DRI テレコムウォッチャー



Verizon(米国最大の地域電話会社)、自前設備で国際通信市場に本格参入する計画を発表
     - 長距離通信事業者からの大きな市場シェア獲得を狙う -


2001年2月15日号

 Verizonは2月7日、これまで他の回線卸売り業者からのリースにより利用していた国際通信回線を自前設備に切り替え、地域も米国から、欧州、アジア、中南米への主要都市に対する通話へと拡大し、大々的に国際通信サービス市場に進出すると発表した。
 この発表はこれまでの同社の業務拡大の方向の延長線上にある当然の行動である。まずVerizon(注2)は、米国地域電話会社(注1)のなかでもっとも長距離・国際通信分野への進出に熱心な企業である。FCC、ニューヨーク州公益事業委員会との長期間にわたる折衝の後、他の地域電話会社に先駆け1999年12月にニューヨーク州において同州からの長距離・国際通信提供の認可を認められた先駆的な実績を有している(注3)。同社は翌2000年1月からニューヨーク州においてサービス提供を開始しており、その成果が好調であるところからこの事業拡大への自信を強めたものである。さらに本文で説明するように、レーガン共和党政権発足に伴い、FCC、議会が競争促進、通信事業者に対する干渉抑制の方向に動くことが確実になり、Verizonの首脳陣が規制環境は同社をも含め地域電話会社に有利に働くとの確信を抱いたことによる点も大きい。
 大手長距離電話会社3社(AT&T,WorldCom.Sprint)は、長距離通話トラフィックが縮小している環境にあって、最近業績が大きく低下しているが、今後地域電話会社からの長距離・国際通信市場への参入による一層の競争激化により、苦しい対応を迫られることとなろう。
 本文では、Verizonの国際通信網構築計画の概要、この計画発表の背景、予想されるインパクトについて解説する。


Verizonの国際通信網構築計画  ーグローバル通信市場でのシェアの拡大を目指すー

 以下、Verizonの2月27日付けプレスリリース(Verizon to Operate Global Network Linking Large Businesses with Europe, Asia and Latin America)を主な資料にして、同社の通信網構築計画を紹介する。

  1. 概要
    1. 既存のグローバル電気通信ネットワークを寄せ集め、高速・ブロードバンドネットワーク網を構築し、これにより、米国から、欧州、中南米、アジアの主要都市に対する国際通信サービスを提供する。
    2. 上記のネットワーク網構築のため、光ファイバー網、交換・伝送機器、これに関連する網管理用ソフトウェアを購入する。ネットワークの基幹部分はFlaGTElecom(注4)および、Metromedia(注5)から購入する。
    3. ネットワーク構築によって見込まれる主な利点は次ぎの通り。
      • 住宅用加入者の増大する国際通信需要に手頃な料金で応じることができる。
      • 直接ユーザーに対するだけでなく、国際通信サービスを提供する通信事業者に対して、回線容量の卸売りも行う。
      • Genuity(かってGTE社が所有していたインターネット幹線提供業者)と契約ベースにより、同社サービスの代理販売も行う。
      • 顧客のビジネスニーズにとって不可欠な個別のネットワーク情報を四六時中提供する。
  2. ネットワーク構築の2段階
 ネットワーク構築は、次表の通り、二段階に分けて行う。
表1 電気通信・ITの諸指標の数値(2000、1997、1992)
区分
ネットワークの範囲
完了時期
第1段階
ニューヨークと欧州主要都市(ロンドン、パリ、アムステルダム、ブラッセル、フランクフルト、ミラノ)。なお、ニューヨークとトロント、ハワイ、香港、東京を結んでいる現行のネットワークは上記ネットワークに統合する。
2000年第1四半期
第2四半期
ニューヨークとジュネーブ、チューリッヒ、マドリッド、シンガポール、ブエノアイレス、カラカス、メキシコシティー等の世界主要都市。
今後1、2年


