増加するブロードバンド需要の影響
COVID-19の影響の1つに家庭向けのブロードバンドの需要の増加がある。外出自粛により家庭内でのエンターテイメントが求められ、ストリーミングビデオの視聴が増えている。また、自宅勤務、遠距離教育にもブロードバンドが必要になる。証券アナリストのNew Street Researchは2025年のブロードバンド加入世帯率の予測を84.4%からCOVID-19後には85.9%に修正している。
アメリカのブロードバンド市場はケーブルTV事業者が強い。光ファイバーへの投資を止め、モバイル事業に注力して来たことで、電話事業者のブロードバンド加入世帯数は減少を続けて来た。2015年には39%あった電話事業者のシェアは、2019年では32%に落ちている。電話事業者のAT&TとVerizonのブロードバンドサービスへの加入世帯数はQ1からQ2ではそれぞれ10万世帯と1万世帯の減少であった。それが、Q3では16万世帯と11万世帯増えている。
しかし、COVID-19の特需により電話事業者のシェアが回復する可能性は低い。それは、電話事業者の光ファイバー敷設率が低いからである。例えば、AT&Tは21州でサービスを提供し、5297万世帯をカバーしているが、その内、光ファイバーが利用出来るのはたったの28%の1493万世帯である。それ以外はDSLである。DSL加入者は減っており、AT&Tは最近にDSLの販売を中止している。
これに対して、ケーブルTV事業者はギガビットのサービスの提供を始めており、電話事業者との差を広げている。今から電話事業者が光ファイバーに再投資をしても差はすぐには縮まらない。しかし、勝負が決まった訳ではない。電話事業者は5Gによる固定無線ブロードバンドでカムバックを狙っている。Verizonは2018年10月から一部の地域で5Gの固定ブロードバンドサービスの5G Home Internetを開始している。AT&T、T-Mobileもテスト中であり、年内に固定5Gの開始を予定している。
COVID-19によるブロードバンド需要の戦いでは、特に田舎地域が重要になる。FCCの統計では2017年の時点で24%の人口(7800万人)はブロードバンドの定義としては最低の25 Mbpsでの地上回線を使ったインターネットサービスが受けられない地域に住んでいる。さらに、4%(1400万人)はまったく地上回線のインターネットサービスが提供されていない地域に住んでいる。これらの地域の住民は携帯電話、あるいは高価で遅い衛星通信を使うしかない。
FCCは田舎の地域でのブロードバンドサービスの向上の為に10年間で$160億の補助金(Rural Digital Opportunity Fund)を支給する。これにより、田舎地域でのブロードバンドサービス提供に対する関心が高まり、いくつかの事業者から先月に完了したCBRS帯域(3.5 GHz帯)を使う固定無線ブロードバンドサービスの計画が発表されている。この補助金の対象事業者を選択する競売が10月にスタートした。競売には386社が参加しており、Cox、Altice USA等のケーブルTV事業者、Frontier、Lumen Technologies(CenturyLink)等の電話会社、Hughes Network Systems、Viasat等の既存の衛星通信事業者、それに低軌道衛星通信のSpaceX(Starlink)も含まれている。