ローカル局の収入構造の変化
アメリカのローカル局の大きな収入源は広告と多チャンネルサービス事業者からの再送信料である。例えば、全米最大の放送局会社のNexstarの2020年度の売上は$45億で、その46.2%は広告、47.9%が再送信料、デジタルとその他が5.9%であった。これは大きな問題である。
テレビ広告市場はほぼ横ばいで僅かな成長で移行してきたが、パンダミックにより、2020年は-12.5%の減少となった。2021年には7%程度の回復をし、2022年には3%の成長と予想されているが、2019年の規模には戻らない。それは放送広告に代わり、コネクテッドTV(CTV)向け広告が成長しているからで、2022年後は減少方向に進むと予想されている。
コードカッティングにより、多チャンネルサービス加入世帯数は減っているが、ローカル局は再送信料を値上げする事で収入を増やしてきた。しかし、この構造には限度がある。再送信料の値上げにより多チャンネルサービス料が高くなり、コードカッティングが加速化している。加入者減少分を値上げで補い続けることは不可能であり、加入者の減少と共に再送信料も減っていく方向に進む。
次世代放送規格のATSC 3.0では受像機がインターネット接続されていれば、ローカル局がリアルタイムで視聴データを得ることが出来、アドレッサブル広告も可能になる。これにより放送広告収入が増えるとの期待がある。しかし、CTV広告でもリアルタイムのデータとアドレッサブル機能がある。CTV広告はすでに放送広告の5分の1の規模になっており、時すでに遅しとの見方もある。
ATSC 3.0での収入として広告以上に期待されているのがBroadcast Internetとも呼ばれているデータキャスト・サービスである。放送局が協力し、全米規模のネットワークを可能にし、車に自動運転向けのリアルタイムのデータを送る等の利用方法が期待されている。調査会社のBIA Advisory ServiceはBroadcast Internetからの売上は2027年には$50億、2030年には$107億になり、ローカル局の収入の22%になると予想している。
もう1つの期待される新たな収入源はコンテンツ収入である。放送局会社の多くは副チャンネル向けのコンテンツを制作/購入している。これらの一部はPluto TV等のFAST(Free Ad Supported TV)と呼ばれるインターネットでのリニア配信サービスのコンテンツ、あるいはチャンネルになっている。
FASTでもっとも多く視聴されているチャンネルのジャンルはニュースであり、FASTはニュースチャンネルを増やしている。全米ニュースだけでなく、ローカルニュースのチャンネルも登場し、例えばTubiでは60近いローカルニュース・チャンネルがある。これらを提供しているにはローカル局である。ローカル局は自らでAVOD、あるいはFASTを作る程のコンテンツは持っていないが、FASTのチャンネルになる事でCTVの波に乗ることが出来始めている。
ATSC 3.0、それにFASTはローカル局に新たな収入の機会を与えている。課題は放送広告と再送信料が大きな減少になる前にこれらの事業からの収入を安定化させることでが出来るかである。