DRI テレコムウォッチャー




AT&TとBT、合弁会社のコンサートを解散することで合意

2001年11月1日号

 AT&TとBTは多国籍企業および他の電気通信事業者に対する諸種の電気通信サービス、通信回線をグローバルに提供するために設立された合弁会社(両社はそれぞれ、50%ずつの資本を所有)を解散することで合意した。すでに2001年春ごろから、業績の悪化(2001年度の赤字は8億ドルに達する見込み)のため、両社間でコンサートの取り扱いについての論議が行われていた。(1)AT&TがコンサートのすべてをBTから買収するか、(2)コンサートを解散し、AT&T、BTの両社が資産、従業員、顧客等をそれぞれ引き取るかのいずれかの方法が取られるものと観測されていたが、後者の道が選ばれたものである。従って、今回の発表は以前から予測されていたものであって意外性はない。またAT&T、BTともに、コンサートについての迅速な方針決定を株主から迫られていたのであり、2001年上半期の決算発表の前後がこの案件のギリギリの決着の時期であった。
 両社は、発表時のプレスレリースにおいて、コンサートを解散せざるを得なかった理由として、(1)高速長距離回線施設が過剰になりまた新興競争事業者の出現により、競争が激しく、サービス料金が著しく下がったこと、(2)特に大きな期待を持っていた他の通信事業者に対する回線の卸し売りサービス提供の実績も思うように進捗しなかったことをあげ、暗に収支を償うことができなかった事実を認めている。
 しかし、一部のジャーナリズムは上記のほか、コンサートは発足(両社のコンサート設立の合意は1998年6月であったが、サービス開始が軌道に乗り出したのは、2000年春以降)当初から、AT&T、BT出身者相互間の協調(皮肉なことにコンサートは英語で「協調」を意味する)を欠き、またコンサートと提供するサービスが一部競合する立場にあるAT&Tビジネス部門および同じくビジネス顧客に対する国際電気通信サービスを提供するBTIgniteからの協力が充分に得られなかったとも大きな失敗の原因だと論じている。
 そもそも多国籍企業に対しては、ワン・ストップ・ショッピング・サービス(顧客からのすべてのグローバルサービス提供要求に対し、1つの窓口で応じ得るようにする)の提供が将来性のあるビジネスであり、またこのサービス提供には莫大な投資を伴うため、コンソーシャムにより行うべきだという発想は、そもそもBTの経営層が考案した世界戦略であったいわれる。世界各国の国際電気通信事業者はこの構想に賛同した結果、1990年代前半はいわば国際コンソーシャムの時代となった。この結果、一時は世界の主要国債通信事業者の多くがはワールド・パートナー・ユニソース(ワールドパートナーはAT&Tが提唱し、主としてアジア、オセアニアの国際電気通信事業者に呼びかけた拘束力の緩いコンソーシャム、後にスイス、スエーデン、デンマーク等の欧州中堅キャリアのコンソーシャムであるユニソースが実質的にこれに合流した)、コンサート(第一次のコンサートはBTとMCIによる合弁会社であった。これは1990年代後半、MCIがワールドコムを合併することにより解消した)、グローバル・ワン(当初ドイツテレコム、フランステレコム、スプリントによるコンソーシャム)のいずれかに属するというほどの盛況を示した。
 ところが1990年代の後半から、これらコンソーシャムは解消に向かった。コンサートが解消すれば(AT&T、BTともに、将来コンサートのブランド名自体も使わないものとみられる)、旧来のこの種コンソーシャムの名残をとどめるのは、いまではフランステレコムが運営しているグローバル・ワンだけとなる。
 このようにして、AT&TとBTのコンサート解消の発表は1990年代初期に開始されたグローバル国際電気通信サービス提供を目的としたコンソーシャムの終焉を告げることをも意味する。要は10年近くの試行錯誤の結果、グローバル通信の分野において、コンソーシャム、合弁会社の設立といった提携の方法によるサービス提供の拡充は不可能であることが証明されたわけである。このことは、将来における国際電気通信事業での一層のM&A(企業の合併、買収)の進行を予想させるものでもある。
 以下、AT&TとBT両社のコンサート解散に関する合意事項の概要、この合意がそれぞれAT&T、BT両社に及ぼす影響について述べる。

AT&TとBT両社のコンサート解散に関する合意概要

 AT&TとBT両社のコンサート解散に関する合意事項の概要は以下の通り。

  1. 解散の基本的な考え方
    • 業務、ネットワーク、顧客、従業員をそれぞれAT&T、BTに配分する(つまり発足当初に両社が持ちよった業務、ネットワーク、顧客、従業員を原則として振り出しに戻す)。
    • 具体的には、両社はそれぞれ、次ぎの地理的エリアでの業務、ネットワーク、顧客を引き取ることになる。 AT&T:米国、アジア大洋州  BT:英国、欧州、アフリカ、中近東
    • AT&Tは、コンサート精算に伴い、BTに対し資本および負債の清算の結果、生ずる精算金4億ドル(即ち、両社のそれぞれの拠出評価金額と配分される資産評価分の差額)を支払う。
    • AT&Tは、先に、BTと対等の資本を所有することで合意していたカナダにおける関連会社、AT&TCanadaの資本を全額所有する。BTは同社に所有していた株式持分(9%)を放棄する。
    • コンサートの従業員6,000名はおおむねAT&T、BTにそれぞれ3,500、2,500が割り振られる(その後、両社で約2,500名がレイオフとなる見込み)。
  2. ユーザーに対するサービスのフォロー・アップ
    • AT&TとBTは、別途締結する詳細な両社間の協定により、顧客に対する現行のサービスの継続を3年間保証する(サービス提供のコンサートから両社への移転は2002年第1四半期を予定)。

