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温暖化対策、未来を考え尽くすこと

■温暖化対策、未来を考え尽くすこと

世界の二酸化炭素排出量は過去3年間安定していたが4年ぶりに増加に転じた。世界の平均気温上昇を産業化以前に比べて2℃未満に抑えるためには、「パリ協定」で各国が目標として掲げた温室効果ガスの削減量を3倍に、1.5℃未満に抑えるためには5倍にする必要がある。国連環境計画(UNEP)が11月に公表した2018年版の「排出ギャップ報告書(Emissions Gap Report)*1 」はそう指摘する。このままでは、今世紀末までに世界の平均気温は約3℃上昇するとも警告する。

報告書は、G20に加盟国がパリ協定で掲げた目標の進捗状況を分析する。全体としては目標通りに進捗していない。アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、欧州連合(EU28)、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、米国が目標に到達できそうにない。目標通りに進捗しているのは、ブラジル、中国、日本である。一部には比較的低い目標設定を反映している可能性があるというが、インド、ロシア、トルコは10%以上目標を上回る見通しである(なお、インドネシア、メキシコは不明)という。もっとも、2℃目標や1.5℃努力目標に整合した排出削減目標を含め自国が掲げた削減目標を達成するだけでは、温暖化対策の責任を果たしたとは言えない。

パリ協定はその序文で、「Climate Justice」*2 の重要性に特別な注意を払う。気候変動問題が環境やエネルギー利用の問題を超えた、腐敗や分配の公正、基本的人権、人道上の問題など正義や公正に関わる問題でもあることを改めて気づかせてくれる。ESGに即していえば、気候変動はEだけでなく、S、Gの問題でもある。

これまでの気温上昇は約1℃。熱波や干ばつ、洪水、大規模な山火事などすでに世界の多くの地域で被害がでている。温暖化が世界各地に及ぼす影響は一様ではない。気候脆弱性リスク(注記参照)は、サブサハラ・アフリカ、東南・南アジアといった地域に集中する。

これら気候脆弱性リスクは今後の人口増加によって増幅するおそれがある。

国連の人口見通し(World Population Prospects 2017)*3 によると、2015年に74億人だった世界人口は、2050年には98億人に、2100年には112億人に達する。2050年までの人口増加の50%はサブサハラ・アフリカが、30%は東南・南アジアがもたらす。2100年までの人口増加の95%は、サブサハラ・アフリカ、東南・南アジアの三地域が占める。いずれの地域も気候脆弱性リスクは高い。深刻な打撃を及ぼしかねない。こうした地域の気候変動に最も脆弱な人々にアプローチすることも正義や公正に適う行動の一つといえよう。

もっとも、何が正義や公正に適う行動かを論じることの難しさもある。全ての国に同じ排出削減ルールを適用すること、現在の気温上昇の原因は過去の排出にあるとして異なるルールを適用すること、どちらが正義や公正に適うのだろうか。善悪二元論は良くない。時として、政治、経済、司法、宗教、市民社会、科学技術など様々な方面からの厳しい批判や論争にさらされることになる。気候変動の影響は多岐に渡り、将来の気候変動の影響は不確定な要因も多い。人々の道徳観は多様で、規範は変わりうる。

しかし、変化の兆しをいち早く捉え、そこから含意を引き出すことはできる。

例えば、フランスは、エネルギー移行法によって世界の温暖化対策をリードしていると評価されている。そのフランスでは足元が揺れている。温暖化対策目的とする燃料税引き上げに抗議するデモ「黄色いベスト(Gilets Jaunes)運動」が、労働組合や特定の政党に依らない国民運動として全国的に広がり、反マクロン政権デモの様相を呈しているという。断続的に続くデモの参加人数は回数を重ねるごとに減っている。一部は暴徒化しており暴力行為は激しい。事態を受けフランス政府は2019年中の税率引き上げを断念した。この事象から、温暖化対策に関わる社会的な関係を再構築する変革の動きという含意を引き出すことができる。黄色いベスト運動はSNSの呼びかけを通じて集まった。あるいは、単に「烏合の衆」騒動を望んでいるだけとの見方もできる。前者であれば、「変化の兆し」として捉える必要がある。こうした事象が複数重なれば、もう少しはっきりとした輪郭を伴った「変化の兆し」のパターンやトレンドが見えてくるだろう。そしてそこから見えてくる未来像を考え尽くすことが重要になる。あり得る未来像は複数考えられる。その中に、こうあって欲しい未来があったとしても、確率論的に確からしい未来は存在しない。どのような未来が訪れたとしても対応できる準備や行動を怠らないことが求められる。これは、国に限った話ではない。企業も市民も同じである。気候変動に関連する事業リスクや機会の情報開示を金融機関や企業に求める気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言にある「シナリオ分析*4 」のねらいもその点にある。

国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)*5 が2日、開幕した。パリ協定の運用ルールなどを決める。先進国と開発途上国の意見の隔たりは大きく、交渉は難航が予想されるという。「3年前の熱情は薄れている」との声も聞こえる。会期は14日まで。各国の指導者をはじめ参加者の描く未来像は一様ではないだろう。どんな未来であっても対応できる、そのような成果を期待したい。

注記:

G7外相の委託による独立報告書「平和のための新たな気候(A New Climate for Peace)*6 」は、気候脆弱性リスクとして、(1)地域資源争奪、(2)生活の不安定性と移住、(3)異常気象と災害、(4)変わりやすい食糧価格と食糧供給、(5)国境を越えた水管理、(6)海面上昇と沿岸地帯の浸食、(7)気候政策の意図しない影響の7つを特定している。


出典:

*1「排出ギャップ報告書(Emissions Gap Report)」 UNEP(2018-11-27)
https://www.unenvironment.org/resources/emissions-gap-report-2018

*2 パリ協定「Climate Justice」Paris Agreement UNFCCC
https://unfccc.int/sites/default/files/english_paris_agreement.pdf

*3 国連の人口見通し(World Population Prospects 2017)
https://population.un.org/wpp/

*4 気候関連のリスクと機会の開示におけるシナリオ分析の活用(2017-6月) TCFD
https://www.fsb-tcfd.org/publications/final-technical-supplement/

*5 国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)
http://cop24.gov.pl/

*6「平和のための新たな気候(A New Climate for Peace)」(参照:2018-12-7)
https://www.newclimateforpeace.org/

 


 

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