DRI テレコムウォッチャー




増大する負債に喘ぐ欧州3大通信事業者(BT、DT、FT)   - 成長の中での窮乏 -

「幸福な家庭はすべて似たようなものであるが、不幸な家庭はそれぞれに不幸なものである」(トルストイ著“アンナカレーニナ”より)

2001年3月1日号

 ほんの昨年の9月ごろまで、欧州の三大通信事業者ファミリーはすべて同様に幸福であった。この欧州のファミリー御三家は、共に伸びゆく電気通信事業、IT事業の成長に掉さして業績を伸ばし、また海外でも企業の買収、提携を競い合った。ところがわずか半年後に状況は一転、3ファミリーともに不幸な境遇に落ちてしまった。ただしロシア文豪の名句とは趣きを異にし、これら3事業者は共に共通の悩みを抱えて不幸なのである。
 第1に、事業は押しなべて伸びている。音声サービス部門こそ縮小しているが、ニューエコノミーの携帯電話、データ通信部門の伸びはこれをカバーして余りある。ただ、利益率が低下している点が問題である。第2に、3ファミリーは共に3G(次世代携帯電話)の免許料支払いのため巨額の借金を背負っており、借金の返済、借り替えに狂奔しており、株価の低落が止まらない。
 第3に、すでにBT(ブリティッシュテレコム)、DT(ドイツテレコム)の2社では、それぞれのファミリー企業の家長に当たるバランス会長 ゾンマー会長の辞任の噂が出ている。両社の事態はそれほどまでに深刻である。
 もちろん株価の低落は嵐のごとく、欧米、日本、アジアのIT・電気通信会社全体に襲い掛かっている。まさに世界のIT・電気通信業界が浮沈の際に立たされているといっても過言ではない。ただ上記の欧州既存電気通信通信会社3社は3G(次世代携帯電話会社)の免許取得、さらに今後の3G通信網の構築に深くコミットしていることにより、株式低落の圧力をより一層強く受けていると言えよう。
以下、本文では欧州3大電気通信事業者の事業の現状、負債の規模・返済計画、最近の電気通信業界に対する悲観的な見方を紹介する。読者の皆様に、世界のIT・電気通信業界の抱えている問題がいかに大きいものであるかの一端を理解していただければ幸いである。


3社事業の成長    - とりわけ大きい携帯電話加入者、インターネット加入者の伸び-

 2000年において3社の事業は総体的には大きく成長した。激化する競争と携帯電話、メールに侵食されて旧来の主サービスである固定電話加入者数は減少しているものの、インターネットアクセス回線を加えれば、固定回線の総数は増加している。最も成長が大きかったのは、携帯電話事業部門であった。
 プレスリリースに基づき、2000年、2000年末における3社の事業の成長度合いを表1に示す。

表1 2000年末、2000年における欧州3大電気通信事業者の事業の伸び
項 目
DT(ドイツテレコム)
FT(フランステレコム)
BT(ブリティシュテレコム)
収入(単位:億ユーロ)
409(15.2%)    註2
336.7(23.7%)    註3
320(7.9%)    註4
電話回線数(単位:100万)
49.4(1.6%)     註5
39.2(34.1)    註6
ビジネス加入者数は微増、住宅加入者は横這い。実数は不明
携帯電話加入者数(単位:100万)
31.1(98%)
30.5(135.9%)
20.7(73%)
インターネット加入者数(単位:100万)
7.9(68%)
2.44(80%)
2.3(40%)
註1: 括弧内の数字は1999年対比の成長率。
註2: 他社の取得分を含めた数字である。他社取得分を除けば、成長率は6%。
註3: DTの場合と同様に、他社取得分を含めている。この分を除けば、成長率は8.1%。
註4: BTは4月期決算であるので、9ヶ月間(2000.4.1から2000.12.31)の収入額150億ポンド及び前年対比伸び率しか発表していない。ここではDT、FTとの比較の便を計るため、この数値により年間値を推計、また為替レートによりポンドをユーロに換算した。この結果推計収入額はFTのそれを上回った。FTの成長率の方がかなり高い点から見て、2000年に実際にFTがBTを上回っていた可能性が高いと考える(1999年次にはBTの収入はFTの収入を上回っていた)。
註5: 狭義の電話回線の他、ISDN回線1730万(住宅用880万、ビジネス用850万)、DSLアクセス回線60万、Aktiv Plus(450万、月額定額料によるインターネットアクセス回線)を含んでいる。
註6: DTの場合と異なり、狭義の電話回線数である。

 なお3社の携帯電話加入者数の地域別の内訳を表2に示す。この表によれば、加入者数でDT、FTが競い合っているが、本年DTが米国の携帯電話会社 VoiceStreamの取得に成功すれば、DTがFTを引き離すことになろう(DTの株価低落のためVoiceStreamの取得の可能性が危ぶまれている)。

