DRI テレコムウォッチャー




米国の不況、地域電話会社の決算にも影響が及ぶ

2001年8月15日号

 7月末、米国の各企業は2001年第2四半期の決算を発表したが、その結果は惨憺たるものであった。特に、IT、電気通信関係の諸企業はITバブルの終焉に伴い、減収、減益が相継ぎ、赤字決算に追い込まれるところが続出した。また、多くの企業が倒産、あるいは企業再建の申請を出した。
 これまで比較的好調な増収,増益基調を辿ってきた米国の地域電話会社4社(Verizon Communications、SBCCommunications、BellSouth、QwestCommunications )にも不況の影響が及んでいる。4社中、従来通りの業績を確保できると強気なのはSBCだけであり、Verison、BellSouthの2社は株価当りの利益の見通しを下方修正した。またQwestは利益目標を示すことができず、収入、EBITAの目標だけを提示している。今期、不況の影響がもっとも現れたのは、電話アクセス回線の分野であって、4社ともにわずかではあるにせよアクセス回線が減少している(もっとも、Qwestのアクセス回線数は本年第2四半期以前から減少していた模様)。さらにVerizon、Qwestの2社は共に関連会社の評価損を計上したため、大幅な赤字を計上した。
 不況の影響は、DSLの増設テンポの減速にも現れている。4社ともにDSL加入者の増に力をいれているものの、ブロードバンドへのコミットが強いSBCを除いては、加入者数の拡大には案外冷淡であって、事実第2四半期に増やしたDSL加入者数はおおむね、前期を下回っている。これは、DSLに対する需要が減速していることによるものではなく、DSL専用業者が軒並み赤字に追い込まれ、早晩、時期は多少遅れても所定の加入者獲得はできるから、設備投資は嵩む加入者獲得のペースは多少落しても差し支えないとの地域電話会社の計算に基づいたものであろう。
 しかし、Verizon、SBCの2社は1部の州で長距離通話サービスを認められてから、さほどの日時が経っていないのに、長距離通話を他のサービスと組み合わせたパッケージサービスの提供により多くの加入者獲得している。BellSouth、Qwestも今後、FCCに対し、長距離サービス提供の申請を行う態度を明らかにしている。自社の市場を侵食される度合が強い長距離電話会社(AT&T、WorldCom、Sprint等)に比し、他の通信市場への参入が容易な地域電話会社4社は、今後、業績の維持、増大に有利な立場にあるため、今後もさほどの業績悪化に陥ることはないと思われる。
 以下、2001年第2四半期の決算から読み取れる米国地域電話会社4社の最近の経営状況を紹介する。

2001年第1四半期における米国地域電話会社4社の業績概要

表1に、米国地域電話会社4社の2001年第1四半期における決算数値を示す(注1)。

表1 地域電話会社4社の2001年第1四半期決算数値(単位:億ドル、括弧内は前年同期)
地域電話会社
収入
純利益
備考
Verizon
169(1%)
-10
出資会社の評価損分(-31)を計上。これがなければ、純利益21に。
SBC
136(3%)
21(8.9%)
4社の中でもっとも良い業績を示した。
BellSouth
74(9%)
9.73(-16%)
利益減少の原因の主なものは、DSLへの投資と中南米諸国における為替の差損。
Qwest
52.5(12.2%)
-33
KPNQwestに対する損失を計上。これがなければ、純利益1.28に。

4社は、2001年通期の業績見通について、表2に示すような見通しを発表している(注2)。

表2 地域会社4社の2001年通期の見通し
地域電話会社
2001年通期の見通し
Verizon1株当り利益は3.07 -3.12ドル(3.13-3.17の予測値を下方修正)
SBC1株当り2.35-2.40の利益獲得を確保。
Bell South1株当り利益は5-7ドル(前回の7.9ドルの予測値を下方修正)
Qwest収入213億ドル-215ドル、EBITDA(税引き、償却前の一種の粗利益)85億ドル-86億ドルを確保

表3にDSL加入者の獲得状況を示す(注3)。

表3 地域電話会社4社のDSL加入者獲得状況
地域電話会社
DSL加入者数(単位:万、2001年6月末)
2001年第2四半期の増加数
2001年末の目標値
Verizon
84
12万(第T.4半期は18万)
120万から130万
SBC
104
8.3万
不明
BellSouth
38.1
8.1万
60万
Qwest
36
前年同期からの増加率105%
不明

表4に、3地域電話会社のアクセス回線の減少状況を示す(注4)。

表4 地域電話会社3社のアクセス回線数(2001年6月末、2000年6月末)
地域電話会社
電話アクセス回線数(2001年6月末)
電話アクセス回線数(2000年6月末)
Verizon
6246.5(-0.4%)
実数は不明。
SBC
6057.9(-1.1%)
6123.3
Bell South
2566.6(-1%)
2586.4