Verisonが大々的な国際電気通信サービス提供に踏み切った背景

 Verizonがこの時期に、自前ネットワークにより本格的な国際通信サービス市場への参入を決意した背景には、ニューヨーク市場への国際通信サービス提供の経験により自信を付けたこと、及びブッシュ共和党政権成立に伴ないFCC、議会双方における要人の交代により規制環境が大きく好転したことの2点を指摘することができる。Verizonの社長兼CEOのサイデンバーグ氏(Ivan Seidenberg)氏は外国との国際通話トラフィックが最も多いニューヨーク州(もちろんニューヨーク市を含む)を営業エリアに持っていた旧Ninex社の出身であり、かねがね大々的な国際通話サービス展開のチャンスを待ちわびていたのであって、まさに好機到来として、今回の発表を行ったものと考えられる。

(1)ニューヨーク州での長距離・国際通話サービス提供の実績

 Verizonが長期にわたるFCC、ニューヨーク州公益委員会との折衝の後、ようやく地域電話会社として最初の長距離・国際通話サービス提供の免許を受けたのは1999年12月のことであった。
 Verizonは翌2000年初頭からニューヨーク州に発着する長距離・国際通話のサービス提供を開始し、サービス開始後1年弱の同年末には、住宅用世帯の20%を超える140万の加入者を獲得した。しかもこれら加入者の97%までが市内、州LATA(注6)内サービス提供もVerizonから受けている(つまりこれら加入者はおおむねVerizonから受けていたサービスに加えて長距離・国際通話を使用することにした)。これら加入者は同社の市内・州内LATA長距離、国際のパッケージサービスを受けられる利点を求めて長距離通信事業者(AT&T、WorldCom、Sprint等)からVerizonに移ってきたのである。早くも米国50州のうち、長距離・国際サービス提供を認められている州は僅か2州(Verizonによるニューヨーク州の他、SBC Communicationsによるテキサス州)の段階で、地域電話会社が長距離電話会社の強大な競争相手であることが実証された。
 またVerizonは旧GTEの営業区域のカリフォルニア州でも、長距離、国際サービスの提供を認められている。この州の加入者数さらには、同社の営業区域外での長距離・国際通話加入者数を含めると、現在合計で490万の加入者を有する市外・国際通信事業者となっており、Verizon社によると、長距離通信事業者大手3社に次いで米国第4位の長距離通信事業者になっているとのことである。

(2)にわかに好転した規制環境

 Verizonがグローバル国際通信市場への本格的進出を発表したのと同日の2月7日、FCCのパウエル新委員長は記者団との懇談の席上、今後の電気通信政策について語った。抽象的な文言に留まるものの、同氏は前任者 ケナード氏が取ってきた施策があまりにも通信事業者に対する干渉に過ぎたと批判し、今後は競争の一層の促進に重点を置くこと、M&A免許附与の処理は迅速に行うことを明言した(FCCはこのパウエル氏の談話についてテキストを発表していない。談話の骨子については、同2月7日付けウォールストリートジャーナル "FCC Chairman Signals Change, Plans to Limit US Intervention")。
 さらに下院のエネルギー・通商委員会(HoUSe Energy and Commerce Committee)の委員長には共和党のベテラン議員でこれまで長年、電気通信関係の立法作業に携わってきたタウチン氏(Billy Tauzin)が就任した。氏はこれまで上記委員会に属する電気通信委員小委員会の委員長として、FCC前委員長ケナード氏の通信政策を批判して来た。また氏は特に地域電話会社の長距離通信市場参入促進を強く主張している(2月7日付けファイナンシャルタイムス "Telecom Policy poised for change")。
 こうしてVerizonは、今後同社の他の州における国際通話サービス提供の認可を取るにあたりFCC、議会双方に心強い理解者を得たこととなった。

