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  ICカードを役立て第2次カード社会へ  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)
2002年11月25日号

 もし暇があったら、いつも持ち歩いているカード類を数えられたい。筆者の場合20枚。キャッシュカード2枚、デビットカード1枚、クレジットカード2枚、バスや地下鉄のパスネットなど交通系プリペイドカード3枚、テレカ1枚、コンビニのクオカード1枚、IDカード1枚、診察券2枚、ゴルフ練習場のプリペイドカード1枚、ショップのポイントカード5枚、その他会員カード3枚、それに運転免許証などなど。重ねると15ミリほどで、二つ折りの財布のは随分薄くなった。ICカード1枚、磁気カードが14枚、バーコード・カードが2枚、残りは名前が記入されたただの紙のカード。これ以外にも普段持ち歩かないカードはほぼ同数あるだろう。改めてカード社会になっていることを実感する。おそらくわが国の社会人なら何らかのカードを20枚以上は所有し、最低でも10枚以上は常時携帯しているに違いない。確かに大量にカードが生活に浸透している意味で“カード社会”といえるが、余り誉められたものでもない。この状況を第1次カード社会とするなら、第2次カード社会はICカードの時代だ。ICカードは完結したコンピュータという点で、最も国民が身近に持つコンピュータになるだろう。来年8月、おそらく今年以上に論議されるのが住民基本台帳カード。これを機に国民のICカードへの関心は一気に高まり、第2次カード社会の扉が開くだろう。

■ICカードをめぐる背景

 我々の使っているカードは大別すると、一般カード(名刺や診察券など)、磁気カード、ICカード、そして光カードの4種。光カードとはホログラムのような光った表面にレーザー光で記録する。10年ほど前に開発され、改ざんしにくいため銀行用などに期待されたがICカードの技術が向上したため、最近では撤退するメーカーも出てきている。本命になりそうなのはコンピュータ・チップを組み込んだICカードだ。最近でビットカードをはじめ徐々に普及が開始されつつある。
 ICカードは1970年にフランスのロラン・モレノ氏と日本の有村国孝氏がほぼ同時に特許を出願した。有村氏の場合国内の特許であったことと、その後もICカードは欧州で発展したことから、世界的にはかのフランス人の発明とみられている。フランスでICカードの需要が高かったのは、コイン式の公衆電話を壊してお金を盗む犯罪が多発し、街じゅうの公衆電話が使えなくなったためだ。それとクレジットカードなどの偽造組織が暗躍し、犯罪に強いカードが望まれたことが背景にある。このため欧州ではICカードではなくスマート(賢い)カードといった呼び方をする。一方の日本は、その手の犯罪はあまりなかったため、コストの安い磁気カードが主流となり、“磁気”カードに対して、“IC“カードという言い方が定着したものと見られる。

■ICカードとは

 かのロラン氏のICカードはカードのほぼ全面に回路が載せられ、いかにも電子回路といった風情だが、ICの集積度が向上した最近では数ミリ角のICチップがプラスチックカードに埋め込んである。メモリだけでなく演算装置(CPU)も組み込まれ、これ自体で1個の完結したコンピュータだ。この点が最近ICカードが安全性を飛躍的に高めた所以だ。演算装置があると、計算、判断、照合、認識とが出来るようになる。当然高度な暗号化技術が使われるため、万が一外部に漏れても解読されないし、住基カードなどは自治体が整備する本人確認のための認証センターと照合しながら使うため安全度は格段に高くなる。

■最近のICカードの進化ぶり

 IC部分は数ミリのチップで用は足りるためカードにしなくても良いが、カードが浸透した今日、取り扱い面で便利なためカードが選ばれている。実は今後主流となるICカードは非接触型、つまりマイクロ波で電源と信号を受け取るが、そのアンテナのスペースも必要でありカードサイズが意味をもつ。
 JR東日本のカード型定期券Suicaがそれだ。いまでこそ乗客が何気なく通過しているが、実用化されるまで、実は「プロジェクトX」並みの技術的チャレンジがあったという。乗客がカードを改札機(カードのリーダ/ライタ)にかざして通過するまでだが、まずカードに電波で電源を供給し、「乗客の存在確認」「認証」「読み出し」「判定」「書き込み」「書き込み確認」といった6つの処理をこなす。これを0.8秒以内に済ませなければ、ラッシュアワーの改札では渋滞が起きるという。開発当初この時間をクリアできす苦労したらしい。現在ではプリペイド式の磁気式イオカードなら0.7秒。渋滞ぎりぎりの線だ。ICカードのSuicaでは10分の1秒でこのプロセスをこなす。せっかちな関西人でも十分使えるわけだ。

■第2次カード社会へ

 このSuica、実はメモリサイズは2Kバイト(漢字で2,000字)だ。技術的にはもっと増やせるが、くだんの処理速度10分1秒を維持するにはこのサイズが手ごろという。それでもSuicaの使用分は1.4Kバイトで、0.6Kバイト分余っているので、JR東日本では他の用途に使えるようレンタルビジネスを模索している。実はここが筆者のようにカードを20枚も携帯する人にとって朗報となる。最新のICカードはマルチアプリケーション機能といって、メモリをファイヤウォールで区切って、複数の用途に使える。来年8月から希望者に配布される住基カードもこの機能を持つ。
 住基カードには11桁の住民票コード、住所、氏名、生年月日、性別の5情報しか入れない。100バイトも使わない。そこで余りスペースを官民で協力して使うことが計画されている。住基カード発行当初は他の情報を入れることは法律で禁止されるが、すぐに法改正の見込みだ。住基カードは総務省の管轄だが、各省庁、前述のJR東日本など民間企業もICカードの発行人となり、スペースのレンタルなどのカードビジネスで主導権を握りたいと言った思惑がある。
 社会保険庁はICカード保険証を企画している。保険証はこれまで1世帯1通だったが、今年4月からは保険事業体次第で個人に発行できることになったため、ICカードに載せやすくなった。警察庁は運転免許書を、国土交通省はETCやハイウエイカードを、神奈川県大和市では自治体内でしか通用しない地域通貨にICカードを活用し、地域活性化につなげたい意向だ。とはいえなんでもかんでも1枚のICカードに入れてしまうのは危険でもあるし、実用上不便だ。おそらくは、医療・保険関連、金融関連、教育関連、交通関連、娯楽関連と言ったようにジャンルごとに管理することになり、少なくとも筆者のように20枚も持たなくて良くなるはずだ。いずれにしても、安全で便利な第2次カード社会への扉は、2003年8月の住基カード配布を機に開かれるであろう。

■真の危険とはなにか

 住基ネットの施行時、理解の浅い文化人らが、「国民総背番号制反対!」「病歴など個人情報も見られてしまう!」といった表層的な反論があったが、実はどちらが危険かを考える時が近いうちに来るであろう。たとえば医療面。病歴が漏れることは確かに問題だが、ICカードはもっと重要な問題である医療ミスを防止に役立つ。これには「無線タグ」といった別な技術も使うことになるが、医療用ICカードを常に持つことで、間違った薬を飲ませられそうになったとき、あるいは患者取り違えで余計な手術をされそうになったとき、ICカードと薬品の無線タグが合わなければ、また手術室の管理用コンピュータと患者のICカードがミスマッチの警告を出せば事故は回避できると言った具合だ。何が本当は危険かを冷静に考えればそういった表層的な反論は失せてゆくだろう。


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