表2 欧州3大電気通信事業者の携帯電話加入者数(単位:100万)
地 域
DT(ドイツテレコム)
FT(フランステレコム)
BT(ブリティシュテレコム)
自国内
19.1
14.3
10.2
その他欧州地域
12.0
9.8
5.4
欧州外の地域
2.0
6.4
4.1
総 計
31.1
30.5
20.7


株価低落をもたらす諸要因  ―利益の逓減傾向、増大する負債、資金調達難等―

(1) 利益は概ね低落傾向
 2000年第4四半期の業績の暫定発表をするに際し、3社は増収を大きくクローズアップしたものの利益額については、BTを除き歯切れが悪かった。
 BTは9ヶ月間(2000.4.1-2000.12.31)の利益額について、税引き後利益が16.08億ポンドから12.08億ポンドへと、約25%減少したと発表した。
 DTは2000年度に純利益が12.5億ユーロから、74億ユーロへと大きく上昇したとしているが、ファイナンシャルタイムス紙はこの数字を疑問視し、DTは2001年第1四半期に10億ユーロほどの大幅な欠損を出したと推測している。
 FTに至っては、全然利益について触れていない。概算にせよ利益額について記すところがないのは、好ましい数字が発表できず、利益が前年同期に比し減少したと推測されても止むを得ない。
 競争の激化による料金の引き下げと投資の拡大により、3社ともに、前年に比し利益率は減少している模様である。こういった3社の増収減益傾向が株価を引き下げる1因になっている。

(2)莫大な負債額、株価の低落
 表3に3社の抱えている負債額と株価の低落状況を示す。

表3 欧州3大電気通信事業者の負債額、株価
  
DT(ドイツテレコム)
FT(フランステレコム)
BT(ブリティシュテレコム)
負債額(2000年末)
560億ユーロ
550億ユーロ
450億ユーロ
株価(過去52週間の最高値との比率)
25マルク(24%)
59フラン(28%)
605ペンス(40%)
註:上記株価は2001.2.22の数字である。

 3社ともに同等の水準の負債を抱えているが、その多くの部分が携帯電話の免許料支払い、携帯電話会社の取得等3G携帯電話網構築に関係したものである。
また、株価は2001年初頭以来、悪材料(3Gに関する悲観的材料だとか、有力IT・電気通信会社の将来の利益減の見通し等)が出る度に下がり、ほぼ継続的に低下を続けている。
 これだけの株価低落が続いたのでは、株主から反発が生じ、金融筋が融資に条件をつけ始めるのも無理はない。

(3)負債返済への努力
 現在、3社ともに負債の返還計画を立て、これを実行に移している。
 当初、3社はそれぞれが本年に予定していた自社所有の携帯電話子会社を売却すれば、相当程度、負債返済に役立てることが出きると甘く考えていたきらいがある。ところが、先陣を切って2月上旬、17%の株式上場が行われたOrange社の株価は期待を遥か下回る結果となり、親会社のFTだけでなく欧州電気通信業界、金融筋に大きな衝撃を与えた。FTはOrangeの株式総額が1500億ユーロ程度になるだろうのの皮算用をしていたのであるが、実際に市場で形成された株価からすると、その3分の1以下の450億ユーロ程度に留まった。しかも株式上場後も株価は低下を続けているという始末である。格付け機関のムーディーズは早速、FTの債権格付けを2ランク格下げすることで応じ、FTに取っては、大きなな信用失墜を招く結果となった。
 当然、DT、BTも自社携帯電話子会社 T‐Mobile、BTMobileの株式上場については、慎重な構えを取るに至った。BTは部分株式放出でなく、BTMobileのスピンアウト(即ち、丸ごとの売却)を考慮中だと報じられているし、DTも公式には、従来通り米国携帯電話会社Voice Stream取得後の本年中に市場放出を行うとの方針を変えていないものの、果して本年に上場に踏み切れるかどうか、疑問を持つ報道記事も見られる(2001.2.20付けファイナンシャルタイムズ "Question mark hangs over need for T-Mobile IPO")。
 このように、格付け機関のS&P、ムーディーズ2社や金融機関の厳しい監視、審査の下で、3社は今後、多額の借金を返済しながら、株価を維持、引き上げるという難しい課題に直面しているのであるが、現在、欧州の市場関係者は日を追うごとに事業としての3Gの将来性に強い疑問を有しており、当面、株価をいつ立て直すことができるか、その端緒を掴むことができない状況に追いこまれている。
 以下、3社の負債返済計画の概況について述べる。

DT(ドイツテレコム)
 2001年内に200億ユーロに相当する資産売却による負担軽減を計画している。売却する資産には、(1)米国電気通信会社Sprintの株式10%(期待額80億ユーロ)(2)地方ケーブルテレビ網、不動産(期待額25億ユーロ)が含まれる。