 AT&Tはこの3年間のサービス提供保証履行に関連し今後2年間にわたり、BTに対し3.7億ドルを支払う(注1)。

コンサート解散がAT&T、BT両社に及ぼすインパクト

(1) AT&T、単独でのグローバル通信の提供に自信

 AT&Tの会長兼CEOのアームストロング氏はAT&Tのプレスレリースにおいて、「わが社はこれまで築いてきたグローバルな人・物・金の力にコンサートから引き上げる人材の力を加え、今日および将来のグローバル市場における顧客のニーズに応じて行く」とAT&T単独での多国籍企業へのサービス提供に自信を示している。
 AT&Tは1999年にIBMのグローバルネットワークを買収した。音声からデータへのサービスの移行が急速に進んでいる現在、このネットワークが大きな役割を果している模様である。これにより、AT&Tは60カ国、850都市に対し、多国籍顧客へのサービス提供ができるという。
 AT&Tの財務担当役員のノスキ氏(Chuck Noski)によれば、同社は今後ネットワークの買収、交換、建設のあらゆる方法により、欧州、アジア・太平洋地域での業務の拡大を計って行くと将来についてきわめて強気である。  氏によれば、新興通信事業者の幾社かが経営不振に陥っているので、今こそ良い買収先をセレクトできるチャンスであるという(注2)。
 確かにAT&Tが最近に発表した2001年第3四半期の決算での説明によれば、同社のビジネス通信部門のうち、データ・IP関係のサービスは前年同期に比し大きな伸び(IP関連サービスは25%、ホスティングサービスは60%)を示している。しかしビジネス通信全体の収入は4.7%の落ち込みであり、長距離電話サービスの不振(800番サービスの低下が特に大きかったといわれ、米国の景気の落ちこみが同社の収入にいかに影響を及ぼしたかを示している)をカバーし切れなかった。
 AT&T全体の実質収支がほぼトントンであって、アームストロング会長自身が第4四半期にも業績向上の展望を示せず、まだ巨額の債務(30億ドルを超える)を有しているさなかに、ノスキ氏の発言はAT&T幹部の総意を代表したものとみてよいかどうか、いささか疑問である。
 ただ、新興のグローバル通信事業者の幾社かが破綻しつつある現在一般的に、グローバル通信事業でのシェアを伸ばす好機が到来していることだけは確かである。
 なお、AT&Tは第3四半期において、コンサート解散、Bell Canada買収のためのものとして、それぞれ35億ドル、18億ドルの計53億ドルを経費に計上した。

(2) コンサート解散はBTにとり業務再編成の最終過程

 BTは現在、新会長ブラント氏の下で巨額の赤字解消を計るための業務再編成を実施中であるが、赤字を出し続けてきたコンサートの解散は業務再編の締めくくりを意味するものとして、位置付けてきた。このことは、コンサート解散に当ってブラント会長が「国際顧客へのサービス提供に当りわれわれが再度、単独で事業をコントロールできるようになったことは喜ばしい。このことは、BTが過去6ヶ月にわたり実施している大掛かりなリスラクチャリングにおける重要な出来事である」と語っていることからも明かである。
 BTは既に述べた通り、コンサートの精算に当ってはAT&Tから計77億ドルの資金を受け取ることとなっており、さらに、かつて約束していた BellCanadaへの出資(7.25億ドルに相当する)を行わないで済ませることが出来た。したがって、BTがこの案件について、2001年第1四半期に支出する経費は17億ドル(子会社の株式下落および資産償却の損失計上および1200名の従業員のリストラ分を含む)とAT&Tに比し、少なくて済んだ(注3)。BTは2003年中には、EBITA(税引き、償却前の利益)を黒字にできる見通しだと言っている。市場はこれを好感し、コンサート解散後BTの株価は上がっている。

 なお、BTの業務の再編は当初計画では、携帯電話部門の株式上場(注4)に引き続き、電気通信のネットワーク部門と販売部門の分離(ゆくゆくは株式上場)も計画されていたが、これは行わないこととなった。さらに、不況のため株式が低迷るいは低下している折から、携帯電話事業部門の株式上場も見送るべきではないかの議論もでている模様である。

(注1) AT&TとBTのコンサート解散の条件については、両社が発表したプレスレリ―スのほか、主としていずれも2001.10.26付けの次ぎの資料を参照した。
ウオールストリート・ジャーナル "British Telecom, AT&T Announce Breakup of Concert CBS MarketWatch "BT, AT&T to end Concert venture FT.com "BT and AT&T draw final curtain on Concert"
(注2)2001.10.26付けYahoo! Finance "AT&T says to build, buy, barter for network assets"
(注3)2001.10.26付けFT.com "BT and AT&T draw final curtain on Concert"
(注4)BTの携帯電話部門の株式上場計画、また、将来の携帯電話会社の名称をO2と定めた経緯については、2001年9月15日号テレコムウオッチャー「欧州電気通信産業の最近のトピックスー最大の課題は深刻な負債の重荷の解消―」




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