パウエルFCC委員長、ブロードバンド展開に当っての政策方針を発表
2001年11月15日号 パウエルFCC委員長は、2001年10月25日、ブロードバンド展開に関する全国サミットが開催された機会に講演をおこない、FCCのブロードバンド政策について解説した(注1)。
パウエルFCC委員長の講演の骨子
この講演は、前々日の10月23日にパウエル氏が発表したFCCのデジタル・ブロードバンドへの移行政策をベースにしたものである(注2)。
以下、パウエル委員長の講演(A4版で7ページ)の骨子を紹介する。編別構成は原文に従ったが、見出しのタイトルは多少変更を加えたことをお断りしておく。
なお今回の講演では、これまで抽象的に過ぎて具体性に乏しかったパウエル氏の規制、通信政策に関する考え方がやや明確に現れている点で注目に値する。ここでその主要3点の解説を加えておく。
産業政策に対する考え方
パウエル委員長の考え方は、必要が生じた場合コスト・ベネフィットをよく見きわめて、産業政策に踏み出すことはあるが、「市場の失敗」を見きわめこれに対処する(この場合も第一次的には企業次元の問題)ことが第1であって、産業政策はこれによる解決が出来ない場合の手段だということである。
なお周知の通り、前ケナードFCC委員長はブロードバンドの推進をもっとも重要な産業政策として位置付けていたのであり、パウエル氏の見解は前任者のそれと大きく異なる。さらにうがった見方をすれば、ブロードバンドに関する政策設定は前任者が大きく乗り出していた課題であって中途で打ち切るわけにいかないから、お付き合いをしていると言う様にも取れないこともない。
ブロードバンドのユニバーサル利用を目指す
パウエル委員長は今回、ブロードバンドを誰でも利用できることを政策目的とした(注3)。多分すべての世帯をブロードバンド加入者にする目標は非現実であると考えて、ユニバーサル利用(universal availability)を尺度にする方針を定めたのであろう。ここでもブロードバンドをユニバーサルサービスとすることを念願としていたケナード前委員長との政策方針の差異が伺われる。
さらに注目されるのは、パウエル委員長は狭帯域インターネットサービスを音声サービスと並べ、すでにユニバーサルサービスが達成されたといっていることである。しかし家庭での狭帯域インターネットの契約率が50%程度である現在、この議論はきわめて粗雑と言わざるをえない。パウエル氏の好む言葉を使えば、せいぜい狭帯域インターネットがユニバーサルになったというべきであろう。
地域電話会社、ケーブル会社のブロードバンドを支配する動向に警告
DSL(有線ブロードバンド)の分野では、この半年ほどの間で地域電話会社が独立系のDSL提供業者を廃業、もしくは破産法11条(再建計画提示を条件にした企業サバイバルの条件を記した条項)の適用申請に追いこんでいる(注4)。またケーブルモデムによるブロードバンドの面でも、独立系大手提供業者のExcite At Homeは破産法11条の適用申請を行うとともに、AT&Tは同社の設備を購入する見込みであり、ケーブル会社の独走となった。
さらに1部地域電話会社(もっとも先鋭的なのはSBC)は、規制面の制約が強いためDSLに対する投資のインセンティブがないとして、規制の緩和、撤廃を求めている(注5)
今回のパウエル長官の講演では、明示こそ避けてはいるものの地域電話会社、ケーブル会社のこのような市場支配力を強める動きを警戒、けん制し、ブロードバンド提供があくまでも、有線、無線、衛星の各種媒体を通じた競争環境下のもとで行われるべきである旨を強調している。
これまでパウエル氏は地域電話会社の行動に対し、甘いとの批判があった。氏が地域電話会社の意向に容易に組みするものではないとの姿勢を示した点もきわめて重要である。
1.ブロードバンドの定義
ブロードバンドは、広範囲のアプリケーション、用途を有する媒体である。また、その要素は(1)デジタル・アーキテクチュア(2)IPプロトコルおよびその他の多少のプロトコルを伝送できること(3)用途の多様化、大きな帯域を要するアプリケーションが生じるにつれて容量・機能を高めることができることである。
