業績不振に悩むWorldComとSprint
2001年12月1日号 現在、世界の電気通信諸会社はおおむね、不況(米国、日本ではリセッション)と激しい競争の下での料金の下落に苦しみ、将来の展望を見失っている状況である。ほんの1、2年前まで電気通信業界の雄として高い成長率を示していた米国の大手電気通信事業者のWorldComとSprintの両社もご多分に漏れず、最近はいずれもその力が衰え昔日の面影はない。
利益低下に悩むWorldComグループ、MCIグループの業績
2001年第3四半期(2001.6.1から9.30)の中間決算による2社の財務、経営状況報告によると、業績は低下傾向にあり両社とも利益は減少している。
もっとも将来に対する見遠しは両社で大きく異なる。WorldComが早晩、他社からの合併は免れまいといった弱気の発言をしているのに対し、Sprintは市内交換網、携帯電話網を有している長所を生かし、これまで通り最新のネットワークによりパッケージサービスを提供することにより業績低下を克服できると見ている。また最近には、他社に先駆け同社の回線交換網をパケット交換網(主体はIPベース)のネットワークに取り替える方針を打ち出している。
以下、WorldComとSprint両社の最近の業績、業務の動向を紹介する。なお今回は取り上げなかったが、トップの長距離電話会社のAT&Tとなると減収傾向はもっと著しい。多分2001年中に、同社ケーブル部門の処理を定めるはずであるので、その結論(売却するのであれば買収先はどこか。売却を行わず自社路線―ケーブル部門を分割して株式上場―をするかのいずれかになる見込み)を待って、別途論ずることとしたい(注1)。
2001年初頭、WorldComは、同社の価値をより高く株主に評価してもらうため、自社をWorldComグループとMCIグループの2事業部門に分け、それぞれの事業成果を反映するトラッキング株を発行した。両グループの担当する事業は次の通り。
WorldCom グループ: データ、インターネット基幹回線、事業用地域音声・専用線サービス、国際サービス MCIグループ: 消費者・中小企業向けサービス、ダイヤル・アップ・インターネットサービス
まず、WorldCom Groupの2001年第3四半期の業績を表1に示す。
表1 WorldCom Groupの2001年第3四半期業績(単位:100万ドル)
項目 2001年第1四半期 2001年第2四半期 2001/2000(%) (収入) 音声 1,629 1,731 -6 データ 2,247 1,909 +18 国際 761 637 +19 インターネット、専用線 835 635 +22 計 5,482 4,912 +11.7 (純利益) 460 780 -41 このように、収入はデータ、国際、インターネット・専用線がそれぞれ20%近い伸びを示し好調であるにもかかわらず、音声の減(-6%)に引きずられて総体的には11.7%の増にとどまった。周知の通り、WorldComは世界最大のインターネット・バックアップ回線のUUNET(MFSとの合併により所有)を有しており、また国際通信の分野では最大の強敵であるAT%TとBTとの合弁会社、Concertの業績が不調であるとの状況もあり、データ、国際、インターネット、専用線の分野では強い成長力を示している。
また、純利益は7.8億ドルから4.6億ドルへと約40%減少した。これは、営業コスト、原価償却費がともに前年同期より嵩んだことが影響している。
次に、MCIグループの業績を表2に示す。表2 MCIグループの2001年第3四半期業績(単位:100万ドル)
項目 2001年第3四半期 2000年第3四半期 2001/2000(%) (収入) 一般消費者 1,873 1,989 -6 他通信事業者への再版 657 847 -23 市内回線・小企業 591 954 -38 ダイアルアップ・インターネット 336 403 -10 総計 3,483 4,193 -17 (純利益) 33 352 -91 表が示すように、前年同期に比しMCIグループの収入は17%と大幅にダウンし、利益は約10分の1となってしまった。この傾向が持続すれば、このグループが赤字に陥るのも時間の問題と見られる。
スプリントは赤字へ転落
