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量子コンピュータが、いきなり?、再度?、脚光!

量子コンピュータが、いきなり?、再度?、脚光!

 

1. 序

 

「量子超越性を実証した」とするGoogle研究者の論文が、10月23日に学術誌「Nature」に掲載されました。既に、9月20日にNASAがGoogle研究者の論文をうっかりウェブサイトに掲載した事で、「Googleが量子超越性を実証した」というニュースが世界中を駆け巡った事から始まったのですが。日本でも、10月25日に日経新聞朝刊トップを「量子計算 世界が競う」という見出しが飾るなど、日本でも、いきなり注目されてきました。

今回、量子コンピュータという難解な世界を理解するために、再び、A氏とB氏にご登場を願いしました。

– A氏:某企業_事業戦略部門担当者

– B氏:アナリスト

 

2. 対談

 

A氏:量子コンピュータという単語は依然から聞いていましたが、最近は、「量子超越性 (Quantum Supremacy)」を耳にするようになりました。この「量子超越性」とは何ですか?

 

B氏:「量子超越性」とは、「量子コンピュータは、従来型コンピュータでは実現不可能な計算能力を備えている」ということを一言で言い表した造語です。2012年に理論物理学者のジョン・プレスキル氏が提唱しました。
10月23日のGoogle発表は、世界最速のスーパーコンピュータならば1万年かかる乱数生成をGoogleの量子コンピュータ「Sycamore」は「シュレーディンガー=ファインマンアルゴリズム」を使う事で200秒で終えた」と言う事です。

出典:つくばサイエンスニュース

図2-1- 量子コンピュータ vs スーパーコンピュータ

 

この発表を額面通りに受け取るならば、まさに、量子コンピュータは従来型コンピュータを超越したコンピュータと言えるでしょう。下図はSycamoreの写真ですが、アーティストによる修正があるとは言え、幻想的になっていると思いませんか?

出典:Google AIブログ

図2-2-低温保持装置に収容されたSycamore Processor (画像修正あり)

 

 

出典:Google AIブログ

図2-3- Sycamore Processor

 

A氏:何か幻想的な写真ですね。それはそれとして、それで、IBMは

–        Summit (IBM製スーパーコンピュータ)でも、「シュレーディンガー=ファインマンアルゴリズム」を展開する事で、2.5日で乱数生成ができる

–        量子超越性とは、「古典コンピュータでは解決不可能な計算が、量子コンピュータで解決可能になる」事である

–        計算アルゴリズムが優れていたのであって、素子が優れていた訳ではない。

–        これでは、「(Googleが)量子超越性を実証した」とは言えない。

と主張している訳ですね。

確かに、200秒と2.5日は比率で考えると、1:1000ですからこの程度の差分でしたら、技術の進歩で解消可能ですから、これだけでは量子超越性の証明にはなりませんね。

もう一つ、教えてください。「従来型コンピュータ」「古典コンピュータ」という言葉をさりげなく言っていますが、これは何を意味していますか?

 

B氏:良いところに気づきましたね。「従来型コンピュータ」とはノイマン型コンピュータを指します。

黎明期はコンピュータにも複数の型があったのですが、今は下図のような構成でプログラム内蔵方式+逐次制御方式+プログラム可変を特徴とするノイマン型が圧倒的になっている事で「従来型コンピュータ」と呼ばれているのでしょう。

ノイマン型コンピュータは、プログラムを変える事で、数値計算だけでなく、テキストデータ処理、画像処理等々もできます。

ノイマン型コンピュータ詳細を述べると、この対談は終わらなくなりますので、詳細を知りたい方はWikipedia等を参照してください。

出典:甲南大学

図2-4- ノイマン型コンピュータ アーキテクチャ

 

 

A氏:2011年、カナダのD-Wave Systemが「世界初の商用量子コンピュータ」を謳ったD-Wave Oneを発表しましたね。あれは何だったのですか?