地域電話会社への長距離・国際通信サービス提供の認可が長距離通信業者にもたらす影響

 このように米国の電気通信政策は今後、一層の自由化促進、FCCの干渉政策の差し控えの方向に向けて大きく変化するものと予想される。
 ニューヨークにおけるVerizonのサービス提供に次いで昨2000年7月に、テキサス州で長距離サービスを開始したSBC Communicationsも順調に加入者数を獲得しており、2000年末には140万の加入者(回線数は170万)を獲得した(2001年1月25日付のSBC プレスリリース "SBC Reports Fourth - Quarter Results")。
 長距離・国際通信への市場参入に関心を示していないBellSouthはともかく、Verizon及びSBC Communicationsの2地域電話会社はこのように好転した規制環境を好機として捉へ、今後は続々とFCC、各州の公益事業委員会に免許申請を行い、長距離・国際通話の提供に力を注ぐものと見られる(注7)。しかしこの路線はすでに長距離電話のトラフィック減少により業績が悪化している長距離電話会社(特にAT&T、WorldCom、Sprintの3大長距離通信事業者)に深刻なインパクトをもたらすことになる。
 このインパクトは早くも2月8日、AT&Tアームストロング会長の市内電話市場からの撤退の可能性をほのめかす談話となって現れた。同会長の談話によれば、AT&Tはニューユーク州及びテキサス州で、それぞれ75万名、3万名の市内電話加入者を有しているが、Verizonに支払う市内回線の借料が高すぎて採算が取れないというのである(2月8日付けウォールストリートジャーナル "AT&T Chief Says Baby Bells May Price Company out of Local-Service Markets")。
 この談話発表の意図がどこにあるかは定かでないが、AT&Tにしても昨年10月に発表した業務部門の分割化計画で、もっとも採算の取れない住宅市場向け長距離電話部門の取扱いに苦慮している(AT&Tはこの部門をVerizonあるいはSBC Communicationsに売却するのではないかとの観測をする向きもある)。
 確かに、長距離電話会社の業績不振と地域電話会社の不況下にあっての好調な業務運営の状況、さらにはFCCの干渉差し控えの新たな規制環境からすると、地域電話会社の総合サービス提供会社への進展(BT、FT、DT等、欧州の既存電気通信電話会社及びNTTのように)とAT&T及びWorldComのIPベースでの事業者向けサービス提供業者への変貌(言葉を変えれば大幅な業務縮小)の過程が進行し、今後長距離電話会社に代り、地域電話会社が米国の電気通信業界の覇者になる可能性も否定できない。
 しかし1996年電気通信法は長距離電話会社と地域電話会社が相互のサービスエリアに相乗りし、競争することによるユーザーへの便益(料金の低落、品質の向上等)を期待したものであって、長距離通信事業者の凋落、地域電話会社の一方的な勝利は全く予期しなかった事態である(この点については2000年2月1日号のテレコムウォッチャー「米国通信政策の成功と誤算」の参照をお願いしたい)。
 将来の米国電気通信事業界をどのような方向に導くか、また1996年電気通信法をどのように運営していくかは、新共和党政権下でのFCC、米国議会の重要な課題である。さらにこの課題のなかで上記の長距離電気事業者、地域電話会社の力関係をどう位置付けるべきかも大きな案件となろう。

(注1)米国の地域電話会社(Regional Holding Company)
AT&Tが司法省と結んだ修正同意審決に基づき、1984年に同社の子会社を統合して新たに設立された米国の特定地域に地域電話サービス(市内電話サービスと州内LATA内電話サービス)を提供する電話会社。当初アメリテック、ベルアトランチック、ベルサウス、ナイネックス、パシフィックテレシス、SBC コミュニケーションズ、USウェストの7社があった。
ところが1997年から2000年にかけて、地域電話会社間、あるいは地域電話会社と独立電話会社、新興長距離電話会社間でのM&Aが大きく進展し、現在は次ぎの4社へとその数が減った。

