米国のDSL業者御3家、いずれも経営不振に -DSL架設は地域電話会社とAT&Tの独占体制へ-
2001年9月1日号 米国のDSL架設は昨2000年に大きく伸びた。年末の加入者数は約200万に達し、1999年末(約37万)に比し4倍以上に達している(注1)。
米国大手DCLECの経営状況と経営破綻の原因
ところで、米国では顧客へのDSLの販売は、(1)DSL伝送の市内銅線を所有する地域電話会社4社(Verizon、SBC、Bell South、Qwest)による顧客への直接販売、(2)地域電話会社からコロケーション(地域電話会社の設備に競争会社が自社の通信回線を引き込むこと)により、DSL機能をリースし、これをISPやCLEC(市内競争事業者)に卸し売りする再販業者(一般にDCLECとも言われている)の両事業者により行なわれている。
ところが2000年後半から現在に至る期間に、DCLECは軒並み経営危機に見舞われ、DCLECと地域電話会社の両業者のDSL提供サービスの競争は、地域電話会社の圧勝の形で早くも終末を迎えた。その典型的な事例は、DCLECの大手事業者3社の劇的な転落に見られる。
DCLECの代表的な大手業者は、Covad Communications Group、NorthPoint Communications、Rithms NetConnectionsの3社であるが、これら3社はいずれも破産法11章に基づく会社再建の申請を行った。申請後、NorthPoint Communicationsはその設備をAT&Tに売却、事実上破産した(法的には存続している模様)。またRithms NetConnectionsは、自力による再建の道が見つからないことを言明しており、他社(ここでも地域電話会社による買収の可能性が高いと噂されている)に吸収されるか、買取手がなく破産するかのいずれかとなろう。3社のうち、債権者から多額の借金免除を受けたCovad Communicationsだけには再建のチャンスはあるが、依然前途多難であることは間違いない。
以下、米国の大手DCLECがどのように経営不振に陥ったか、またその原因はなにかについて説明する。
わが国でもDSLについては、銅線のローカルループを所有する電気通信事業者(主としてNTT系企業)と民間の参入業者の競合の形で、販売競争が始まっており、最近はヤフー・ジャパンが本年9月から大々的なDSLの全国販売を展開するということでジャーナリズムの大きな話題となっているおりから、この小論がいささかでも皆様の参考になれば幸いである。
最初に米国大手DCLEC業者3社の状況を次表で見ておこう。
表 米国大手DCLEC3業者の状況
Covad Communications NorthPoint Communications Rithms NetConnections サービス提供加入者数 約30万(注2) 約10万(注3) 不明 破産法11章適用の申請時期 2001年8月 2000年12月 2001年8月 破産法適用後の状況 債権者からの11億ドルの借金免除を受け、再建計画を実施中 再建に失敗。事実上倒産。AT&Tが資産の大半を買収。 再建の目途は立たないと声明を発表。買い手を待っている状況。 上表に示すとおり、破産法11章を申請した点は3社ともに共通であるが、その後の経緯は異なる。NorthPointは事実上倒産し、サービスを提供していない。またRithms NetConnectionsは、買い手が現れれば吸収され、現れなければ倒産する運命にある。いずれにせよ独立企業としての将来性がない点では、NorthPointと異ならない。唯一、将来性が期待できるのは、債権者からの大幅な債務免除を受けたCovad社だけである。
では、以下個別に3社の破綻の状況を見て行こう。
(1)NorthPoint Communications―最初に破綻し、資産はAT&Tに買収される。NorthPointは、サンフランシスコ、ボストンをはじめ幾つかの都市を中心にDSL卸売りサービスを企業に提供していたCovadに次ぐ業界第2のDCLECであった。顧客のISPは約200、ISPによるエンドユーザー数は約100,000(後述する通り、3月中旬のAT&Tに資産を買収される時の数字)であったと見られる。
(2)Rithms NetConnections―ひたすら買い手の出現を待つのみ
NorthPointは2000年夏、同社の買収について、地域電話会社のVerizonとほぼ話し合いが決まっていた。ところがVerizonは、同年11月になってNorthPointのISPに対する売り掛け金がきわめて多いことが判明した点を理由にして、同社の買収をキャンセルした。Verizonが提示した金額は不明であるが、10億ドルともあるいは8億ドルとも噂された。NorthPointの転落は、上記のVerizonに見捨てられた時点から急ピッチで進行する。同社は2000年12月には、米国破産法11章に基づく会社再建の宣言を行うが、その後も金繰りが付かず、結局3月22日、AT&TによるNorthPointの同社資産買収に至った。
