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電子機器の廃棄問題 - 米国における対策の現状

2000年12月20日号

 電子産業に関わっている我々として、エレクトロニック製品の売上が成長することはありがたいことであるが、普及と共にその廃棄の問題が深刻になっている。特に大きな問題になっているのは、売上台数の多いPCとその関連機器である。PCの新製品は数ヶ月のサイクルで発表され、製品は数年で陳腐化されている。PCのリプレースメントまでの時間は、1990年代初めでは4から5年であったのが、現在では3年に短縮され、2005年には2年に縮まると予想されている。

 リプレースメントサイクルが短縮されることは販売の拡大に結びついているが、それによりPC等の電子製品のごみが急速に増えている。電子製品には多くの有害物が含まれており、埋め立てあるいは焼却により環境問題が起きる。米国環境保護局(Environmental Protection Agency - EPA)は、今から2004年までに3.15億台のPCが捨てられることになると推定している。シリコンバレーの地下水汚染問題を検討している非営利団体のSilicon Valley Toxic Coalitionの計算では、これら3.15億台のPCの廃棄で5.4億キログラムの鉛、90万キログラムのカドミウム、18万キロの水銀、そして54万キロの六価クロムが出ることになる。

 EPAは、電子製品は有害物として企業に対してはその廃棄を規制しているが、取り締まりは殆ど無い。また一般世帯への規制は存在していなく、PCのリサイクル率は10%以下でしかない。捨てられるPCの90%以上はごみとして捨てられており、埋立地の鉛汚染問題のの40%はPC(特にモニター)が原因になっていると推定されている。また簡単な廃棄の方法が存在しないためにかなりのPC(推定では、1.75億台)が捨てられずに企業の倉庫、家庭の地下室、屋根裏等に放置されている。

 PC、その他の電子製品廃棄問題の対策として3つの「R」、Recycle、Reuse、Reduceが提案されている。リサイクルは、廃棄される製品から部品、物質を再利用して、最終的にごみとして捨てられる量を減らすことが目的である。全米には約80の電子製品のリサイクル事業者が存在している。これらの会社は製品を解体し、使える部品は再販し、鉄、プラスティック等はスクラップとして売り、プリント基盤は溶かして貴金属を取るなどして製品重量の95%以上をリサイクル出来る。これら業者に製品を持っていく方法(回収方法)が問題である。電子製品の廃棄問題がクローズアップされることで、最近になりやっとベンダーが対応を始めた。ソニーはミネソタ州において自社製品を無料で回収するプログラムを開始した。ミネソタ各地の回収センターに製品を持ちこむ、あるいは輸送(利用者負担)すれば、ソニーはリサイクル事業者のWaste Management Inc.社を使い、無料でリサイクルを行う。またIBMは、自社製品だけでなく他社の製品も受け付ける有料リサイクルプログラムを発表した。料金は29.99ドルで、これにはIBMの回収センターに発送する送料が含まれている。リサイクルはペンシルベニア州のEnvirocycle社が行う。

 リユースは古い製品を再販、あるは寄付してごみになる前に有効に利用をすることである。再販としては、例えばGatewayがそのWebで中古のトレードイン・プログラムを行っている。しかし買って数月の400Mhz PCの引き取り額でも150ドル以下であり、再販市場は小さく、昨年再販された中古PCの台数は400000台程度でしかない。米国では、PC等の非営利団体への寄付はその価値を税金から控除するが出来き、寄付を扱う団体は多い。寄付されたPCを再生するのに手間とコストがかかる。このPCの保守、修理を社会保護を受けている人などの社会復帰へのトレーニングとしている組織が多い。ボランティア、あるいは企業の寄付金を使い、PC保守のトレーニングを提供し、再生されたPCは学校、非営利団体等に寄付されている。

 リサイクルをすることでごみとなる量を減らす事が可能で、リユースで廃棄される前に製品をもう一度有効に使うことが出来る。しかし根本的な問題の解決は、製品の数の削減(リデュース)である。技術進歩を遅らせることは不可能であるが、ユーザによる製品のアップグレードを容易にすることで製品寿命を延ばし、廃棄される製品を減らすことは出来る。リデュースを意識した製品デザインにより、CPU、メモリー、ハードディスク等のコンポーネントだけでなく、フロントパネル等の外見のアップデートも容易に行えるPCを作ることが出来る。このようなPCはオリジナルユーザの新製品購入までの時間を長くするだけでなく、その後のリユースの価値をも高める。またアップデートを容易にするデザインは、最終的な解体/リサイクルの効率も良くする。

 1ポンド(0.45キロ)のプラスティックを製造するには、2カップの原油と50立方フィート(1.4立方メーター)の天然ガスを必要とする。1台のPC(ケース、モニター、マウス、キーボード)に6ポンド(2.7キロ)のABS、あるいはポリスチレン・プラスティックが使われているとすると、PCの製造には5.6リットルの原油と8.5立方メーターの天然ガスが必要になる。2500万台のPCを製造するには100万バレルの原油と2.1億立方メーターの天然ガスが消費されている。リデュースは廃棄問題の解決だけでなく、より大きな環境保護にも貢献する。

 しかしリデュースへの敷居は高い。このような製品は最初の購入コストが高くなる。長期的なコストは安くなっても、ユーザは購入時の値段で製品を決める事が多く、このような製品は嫌われるかも知れない。またメーカーは、完成品を売ることで利益を出す構造になっており、アップグレードのコンポーネントを売っても利益は低い。

 しかし電子製品廃棄問題の責任がメーカー問われるようになっている。リサイクルでは廃棄物を減らすことは不可能であり、根本の解決であるリデュースの必要性が増して行くであろう。新製品を開発し、それを売るだけでなく、製品のライフサイクルとして廃棄までを考慮することがメーカーに求められており、メーカーの競争力ファクターの1つに3つのRへの対応が加わるのも間近かも知れない。

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