 

B氏:D-Wave System社のD-Wave Oneは、量子アニーリングという方式に基づく量子コンピュータになります。

計算原理は1998年に東工大学の西森教授と当時大学院生の門脇氏 (現デンソー)が提唱したのですが、その製品化で世界初となったのが、カナダのD-Wave System社でした。

D-Wave System社は現在も存在し事業を拡大させており、2020年半ばには5000量子ビットマシンをロスアラモス国立研究所に納品する事になっています。

ただ、量子アニーリング式量子コンピュータは、アニーリングというアルゴリズムの特性上、最適化問題の計算に優れています。むしろ、特定課題に対する専用計算機という色彩が強い事になります。もちろん、適用できる課題は多数ありますし、だからこそ、多くの企業が利用している訳ですが。

ただ、量子アニーリング式は、そういった意味で”プログラマブル”とは言い切れない面があり、ノイマン型コンピュータを放逐するコンピュータとはなりえないでしょう。

 

A氏:そうですか。D-Wave Systemは、まだ、会社として存続し、順調に業績を伸ばしているのですね。今回のGoogle量子コンピュータもアニーリング式ですか?

 

B氏:量子コンピュータには、大きく分けると、量子ゲート式と量子アニーリング式の二つがあります。

今回、Googleが発表した量子コンピュータは、量子ゲート式になります。D-Wave System社の量子コンピュータとは方式が違います。量子ゲート式コンピュータも、プログラムを変更することで色々な用途に使う事ができます。その意味では、量子ゲート式コンピュータはノイマン型コンピュータを放逐する可能性はありますが、処理対象データの規模、処理に使える時間量、コスト (購入・運用)コストを考えるならば、自然と使い分けができてくるでしょう。

技術詳細を述べると、この対談は終わらなくなりますので、詳細を知りたい方はWikipedia等を参照してください。

 

因みに10月23日にBit Coinが暴落しました。Googleの発表がその一因と言われています。

1994年に「ショアのアルゴリズム」を量子コンピュータ上で実行すると短時間で素因数分解ができることが証明されました。つまり、量子コンピュータを使うと、RSA暗号の安全性は失われます。仮想通貨が依存している暗号は「現実的な時間内では解くことができない」はずだったのに、この前提が崩れてしまったので、投資家が逃げた、という見方です。ただ、量子コンピュータRSA暗号を解き始めるのは2030年頃と予想されていますから (Gartner予測)、気が早すぎるとは思いますが。又、この頃はFacebookのリブラを巡る議論も同時進行していましたので、この話もどこまで本当かはわかりません。

 

量子ゲート方式と量子アニーリング方式の比較を以下にしめすので、ご覧ください。どちらも、JETRO/IPA New Yorkのレポートです。

 

表2-A- 量子コンピュータにおける量子ゲート方式と量子アニーリング方式の特徴比較

出典:JETRO ニューヨークだより (2019年3月)

 

表2-B- 量子コンピュータで短・長期的に応用が期待されている産業分野

出典:JETRO ニューヨークだより (2019年3月)

 

 

A氏:なるほど。これからは、どうなるのでしょうか? 実用化はいつ頃になるのでしょうか?

 

B氏:そうですね。色々な考え方がありますが、まずは、下図をみてください。

既にアニーリング方式は商用化されノイマン型コンピュータを遥かに凌ぐ性能を発揮し、色々な研究機関で導入されています。その意味では、実用化は既になされています。但し、アニーリング式には汎用性はありませんので、ノイマン型コンピュータに取って代わることはありません。

「今、自分がやりたいことができないなら、それは実用化とは言わない。」という判断は間違っています。この方もおっしゃっているように、「順番を間違えてはいけない。現状できることは何か?」という態度で評価をすることが必須事項でしょう。

 

 

宇津木健氏「ITエンジニアのための量子コンピュータ入門」

図2-4- 量子コンピュータロードマップ

 

A氏:「もし、自分の課題が最適化問題に置き換える事ができるのならば、アニーリング方式を使ってさっさとやれ!」ということですね。

そうすると、質問をより厳密にすると、「汎用性がある、プログラマブルな量子コンピュータの実用化はいつ頃になりますか?」という事になりますね。

 