AT&Tは、NorthPointのサービスも顧客も従業員も引き受けず、同社設備(コロケーション設備、ネットワーク用機器を含む)だけを1.35億ドルで購入した。たまたまAT&Tは同社の4部門への分割を実行に移し始めた時期に掛かっており、4部門のうち将来性がもっとも乏しいAT&TConsumer部門の事業として、DSL部門に進出することを考えていたところであり、NorthPoint社の設備はこのサービス実施に当っての格好のインフラであると考えたのであろう。もっとも、NorthPointがAT&Tとの売買契約を結ぶと、ただちにDSLサービス提供をストップする行動に出たこととも絡んで、AT&Tはこの件では多少の批判を受けることともなった。
AT&TによるNorthPoint買収のニュースより2001年3月中旬の時点で米国の新聞を賑わしたのは、NorthPointのサービスが単なる通知1本で打ち切られ、NorthPointの顧客であった多くのISPがエンドユーザーに対する陳謝に追われたことであった。
例えばマイクロソフトのISP提供子会社であるMSN社も被害を受けた1社であり、顧客に当面、ダイアルアップ回線への無料による振替サービスを提供するとか、陳謝の意を込めて40ドルのギフト券を送るなどその対応に忙殺された。
2001年3月は、米国におけるIT、電気通信部門におけるバブルの崩壊が明らかになった時期である。NorthPointの例は、このような事態になると事業者側は自社の利益のみを考え、消費者側に与える迷惑は考えなくなってしまう。競争市場主義が極限の場合、どのような事態が起こり得るのか、また米国の規制機関(FCCを始めとする)は、手を拱いていて良いのかをつくづくと考えさせた事例であった(注4)。1,200名の従業員を有する業界弟3位のRithms NetConnectonsは、8月2日に破産法第11章に基づく再建申請を行った時、創立者でありCEO兼会長の職にあったCatharine Hapka氏はすでに辞任しており、社全体が再建への気力をなくしている模様であった。
(3)Covad―ラストチャンスを求めて再建に向かう
証券取引委員会に提出された同社の年次報告書では、「われわれは多額の追加資金を必要とするが、この資金を獲得できないかもしれない。われわれは、わが社のビジネスモデルは証明されたものでないから、将来の成功を予期することも出来ない。こういったリスクへの対処を間違えば、当社のビジネスに大きな悪影響が及ぶだろう」との記述がある。
まことに正直な告白であるが、この文章を見て資金を提供してくれる金融機関、企業はあるまい。Rithms NetConnectionsはひたすら買い手が現れるのを待ちのぞんでいる模様であるが、先に倒産したNorthPoint社の後を追うようなことにならないかが懸念される(注5)。Rithms、NetConnectionsが破産法11章に基づく再建申請を行ってから2週間と経たない8月15日、業界第1位のCovad社も同様の申請を行った。
DLEC経営破綻の原因とそのインパクト
同社は昨年後半の11月と12月の2回にわたり、それぞれ2000年第3四半期の業績,同じく同年第4四半期および2001年の業績の低下を警告し、また従業員の10%以上を超えるリストラを発表するなど、経営危機を予告してはいた。実のところCovadは地域電話会社からのDSLリースによる販売方式を編み出し米国で最初に実施したパイオニアであった点も見逃すことができない。
同社は1997年に事業を開始し、この後、他の独立会社が数多く設立され、回線をリースする側の地域電話会社は、DLECからの挑戦を受ける形でこの新市場に参入したのである。従ってCovadはいわば、沿革的にも業界における地位からしても、米国DSL事業を象徴する大きな存在である(注6)。
ところで、Covadの破産法11章申請の狙いは、累積する債務の軽減にあったようであり、同社は債務者から14億ドルに及ぶ債務免除を受けることに成功した。Covadは米国最大の地域会社のSBC Communicationsからの資本参入も得ており、流石に、金融筋、他企業からの支援態勢は強い模様である。
Covadの将来については、楽観、悲観両論があるが、不況の最中にあって、2000年に大幅な赤字(売上1.587億ドルに対し、赤字額14.4億ドル)を計上した同社の再建は多くの困難を伴うと見る点でアナリスト達の意見は一致している(注7)。上記3社をも含むDCLECの経営破綻については、次の諸要因が指摘されよう。これらの要因は事業開始の当初から潜在化していたが、2001年後半以降に進行した米国におけるIT、電気通信分野におけるバブルの崩壊により顕在化し今日の事態を招いた。
第1は、サービス提供先のISP、CLECの業績悪化に伴う収支の悪化による業績の低下である。このため、DLECは売り掛け金の回収が出来なくなった。
第2は、バブル期の高値の株価に基づく信用を背景に容易な資金調達が行えたためもあり、実力不相応な借金で設備投資を行い、収益を悪化させたことである。例えばCOVADは、米国の45%の人が利用できる設備を所有しているとホームページに記しているが、これは年間売上1.6億ドル程度の企業では明かに無謀な過剰投資である。
第3に、第1、第2と関係したことであるが、2000年後半期(バブルの崩壊が始まり、DLEC株式の急落が始まった時期)に金融機関はおおむねDLECへの貸出しを中止したことである。このため、DLECの凋落(DLECに限らずすべてのIT、電気通信企業について言えることであるが)にウォールストリートも大きな役割を果したと批判されている。
