DRI テレコムウォッチャー




ノーテル・ネットワークス、世界最大の通信機器メーカーに躍進  −しかし株価は急落−

2001年4月1日号

 ノーテル・ネットワークス(カナダの電気通信機器メーカー、以下ノーテルと略称)は、昨2000年次に前年を40%以上越えた298億米ドルの売上を計上、ライバルのルーセント(前年の1位)、エリクソン(前年の2位)を抜き一躍、売上高で電気通信機器メーカーとして世界トップ(前年は第3位)の座を占めた。
 ノーテルは1970年代の初頭にデジタル交換機をいち早く開発しこれを武器にして、米国を始め世界市場に参入した。以来、新技術を駆使した性能の高い電気通信機器を提供することにより高い成長を続けている。
 ところで、ノーテルの最大のライバルは名門 ウェスタンエレクトリックの伝統(世界一の電気通信分野の研究開発機関であるベル研究所の継承をも含め)を引き継いでいるルーセントである。ルーセントは本文で述べる通り、ノーテルが大きく売上を伸ばした2000年に業績が大きく失速した。現在多額の負債を抱え、大掛かりな体質改善を迫られている。
 ライバル同士であるノーテルとルーセントが多くの機種で競合する以上、ノーテルの躍進とルーセントの失墜には相関がある。ノーテルの売上増の幾分かはルーセントのシェアを取り上げて得られたものと推測される。
 ところが、IT業界、電気通信業界は2001年2月末から3月中旬にかけ、米国のナスダック上場企業の大幅な株式下落がグローバルに波及し、現在世界的な株式低落の波にさらされている。IPサービス企業、電気通信事業、半導体メーカーと順次、株式の下落が続き、3月に入ると、機器メーカーの段階にもこの波が及んだ。優良企業のノーテルも同社が2月末に発表した2000年第1四半期の業績下方修正を契機として、大幅な株式低落に見舞われた。この衝撃的な株式下落の波がいつ収まり、いつから上昇に転ずるかについては楽観、悲観の両論があり、先行きは予断を許さない。
 以下、それぞれ明暗を分けたノーテル、ルーセント両社の業績の状況を紹介する。激しい競争のなかで、それでなくとも厳しい経営を強いられている電気通信機器業界の一断面を示す資料としてお読みいただければ幸いである。


ノーテル(1)−激しい競争を通じ、2000年次のチャンピオンの座を占める

 最初に、業界上位8社の順位、売上高の表を示す(メーカー名の後の括弧は昨年順位)。

順位通信機器メーカー名売上高(単位:億ドル)
1Nortel Networks(3)298
2Ericsson(2)278
3Nokia(4)272
4Lucent Technologies (1)258
5Cisco Systems(7)230
6Motorola(6)228
7Siemens(5)228
8Alcatel(7)216

(本表は2001.3.7付けyahoo.comの"Nortel Tops in Telecom Equipment Sales"の記述から作成した)

この表で注目されるのは、次ぎの諸点である。

  • 順位の入れ替えの点ではノーテルの躍進(3位から1位へ)、ルーセントの転落(一位から4位へ)、シスコの躍進(8位から5位へ)が際立つ。
  • この表に計上された8社は、北米勢、欧州勢がそれぞれ4社ずつでバランス良く釣り合っている。北米勢はIT、インターネット、欧州勢は携帯電話用インフラ、端末とそれぞれ得意とする技術による製品により、成長を競い合っているのである。2000年には、売上高、順位において北米勢が総体的にやや優勢であったといえよう。
  • 8社の売上高はすべて200億ドル台に収まっており、際立って他に抜きんでた業者がいない。これはいかに競争が激しいか、また将来も大きく業者間の順位変動がある可能性を予想させる。

 ところで、ノーテルは局用交換機、携帯電話、インフラ機器をも含め各種通信機器類を製造している総合通信機器メーカーであるが、急成長の原動力は、データ通信、インターネットの急成長に支えられて急増している光通信伝送、光通信用機器にある。同社はこの分野で最新の機器の開発、販売に成功し、またマーケティングも優れており顧客(通信事業者,サービスプロバイダー、企業ユーザー)の信頼を得ている。  この点について、ノーテルのプレスレリース(2001.2.27付け)は調査会社、Dell'Oro社の調査結果を援用して次ぎのように述べている("Nortel Networks Widens Lead in Global Optical Transport Market, Dell'Oro Says")。 

  • ノーテルは光通信用伝送機器(SONET、SDH、DWDMを含む)の分野において、2000年第4四半期に全世界のシェアの42.9%を獲得してトップであった。
  • ノーテルは750もの全世界の顧客に対し、光通信インターネット機器による解決手段(solution)を示している。これは他の機器メーカーの追随を許さない。

