DRI テレコムウォッチャー



欧州電気通信業界、3Gのオークションと投資に現実的な対応を始める

2000年12月1日号

 欧州諸国における3G(次世代携帯電話)の免許付与はそのほとんどがオークション方式、一部がビューティーコンテスト方式(書類選考により適格者に免許を附与する通常の方式)により、本年3月のスペインを皮切に進行を始めた。現在6つの主要国で免許附与が終った。またスイスでは、最近免許数を上回る応札者が得られなくなり、免許は延期(多分12月に再開)された。
 免許附与の過程は本年末から来年にかけ継続される(大国であるフランスは免許を来年に実施することを定めている)が、すでに応札する携帯電話会社が巨大な免許料と3Gネット網への投資をカバーするだけの資金調達ができるかどうかが欧州電気通信業界の切実な課題となっている。このため携帯電話会社、機器メーカーの一部では2003年ごろから始まる3Gサービスの提供に関し、より現実的な対応をしようとする動きが見られる。
 その端的なあらわれが携帯電話会社による相次ぐ3G免許取得の断念である。このため最近スイスではオークション実施前に所定の応札者数が得られず、延期せざるを得ないという現象が生じている。
 また機器メーカーでも、携帯電話の販売数で断然世界一を誇るフインランドのノキアは3Gについては、競争相手のエリクソンに比べややクールな取り組み(換言すれば3Gの実施が延期されても差し支えないような手段を講じる)をしている点が注目に値する。
以下これらの点について、さらに詳しく解説する。


3G免許取得の状況―政府と免許取得業者のせめぎあい

これまで欧州諸国で3G免許を取得した業者及び免許取得の状況は次表の通りである。

国名
取得業者
取得時期
免許料収入、特記事項
スペインTelefonica, Amena, Airtel, Xfere(4社)
3月
5億ユーロ(466億円)。政府はビューティーコンテスト方式により、免許料収入よりも早期の免許附与を重視した。
英国Vodafone, BT, One2One, Orange, TIW (3Gの運用はHutchison3GUKが行う)(5社)
4月
225億ポンド(3.8兆円)。ドイツに次ぐ金額で、政府予定の7倍。潜在加入者あたり金額で欧州最大。
オランダLibertel, KPN, Dutchtone, Telefort, 3GBlue(5社)
7月
59億フローリン(2700億円)。政府予定の4分の1に留まった。オランダ政府は現在、談合の嫌疑により、TelefortとVersatelを捜査中。
ドイツT-Mobile, Mannesmann Mobilfunk, E-Plus, ViaG Intercom, Mobilcom, Group3G(6社)
8月
98.8億マルク(4.6兆円)。欧州で最大の金額。
イタリアTelecomItaliaMobile, Omnitel, Wind, Andala, Ipse(5社)
10月
取得金額は121.6億ユーロ(1.13兆円)で、政府予定額の約半額に留まった。これはBlu(BTとInfostradaを主としたコンソーシャム)が早々に脱落したためである。イタリア政府は談合があったのではないかを疑っている。
オーストリアMobilcomAustria, Tele.ring, max.mobil, ConnectAustria, Telefonica, Hutchison(6社)
11月
7.06億ユーロ(650億円)。 金額は欧州最低。
スイス応札予定業者は次ぎの通り、Swisscom, Orange, Diax, Telefonica(4社)
未定
11月中旬のオークション開始直前に応札業者2社(Sunrise CommunicationsとDiax)が突然、合併を宣告し、このため、応札業者数が附与免許数とイコールになってしまったので、Bacom(スイスの規制機関)は談合がなかったかどうか調査すると述べている。