しばしば、ブロードバンドの定義として伝送速度が含められるが、速度は本質的なものではない。
2.加入率でなく、利用率が重要
J.P. Morgan社による世帯調査によると、世帯当りのブロードバンドの加入率は12%、利用率はケーブルモデム、DSLを含め85%であるという。この数字からしても、加入率に対し政府がいちいち対応するにことには、躊躇わざるを得ない。
加入率が低いのには、諸種の理由があろう。提供されるサービスに比し、料金が高いということかもしれない。魅力のあるコンテントが少ないのかもしれない。映画とか音楽の著作権が大企業の手中にあり、安く提供できないということも影響しているだろう。
3. ブロードバンドに対するFCCの基本的な姿勢―生起する問題の個別解決か、産業政策の発動か。
FCCが為すべきことは、明白な「市場の失敗」を見極めることであると思う。市場の失敗に対してはFCCは対応すべきであろう。しかし、単に市場を作るのが難しいとか挑戦的であるというのであれば、この問題には技術革新、マーケティング、創造的な資金調達等の手段で対応できるので、企業レベルで対処できるはずだ。
ブロードバンドについて、積極的にブロードバンドを推進するための産業政策がFCCに求められる場合がある。私は産業政策に対しては、全般的に疑念を持つものであるが、このアプローチが効果を持ちうることを否定はしない。しかし、産業政策を導入するにせよ、問題と結論をはっきり定め、焦点を明確にしておく必要がある。
4. 政府が利用できる手段、解決方法
これまで政府のブロードバンドへの介入について、様々の議論がなされてきた。ところが、この議論はしばしば政府がなし得ることはなにかという具体策からはかけ離れたものであった。実のところ、政府が行使できる解決手段は次のように限られたものである。(1) サービスに対する提供業者あるいは利用者への直接的な補助金支出5.FCCが避けるべき落とし穴
政府はその気になれば、サービス提供業者あるいはユーザに、補助金を出すことができる。しかし、この直接の補助金支出は昨今、連邦政府では評判が悪く、有無を言わせないほどの根拠付けを要する。電話サービスにおけるユニバーサルサービス提供計画がこの部類に入る。
(2) 利用者あるいはプロバイダーに対する減税による間接的な補助金支出
連邦政府は昨今、特定の経済活動に刺激を与えるためのこの種の減税にはやや意欲的である。しかし、大きなプロジェクトについて減税の承認を得るには、その必要性を証明する必要があることは当然である。
減税はサービス提供業者、ユーザーのいずれにも行うことが可能であるが、デマンド側のユーザーに与える方が効果があろう。この他、インフラ、通信設備の減価償却期間を短縮(単年度の課税率が低くてすむ)することによっても、減税効果が得られるであろう。
この件に関しては、州・地方政府が様々の方法での直接・間接のインセンティブにより、投資の振興に努めてきたところである。
(3) 政府、地方公共団体のブロードバンド需要
連邦政府は大量のブロードバンド購入を行っており、これにより、ブロードバンドの投資が促進される。また、地方公共団体では技術コミュニティーセンターの設立、学校・図書館へのブロードバンド設備の配備により、地方公共団体自体がブロードバンド投資に適したものになっている。
(4) ブロードバンドのサービス提供に対する競争確保の必要性
ブロードバンドのネットワークの構築には莫大な資源を要するが、さればといってこれを独占に委ねると、かっての電話サービスの例に見られるように、規制に莫大なコストを要する。
従ってFCCはこのトレードオフ関係に考慮を払う要があるが、私はブロードバンド・プラットフォームの構築で競争関係を維持することは可能であり、競争の道を閉ざしふるぼけた独占の路面電車に乗ることはできないと確信する。
筋の通ったブロードバンド政策を推進するに当って、今後避けるよう留意しなければならない落とし穴が幾つかある。私の念頭にあるのは以下のものである。(1) ブロードバンドは有線のみとの考え方
繰り返すが、電話会社がローカルループを独占すべきであるとの規制政策がかかって、大変なコスト増を招いてきた。