  • Verizon(ベルアトランチック+ナイネックス+米国最大の独立系電話会社のGTE)
  • SBC Communications(SBC コミュニケーションズ+アメリテック+パシフィックテレシス)
  • BellSouth(M&Aを経験せず従来のままの営業エリアを維持している唯一の地域電話会社)
  • Qwest(新興長距離電話会社のQwest+USウェスト)
なおQwestは通常、長距離電話会社として分類されているが、ここでは旧地域電話会社のUSウェストを吸収していると言う意味から、便宜上地域電話会社に分類しておく。

(注2)Verizon
米国最大の地域電話会社がVerizonの新しい社名の下にスタートしたのは新しく、2000年9月のことである。因みにVerizonはラテン語の"Veritasモに由来し "確実(certainty)"、"信頼(Reliance)"、"地平(Horizon)"等の好ましいコノテイションを持つ語であるが、特に「未来の果てしなく可能性」の意味を込めて社名にしたと言う。
同社はニューヨーク州を含む米国東海岸地域の工業地帯(旧ナイネックス及びベルアトランチックの営業地域)とカリフォルニア州、ハワイ州等(旧GTEの営業エリア)をカバーしており、売上高533億ドル(2000年度)、従業員数26万、アクセスライン6300万を有する米国最大の電気通信事業者である。また傘下の携帯電話会社は英国のVodafone社と合弁で所有しているVerizon Mobile(Verizon、Vodafoneがそれぞれ55%、45%の資本を所有)であるが、同社の加入者数は2750万加入でこれまた米国最大である。
最高経営者は社長兼CEOのサイデンバーグ氏(Ivan Seidenberg、アメリテックの前CEO)及び会長兼CEOのCharles Lee(GTEの前CEO)の2名であるが、Lee氏は2002年にはCEOを辞任することが決まっている。


(注3)FCCが地域電話会社に長距離・国際サービスを認めるための条件
1996年電気通信法には、FCCが地域電話会社に長距離、国際通話を自社営業地域がら提供するための条件を詳しく規定している。いわゆる14箇条の条件というものであって、FCCはこの条件をまことに厳しく適用し、今日に至った。このため、これまでFCC、州公益事業委員会が地域電話会社に認めた営業免許はニューヨーク州(Verizonの営業地域)、テキサス州(SBC Communicationsの営業地域)の2地域に留まった。
FCC、州公衆委員会の厳しい審査は地域電話会社の長距離電話市場への参入を送らせているとして、一部共和党議員、その他の利害関係筋から強い批判を受けている。


(注4)FLAGTElecom
通信事業者に対する長距離・国際回線の卸売りをする「キャリアズキャリア」(carrierユs carrier)である。欧州、中近東、アジアを結ぶ高容量光ファイバー海底ケーブルを所有運用し、Verizonもこのケーブルの容量を買っている。

(注5)Metromedia Fiber Network
FLAGTElecomと同様の光ファイバー卸売業者。120万マイルを越える光ファイバー回線を全世界で運用しており、会社の規模はFLAGTElecomより大きい。Verizonは同社からも回線容量を買っている。

(注6)LATA
1984年、地域電話会社が設立されて以降、同社の提供するサービス提供範囲を定めるために設けられた地域区分。通常、州が複数のLATAに区画されている。地域電話会社はLATA内サービス(市外通話)の提供は認められるが、LATA相互間の通話(長距離通話)の提供は認められず、これは長距離通信事業者の領域となる(本文で述べた通り、FCC、州公益事業委員会から、認可を受けた場合は出来る)。

(注7)Verizon、SBC Commmunicationsに対する免許附与、両社からの免許申請状況
Verizon :免許を受け、サービスを提供している州: ニューヨーク
免許を申請している州: コネチカット、ニュージャージー、ペンシルバニア、ロードアイランド
SBC Communications : 免許を受け、サービスを提供している州:テキサス
免許を受け、サービス未実施の州:カンサス、オハイオ


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