DRI テレコムウォッチャー from USA


このシリーズは毎月20日に掲載!!



広がりを見せる自動車情報システム        テレマティックは自動車産業を変えるか

2001年6月20日号

 都市の騒々しさ,それに上昇する住宅の値段から逃れるためにどんどんと遠くの郊外への引越しが増えている。シリコンバレーでも100キロ離れ,通勤時間であれば車で片道2時間かかるTracyの町がすでにベットタウンになっている。長距離通勤者が増すことで,アメリカにおける車の重要性はさらに増している。通勤を含めて,車の中で過ごす時間が1日平均で3時間以上の人たちはますますと増えている。車の中で音楽を聴く,仕事のメモを録音する,食事をするなど,車の生活時間における重要性が高まっており,テレマティック(自動車情報システム)の普及が始まっている。
 テレマティック(Telematic)はコンピュータ,モバイル通信,GPS等を組み合わせた自動車情報システムであり,最初に製品化したのはGMである。GMはその子会社Hughesの技術を使い,1996年にOnStarシステムを高級車に搭載を始めた。最初のOnStarの目的は,安全性の向上であり,OnStar搭載の車のエアバッグが作動すると自動的に車の場所をOnStarのコールセンターに伝え,そのオペレータがOnStarの一部である携帯電話で搭乗者に連絡をして,救急車の手配を行う。この後,OnStarのサービスにはオペレーターによる道先案内,それ行き先のホテル,レストランの予約を行ってくれるConciergeサービス等も加わった。OnStarは日本のカーナビとは違い,運転中に気が散る操作,ディスプレイは無く,すべて車搭載の携帯電話によりコールセンターのオペレータが行っている。
 OnStarは最初,高級車のキャデラックなどのオプションであった。フォード,ベンツなどがサードパーティーのサービスを使い,類似したオプションを出したが,GMのOnStarはその洗練度では大きなリードをした。GMはこのリードをその差別化に使い始め,OnStarを高級車だけでなくすべての車のオプションとした。最初のシステムは自動車電話であったが,現在はダッシュボードにマイクロフォンを埋め込み,操作は3つのボタンのみで行えるシンプルなものになっている。OnStarの使用料金はベーシックなサービスが1年間契約で200ドル,Conciergeサービスを含むものが400ドルである。OnStarは車を売るためのオプションだけでなく,そのサービスからの収入が増えることでGMは一部のモデルではOnStarを標準オプションとした。その結果,2000年の末時点で150万台の車がOnStarを搭載し,その60%近くがサービスに加入していた。
 OnStarからの収入は2000年度で3000万ドル程度であり,GMの1846億ドルの売上から比べれば微々たる物である。しかし,自動車の開発,販売に必要な経費は大きく,利益率は3%程度でしかない。それに比べ,OnStarの潜在利益率は高く,その車が使われている限り,収入が出る。車の中で生活する時間が長くなることで,娯楽,電子コマースなど付加価値サービスからの収入も増えるはずである。Goldman Sachsは,OnStarの売上は2010年には現在の100倍の30億ドルに達するとの予測を出している。GMは,自らの予測は発表していないが,このGoldman Sachsの予測は「非常なる過小評価」だとのコメントを出している。
 もし,本当にテレマティックの利用が増えれば,自動車販売のビジネスモデルも大きくと変わる。テレマティックのサービスでの利益が安定すれば,自動車は携帯電話同様にコスト以下で売ることも可能になる。自動車を無料で提供することは不可能であろうが,テレマティックのサービスへの長期契約をすることで大きな割引を与えることも考えられる。これにより,自動車は製造会社から情報サービス会社へと変わり,車は動く情報端末となる。
 このような自動車会社の根本的なビジネスモデルの変化が起きる可能性は低いであろうが,テレマティックが自動車会社の重要なサービス(収入源)となっていく可能性は大である。GMは新しいサービスとして,テキスト/音声変換を使った,ニュース,株価情報,電子メールを提供するOnStar Virtual Adviserを始めている。フォード,クライスラーは大きな遅れを取っており,急いで追いつこうとしている。フォードは,Qualcommとの協力でWingcastと呼ばれるサービスを発表しており,2001年後半にサービスを開始し,2004年にはすべての新車の標準装備にする予定である。クライスラーはDCXと呼ばれる部門を設立している。
 現在のテレマティックサービスの弱点は通信速度の遅さである。音声のみのサービスであれば大きな問題は無いが,デジタル音楽,グラフィカルな情報等の提供を携帯電話網で行うには3Gの登場を必要となる。しかし,3Gを待たずに下流であれば豊富なデータ容量を持つサービスが登場しようとしている。衛星を使ったデジタルラジオのサービスが今年中にXM Satellite RadioとSiriusの2社から始まる。このサービスとテレマティックを加えることで,オンデマンドの音楽,リアルタイムの渋滞地図などの提供が可能になる。技術的な問題からサービスの開始が遅れ,経理的に苦しくなっているXMとSiriusのどちらかをHughesが狙っているとの噂もある。Hughesは,ディレクTVの親会社でもあり,衛星放送のサービスには豊富な経験がある。

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