BT(ブリティシュテレコム)
 BTは2000年10月のリストラの発表の際、米国、欧州、日本に海外投資先を絞り、それ以外の資産を売却し、2002年3月末までに100億リラ程度の負債返還を行う決定をしている。
 しかし、大口株主達は先のリストラ計画に満足しておらず、第2次のリストラ計画が提示される(多分、すでに述べたBTWirelessの全面売却をも含め)模様である。2月25日付けの欧米の新聞は、Vodafoneが日本市場において日本テレコムの株式10%取得の時期が近づいたとの記事を掲載している。これが実現すれば、BT(日本テレコムの株式20%を有している)は25%の資本を取得するVodafoneより劣勢となり、将来金詰りを解消するために自社所有の日本テレコム株式をすべて売却、日本市場から撤退する事態も十分に考えられる。(この件については、テレコムウオッチャー2001.1.1日号「20世紀末におけるグローバルテレコムの点景」の"NTTDoCoMoの米国進出、早くもわが国の携帯電話にインパクトを及ぼす"を参照されたい)。

FT(フランステレコム)
 フランステレコムは、格付けを2段階引き下げられた割には、借金は3年ほどでゆっくり返還すると表面上は余裕のある態度を崩していない。Orange株式放出によって得た収入は、Vodafoneが有するフランステレコム株式の買い戻しに当てるという。Vodafoneは2000年夏、株式交換によりFT新株1億2920万株を取得している(上記は、2.13付けファイナンシャルタイムス " France Telecom will not hurry to reduce deBT")。

2001年はIT・テレコム業界にとって苦難の年

 実のところ、株価が低落しているのはすでに述べた3社だけではない。2001年の初頭から2月24日(本稿執筆時)まで、IT・電気通信企業の株式は欧米、日本、アジア地域で継続的に低下しているのである。電気通信事業者、ドットコム、ソフト会社、機器メーカーを問わない。米国でダウが比較的安定しているのに対し、ナスダックが持続的に低落していることからも明かである。昨年の今頃、“技術株”なら即、高値を呼んだという頃とは打って変わり、技術株は全面的に売りの状況である。2月23日、米国のナスダック株式指数は遂に2179.20ドルと2200ドルを割りこんだ。欧州株式市場でも、大方の技術関連株は低落した。
 最近のナスダックの低落の大きな要因として、有力企業の業績見通しの下方修正がある。最近、デル(コンピュータ)、ヒューレットパッカード(電子機器)、ノキア(通信機器)などの優良大企業がそれぞれ、自社業績見通しを下方修正し、その度にナスダックが下がった。
 最もショッキングだったのは、2月23日のモトローラ社の2001年第1四半期業績見通しの発表内容である。この発表において、同社はさる1月11日に公表したばかりの(1)88億ドルの売上(2)1株当たり12セントの利益の目標を達成できないとし、第1四半期は営業利益が赤字になるかも知れないと警告した。
 世界有数の半導体、携帯電話機(ノキアについで世界第2位)のメーカであるモトローラ社は業績見通し修正の理由として、(1)2000年第2四半期から始まった経済停滞のインパクト(2)セミコンダクター市況の不振(3)セルラー電話の需要の伸びの鈍化(4)同社のコスト削減努力の不充分(5)資金借り入れ条件の悪化を挙げている(2.23付けモトローラのプレスリリース "Motorola Does Not Expect To Achieve First Quarter Sales, Earnings Guidance")。
 もっともノキア(世界最大の携帯電話機製造会社)はモトローラのこの発表に反発し、携帯電話機のグローバル需要は2001年、同社の当初の予測どおり昨2000年の4億500万台の25%増、5億万台を超えること、3Gの前途は明るいことを強調した(2.25付けファイナンシャルタイムス "Nokia defies pessimists and predicts 3G success")。

 このように、世界経済の先行きについても3Gの将来についても、強気、弱気の意見が交錯してジャーナリズムを賑わせているが、残念ながら弱気の意見の方が優勢のようである。米国連邦準備理事会のグリーンスパン議長ですら、米国経済について、ここ数ヶ月は調整期間が続き、景気回復は本年下半期以降になるとの見解を示しているのだから、米国、グローバル経済について強気論が影を薄めるのも無理はない。
 欧州既存事業者の経営、株価低落の案件に話を戻すと、アナリストの間でも現在のところ短期的な解決策が提示されておらず、「株価が下がるところまで下がれば、また上がるだろう」(当たり前のことである)と言う程度の投げやり的な見解が多い。
 このような状況からして、今回取り上げた欧州の3通信事業者はもとより、世界のIT・電気通信事業者にとって、2001年がきわめて厳しい年になることだけは確実なようである。




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