インタラクティブTVは1990年代の前半に大きな話題となった。しかし,大きな期待を受けて1994年12月に始まったタイムワーナーのフロリダ州でのフルサービスネットワーク(FSN)のテストも本格的な普及へのきっかけとはならなかった。1990年後半に入り,ITVに対する関心は薄まり,1997年にはFSNのテストも中止となった。ケーブルTV上で双方向サービスを提供する技術は予想以上に難しく,さらにインターネットの急激な普及でITV熱は一気に冷めていった。ケーブルTV事業者もケーブルモデムを使った高速インターネットサービスの提供に力を入れ,ITVは忘れられていった。しかし,最近になりITVへの関心が再燃焼し始めている。
ケーブルTVはより多くのチャンネル容量を持つデジタル衛星放送にその加入者を奪われてきた。ケーブルTVのチャンネル容量を大幅に増加させる方法としてケーブルシステムのデジタル化があるが,ケーブル事業者はその普及には大きな期待を持っていなかった。1998年末ではデジタルケーブルTVの加入世帯数は150万でしかなかった。デジタルケーブルTVの普及は,ケーブルTV世帯の25%が限度と予想されており,システムが高価であったことから事業者はデジタル化に積極的でなかった。しかし,TCIを買収したAT&Tは積極的にケーブルTVのデジタル化を行い,TV広告等でその普及を図った。1999年の末にはデジタルケーブルTVの加入世帯は490万に増え,2000年末ではケーブルTV加入世帯の14%にあたる970万世帯に達した。この急成長でケーブルTV業界のデジタルケーブルTVに対する考えは大きくと変わり,50%の普及率も可能と予想されるようになっている。
デジタルケーブルTVの受信に必要なモトローラ,サイエンティフィック・アトランタ等のセットトップボックス(STB)はITVへの期待が高かった1990年代中期に開発された製品であり,単にデジタルからアナログへの変換機能を提供するだけでなく,ITVサービスを提供するための機能も持っている。デジタルケーブルTVの普及により,ITVサービスを受けることが出来るSTBが自然と設置され始めている。これはケーブルTV事業者にとりラッキーなことであり,これらSTBを使い新たなサービスを提供するが可能になっている。
ケーブル事業者は積極的にITVのテストを行っている。AOLタイムワーナーは,フロリダ州のタンパベイ/セント・ピーターズバーグ,ホノルル,テキサス州のオースチン,それにサウスカロライナのコロンビアで,Seachange社とConrurrent社の技術を使ったビデオオンデマンドをテスト中であり,さらにロサンジェルスでnCubeを使ったサービスのテストも予定されている。AOLタイムワーナーはまた,TV経由でAOLのサービスにアクセスするAOLTVの提供も計画している。
AT&Tブロードバンドは,次世代STBの導入を待って, マイクロソフトTVを採用した本格的なITVを提供する計画でが,最近この計画は中止になった。これによりAT&TはITVに対して消極的になっているとの評価も出ている。しかし,AT&Tはアイオワ,それにワシントン州のタコマでWorldGate社の技術を使ったTVとウェブを統合した現行のSTBでも提供可能なITVのテストを始めており,これにより逆にITVサービスの提供が早まるとの見方もある。
140万世帯の加入者を持ち,MSOとしては8位のInsight Communications社はテストではなくすでに本格的なITVの導入を始めている。イリノイ州ロックフォード,オハヨウ州コロンバス,インディアナ州エバンズビル等でDivaの技術を使ったVODとLocal Sourceと呼ばれる情報サービスの提供を行っている。同社はCommerceTVと呼ばれるショッピングサービス,それにWinkを使ったサービスも提供予定であり,今年の末までにはそのヘッドエンドのすべてでITVのサービスを提供する計画である。
ITV熱のカムバックはWink,WorldGate,ACTV,ICTV,PowerTV,OpenTV,Liberate等のITV関連会社にはうれしいニュースである。これらITV技術の会社の殆どは1990年代のITV熱の時代に設立されたベンチャー企業であり会社であり,早くITVが普及しないと存在は危なくなる。これまでにいくつかのITV関連の会社がすでに潰れており,上記の会社の中でもICTVの破産が間近との噂が出ている。
これら会社とは異なり,マイクロソフトはITVの急速な普及を好んでいないかも知れない。マイクロソフトは1990年代初めからITVの技術開発は行ってきたが,積極的な投資はしていない。同社のソフトウェアを採用するはずであったAT&TのITV計画の変更でインパクトを受けたが,同社に取って大きなダメージではない。逆にITVの普及がゆっくりと進み競合が倒れていくことで市場の独占が楽になるはずである。これまでも,マイクロソフトは自ら市場を創り出すのではなく,先駆者に市場を開発させ,それらが疲れ,倒れたところで市場を奪い取ってきた。ITV市場も同様で,発展に時間がかかればマイクロソフトに有利となる。