Tubiのスーパーボウル配信のインパクト
2月9日に行われたスーパーボウルLIXはFoxが放送権を持ち、英語での放送は地上波のFox、スペイン語での放送は多チャンネル向けネットワークのFox Deportesが放送した以外、Foxの無料配信サービスのTubiも試合を配信をした。TubiはFoxが2020年に買収したAVOD/FASTのサービスで、売上は当時の$1.5億から$10億に増えている。アクティブな利用者数は世界で9700万人と報告されている。
Tubiでの配信は4Kで行われた。地上波の次世代規格のATSC 3.0は4K対応だが、放送はまだHDで行われている。Gray MediaのFox加盟局は試合をATSC 3.0ではHDRで放送したが、解像度はHDである。4Kでの放送は多チャンネルサービスのComcast、Fubo TV等が行った。これらは有料サービスなので、無料でスーパーボウルを4Kで見る方法はTubiだけであった。
NielsenによるとスーパーボウルLIXの平均視聴者数は1.26億人であった。一方的な試合であったが、昨年CBSが放送し、オーバイタイムとなった昨年の試合の1.237億人を抜いた。この内、1360万人はTubiでの視聴で、昨年のCBSのParamount+、CBS Sports.com等での850万人を大きくと超えた。2023年のスーパーボウルもFoxが放送したが、ストリーミングはTubiでは無く、FoxSports.comで行われた。FoxSports.comでの視聴は通常は多チャンネルサービスへの加入が必要になる。スーパーボウルは無料で配信したが、知らない人も多く、視聴者は700万人で、今年の半分程度であった。
FoxのTubiによるストリーミングの配信は大きな賭けであった。スーパーボウルを配信することがもたらすTubiへのプロモーション価値は膨大である。しかし、配信がうまくいかなかった場合のリスクも高い。特に、4Kであることを宣伝したので、その期待に伴う画質が必要である。Netflixのジェイク・ポール対マイク・タイソンの試合のようにバッファリングの連続であると逆効果で、Tubiのイメージを落とし、利用者を減らす可能性もある。
Tubiのスーパーボウル配信は大きなトラブルなく無事終了した。筆者の環境ではバッファリングはゼロで、画質的には4Kには満たないが、地上波のFox局のHDよりは上であった。遅延はPhenixの報告では27秒で、Fubo TVの78秒、YouTube TVの67秒の半分以下であった(筆者の環境ではTubiの遅延は20秒)。
Tubiの株が上がっただけでなく、地上波、特にATSC 3.0には大きな打撃となった。Netflix等のSVODサービスは多チャンネル・サービスへの競合であり、FASTは地上波への挑戦者である。Tubiがスーパーボウルを配信したことで、FASTは同等の立場になった。さらに、4Kでの配信を成功させたことで、ATSC 3.0の立場を弱めた。ATSC 3.0は4Kが売り物であるが、1つのチャンネル帯域で複数のチャンネルを放送してることで、放送はHDで行われている。FASTで4Kを見ることが出来るのであれば、ATSC 3.0対応のテレビを買う必要は無くなる。