逆TOB)と言われるゆえんである。本人の実力のしからしめるところであるし、運良くフランステレコムのボン会長と意気投合したことによるだろう。そう言えばボン氏自身も前職はフランス最大の小売チェイン会社、Carrufourの最高責任者であったから、マーケティングの重要性が良く理解できる人である。またこのシンデレラ物語の実現はSnook氏の信奉する「風水」のおかげによるものかも知れない。
氏の口癖に使う用語はwirelinefree(端的にいえば有線不要)であり、将来は音声だけでなくデータ情報のゲートウェイも将来携帯端末で用が足りるというビジョンを示す。フランステレコムのボン会長もこの言葉が気に入ったのか、既に紹介したようにプレスリリースのなかで使った。
新オレンジのナンバー2であるCEO代理のGraham Howe氏はバーミンガム大学の商学部を卒業した生粋の英国紳士である。氏は財務の最高責任者である他、対外折衝、日常の業務運営もこなしている。
さらに社内での地位はともかく、オレンジ社には「戦略・アイディア開発・未来学部長(Director of strategy、imagineering and futurorogy)」という職位があり、このポストにはKenny Hirschhorn氏が就いている。戦略策定部門であろうが夢想家(visionary)と称されるされるSnook氏らしい命名である。
ボン会長は欧州第2の携帯事業をこのような携帯電話事業の将来に信仰ともいうべき強い信念を持ったオレンジの経営層に委ねたわけであるが、フランス、英国の新聞は早くもフランステレコムのイティネレス部門の管理者層と相性が合うかどうかを心配している。
イティネリスの職員は約6000人、うち2000人は公務員の扱いを受けている。大企業として保守的でエリート意識の強いフランステレコムの職員が極度に革新的で形式にこだわらないトップマネージメントと融和していけるかを疑問視しているのである。これに対しフランステレコムのボン会長は「イティネリスの職員は平均年齢30才で柔軟性に富む」と楽観的である。さらに本社はロンドンだし、オレンジ幹部とイティネリス職員との接触の機会はそもそも少ないはずだとの醒めた見方もある。

なお、本稿執筆に当たっては以下の英仏新聞記事を使用した。

5.30付、ザ・タイムス「French-controlled Orange declares war on Orange」
5.31付、ファイナンシャルタイムス「Orange deal puts Snook on top」
6.1付、ファイナンシャルタイムス「Beneath the peel of Franceユs mobile pjone deal」
6.4付、ファイナンシャルタイムス「The Orange renegade」
6.5付、フィガロ「Orange envisage des acquisitions」
6.6付、フィガロ「Orange vise la premiere place en Europe」


フランステレコム、ヴォーダフォンエアタッチ両社の合意がKPN MobileとNTTドコモの提携に及ぼす影響

周知の通り、NTTドコモは本年5月9日オランダ最大の携帯電話会社、KPN Mobileと携帯電話の分野で今後緊密な提携関係を築くとともに、同社株式15%(約5000億円)を取得することで予備的合意を結んだ。正式な協定は近々結ばれる予定である。
両社提携の意義は当時わが国でも多くの報道がなされたので、ここではポイントを記すだけに留める。要は自社のすぐれた技術サービスを欧州諸国に販売したいと考えているNTTドコモからすれば、シャープな戦略により携帯電話事業分野への事業拡大を推進しているKPN Mobileは同社が欧州での事業展開を行っていく上で格好のパートナーだったからであろう。
KPN Mobileにしても、携帯電話の分野での世界最大の事業者の1つでありしかもiモードにより世界に先駆けて携帯電話へのインターネットアクセスサービスを始めて実現、大衆需要を喚起しさらに3Gの分野でこれまた単独で他業者を大きく引き離し2001年6月にはサービスインの体制を整えているNTTドコモは自社技術に弱い同社にとって頼もしい提携先であると評価したに違いない。
KPN(KPN Mobileの親会社でオランダ最大の電気通信会社)にしてみれば、1999年のE-Plus(ドイツ第3位の携帯電話会社)への77.5%の株式取得、NTTドコモとの提携の余勢を借りてさらに、なんとしても(例えばスペインのテレフォニカと連合を組んで)オレンジの取得を行い、欧州第2の携帯電話事業者になる(KPN会長Paul Smits氏のかねてからの悲願であった)道を切り開こうというのがKPNの国際戦略であったが、この野望は宿敵フランステレコムの財力の前に頓挫し、戦略の立て直しを迫られることとなった。NTTドコモにしても当初の思惑が多少外れたという感は否めまい。この件に関しては、テレフォニカが再度提携を求めてKPNと接近しているとの報道もあり、また前項で紹介したオレンジのKPN Mobile、Sonera統合の野望とも考え合わせるとこの件に関し何らかのM&A企業提携に向けての動きが表面化するものと考える。 4月15日の論説「インターネット付き携帯電話(モーバイルインターネット)は日本の独走」で述べた通りNTTドコモは携帯電話によるインターネットサービス(iモード)にしても、次世代携帯電話の計画にしても、世界の最先端を走っている。これに対し欧州におけるインターネットモバイル規格のWAPは明かに巧く機能していない。 このような状況からして、実現までにまだ多くの難関はあるにせよNTTドコモのサービスが早晩欧州の幾つかの国で取り入れられることとなろう。



文中の参照資料の新聞社へはこちらから
* ザ・タイムス

* ファイナンシャルタイムス

* フィガロ



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