無線ブロードバンドの急成長
アメリカのブロードバンド市場はケーブルTV会社が大きなシェアを持っている。2006年ではケーブルTV会社のインターネット・サービスが55%、電話会社が45%であったが、電話会社の光ファイバーへの投資が遅れたことで、2021年ではケーブルTV事業者のシェアは70%に達した。しかし、無線ブロードバンドにより電話会社の巻き返しが起きている。
衛星を含めた、無線のブロードバンドは人口密度が低く、有線では投資回収が困難なルーラルな地域で使われてきた。しかし、そのシェアは1%以下であった。T-MobileとVerizonが2021年に5Gを使った固定無線ブロードバンド・サービスを開始したことで状況は急速に変わっている。2社の無線ブロードバンド・サービスへの加入者数は2023年末で786万世帯になっている。無線ブロードバンドのシェアは2023年では7.5%になり、ケーブルTV事業者のシェアは66%に下がっている。
ケーブルTV加入者が縮小しているが、ブロードバンド加入者が増加していたことで、ケーブルTV事業者は収入を維持することが出来た。ルーラル地域の中小ケーブルTV事業者はケーブルTVへの注力をやめ、ブロードバンドを主軸にしてきた。無線ブロードバンドの成長は彼らを直撃している。例えば、WideOpenWest社のケーブルTV加入者は9万世帯に減り、収入はブロードバンド主体になっている。同社の2022年のブロードバンド加入者は51万であったが、2023年には49万に減り、赤字は$250万から$2.9億に膨らんでいる。
無線ブロードバンドはケーブルTV事業者のブロードバンドより価格が安く、また、セルフ導入が出来、乗り換えやすいことから都市部でも利用者が増え、大手ケーブルTV事業者も加入者を失い始めている。Q4に6万のブロードバンド加入者を失ったCharter Communicationsは、投資家に対しては無線ブロードバンドは一時的な流行であり、速度で勝る有線のサービスがいずれは盛り返すので、心配事ではないと説明している。だが、同社は高価なスーパーボウルの広告枠を買い、無線ブロードバンドの不便さを揶揄する広告をしており、危機感が明らかになっている。
大手ケーブルTV事業者に幸いしていることは都市部では5G帯域の余裕は少なく、積極的に無線ブロードバンドサービスを広げることが出来ないことだ。新たな帯域を政府が競売する予定はなく、政府は国防省がレーダー等に使っている3 GHz帯を民間に割り当てる検討がされているが、ケーブルTV事業者はこれに反対をし、電話事業者が新たな帯域を得ることを阻止しようとしている。