 上記の免許附与において欧州諸政府は約10兆円の免許料を獲得しており、特に金融筋からは免許料の取り過ぎだとの批判が強い。ところが実は上表の6国政府(オークションを延期したスイスを除く)のうちで予定収入を満たしたのは英国だけであって、他の5政府はオークションの成果に決して満足していない。最大の免許料収入を得たドイツ政府にしたところで、競りの値段が吊り上げられるにつれてオークションに嫌気を覚えた大手業者2社、T-MobileとMannnesmann Mobilfunkが当初方針を変更、少ない免許枠の取得に甘んじてオークションを中止した。同政府は潜在加入者当たりの収入からすれば、英国より低い免許料になったとしてその結果に満足していない。
 イタリア、オランダの両国では入札開始後初期の段階で脱落業者が生じたため、談合が行われた疑いがあるのではないかとして、現に捜査が行われている。
 応札業者の消極的な態度はスイスで頂点に達した。同国では当初10社あった応札予定者がオークション開始前に続々と脱落し、直前の11月中旬にさらに2業者が合併を発表したことにより、応札業者数=附与免許数という状況が生じた。このため政府はオークションを延期する事態に立ち至った。
 このようにオランダ、イタリア、オーストラリア、スイスと軒並みに脱落業者が生じているため、携帯電話事業者相互でグローバルな組織的談合が行われていると観測する向きもある。(11.1付けファイナンシャルタイムス "Concern over 3G collusion")
その真偽はともかく、高額の免許料に加えさらにこれまた高い3Gネットワークへの投資費用を負担しなければならない携帯電話会社としては、3G運用の収益から償還できる程度の水準に免許料の支払いを留めようとするインセンティブが働くのは当然であろう。
 3G免許の取得を巡っては、出来るだけ高い免許料収入を得ようとする(官)の側と出来るだけ少ない免許料負担で済ませたいという「民」が全く相反する利害対立の下で、隠微な形での激しい攻めぎあいが行われている。 (本稿の執筆に当たっては、ファイナンシャルタイムスの記事を始め、欧州の多くの情報を利用した。「事実」に関するものがほとんどなので個々の資料の出典は省略する。)

財務基盤の弱まる携帯電話会社各社―強者と弱者への両極化が進むー

 3G免許料支払い、3G網構築の経費支弁に対処するため、莫大な資金の調達に迫られたため、携帯電話各社の財務体質は大きく悪化することとなった。典型的な例はBTである。同社のつまずきはドイツにおける3G免許取得携帯電話会社ViaG Intercomへの支配権獲得(従来の45%から90%へ)のための投資、67億エキュー(約6600億円)の決定に始まる。経営体力が低下している最中にあってのこの巨額の投資は金融筋の強い反発を買い、債権格付け機関による格付けの引き下げ、株価の低下を招いた。ひいては本年10月の米国AT&Tの4分割発表に引き続き、大掛かりなリストラ(事業部門の分割、資産売却等)を発表せざるを得なくなった(本年9月中旬時点のBTの経営状況については、 テレコムウォッチャー2000年9月15日号「守勢に立つBT」 に詳しい)。
 BTはドイツ以外の欧州主要国での3G免許の取得をあきらめた模様である。すでに携帯電話大国イタリアでのコンソーシャムBluを通じての免許取得は断念した。またスイスの電気通信事業者Sunrise(3Gへの応札業者)に有していた34.4%の株式をTele Danmarkに売却するという。スペインでAirtel(スペインの第二携帯電話会社でヴォーダフォンと共に資本参加)を通じて3G免許を取得しているが、早晩ヴォーダフォンにその持分を売却するのではないかと見られている。こうしてBTは欧州3Gネットワーク競争から脱落した。
 ドイツテレコムも自社株式の低落、負債の増大に悩んでいるが、BTに比べると経営体力は強い。なんといっても本年春にインターネット事業部門のT-Onlineの株式上場を果たし得たこと、フランステレコムへのGlobalOneの持分の売却益により、多額の資金を獲得できた点が同社に有利に作用している。それでもフランス、スイスにおける応札を断念したことからも明かなように、重点市場を選んでの投資に向かう戦略に転じている(11.10付けウォールストリートジャーナル、Deutsche Telekom Won't Enter Swiss UMTS License Auction及び11.21付けファイナンシャルタイムス、DT quits Paris 3G contest)
規模の小さい携帯電話会社は自力では免許取得に応じきれず、大手業者の系列に入って合弁会社方式に頼っているのは周知の事実である。またドイツでのGSM免許による携帯電話事業者であるのにもかかわらず、3G免許取得を断念する事業者(Swisscomが支配権を持つDebitel)も現れた。
 一般に財務の逼迫に悩む携帯電話会社の中にあって、断然他の業者を抜き放して、汎欧州3Gネットワークの構築に向けて快進撃を続けているのはヴォーダフォンである。同社はすでに25カ国に6500万の加入者を有する世界最大の携帯電話会社であるが、3G免許附与の機会にさらに他社を買収し、シェアを高めようとしている。11月初旬にも同社はSwisscom Mobileの資本25%を25億ドルで買収すると発表した。今後もヴォーダフォンの進撃は続くだろう。
 このように3G免許の附与が進むに伴い、携帯電話会社の層別化が促進されている。第1のグループは汎欧州網を目指し今後も他の業者の取得を進めるヴォーダフォンであり、第2は特定の国を選んで汎欧州3Gサービスを提供するグループ(Orange/France Telecom, Deutche Telekom, KPN/DoCoMo)である。その他は自力によるか、他の携帯電話業者との提携によるか、ともかく自国市場で業を営むローカルキャリアである。
 もちろんサービス提供段階で予想外のサービスアプリケーションを開発し市場を席巻した業者が大きくシェアを伸ばし、欧州携帯電話業界の地図を塗り替える事態も起こり得よう。

