ドットコム会社の倒産によるインターネットへの危機
2000年10月20日号 ドットコムとも呼ばれるインターネット系の会社の株価はIPO (*1) 初日で倍増するのがほとんど当たり前の時期もあったが、今年4月の株式市場の暴落でドットコムのバブルははじけた。これによりドットコム会社、特にB2Cのインターネットマーチャントの資金繰りは厳しくなりレイオフ、さらには倒産も続出している。これまでに倒産したドットコムのほとんどはそれほど著名な会社ではなかったが、10月5日にインターネットマーチャントでの中でも大きく期待されていたプライスラインの系列会社 ウェブハウス・クラブが閉鎖になった。
プライスラインは購入者が値段を付け、それをサプライアーが競ると言う「リバース・オークション」のビジネスモデルで航空券を販売することで有名になった。TVコマーシャルでは、最初のスタートレックのキャプテン役で著名な俳優ウィリアム・シャットナーを起用し話題になった。プライスライン社のCEO ジェイ・ウォーカーはリバース・オークションのビジネスモデルを特許登録し、ウォーカー・デジタルと呼ばれるインキュベーター会社を作り、このビジネスモデルを使う会社を育ててきた。ウェブハウス・クラブはこのインキュベーターから登場した会社で、リバースオークションでガソリン、それに食品雑貨を販売していた。ウェブハウス・クラブは昨年から事業を始め、そのサービス提供地域を徐々に広げ、最近ではカリフォルニアでもサービスを始め、加盟店舗数は食品雑貨が7200店、ガソリンスタンドは6000店に増えていた。
しかし先週親会社のプライスラインは航空券の売上が悪く、その四半期売上は予想を下回るとの発表を行った。この発表で、同社の株価は大きくと落ちた。同社の株価の最高額は1999年4月で162ドルの値段が付いていたのが、今年の10月5日の時点ではこのときの価値の3.6%でしかない5.81ドルまで下がった。ウェブハウス・クラブは事業を継続するための資金確保が出来なくなったとの理由で閉鎖された。またウェブハウス・クラブ同様にリバース・オークションのビジネスモデルをウォーカー・デジタルからライセンスして中古の日用雑貨を売っていたパーフェクト・ヤードセール社もその事業からの撤退を発表した。プライスライン自体も航空券だけでなく、レンタカー、ホテル、さらには保険の販売までに手を広げているが、その売上の80%は航空券の販売である。ウェブハウス・クラブの閉鎖も影響し、プライスラインの第3四半期の赤字は1.89億ドルに達し、同社の存続も疑う声も聞かれる。
この他に最近閉鎖になったドットコム会社には、製品案内のプロダクトピア、宝石販売のミアドラ、ストリーミングメディア (*2) のプエスド、ティーンの女性向けのKibu.com、ファッションモールのBoo、ビデオ販売のReel.com、玩具販売のToysmart.com、それに電子機器、家庭雑貨のバリュー・アメリカ等がある。ドットコム会社の閉鎖を追いかけている、dotcomfailures.comのサイトのDead List(死亡者名簿)には10月初めの時点で40以上の会社が記されていた。また最近にレイオフを行った会社としては、サーチエンジンのアルタビスタ、製品ガイドのDeja.com、家庭菜園製品のGarden.com、オンライン・ドラッグストアのMore.com、それに医療サイトのWebMDなどがある。中でもWebMDは、ジム・クラークがHealtheonとして創立した会社で、他の医療関係のサイトを買収しその事業範囲を広げており注目されているドットコム会社の1つであるが、その約6000人の従業員中の1100人を年内にレイオフすることを発表している。
ドットコムの中でもB2C分野は既存の小売店との競合もあり、また会社の乱立もあり多くの会社が今後消えうせると思われる。しかしB2Cに代わり期待されているB2B分野の会社の株価も軒並みに下がっている。ドットコム会社のほとんどすべては赤字経営であり、株価の上昇とベンチャー資金で事業を行っている。しかし株価が大きく下がり、またドットコムのビジネスモデル自体に対する危機感から投資も減り、資金が底を突いている会社が増えている。
電子コマースは基本的に新しいビジネスモデルでは無く、既存のモデルの拡張でしかない。買い物の方法としてカタログ販売の延長であり、それだけで売上が保証されるものではない。これまでのトランザクションの方法で成功できないビジネスモデルを電子コマースに置き換えても成功するものではない。ドットコムであることだけでIPOに成功し資金を集めたがまったく利益の出せない会社がほとんどであり、今後これらの会社の倒産が相次ぐであろう。
これ自体は市場の淘汰であり、新しい市場では必ず起きることである。しかしドットコムの場合は、その基本的なビジネスモデルの考え直しを意味する。これらの会社が自社の利益では無く、株価と投資で存続をして来たということは、インターネットのこれまでのビジネスモデルも投機であった事を意味する。ドットコム会社の多くがなくなることは、インターネットのコンテンツが減り、その魅力が低減するすることも意味する。インターネットを面白くしてきたドットコム会社が減ってもインターネットの成長は続くであろうか? ドットコム会社が淘汰されることで、生き残った会社は利益が出せるようになり市場が安定すると言われている。しかしこれまでのインターネットの魅力はそのカオス性であり、AOL、Amazon.com等の数社が独占するインターネットにこれまでの成長の鍵となってきた魅力があるだろうか? これまでのカオス性を依存させることが出来るビジネスモデルの登場なしでは、インターネットの成長にブレーキがかかるのではないだろうか。
(*1) IPO(initial public offering):
株式公開。限定された株主に所有されていた会社の株式を資金調達などのために不特定多数に売り出すこと。(*2)ストリーミング(streaming):
通信回線で送受信される音声/動画データをリアルタイム再生する技術。再生側でデータを保持したりデータの受信待ちの必要がない。インターネット放送などに用いられる。
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