■韓国のカジノ〜規制と倫理、そしてジレンマ〜
日本は2020年に東京五輪に向け、外国人観光客のインバウンド対策を強化してきた。
政府主導でキャッシュレス決済が推進されているのは、以前、ブログでも取り上げた。
東京五輪以降も外国人観光客を呼び込み、観光立国を目指すということから、2016年12月、統合型リゾート整備推進法案が可決した。この法案には統合型リゾート施設内にカジノの設置を許可する内容が含まれたため、取り沙汰されることが多いが、カジノ単体での設置を許可するものでなく、あくまでも総合施設内の一部として、カジノの設置・運営が許可される可能性があるという法案である。統合型リゾートの建設で地方都市の経済活性化を図るというのが目的である。
日本に先立ち、韓国ではカジノ設置が許可されており、全国に17箇所のカジノが存在する。韓国のカジノ設置の背景にも外国人観光客のインバウンド対策と地域活性化を推進するという大義名分がある。実際に、チェジュ(済州)島やソウルなど、観光地として有名な場所を中心に多く、海外からの観光客向けに運営されているところがほとんどで、韓国人の入店は厳しく制限されている。
しかし、17箇所のうち1箇所だけ、合法的に内国人、つまり韓国国籍を保有する者の入店が許可されているカジノがある。平昌冬季五輪の開催地がある江原道内に位置している、カンウォンランドカジノである。株式会社カンウォンランドが運営しており、株式の51%を公共部門(産業通商資源部傘下の韓国鉱害管理公団、江原道が設立した江原道開発公社、廃鉱地域の4つの市郡)が保有しており、透明性と公正性の確保に努めている。
ここ数年、内国人向けカジノの売り上げが落ちている。2016年には1兆6277億ウォンであったカンウォンランドカジノの売り上げは2017年に1兆5230億ウォン、2018年には1兆4380億ウォンと2年連続で売り上げが減少している。その要因は、売り上げ総量制という規制だろう。売り上げ総量制とは韓国のギャンブル産業の過剰な成長を抑制するために年間の売り上げ限度を定めた規制で、2009年より宝くじ、競馬、競輪、内国人向けカジノ、体育振興投票権、競艇の6つのギャンブル産業を対象に規制している。売上高が限度額を超えた場合、翌年の売り上げ総量を下げたり、ギャンブル依存症治療などに利用する分担金を増額するなど、罰則が与えられる。
カンウォンランドカジノは売り上げ総量制の基準を遵守するために、営業時間を2時間短縮し、ゲームテーブル20台削減、ゲームテーブル稼働時間の縮小を実施した。その結果、固定客たちの足も遠のき、売り上げの減少に繋がっている。
このように内国人向けカジノの売り上げに上限を定めているのは、韓国だけだと言う。韓国では、賭博法によって海外での賭博も禁じているため(一時的な娯楽は適用外)*1、合法的なカジノはカンウォンランドカジノのみである。しかし、売り上げ総量制の影響で、内国人向けカジノに対する規制が強化されることになり、その結果不法賭博および海外賭博を助長しているとの指摘の声がある。実際、韓国人の海外賭博の規模は2017年に2兆5000億ウォンだったのが、2018年には2倍の5兆ウォンまで急増した*2。
このような現状を踏まえ、規制強化だけが真の対策なのかという反発の声があがっている。規制強化が不法賭博を助長させるだけで、規制強化の本質から逸脱しており、逆に内国人向けカジノに対する規制を緩和すれば、カジノ周辺の地域活性化にもつながり、不法賭博の数も減少できるとの意見もある。また、地域経済活性化を促進するために内国人向けカジノを誘致したいとしている地域もある。現時点では、その案は却下された状態ではあるが、地域活性化のためにも必要だという意見が薄らぐことはない。
内国人向けカジノ賛成派と反対派の意見は今後も当分は平行線を辿るであろうが、それぞれの立場を一方的に主張するのではなく、規制を緩和した場合と強化した場合のリスクを分析し、今後の方向性を定めていってほしい。
カジノ施設を含めた統合型リゾート施設が建設されるとことで、エンターテインメントおよびリゾートとしては地域活性化につながる有望な面もあるが、一方で倫理・社会面からみた場合、ネガティブスクリーニングの対象となることは必至だ。ESG投資では、好ましくない活動(アルコールやタバコ、ギャンブル関連)に従事する企業を投資対象からあらかじめ排除することは最も基本的な手法であり、ESG投資の最初のステップだと言える。
地域活性化と倫理的観点。このバランスをどう取るのか、韓国の先例からも見て取れるが、明確な答えを出すのは決して容易い問題ではない。カンウォンランドの場合、公共部門が株式の過半数を保有することや地域とのコミュニケーション強化を図ることで、カジノの運営を続けている。答えがない問題ではあるが、地域活性化を図りつつ、持続可能な経営をしていくために、どうあるべきか、経営主体は常に考え続ける必要があるだろう。
参考資料
*1: https://terms.naver.com/entry.nhn?docId=1082971&cid=40942&categoryId=31716 (韓国語サイト)
*2: http://www.pressian.com/news/article/?no=241502&utm_source=naver&utm_medium=search#09T0 (韓国語サイト)
http://www.businesspost.co.kr/BP?command=article_view&num=122797 (韓国語サイト)
http://www.jjn.co.kr/news/articleView.html?idxno=774194#092a (韓国語サイト)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18505029.htm (衆議院 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)