 現在、ネットワーク環境は、従来の回線交換ネットワークから I P ネットワークへの転換の過渡期にあり、この間の急増する顧客のデータ、IP関連機器の高度の需要を満たすため、機器業者は懸命に競争している。ノーテルはシスコと並び、この分野でもっとも目的遂行にコミットしている最先鋭のメーカーである。ノーテルが2000年に40%を越える業務拡大を成し遂げたのは、長年にわたり新技術による性能の高い通信機器を追い求める同社の経営成果が結実したことによると言えよう(なおノーテルと同様に、IPにコミットしている米国通信機器メーカーのシスコの経営についてはテレコムウオッチャー、2000年8月1日号の「快進撃を続けるシスコシステムズ」を参照されたい)。

ノーテル(2)―2001年の業績について弱気の業績修正を発表、株価急落を招く

 ノーテルは2月15日、2001年の同社の業績見通しについてのガイドラインを発表した(2.15日付けの同社プレスレリース、"Nortel Networks Provides New Guidance for 2001 Based on a Faster and More Severe U.S Economic Downturn: Continues to Expect Revenue Growth Greater Than Market")。その要点は次ぎの通りである。
 「2001年における収入、利益の伸びの予測をそれぞれ、15%、10%(前回の予測ではそれぞれ、30%、30%)とする。現在の厳しい経済情勢にかんがみ、効率向上、核となる事業に関係のない事業の一層の刷新を進める。この結果、2000年末(2000年末の従業員総数は94,500名)に比し、従業員数は10,000名減員となる予定。ただし、退職、自然減耗により、リストラ対象者は最小限に留める」。
 また、ノーテル社CEOのロス氏(John Ross)は、このように2001年業績見通しの修正を行った背景を「米国市場の成長鈍化は2001年第4四半期まで続くだろう。欧州、アジア・大洋州、中南米地域では堅実な成長が見込まれるので、米国市場低下のインパクトは1部、緩和される見通しである」と述べている。

 カナダのトロント市場は、ノーテルのこの発表に厳しく対応し、ノーテルの株値は13.35カナダドル下がり、30.80カナダドルとなった。ノーテルの株価は昨年9月の最高値120カナダドルと比するとその暴落の凄まじさが伺われる。順序が前後したが、前項で紹介したノーテルの業界第1位の報道は同社の株価暴落後のものであり、同社の広報作戦の1部と観測されるものであるが、このようなPRも同社の株価を支える力にはならなかった。
 これまで、ノーテルは業績予測通りの増収増益を上げ、予測を途中で修正したことがなかった。それほどの信頼できる実績を持つ同社が今回修正を行ったという事実こそが、ノーテルの信用を大きく傷つけ、それが、同社の株価暴落に繁栄されたのである。
 それでも、2001年におけるノーテルの一株あたり80セントの株価予測値は高い水準であり、大手金融会社、Salomon Smith Barneyは「68セント程度が適当ではないか」とのコメントをしている(2.15付けFT.com 、"Nortel's dive threatens exchange")。
株価急落にショックを受けたノーテルは、3月初旬、株主に対し、書簡を送った(3.8付け同社のプレスレリース、"Open Letter to Nortel Networks Stockholders")。その中で、ロス氏は、最初の見通しを発表した時からしばらくして、米国経済の低下傾向が明らかになったので、早速それに基づく業績改訂を行ったためであり、ノーテル自体の経営力の強さには何ら問題はないと弁明している。 先に述べた通り、ノーテルは2001年において、増益増益のテンポが鈍ると修正発表をしたのであって、そのために何故これほどまでに株価が下がるのかとは、ロス氏ばかりでなく、常識を備えた多くの人々が疑問を持つことではなかろうか。企業の業績に異常に感度の高い「株式資本主義」の弊害がここでも現れているようである。


抜本的な経営の建て直しに迫られているルーセント

 ルーセントの信用失墜、株価低落は2000年10月における2000年第3四半期の業績が当初予測を大きく下回るとの同社の発表から始まった。これにより1999年12月には、1株あたり83ドルと仕手株的な人気を呼んでいた同社の株値は2000年10月末には22ドルへと大きく低落した。同社のCEOのマッギン氏(Richard McGinn)は取締役会から責任を追及され、辞任に追い込まれた。
 ルーセントの業績が悪化した原因はさまざまに論評されているが、おおむね(1)旧来の局用交換機中心の経営スタンスから脱却し切れず、光通信・IP用機器の開発、販売でシスコ、ノーテル等の競争メーカーに遅れたこと(2)生産・購買・販売など、企業各分野にSCM(Supply Chain Management)を導入するIP化にも遅れていること(例えば、機器販売に当たってのIP利用率はシスコでは80%に達しているが、ノーテルでは30%に過ぎないという)(3)ベンダー金融(顧客の機器購入に関し、クレディットを附与すること)の条件が甘すぎ、またその量が大きすぎたため、不良貸し掛け債権が増大し、同社の財務を圧迫したことによるものと見られる(この件についての記事は多いが、例えば簡潔なものとして、2000.10.23付けFT.com、"Troubled Lucent replaces chief"。また、もっとも鋭いルーセントの経営批判はすでに、2000.8.7付けBusiness Week、"How Lucent lost its luster"に掲載されている)。

