DRI テレコムウォッチャー




米国大手携帯電話事業者、相次いで2.5Gサービス提供の計画を発表

2001年4月15日号

 米国の携帯電話事業は、わが国、欧州諸国に比し遅れている。電気通信が世界でもっとも発展し、現在の携帯電話技術の基礎となっているセル式無線電話を開発した国であるだけに、これは一見、奇異な現象である。
 発展が遅れた理由の主たるものは(1)携帯電話サービスがこれほど大きく拡大すると考えず、ローカルサービスが主体になると予測した結果、ライセンスを地域単位ごとに細分して附与し業者が乱立したこと、(2)標準を統一せず事業者の自由に任せた結果、ディジタルサービスについてもTDMA、CDMAの両標準が並立し、しかも双方ともに欧州のGSM標準と別個のものであるため、ローミングによる広域サービスの提供が欧州諸国に比し遅れてしまったこと、(3)事業者間の競争が必ずしも激しくなかったこともあり、新技術導入のインセンティブが薄く、現在まだアナログ方式の加入者が多く残っている(30%程度)ことである。
 それでもここ1、2年来、大手業者による統合(本論で述べるとおり、全国をカバーしてサービスを提供するナショナルキャリアは6社となった)、外資の参入(大きなものは英国VodafoneのVerizon Mobileへの資本参加(45%)、NTTDoComoのAT&T Mobileへの資本参加(20%)、本年中には実施される予定のドイツテレコムによるVoiceStreamの買収)が相次いで行われた。この刺激により、これまで閉鎖的なきらいがあった米国携帯電話市場でも国際化、活性化が大きく進んでいる。
 2000年末で携帯電話加入者数は1億人を超え、普及率はまだ欧州の上位普及率を誇る諸国に及ばないが、60%に達した。
 FCCも次世代携帯電話3Gの発展で米国が欧州諸国の後塵を拝することを恐れ、ようやく2000年12月、オークションによるPHSのライセンスを422件(1954市場)附与した。このライセンスの1部は3G用の周波数に用いられる予定である。
 このような状況のもとで、米国の大手携帯電話事業者もようやく3Gに対する取り組みを真剣に行っており、最近AT&T Mobile、Verizon、Cingular Wireless、Sprint PCSはいずれも、3Gサービスを本年後半から来年にかけて実施する計画を明らかにしている。
 もっとも、これらのサービスは実のところ2.5世代携帯電話サービス(GPRSあるいはクアルコム社の標準による)であり、これを1部事業者が「初期段階の3G携帯電話サービス」と銘打っているに過ぎない。これらサービスの提供計画については、3G基準でcdma2000を主唱するクアルコム社が米国企業である点もあり、2つの国際基準、cdma2000、W-CDMAを導入する事業者の2グループが競い合っている。
 以下、米国における大手携帯電話事業者による2.5Gサービス導入計画と3G移行に当たっての幾つかの問題点を解説する。


大手携帯電話事業者の2.5Gサービス導入状況

 次表に米国大手携帯電話会社6社の加入者数、3G標準の種類、2.5Gサービスの実施期日を示す。

表 米国大手携帯電話事業者の加入者数・3G技術標準・2.5Gサービス実施予定
事業者名加入者数
 (2000年末、単位:100万) 
  3G標準の種類  2.5Gサービス実施予定
Verizon Wireless27.5cdma20002001年後半
Cingular Wireless19.7W-CDMA  2001年第2四半期から同年後半  
AT&T Wireless 15.2W-CDMA2001年後半または2002年前半
Sprint PCS9.5cdma20002001年後半
Nextel6.7未定未定
  VoiceStream Wireless  3.9W-CDMA未定
(表作成に当たっては、2000.3.22付けFTの"US carriers look to steal a march
on European 3G rivals"を基礎とし、6事業者のプレスレリースで補完した。)

以下、個々の携帯電話事業者のサービス提供計画を説明する。

Verizon Wireless: 2000年後半に、3Gの初期段階のサービスであるcdma2000*3GIXRTTの提供を開始する。サービスの内容は定かでないが、このクアルコムの技術仕様はcdma2000の名称が冠されてはいるものの、その性能、サービス範囲等からして、欧州標準のGPRS、ドコモのiモード等いわゆる2.5Gのサービスに属するものである(註)。3年間50億ドルのインフラ建設はルーセントが受注した(2001.3.19付けのVerizon Wirelessのプレスレリース、"Verizon Wireless And Lucent Technologies In Plan To Speed Introduction OFThird-Generation (3G) Technologies To U.S.")。
 なお、同社は本格的な3Gサービスの実施期日を明らかにしてはいないが、ルーセントが請け負った工事期間が3年間であることから逆算するとサービスの完全実施は2004年から5年位になる。

