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マイクロプラスチックによる海洋汚染について – いま求められることは何か-



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プラスチックによる海洋汚染が世界的な問題となっている。中でも近年問題視されているのはマイクロプラスチックであろう。

5ミリメートル以下の微細なプラスチックであるマイクロプラスチックには、紫外線や波の力によって劣化し破砕された微細片、洗顔料や化粧品、工業用研磨剤などに使われるマイクロビーズ、身の回りのプラスチック製品の原料に使われるレジンペレット、洗濯時に脱落する衣類の合成繊維など様々な種類がある。メラミンスポンジといった合成繊維の台所スポンジも使うたびに磨耗し、マイクロプラスチックになるという。マイクロプラスチックは、PCBなど油に溶けやすい有害物質を高濃度に吸着する。より小さな生物も有害物質を体内に取り込むことになり、有害物質は食物連鎖の過程でさらに濃縮されていく。そのため、生態系への悪影響が懸念されている。懸念は現実になる。そのような予測結果もある。

九州大学や東京海洋大学、寒地土木研究所の研究グループ*1がまとめた予測結果によれば、マイクロプラスチックの北太平洋での浮遊量(海洋上層の海水 1立方メートル あたりの浮遊重量)は、2030 年までに現在の約 2 倍、2060 年までに約 4 倍となるという。浮遊量は海が穏やかな夏に増える。2060年には、日本周辺や北太平洋中央部の一部海域では、1立方メートルあたり1グラム以上になる。生物への悪影響が出るとされる水準だという。

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対策も始まっている。よく知られるものに、「海洋プラスチック憲章*2」がある。2018年6月にカナダ・ケベック州のシャルルボアで開催された主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)で提案され、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、欧州連合の首脳が承認した。英蘭ユニリーバや米コカ・コーラ、米ウォルマート、スイス・ネスレ、スウェーデン・イケアなど名だたる多国籍企業も支持を表明*3し、広がりを見せている。海洋プラスチック憲章は、産業界との協力のもと2030年までに100%のプラスチックをリユース可能、リサイクル可能、回収可能なものにする、2040年までにすべてのプラスチックを100%回収するといった目標を掲げる。日本が参加を見送ったことでもよく知られている。課題認識についてはG7諸国と共有しているとしつつ、あらゆるプラスチックの具体的な使用削減などを実現するには「国民生活や国民経済への影響を慎重に検討、精査する必要がある*4」との判断だが、一方で、この問題で「世界をリードしていく*5」ことは重要であるとし、6月に大阪で開く主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)までに、「プラスチック資源循環戦略*6」策定し、G20サミットでは、海洋プラスチック汚染対策への「共通の認識をつくる*7」意欲を示している。

プラスチックの大量生産、大量消費、大量廃棄という生産・消費様式は、持続可能性の観点から疑問符がつく。プラスチックの資源循環を進め、プラスチックの自然界への流出を予防することは、プラスチックによる海洋汚染の予防にもつながるということなのだろう。
もっとも、海洋中のマイクロプラスチックについては、未知の部分*8も多い。海洋生態系への侵襲の程度やマイクロプラスチックを通じて化学汚染物質が生態系に及ぼす悪影響の程度、プラスチックの微細化が進行する過程や微細化の限界、海洋表層からの消失過程、それらに要する時間といった海洋プラスチック循環の全容などの問題に海洋プラスチック汚染研究のコミュニティは対応できていないという。

対策はもちろん必要だが、マイクロプラスチックを含むプラスチックによる海洋汚染の問題をプラスチックの資源循環の問題に結びつけるとき、それが、可能な限りの科学的評価をどこまで出発点としているのか良く分からない。

わたしたちは、マイクロプラスチックによる海洋汚染の実態を、センセーショナルな写真や映像*9を通じてかろうじて知っているにすぎない。日常生活の中で容易に、見て、聞いて、触れることができるものではない。マイクロプラスチックによる海洋汚染の問題に通じている訳でもない。それを知り、解決したいという熱意や努力があったとしても、それに通ずる専門家の意見や助言に頼らざるをえない。知見や経験に長けた専門家が正しい情報を提供してくれると信じるほかはないのである。

このことは、企業の取り組みについてもあてはまる。プラスチック製品の軽量化や薄肉化を進める企業、生分解性プラスチックや紙製品など代替品を開発する企業、レジ袋やストロー、食品トレーなどワンウェイ・プラスチックの使用を取りやめる企業、海外清掃や美化活動に励む企業、様々な企業が競うように提案の先進性を訴求*10している。それも大事である。しかし、その効果と限界、そして副作用を、可能な限りの科学的評価と専門的知見でもって明らかにすることは、もっと大事である。

知見が乏しい状況にあることを認める*11」ほうが説得力を増す場合もあるし、いま求められる姿勢と言える。


参考資料

*1 「海洋における将来のマイクロプラスチック浮遊量を世界で初めて予測」九州大学 PRESS RELEASE(2019/01/24)

*2 『OCEAN PLASTICS CHARTER』G7 (2018/06)

*3 News release G7 (2018/09/20)

*4 「海洋プラスチック憲章に関する質問に対する答弁書」衆議院 (2018/06/22)

*5 「プラスチック資源循環戦略について(諮問)」環境省 (2018/07/13)

*6 「プラスチック資源循環戦略に対する意見の募集」環境省 (2018/11/19)

*7 「世界経済フォーラム年次総会 安倍総理スピーチ」内閣官房内閣 (2019/01/23)

*8 「海洋プラスチック汚染に対する学界の取り組み」LRI研究報告会シンポジウム 磯部篤彦 (2018/08/31)

*9 「 やめようプラスチック汚染」国際連合公報センター

*10「SDGsに資するプラスチック関連取組事例集」日本経済団体連合会 (2019/02/15)

*11 「海の極小プラスチック繊維について私たちが知っていること」パタゴニア クリーネストライン(2016/07/14)
(参照:2019-3-1)

 


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