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劇場映画をOTT配信するAT&Tの大きな賭け

劇場映画をOTT配信するAT&Tの大きな賭け

 

AT&Tのメディア事業は成功していない。2015年にDirecTVを買収したことでAT&Tはアメリカ最大の多チャンネルサービス事業者になったが、その後、加入者は減り続けている。DirecTVとIPTVサービスのU-Verse TVの合計加入者はこの3年間で733万世帯減り、Comcastにトップの座を奪われている。さらに、vMVPDサービスのAT&T TV Nowは2018年Q3に186万世帯に達したが、その後に118万世帯失い、68万世帯に落ちている。

 

AT&Tはメディア事業のフォーカスを多チャンネルサービスからOTTサービスにシフトする為に5月にHBO Maxをスタートさせた。12月時点でのHBO Maxの登録者数は1260万人で、一見、好調に見える。しかし、HBO Maxは有料チャネルのHBO加入者には無料であり、HBO加入世帯は3000万近いことを考慮すると登録者数は少ない。本来であれば、HBO Maxの利用者は4000万人程度になっているべきである。HBO Maxを成功させるために、AT&Tは2021年の映画を劇場公開と同時にHBO Maxで配信する。

 

COVID-19の影響で閉まったままの映画館が多く、他の映画スタジオと同様にAT&TのWarner Brothersも映画を公開することが出来ずにいる。AT&Tはクリスマスに公開開始の「Wonder Woman 1984」からスタートし、2021年に公開するすべての映画を映画館とHBO Maxで同時に公開することを決定した。新作映画を公開と同時にHBO Maxでも配信すれば、HBO Maxの加入者を増やすことが出来、さらに、映画館からの減収を補うことが出来るはずである。

 

AT&Tはこれは、消費者と同社にウィンウィンな仕組みになると言っている。AT&TのWarner Brothersからの年収は$60億程度であり、COVID-19により2021年の減収は$12億程度になると思われる。HBO Maxの月額は$15だが、Amazon、Roku、Apple等経由の加入者にはコミッションを支払う必要があり、$12億の収入を得るのには800万人以上の新規加入者が必要となる。AT&Tは来年末の加入者目標を5000万人としている。

 

800万人は不可能な数字ではないが、チャーンを考える必要がある。2021年に予定されている映画は17本あるが、見たい映画がその半分以下であれば、1年間連続でHBO Maxに加入する必要はなく、見たい映画が公開される月だけに加入する人もいる。簡単に加入と脱退が出来るのが、SVODサービスであり、平均で800万加入者を維持するには、実際にはもっと多くの加入者が必要になる。

 

また、映画館がどのように反応するを含め、ボックスオフィスからの収入への影響も不明である。NBCUniversalが「Trolls World Tour」を3月にOTTで配信した際、アメリカ最大の映画館チェーンのAMCはUniversalの映画のボイコットを表明した。映画館も新作映画が必要であり、完全なボイコットは出来ないが、プロテストとして上映回数を減らす等の可能性はある。また、映画館がWarnerをボイコットをしなくても、HBO Maxで配信することで、観客数が減れば、上映日数は短くなる。映画館からの減収は$12億以上の大きな物となり、HBO Maxの増収分ではカバーしきれない可能性も十分にあり、大きな賭けである。

 

もしも、今回のメディア事業戦略が失敗になると、AT&Tはスリーアウトになる。AT&Tは1998年にケーブルTV事業者のTCIとMediaOneを買収し、最大の多チャンネルサービス事業者になったことがあるが、活かすことは出来ず、事業はComcastに売られた。2005年にAT&Tを買収し、その名を継いだSBCにも同様にメディア事業で失敗している。地域電話会社のケーブルTV参入が許可された1990年代後半にケーブルTV事業を始めていた電話会社のAmeritech、Pacific Bell、SNETを買収したが、ビデオ事業は 手放している。

 

 

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