B氏:ここでは、暗号解読や、金融サービス、AIに焦点を絞っていますが、Garterは下図のように予想しています。

 

図2-5- 量子コンピュータ導入ロードマップ

 

A氏:このように見ると、量子コンピュータの導入もタイムライン的には予想されているし、実用化の時期は見えている事になり、「実用化はいつ頃?」に対する答えは出ている事になりますね。

 

B氏:そうともいえます。

但し、量子コンピュータの普及に当たっては、「温度は-273度C近辺で、振動が無く、電波も受けない場所」という環境制限の緩和、新たな素子/素材の開発、プログラミング言語の充実、ライブラリの整備、エンジニア/プログラマの育成等々、様々な課題を解決することが必要です。

これらの要素技術を揃うことが、量子コンピュータ普及の必要条件になりますので、まだまだ、時間はかかりそうです。

 

A氏:では、更に質問を厳密にすると、「量子コンピュータが普及する時期はいつ?」という事になりますか?

 

B氏:量子コンピュータの計算リソースを、IBMはD-Waveはクラウド経由で提供しています。

ですので、質問が「量子コンピュータ普及時期=量子コンピュータを自分も使える時期」という前提を含めているのでしたら、答えは出ています。

アニーリング式ならば既にクラウド経由で使う事はできるし、ゲート式もそう遠くない未来にクラウド経由で使う事ができるでしょう。

「汎用量子コンピュータが利用可能になるのはいつだ?」と考えるよりも

–        ユーザー企業ならば「ひょっとして、この課題を量子コンピュータに解かせた方が早い?」と見る事

–        ITベンダーならば「もっと性能が高い量子コンピュータを!」、あるいは「市中で使える量子コンピュータの要素技術とシステム技術の開発」を見る事

から始めた方が良いと思われます。

 

A氏:なるほど。ありがとうございます。やっと、量子コンピュータをどのように見ればよいのか、わかったような気がします。

今日、お聞きした事を踏まえて、当社として量子コンピュータとどう関わっていくか、これから検討することにします。

 

B氏:わかってもらえたようで、よかったです。

今回はトップダウン的なお話に徹しました。

実際には、ICTベンダーには

–        量子コンピュータシステムの作り手 (Google、IBM)

–        量子コンピュータ素子・チップの作り手 (Intel等)

–        開発環境 (OS、プログラミング言語、ライブラリ等)の開発者 (Microsoft等)

–        アプリケーションプログラムの開発者 (Microsoft)

–        より良いデータ処理方式の提案 (ノイマン型、アニーリング式、量子ゲート、その他)

–        量子コンピューティング環境の導入支援

といった関わり方があるはずです。。

ユーザーにも、課題それぞれについて特徴の見究めと処理方式の選択といった関わりがあります。組合せの見究めが、今まで以上に重要になるはずです。

 

Aさんの会社のビジネスに私が今後も貢献できれば、幸いです。

今後も、何かお困りの事がありましたら、ぜひ、データリソース社にお問合せください。

 

 

筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)

 

 

–          エンタープライズ向け量子コンピューティング:15の産業部門におけるハードウェア、ソフトウェア、ストレージとサービスの60の使用事例:世界市場分析と予測

  • 調査会社:トラクティカ                 発行時期:2019年8月

–          量子技術市場:コンピューティング、通信、画像、セキュリティ、センシング、モデリング、シミュレーション 2019-2024年

  • 調査会社:マインドコマース           発行時期:2019年8月

–          量子コンピューティング戦略 2019年

  • 調査会社:インサイドクァンタムテクノロジー          発行時期:2019年7月

–          世界の量子コンピューティング市場

  • 調査会社:データブリッジマーケットリサーチ          発行時期:2019年6月

–          量子コンピューティング市場:システム・コンサルティングソリューション毎、エンドユーザ産業毎、地域毎;用途毎のQCaaS市場(最適化、機械学習、マテリアルシミュレーション)、地域毎 - 2024年までの世界市場予測