Sprint PCS: 2000年後半に、第1段階の3Gサービス(3G cdma2000 Ix)を開始する。このサービスはパケット交換網を使用し、データ伝送のスピードを144kbdへと10倍に増やせるとしているので、Verizon Wireless の場合同様、実質的には2.5Gのサービスである。もちろんクアルコム社の技術によるが、インフラ構築の機器供給業者はルーセント、モトローラ、ノーテル。
 Sprint PCSは次ぎのステップで伝送スピードを早めて行き、2004年初頭には完全な3Gサービスを提供する計画である。

第2段階:2003年初頭 307kbps
第3段階:2003年後半 2.4 mbps (cdma2000 IxEV―Data Only(DO)標準による)
第4段階:2004年初頭 3mbpsから5mbps(3GI x EV―Data and Voice標準による)
 同社は当初から、計画的に3Gサービス導入を進めており、第1段階に進むに当たっては、導入に伴う新サービスを利用しない限りは、旧来の電話機を利用できる点を強調している。
(上記はSprint PCSの2000.3.20のプレスレリース、"Sprint Leads Evolution To 3G with Nationユs Clearest, Fastest, Most Economical Migration Strategy" によった)

AT&Twirerless: 2002年初期にGPRSにグレイドアップしたネットワークによって、iモードサービスを提供する(NTTは欧米におけるiモードサービスはそれぞれの地域の実情に応じて改変を行う必要を強調しており、最近外国のプレスに対しては「iモード的なサービス(i- Mode - like service)」という表現を使っている。従って、AT&T Wirelessが来年に提供するサービスもわが国で提供されているiモードサービスとはある程度異なった内容のものになることが予想される。(2001.3.14付けウォールストリートジャーナル、"NTT DoCoMo and AT&T Wireless Plan I-Mode services in U.S in 2002")。
 周知の通り、AT&T は2000年12月にNTT DoCoMotoと戦略的提携を結んでおり、上記のi-モード(2.5G)の実施方針は当時のものと基本的に変わっていない(なおAT&T とNTT DoCoMoの提携については、2000.12.15付けテレコムウオッチャー"NTT DoCoMo、AT&Tと戦略的提携を結ぶ" を参照)。

Cingular Wireless: 2001年第2四半期から後半にかけて、GPRS基準による「CTIA Wireless 2001 サービス」を提供すると発表した。本年第2四半期にはカリフォルニア、ネバダ、ワシントンの各州で、また本年後半には、残りのノースカロライナ、サウスカロライナ、テネシー州東部、ジョージアの各州でサービスを提供する。この計画通りだとCingular Wirelessが米国で2.5Gサービスの開始を行う最初の携帯電話会社になろう(2001.3.20付け同社のプレスレリース、"Cingular Wireless First to usher in Next Generation of Wireless with Faster,Always-0n Service")。
 なお、Cingular WirelessはSBC CommunicationsとBell Southの携帯電話事業部門が合併し、それぞれ60%、40%の出資を行って2000年10月に創設された米国第2位の携帯電話会社である。

Voice Stream: 本年中にはT-Mobile(ドイツテレコム傘下の携帯電話会社)に吸収される予定となっている。現在のところ2.5G、3Gへの移行計画は未定であるが、同社T-Mobileが共にGSM規格を使用しているところから、3Gの方式は切り替えが容易なW-CDMAによることは確定している。

Nextel: 計画は未定。同社はビジネス加入者を主体に米国全土にサービス展開をしているナショナルキャリアであるが、特定の業種を対象にした無線呼び出し会社からサービスを拡大してきた経緯がある。後述する様に、最近加入者増の下方修正を発表し、株価が低下している状況からして、単独で早期に次世代ネットワークへの移行計画を策定できるか否か疑問である。

註:cdma2000標準導入についてのVerizonWirelessとVodafoneの対立
 ところで、Vodafone(Verison Wirelessの45%の資本を所有している)はVerison Wirelessが3G標準について同社が世界戦略展開の柱と考えているW-CDMA規格ではなく、cdma2000標準の採用を発表したことに驚き、不満の意を表明した。Verison Wirelessからすれば、同社の現行ネットワークの主体がCDMA方式であることからすると自然な決定であったということであろうが、世界最大の携帯電話事業者であるVodafoneの加入者と国際ローミングが出来ないのでは、何のためにネットワーク高度化に投資するのかとのVodafone側の言い分にも説得力がある。この案件については、両社間で話し合いが行われている模様であるが、ルーセントにインフラ発注の契約まで行っている段階となっては、Verisonが態度決定を翻す可能性はきわめて薄い。
 なお、この件は3G標準をめぐっての米国(cdma2000標準を策定したのは米国のクアルコム社)と欧州、日本の対立の枠組みで考察することも必要である。すでに表で示したとおり、米国の大手携帯電話会社6社のうちW-CDMA、cdma2000を採用する会社がそれぞれ3社と2社、未定が1社である。クアルコム社、欧州・日本の携帯電話グループが共に、健闘した結果というべきだろう。