住宅用長距離市場において収入が低下する理由は数多く考えられる。携帯電話(米国では、最近ようやく携帯電話のトラヒックの伸びが急激に高まっていると言われる)、メールによるバイパスによる収入源の他、Verizon、SBCなどの地域電話会社が強力な競争業者として立ち現れており、これら業者による市場の喪失も大きいものと見られる。おまけに、相変わらず通話料金の低落が著しく長距離通話の販売で利益を生み出すのが難しくなっているのも、収支悪化の大きな原因である。
ついでながら、米国第2の長距離電話事業者で比較的事業運営が巧いと評されるWorldComの消費者部門ですら、このような収入、利益低落の傾向にあるのであるから、数多い米国の住宅用長距離事業者もおおむね、業績が著しく悪化しているものと推測できよう(注2)。
米国第3位の長距離電話事業者のスプリントは、長距離電話事業の他、地域電話事業も運営している。また携帯電話会社としてはスプリントPCSがある。厳密にいえば、持ち株会社SprintCommunicatIONsの下にトラッキング株を発行するSprint FON Group(固定通信)とSprint PCS Group(携帯電話)が所属するという構造になっている。ここで表3にSprint FON Groupの業績を見ることにする。
表3 Sprint FON Groupの2001年第3四半期業績(単位:100万ドル) (上表の収入の内訳と計が一致しないのは、Sprint発表の同一資料のそれぞれ表、文章説明から引用したためである)
項目 2001年第3四半期 2000年第3四半期 2001/2000(%) (収入) 地域電気通信 1,560 1,500 +1 グローバル市場 2,510 2,650 -5 製品・電話帳 434 496 -12 計 4,244 4,444 -4.5 (純利益) -154 384 この表から見ると、スプリントの収入は前年同期に比し4.5%落ちこんだ(2000年の第3四半期は2.4%増)。また純益も遂に赤字に転落している。
他社からの買収を期待するWorldComとパケット通信網への刷新、パッケージサービスに将来を賭けるSprint
スプリントはその主な理由として、経済の不況と競争激化による長距離+国際通話の収入ダウンを挙げている。
同社は地域電気通信の部門が意外に好調であり、営業利益が前年同期(4310万ドル)に比し、11%増の4770万ドルに増大したとしている。スプリントは部門別の利益を発表していないが、売上の37%(上記2001年第3四半期の実績による)を占める地域通信分野の利益があるため今期の業績の落ちこみがこの程度に留まったのだということは十分考えられる(注3)。
WorldCom、Sprintともに、表4に示す通りこのような厳しい経営状況のもとで、リストラ(人員削減計画)を発表し、また今後の業績見とおしについても控えめな数字を出している。
表4 WorldComとSprint のリストラ計画・業績見通し
項目 リストラ計画 業績見通し WorldCom 11,000人(総従業員の20%に当る)を削減 収入増は2001年第沁l半期、2002年について前期比10%程度を見込む Sprint 6,000人(主としてIONサービスの廃止に伴うもの) 2001年の株式当り利益を1.65ドルから1.75ドルへ なお、リストラへの取り組みはWorldComとSprintでは異なる。WorldComは業績向上のためのコスト削減を目ざしてのリストラであるが、表に記載した通りSprintの場合にはIONサービスの廃止に伴う従業員の削減を目的としたものであって、それ以外の目的での従業員減は当面考えていない。
他社からの買収を望んでいるWorldCom
WorldComのCEOのエバーズ氏は、10月下旬にアナリスト達に対するインタビューのなかで「地域電話会社と長距離会社との合併は、今後1年半の間に生じる可能性はある。また規制期間のクリア等を売るため、その実現はさらに1年半を要するだろう」と述べている(注3)。これまで他社の吸収を次々に行い、米国第2位の長距離電話会社を築き上げてきた実績を持つエバーズ氏の観測だけに傾聴すべき発言である。
パッケージサービスの強化とIPベースネットワーク建設に賭けるSprint
またこの発言は、「わが社は合併について話し合いをするから、声をかけて欲しい」とのサインを送ったものであるとも読み取れる。
アナリスト達の間では最近AT&T、WorldComの両社について、両社共に他社と合併(多分、吸収)される運命にあることは確実だとの観測が強い。最新のStreet.comの記事はもっと直裁であって、両社の最近のリストラ実施の発表は、来るべき合併交渉に備え、条件を有利にするためのお化粧に他ならないと断じている(注4)。