3Gへの取り組みを異にする2大機器メーカー(エリクソンとノキア)

 3G網の構築に投じられる投資資金は莫大であるが、携帯機器メーカーの得られる収益見通しも必ずしも明るくない。受注合戦が激しい上に資金に乏しい携帯電話会社が支払いについて、クレジットを要求しているからである。欧州の2大携帯電話メーカー2社のエリクソン、ノキアはこのため本年春に比し大きく株価を下げている。
 10月中旬、エリクソンがノキアと争い、Mobilcom(フランステレコムが出資しているドイツの携帯電話会社)から取得した3G網構築についての13.5億ドルの契約条件は(1)2003年工事完了までMobilcomは工事料の支払いを要しない(2)エリクソンはMobilcomに対し、サービス立ち上げの費用として6.8億ドルを融資するというものであった。まことにMobilcomに取っては有利な内容であるが、エリクソンには過大な経費負担を伴うものである。ノキアに比しエリクソンは携帯電話のインフラ事業が本命であって、端末の占めるシェアは20%に過ぎない。インフラ業者としては3G事業の推進についてサービス提供業者と一蓮托生の路線を歩まざるを得ないということになろう。
 これに対しノキア社は新技術のアプリケーション実現には期間を要するとの見方をしており、電話機端末ではエリクソンが高性能機種の販売に失敗して大きな赤字を計上したのに対し、低価格通常の携帯電話の販売を主に売上を伸ばし、当初、利益の伸び悩みを発表していたのにもかかわらず、本年度第3半期にも大幅な増収増益決算を発表した。同社はまた携帯電話インフラのシェアが少なく身軽な点もあるにせよ、携帯電話業者からの契約受注に関し、クレジット供与を行わないことを原則にしている。

欧州諸国の3G実施は大幅に遅れるという観測

 上記のような事情から、欧州の3Gに関与する携帯電話会社および電気通信会社はオークションの費用を支払うだけで多額の借金を抱えており、到底2003年や4年に所定の網構築を終えて、サービス開始に踏みこめるはずはないという趣旨の論説も現れている。(例えば、11.16付けFool.comの"3G Wireless Future Is LonG Way Off")  確かに欧州のインターネットモバイルの主体は未だ回線交換のWAP方式であって、幾社かの先進携帯電話会社を除いてはパケット交換のGPRS方式への切替えをこれから行う段階である(つまりDoCoMoのiモードが当初からパケット交換による常時接続の利点をも利用してサービスを延ばしているのに比べると発展段階が低位にある)。したがって資金面だけでなくユーザーのサービス受容度の点からしても、3Gの実施はむしろGPRSの顧客への浸透度合いを見てから行うべきであって、それほど急ぐことはないという動きも当然出てくるはずである。
 今後、欧州における3Gの進展がどうなるか定かではない。しかし上述の状況からして、3G熱がさらにトーンダウンして行くことは間違いないであろう。
 振りかえってみると、各国政府は欧州委員会から負債限度を一定比率(GDPの3%)未満に保つよう厳しい指示を受けているため、3Gオークションを収入確保の最大の機会ととらえ、英国、ドイツなど幾つかの政府はできるだけ収入を最大にするオークション方式を編み出した点に無理があった。諸携帯電話会社はこのペースにはまり、法外は免許料を支払ってしまったと言うより他ない。
 それにしても驚くべきは、欧州における「民」に対する「官」の強さである。




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