次世代基準へ移行するに当たっての米国携帯電話事業者が抱えている問題点

 このように米国の主要携帯電話事業者は2000年後半から2001年の前半にかけて急ピッチで2.5世代携帯電話サービス提供の準備を進め、2001年内にサービス開始をする態勢を整えている。しかしサービス実施に当たっては、次ぎのように問題点も多い。
 第1は資金調達の問題である。米国大手業者も欧州の業者と同様に、株価低迷のなかで株式上場による資金調達の手段を奪われている。最大手のVerizon Mobile、Cingular Mobileすら株式上場を見合わせ市況の改善を待っている状況である。本年2月、オレンジ(フランステレコム傘下の携帯電話会社)は株式上場を行ったが、期待した価格の半値でしか株の売却ができず、期待外れに終り、しかも同社FT(フランステレコム)の信用が大きく失墜するという結果を招いた。以来、欧州、米国を問わず、携帯電話会社の株式上場はストップしている。
 こうなると携帯電話会社は社債市場に頼らざるを得ない。現に最近、AT&T Mobileは65億ドルの社債発行を行った。しかし、利率等発行条件は発行側に不利になっている。
 第2に、欧州に比し普及率が遅れていたためにこれまで、特に昨2000年は急成長を遂げた米国の携帯電話事業も本2001年は需要の伸びが鈍るのではないかとの観測が為されている。例えば、調査会社Fitchは2000年には携帯電話の需要の伸びは27%、需要数は2000万に対し、2001年の伸び率は19%に留まるだろうと見ている(2001.3.7付けyahoo.com、"Financing window opens for U.S Wireless operators")。
 現に、Nextelは2001年第1四半期の加入者需要を当初の54万から50万に修正すると発表した(3.14付け同社のプレスレリース"Nextel Speaks at Investor Conference"。他のいくつかの携帯電話会社も今後同様の下方修正を行うことが懸念される。
 最後に、あいも変わらず米国ではモバイルインターネットの需要は少ないとの論が発表されている(この論からすると3G標準の携帯電話はもちろんのこと2.5標準も不要だということになる)。  日本でiモードが大成功を収めているだけに、米国におけるインターネット不要論はインターネットモバイルがそれぞれの国、地域の特性によって普及が異なるとの論理を展開する(世界のどの地域の誰しもが、基本的な商品、サービスに関しては同一の欲求を持つというのが、米国の国際ビジネス、グローバリズムの基本哲学であり、皮肉なことにこの米国特殊論はこの哲学に反するのであるが)。
 例えば最新のものとしては、ワシントンポスト紙の記者 Peter S.Goodman氏のよる幾人かのインタビュー調査を基礎とした(1)現在提供されている携帯電話の画面は小さすぎる(2)移動中のビジネスマンはすべてパソコンでの情報検索に習熟しているから、インターネットモバイルで提供される不充分な情報には満足しない。従って、結局インターネットモバイルへの大衆需要はないと断言した論説がある(3.30付けwashingtonpost.com "Where is the Wireless Web?")。
 しかし、筆者はAT&T Wirelessが50万(全加入者に対する比率は3%)、Sprint PCSが100万(全加入者に対する比率は10%強)のモバイルインターネット加入者を取得しているとも報じている。欧州でもWAP基準によるモバイルインターネットの普及は進んでおらず、多分上記両社の数字が示す普及率は欧州の携帯電話会社並みのレベル(欧州の携帯電話会社はWAPの普及状況を発表したがらない)であろう。この2社の普及率からすると、少なくとも欧州に比し米国でモバイルインターネットの進展を阻む特殊性があるとは考えられない。

 3Gへの移行は最近の世界的な経済の不振の下で、いずれの業者もその実施計画を先送りする傾向にある。このビッグプロジェクトの先陣を切っているNTTDoCoMoにしたところで、2001年5月末にスタートするFOMA(同社3Gサービスのブランド名)の販売対象は当面ビジネス加入者が主であって、初期には多くの利用者獲得は見込めないとの控えめな報道をしている。この他、予定通り2001年から2002年にかけて3Gサービスを提供するとの態度を堅持している携帯電話会社はVodafoneだけである。  これに関し、3Gとその前駆形態である2.5Gとの密接な相関関係を考慮しておく必要があろう。2.5Gが順調に進まなければ、3Gへの進展が危うくなることは当然である。しかし、携帯電話事業者がいずれも金詰りで四苦八苦している状況下では、2.5Gサービスが成功すれば「早急に3Gに移行する必要がないではないか」との強いドライブがかかることが予想される。
 クアルコムのCEO Irwin Jacob氏は本年2月、W-CDMA標準による3Gサービスは2004年後半か2005年初頭までは提供されないだろうと述べた(2000.2.23付けsmartmoney.com "Qualcom says 3G Rollout Isn't Likely Until 2004")。この発言自体は自社のcdma2000標準によるサービス(既に紹介した通り、実のところ2.5Gサービス)は予定通り2000年末から提供できるとのきわめて政治的なものではあるが、3Gサービス全体のサービス提供の実施時期としては現実的な見方だと考える。




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