最後にCOVADが考案し、実施に移した地域電話会社からDSLをリースしてこれを再版するという業務のあり方(一種のビジネスモデル)は、米国ではうまく機能しなかったという点が上げられる。米国のジャーナリズムは、DLECへの協力を怠ったとして地域電話会社に批判的であるが、これに対しては4社はともに強く反発し、DLECは自社の無能、怠慢を棚に上げ、地域電話会社に責任を転嫁していると応酬している(注8)。この点はさて置き、DLECがDSLを設置するに当っては、DLEC、地域電話会社、DLECの直接の顧客であるISP、CLECさらに直接のユーザーとの間の多くの連絡、協調が必要なのであり、これがうまく進行しておらず、最終的にDLECの架設の遅れ(数日単位のものでなく、場合によっては数週間)を招き、エンドユーザーはもちろん、他の関係者も嫌気がさしていると言う点は事実のようである。
最後に、DLEC大手業者の経営不振(Covadだけは一応健在だが、相対的にみてDLECは壊滅したと言って過言ではない)が米国通信業界にもたらす影響はきわめて深刻である。すでに2001年5月以降、地域電話会社は自社が提供するDSL料金を値上げしている。これは、DSL市場が競争から独占に転じた端的な証拠である。
また、地域電話会社はSBC Communicationsを除き、おおむねDSL事業への深いコミットに消極的であり、2001年末までの予定架設数を予定より減らす方向である。本年末のDSL加入者数の予測は、これまで最低でも500万に達するだろうとの見方が強かったが、私は2000年末の約200万の倍の400万ぐらいが現実的な予測価ではないかと見ている(注 9)。
米国のみならず、わが国でも欧州でも,アジアでも次期のIT/電気通信サービスの大きな飛躍はブロードバンドによりもたらされ、ブロードバンド提供のもっとも有効な手段は、ケーブルモデム方式と並んで、DSLであることは自明の理である。従って、米国においてこのように、DSLの発展テンポが鈍いと予測せざるを得ないことは残念だと言わざるを得ない。
さらに言えば、供給過剰で需要を求めるのに懸命な世界的なデフレ経済のなかにあって、DSLサービスは需要はあるのに、供給が整わず受給のアンバランスが容易に解消しないという世にも不思議な商品になっている。この点の解明、解決方法の提示については、さらに別途、独立の論説が必要であろう。注1:2001.8.9付けのFCCのプレスレリース、“FCC relieses data on high-speed services for internet use”
注2:2001.8.21付けのwww.thestandard.com、”Covad`s One Mile Last Shot”による。ただしCovadは、ISP、CLECへの卸売りが主であるので、この加入者数はCovadがDSLを卸で販売しているISP、Covadが有する加入者の総計であろう。
注3:2001.3.30付けwww.teledotcom、”Squeaky Wheels Could Derail AT&T/NorthPoint Deal“
注4:NorthPointの記事執筆に当っては、次の3点(いずれも、2001.3.23付け)の資料に負う所が大きかった。
Yahoo.com,”The Telecom Tango”
Yahoo.cnet.com,”NorthPoint sale leaves ISPs in DSL lurch”
www.teledotcom,”NorthPoint No More”
注5:主として、2001.8.4付けのwww.upside.com、”DSL providers can’t get a break”によった。
注6:2001.8.21付けwww.thestandard.com、”Covad’s One Last Shot”による。
注7:2001.8.15付けの次の2つの情報。
Covadのプレスレリース、“Covad Submits Chapter11 Reorganization to Eliminate $1.4Billion Debt; DSL Netwok, Customers Remain Unaffected”
Asian Wall Street Journal、”Covad Blames Its Troubles On Anti-competitive Tactics”
注8:2001.8.1付けdailynews.yahoo.com、”Bell Companies Blamed for DSL’S Woes および、2001.8.10付けupside.com、”The verdict: Are the telcos hobbling broadband growth? “
注9:2001年6月末の地域電話会社3社(Qwestを除く)のDSL架設状況については、2001年8月15日付けのDRIテレコムウオッチャー「米国の不況、地域電話会社の決算にも影響が及ぶ」を参照。
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