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AT&Tの3度目の分離 - AT&Tに見る米国通信産業の変化

2000年11月20日号

 AT&Tが1984年に長距離事業を行う本体と地域電話事業を行う7つの地域持株会社に分離した事を知らない人はいないが、この発端であった米国司法省の独占禁止法訴訟は電話事業の分離ではなくその製造部門であったWestern Electric (WE)の分離であった事は案外と忘れられている。1984年のAT&T分割を話す前にAT&Tの発端にちょっと話を戻す。

 Bell Telephone社は電話を発明したグラハム・ベルの支援者により1877年に設立され、その2年後にNew England Telephone社と合併し、社名をNational Bell Telephoneに変えた。電報会社のWestern Unionもその子会社、Western Electricで電話を開発していたが、Bellにパテント登録を一歩先に出され戦いに負ける。1981年にNational BellはWestern Electric(WE)を手に入れ、専属の通信機器製造会社とした。National Bellは、1899年にAmerican Telephone and Telegraph (AT&T)となり市場の独占を始めた。1909年にはWestern Unionも買収するが、独占禁止法の適応を恐れ1913年にはこれを売りだし、政府に対し許可無しに電話事業者を買わないことを約束する。しかしAT&Tの独占は強まり、1949年に連邦司法省はAT&Tに対してWEとその研究機関のベル研究所の分離を求める。AT&Tは司法省に戦いを挑み、1956年にはAT&Tは同意審決により公衆通信以外の事業は行わず、WEはその製品をAT&T外部には販売しない等の条件を代償にWEの分離から逃れる。しかしこの同意審決により、その後AT&Tがコンピュータ事業に参入する道が絶たれたのである。

 FCCは1968年にAT&Tの電話器のアンバンドルを求め、電話器市場の独占を無くし、1969年には長距離電話事業の権利をMCIに与え、長距離事業での独占権も奪う。しかしAT&Tの独占は続き、1974年に司法省はAT&Tへの2度目の独占禁止法訴訟を起こし、またしてもWEを分割するように求める。しかしAT&TはWEの分割は絶対的に拒否し、和解交渉によりその地域電話事業をすべて手放すことを条件にまたしてもWEの分離から逃れる。またこの同意審決によりコンピュータ等の新しい事業へ参入する許可も得た。1984年のAT&T再編成で、WEはAT&T Technologiesとなる。
 その地域電話会社の分離で資産の75%を失ったが、ついにAT&Tはメーカーとしてその製品を売れるようになり、キャリア向けの機器だけでなくコンシューマ向けの商品販売にも力を入れ、AT&T Telephone Centerと呼ばれる小売店チェーンまで作る。1991年にはNCR社を74億ドルで購入し、PCベンダーとしてIBM、Compaq等に競争を挑む。しかし通信事業者がそのブランド名だけで加入者に対して製品を売れた時代はすでに過ぎ去っており、AT&T Global Information Systemsと名の変わったNCRは5年間で40億ドルの赤字を出し1996年に売り出される。同年にAT&Tは通信機器事業部門のAT&T TechnologiesもLucentとしてスピンオフし、ついに2度も司法省と対決しその資産の75%を分離しも守ってきた製造事業を手放すこととなる。

 AT&Tがメーカーへの道を進んでいた間に通信事業は非常に競争の激しい分野となり、AT&Tはその地位を失い始めた。コア事業に注力するためにAT&Tは1994年に移動体電話最大手のMcCaw Cellularを買収し、さらに1999年にはケーブルTV最大手のTeleCommunications Inc.(TCI)を手に入れる。そしてAT&Tは無線とケーブルTVのインフラストラクチャーを使い、地域電話サービスを提供することを発表する。
 TCIを手に入れたAT&Tは、通信サービスの今後は長距離、地域、移動体、高速データ(インターネット)等各種のサービスの統合であり、AT&Tはこれらすべてのサービスをバンドル提供出来る事業者になることを約束する。しかしまたしても産業はAT&Tの考えとは別に動いていた。米国においては株価はこれまでも重要であったが、ここ数年では株価がすべてになっている。ドットコム企業のように赤字を出し続けても株価が高い会社が優遇される。この状況で株主の評価が異なる長距離電話事業、インターネット、無線を一緒にすることはマイナスである。インターネットに対する評価は高いが、競争の激しいコンシューマ向けの長距離事業への評価は非常に低く、AT&Tの株価は下がる。高速な無線通信、それにケーブルTV網による電話、高速インターネットサービスの提供のためには高額な投資が必要であり,その為には株の価値が上がることが必要である。

 AT&Tはコンシューマ向け事業、ビジネス向け事業、無線、ケーブルTVの4つの別会社に分離することを発表した。これにより投資家が個別にAT&Tの事業を評価することが出来、その株価が引き上がることを期待している。この動きはAT&Tだけでなく、競合のMCIも、そしてAT&Tとの国際パートナーであるBritish Telecomも事業の分離計画を発表している。NTTはこのトレンドの先走りとも言えよう。
 1984年の分割以前AT&Tは売上で当時のIBMの2倍、従業員数で3倍という巨大企業であった。これが長距離事業と7つの持株会社に分かれ、さらに1996年にはその製造部門をNCRとLucent(Lucentもビジネス向け部門を最近Avaya社と分けている)として手放した。2度の独占禁止法訴訟で連邦司法省の求めたことは地域電話の分離ではなく、その製造部門の分離であった。最初の訴えから半世紀経ち、AT&Tはその製造部門を手放したのは皮肉なことである。そして今後AT&Tは、通信事業内で4つの会社に分かれる。このAT&TのSmaller the Betterの考えに対して、AT&Tより分割したベル地域会社のSBCとVerizonはどちらも長距離事業への参入に力を入れ、またM&Aにより以前のAT&Tのような巨大通信企業になろうとしているのもまた皮肉である。もし司法省の要求どおりにWEを分離して、AT&Tが地域電話事業を続けていたらはたして米国の通信事業はどうなったのであろうか。

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