 マッギル氏の後任のCEOシャハト氏(Henry Schacht)氏は2001.124付けのルーセントのプレスレリースで同社の2001年第1四半期(2000.10.1―2000.12.31)における決算が赤字に陥ることを明かにし、同社の業務再建のため7つのリストラ施策を実行に移すとの声明を発表した("Lucent Technologies Announces seven - point restructuring plan to reduce expenses by $2 billion and significantly improve cash flow")。
その項目は(1)リストラ実施用資金として12億―16億ドルを積み立て(2)2001年第2四半期までに20億ドルのコスト削減(3)10,000人の減員を実行(ただし、核となる事業分野は人材を強化)(4)製造分野でのアウトソーシングの拡大(5)2001年末までに運転資金20億ドルを縮小(6)2001会計年度末までに,資本支出を4億ドル削減(7)65億ドルの負債枠を設定である。
 上記の7条の方針から、ルーセントが採算の取れる事業部門に業務範囲を縮小し、収益性の高いスリムな機器メーカーを目指そうとする志向が明らかである。ルーセントは2月22日、所要の65億ドルの借金を得ることが出来たが、貸し手の金融機関から、(1)本年上半期で赤字を23.5億ドル以下に押さえること(2)今後12ヶ月間で14億ドルの利益を上げることの厳しい条件が課されている。従ってここ1、2年のルーセントの事業運営は厳しいものになることが予想される。


株価急落の機器メーカーに及ぼす負のインパクト

 2001年3月20日現在、米国のナスダック指数は1958であった。約1年前の2001年3月10日の5048から、なんと62%も下がったことになる。
 北米3大通信機器メーカーの株価低落も著しい。2001年3月20日の株価は次ぎのとおりであり、過去52週における最高値(括弧に表示)に比し、5分の1程度になってしまった。ノーテル16.6ドル(89ドル)、シスコ19.8ドル(82ドル)、ルーセント11.8ドル(69ドル)。下落率が最も高いのはルーセント(下落率83%)でその業績の悪化からして、当然だとしても、シスコ(下落率76%)、ノーテル(下落率74%)の下げ幅もルーセントとさほどの差がない。
 すでに赤字の予測を発表しているメーカーも、当初の予測ほどには増収が見込めないとの修正を出したメーカーもさほど区別することなく株価を押し下げてしまうところに、株価バブル崩壊の恐ろしさがある。
 実のところ、インターネット企業、半導体メーカー、電気通信事業者を順次強襲した米国の株価暴落が最後に波及したのが通信機器メーカーであった。確かに、機器を発注する顧客の業務運営が仮に赤字であっても、機器メーカーは設備投資が続く限り利益を上げることが出来る。このため、市場の評価は最後まで高かったのであるが、ルーセントが赤字転落を発表し、ノーテル、シスコのが揃って業績修正を宣言するに及び、短期間で急激な株式低下となった。
 ところで、これまでナスダックに比し、堅調を続けてきたダウ平均指数も3月中旬に遂に10,000ドル台を割ってしまった(2000.3.20現在、9964ドル)。これは、市場がハイテク分野のバブル崩壊ばかりでなく、他分野での消費、投資の先行き不安を感じ始めたことを示すものであり、これまた米国経済にとって不吉な徴候である。

 本稿では、北米の代表的な通信機器メーカーのノーテルを例に取り、業績を急激に伸ばし、将来も増収増益を続けると約束している企業であっても、全般的な株式暴落の嵐に抗することができず、大きく株価を下げる場合がある事実を示した。
 ノーテルもシスコもこれまで、自社の高い株式水準を武器にして、現金によらず株式交換により、他の新興ハイテクのメーカーを吸収することにより、大きく発展をしてきた企業であった。両社とも、現在の株価の下では、今後この方策を取ることが出来ず、M&A戦略の変更を余儀なくされるだろう。
 これはほんの一例であるが、ことほど左様にIT・電気通信株のバブル崩壊のインパクトは深刻なのである。暗い話ではあるが、今後も事案が生じるに応じこのような話題を紹介せざるを得なくなるような気がする。


追記

 本稿執筆後の3月27日、ノーテルはまたもや2001年第1四半期の収益見込みを下方修正すると共に、5000人のリストラ追加を発表した。また、同社は今後2001年通年の業績予測を今後行わないと宣言した。
 この声明の影響もあり、ノーテルの株価はもとより、エリクソン、ノキアなど欧州の機器ベンダーの株値も大きく下がっている。
 残念ながら、まだ通信関連株低下に歯止めは掛かっていないようである。




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