それにしても、かってのWorldComは絶えず他社を吸収する側に立ち、2000年6月まではSprintの吸収も確実だとみられていた(注5)。その時の立役者で電気通信業界の寵児であったエバンズ氏が手塩に掛けて育成してきたWorldCom社の売却について観測気球を挙げることになろうとは、誰しも予想しなかったことであった。これも最近の電気通信業界の変化の早さを物語るものであろう。
WorldComが弱気であるのに対し、Sprintは従来通り、将来目標を最新のネットワークによるパッケージサービスの提供に求めており、他社への売却は考えずに独自路線を貫けると見ている。事実、同社の株価(11.28日現在、21.65ドル)は、AT&T(同日、17.55ドル)、WorldCom(同日、14.82ドル)を相当程度上回っており、Sprintの主張を支持している模様である。
Sprintは本来、カンサス州を本拠とする独立系電話会社のUnited Utilitiesからスタートした電気通信会社であり、現に18州にわたって830万の市内加入者数を保有している。
この加入者基盤を主体に、市内通話、長距離国際通話、携帯電話(PCSSprintが提供している)をパッケージで提供し、他社との差異化を計ろうというのが基本戦略であって、同社の説明によれば、この戦略は次第に成功しているようである(注6)。
Sprintは2001年第3四半期の決算時に、同社のIONサービス(高速ディジタル回線により、音声、データ、インターネット接続提供の高速サービスを住宅、中小企業用に提供する)の廃止を発表したばかりであるが、11月初旬には新たに、同社の回線交換ネットワークをすべてパケットのネットワークに切り換えると発表した。すでにノーテルに対し切り換えに伴う発注(11億ドル)を行っており、2006年までに切り換えを完了する予定だという(注7)。
通信網の将来が現在の回線交換網とパケット交換網の混在から、パケット交換オンリーに向かうというのは、今や電気通信業界の常識となっており、事実、新興通信事業者の多くはパケット網のみでサービス提供を行っている。しかし、既存電気通信事業者はおおむね、慎重な姿勢を取っており、AT&TもWorldComもまだパケット網への切り換えは検討段階にある。
Sprintは市内サービスも含め、すべての種類の電気通信サービスを提供しているという恵まれた環境にあるため、パケットへの切り換えを他社に先んじて行える有利な状況にあるとは言い得るだろう。しかし、この野心的な企画を実行するに当っては、まだ多くの難関(最大のものは、回線交換並みのサービス品質が保持できるか否かの問題)があるものと見られる。(注1)2001年第3四半期、AT&Tの実質的な収入は前年同期より5.8%低下して131億ドルに留まった。また22億ドルの実質赤字を出した。
(注2)この項の記述は、主として次の1001.10.25付けWorldComのプレスレリースによった。"WorldCom Group Third Ouarter 2001 Revenues up percent"、"MCIGroup Reports Strong Consumer services Results"
(注3)この項の記述は、主として2001.10.17付けSprintのプレスレリース、"Sprint announces strong third quarter results"によった。
(注4)11.26付けStreet.com "Quiet Firings Spur Renewed Telecom Takeover Talk"
(注5) 2000年7月15日付けのテレコムウォッチャー、「欧州委員会と米国司法省、MCIWorldComによるSprintの統合を拒否」
(注6)Sprint FON Groupは2001年第3四半期に35万のパッケージサービス(市内+長距離)を販売したという。また住宅用市内電話加入者の44%、事業用加入者の36%が同社の長距離サービス加入者を使っているという。
(注7) 2001.11.5付けのSprintのプレスレリース、"Sprint to become First Incumbent Local Phone Company to Convert its Network Infrastructure to Next-Generation Packet Network"から。
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