  • 調査会社:マーケッツアンドマーケッツ                    発行時期:2019年5月

 

 

時期 出来事
1981年 米アルゴンヌ国立研究所物理学者のP. Benioff 氏、量子力学のアプローチを情報処理に応用することを最初に理論化
1982年 米理論物理学者のR. Feynman 氏、量子力学をシミュレートするための量子システムを提案
1985年 英オックスフォード大学の物理学者 D. Deutsch 氏、最初の実用的な量子コンピュータとなるQuantum Turing Machineを提唱
1994年 米ベル研数学者P. Shor 氏、「ショアのアルゴリズム (素因数分解を短時間で実現))を開発。RSA暗号の安全性の崩れる事を示す。
1998年 東工大)西森教授、量子アニーリングを発表。この手法がD-Wave System社の量子コンピュータの動作原理となる。
1998年 量子コンピュータ用のプログラミング言語である、QCL (Quantum Computation Language) が公開。
1998年 オックスフォード大学の科学者ら、2量子ビットマシンの動作を初めて成功
2011年
5月 D-Wave System、D-Waveを「世界初の市販量子コンピュータ」を宣言して発売 (128量子ビットマシン)
2013年
5月 NASAやGoogle、「Quantum Artificial Intelligence Lab(QuAIL、量子人工知能研究所)」を設立。
2014年
9月 Google QuAIL、ゲート式量子コンピュータ開発でUCSB)J. M. Martinis教授が率いる研究グループと提携
2015年
11月 D-Wave System、ロスアラモス国立研究所(LANL)にD-Wave2X (1000量子ビットマシン)を導入
12月 GoogleとNASA、D-Wave 2Xが組み合わせ最適化問題」を既存コンピュータに比べて最大1億倍の速さで解いたと発表
2016年
5月 IBMが、5量子ビットマシンをクラウドサービスに公開
6月 Google、量子アニーリング学会「Adiabatic Quantum Computing Conference(AQC) 2016」で「Quantum Annealer v2.0」の開発計画を発表
2017年
1月 Nature誌、量子コンピュータは2017年に「研究」から「開発」の段階に移行すると発表
D-Wave Systems、「D-Wave 2000Q」量子アニーリング方式を発売 

Temporal Defense Systems (米国セキュリティ企業)が購入

6月 Google、49量子ビットマシンを2017年内に実演すると発表
10月 Intel、17量子ビットの超伝導テストチップを量子研究のパートナー企業であるQuTechへ出荷
12月 Microsoft、量子コンピュータ向けアプリの開発キットを公開 

含まれている技術は、プログラミング言語「Q#」、量子コンピューティングシミュレータ、およびサンプルやライブラリなどのリソース。

2018年
1月 Intel、49量子ビットの量子コンピューティングテストチップの出荷開始を、CESで発表
6月 Intel、シリコン技術での5nmサイズ「スピン量子ビットチップ」製造に成功
10月 D-Wave、「Leap」を開始 (2000量子ビットマシンをクラウド経由で無料貸し出しするサービスのブランド名)
2019年
1月 IBM、CES2019にて、世界初となる商用量子コンピュータ「IBM Q System One」を発表。
5月 D-Wave System、LANLにD-Wave2000Q (2000量子ビットマシン)を導入
7月 Microsoft、量子コンピュータ向けアプリ開発キットをオープンソース化
9月 

 

IBM、IBM Q Networkで以下を発表した 

–        Quantum Computation Centerのニューヨークでの開設

–        53量子ビットマシンと5台の20量子ビットマシンの設置

–        10月には20量子ビットマシンを14台に増設

–        10月中旬からのクラウドサービス提供

Financial Timesが、Google研究チームが量子超越性を実証と報道 (NASAが論文を誤って掲載したことを受けて)
D-Wave System、LANLが次世代マシン「Advantage」(5000量子ビットマシン)を採用と発表 (納品は2020年中旬)
10月 Natureが「量子超越性を確認した」とするGoogle論文を掲載

 

 

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