FCCは全力を尽くして、多様なプラットフォーム(ケーブル、無線、衛星等)へのインセンティブを喚起する。これにより、新規業者による既存事業者のバイパスがプッシュされるだろう。
(2) 健全な、コストの掛からない方法で誰でも利用できるブロードバンドの提供へ
これまで、米国は電話サービス、狭帯域インターネットサービスにおけるユニバーサル・サービスの提供には成功してきた。
現在、すべての米国民に新サービスが提供できるブロードバンドを安く、競争的かつ確信的な方法で供給する絶好の機会が訪ずれたと考える。
(3) 既存の劣った技術に注意すること
外国の産業政策では、しばしば特定の技術に肩入れし、その後よりすぐれた技術が生じるということで、失敗する例が見られる。
従ってわれわれは、早期に特定技術の導入を決定することがないよう注意しなければならない。
(4) インセンティブの与え先を間違えないように
政府はしばしば一連の産業政策を準備し、これがプロバイダーの経費により、容易に提供できるようにふるまいがちであるが、これは根拠がない指示である。サプライヤーはしばしば経済的な方法がなく、利益を得ることができなければ、行動しない。
プロバイダーのインセンティブと連携の取れた産業政策目標を追求する方が優れているだろ。
(5)重々しい規制モデルは避ける
ブロードバンドは2つの大波がぶつかり合うことにより生ずるシナジーから生じる産物である。最初の波は成熟し、規制の強い通信の世界である。2番目の波は、コンピュータ革命による動きの速い規制のない波である。世界は第2の力が第1の力に含まれている規制エネルギーを包み込んでいくかどうかを見守っているところである。自然のままに委ねれば上記の現象は生じるべきであるし、また生じるであろう。中央からの規制により解決しようとしてはならない。
(注1)2001.10.25付けFCCのプレスレリース"Remarks of Michael K.Powell AT the National Summit on Broadband Deployment"
(注2)2001.10.23付けFCCのプレスレリース“Digital Broadband Migration Policyモ。FCCのデジタル.ブロードバンド政策としては、この資料のほうがまとまっているが、パウエル委員長のブロードバンド政策に関する考え方は.10.25 付けの講演により明確、端的に現れているので、今回のテレコムウォッチャーでは前者によった。
(注3)1996年米国電気通信法254条、706条には、それぞれ、「FCCが電気通信および情報の技術、サービスの進歩を考慮して、ユニバーサルサービスの定義を行うこと」「FCCおよび州公益事業委員会はすべての米国人(特に小・中学校およびこれらの学級を含む)が高度通信の能力を合理的な方法で利用できるよう勧告しなければならない」と規定している。この規定により、FCC委員長は、ブロードバンドを推進する方向に進むことは法律によって義務づけられているといえよう。
(注4)独立系DSL提供業者御三家(Covad Communications Group,NorthPoint Communications,Ritmus Communications)がどのように経営危機に陥ったかについては、テレコムウォッチャー2001年9月1日号「米国のDSL業者御三家、いずれも経営不振にーDSL架設は地域電話会社とAT&Tの独占へー」参照。
(注5)2001年10月30日に発表されたSBCのCEOのWhitacre氏は、同社2001年次第3四半期の決算を報告したときの株主に当てた手紙のなかで、「不利かつ不透明な規制環境が当社のビジネスの成長力にもたらした悪影響は誇張しすぎることが出来ないほどのものである。新電気通信法が施行されてから5ヵ年後の今日、SBCは特にブロードバンド、高度サービスの分野で今日ほど、重い規制を課されていることはない。これにより、コストは嵩み、投資方法。製品、サービスのマーケッティング方法、競争業者との関係に悪影響が及んでいる」と強い口調で規制撤廃、規制緩和を求めた。
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