2001年第2四半期における4地域電話会社の決算の特色

 上記の4つの表から汲み取れる地域電話会社の最近の収支状況、事業の趨勢の特色を以下に列挙する。
 収入の鈍化と利益の低下:Qwestを除いては、収入の伸びは1桁台に留まった。これまで、年間、2桁台の収入増を記録してきた地域電話会社の高度成長は第2四半期に至って、大きくブレイキが掛けられたことになる。なお、Qwestの場合、売上は確かに効率で伸びているが、ハイテク分野で売り掛け金が嵩んでいる等の経営上の弱点が指摘され、株価は他の3社に比し大きく下がっている(注5)。
 昨年同期を上回る純利益を計上したのはSBCだけであり、Verizon、Qwestはそれぞれ関連会社の評価損を計上したため、大幅の赤字を計上した。いわば、バブル崩壊の尻拭いは地域電話会社にまで及んだわけである。
 電話アクセス回線の減少:表4に示したように、地域電話会社4社中の3社が電話アクセス回線数の減少(比率は微小であるが)を発表した。また、Qwestのアクセス回線も減少し続けていると報じられている。米国では、市内電話料金は定額制が基本であることから、ダイアルアップ・インターネット利用のため、ユーザーは2本目の電話回線を敷設するのが通常であった。このため、これまで電話アクセス回線は増加を続けてきたのであって、Qwestを除く3社については、今期初めてアクセス回線が減少した(注6)。今回のアクセス回線数の減少は、仮にこの傾向が持続すれば、米国のITの進展(DSL.ケーブルモデムの高速接続が進行しているとはいえ、米国におけるユーザーの数からのダイアル・アップの優位は今後、長期にわたり変わらない)が停滞し始めた指標として見ることも可能だからである。
 Verizonは、今期の電話アクセス回線の現象を不況で廃業したビジネスユーザーの解約に因るところが大きいと説明している。この説明が他の2地域電話会社についても適合するとすれば、米国で現に起こっている企業倒産の激しさが、この数値からも伺えることとなる。
 DSLの設置状況:第3表から読み取れるのは、SBCを除いて地域電話会社が周囲からの期待の強さに反してDSLの設置に消極的であることである。Verizon、BellSouthの2社がともに、2001年下半期には加入者数の増をスローダウンさせることを前提にした年間の加入者獲得数を掲げていることに注目して欲しい。最大の地域電話会社であるVerisonは、投資費用が大きいことを理由に、はっきり年末の加入者獲得目標値を下方修正している。
 Covad、NorthLink等のDSL設備を販売する専用業者が軒並み経営不振に陥り、DSL架設の主体は地域電話会社に移行しつつある。このような状況下での地域電話会社のDSLに対する冷めた経営姿勢は、2001年度における米国のDSL増が期待を下回る結果に終る可能性が強いことを示すものであろう。

(注1)Verizonを除く3社については、おおむね各社のプレスレリースによった。プレスレリースがネットにより入手できなかったVerizonについては、以下の資料を参照にした。
2001.7.31付けyahoo!News,”Verizon Posts Net Loss, Cuts Outlook”
2001.7.31付けCBSMarketWatch “Verizon profIT up 5%; trims forecast”
20017.31付けUpside Today “Verizon meets expectations, lowers outlook”
(注2)参照した資料は注1に同じ。
(注3)参照した資料は注1、注2に同じ。
(注4)SBC, BellSouthの数値はプレスレリースによった。また、Verizonの数値は、次の資料から入手した。
2001.7.31付けYahoo!News,”Verizon Posts Net Loss, Cuts Outlook”
Qwestはアクセス回線数を発表していないが、ファイナンシャルタイムスは同社のアクセス回線数は年々減少していると報道している。
2001.6.25付け”FT.com”Qwest shows first sign of US economic impact”
(注5) ここで紹介した4社のうち、Qwestは他の3社と生い立ちが異なる。周知のように、Qwestは本来、光ファイバーを全世界に敷設し、IPネットワークにより音声,データー、画像の高度サービスをビジネス、一般消費者に提供する目的で1999年に設立された企業である。 従って、設立の経緯、経営目標からすれば、当然、新興のハイテク電気通信事業に分類すべきであろう。しかし、同社は2000年7月、地域電話会社USWestの買収に成功し、その実質はハイテク電気通信会社+地域電話会社の双方の側面を備えるようになった。
 実のところ、QwestのUSWest買収の狙いはUSWestの大きな加入者基盤を利用して、IPベースの新サービス提供に役立てることにあり、USWestが従来提供してきた市内電話事業自体に関心はなかった。
 しかし、Qwest社がUSWest統合後年経った今日、旧USWest事業部門からの収入、利益に大きく依存しているのは事実(収入の73%は旧USWest事業部門から得ている)であるので、テレコムウォッチャーでは、他の3社と異なるとの保留を付けながらも、Qwestを地域電話会社として紹介して行くこととする。
 Qwestの事業運営自体、ITバブルの崩壊に伴い、大きな批判を受けているが、いずれ単独のテーマとして取り上げてみたい。
(注6)BellSouthについては、2001年第1四半期との比較から、この点は明らかである。同期におけるBellSouthのアクセス回線数は2000年第1四半期の2586万回線から、2589万へと僅かながら増加していた。




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