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  パーム社不振の意味するもの - モバイルはニッチ市場の塊  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)

2001年11月20日号


■ リーダー・パーム社の不振

 世界PDA市場のリーダーを誇ったパーム社が最近怪しい。パーム社CEOのCarl Yankowski氏が11月7日、辞任すると発表した。ひところ世界の60%を越えるシェアを持ち、ポストPCの座のひとつを約束されたITセグメントであっただけに変化のすさまじさには驚く。11月期(第2四半期)も営業赤字の見通しという。昨年の今ごろ業界筋は成長著しいPDA分野を過去そうであったように倍倍ゲームが続くものと誰もが思っていた。
 ケチの付きはじめは、「新製品投入タイミングのミス」だった。それはライバル企業のハンドスプリング社に価格競争を仕掛けられ、上位機並みの性能で中位機の価格のm505という新製品を投入衣装としたとき起こった。米国のコンピュータ業界ではよくあることだが、実際の発売前にでかでかとアナウンスしライバルをけん制したまではよかったが、自社の旧製品にまで買い控えが起こった。つまり、自社の流通在庫がそんなに多かったとは思っていなかったふしがある。悪いことに(これもよくあることだが)新製品は製造上のミスから、所定の発売日に間に合わず、需要の高い新製品は市場に現れず、行き場のなくなった旧製品が店頭にうずたかく積み上げられた。そうすると値下げで需要を刺激するしかなくなり、赤字に陥る。そうこうしているうちに、米国消費が冷え込んできて新製品が出てきても実需に結びつかなくなってきた。そしてあのテロ。消費はさらに落ち込んだ。株価は年初の28ドルから最近の2ドル近辺まで落ち込んだ。

■ 変わる外部環境

 さらに外部環境も変化してきた。マイクロソフトが提唱するPocketPCを搭載したコンパック社のiPaqが6月の発売以降、最近まで300万台を出荷したとし、猛烈な追い上げを見せている。追い討ちをかけるように、HP、富士通、東芝、NECなど国内のパソコンメーカーもビジネス市場向けにPocketPCの最新版同2002搭載製品を発売ないしはコミットし、流れは大きくマイクロソフトを中心としたパソコン陣営に傾くかの様相を呈している。
 PocketPC2002とはWindowsCEのパームサイズ版で、パソコンの使い勝手をそのまま取込んだいわばパソコン側からのPDAへのアプローチだ。英国ARM社の設計を取り入れたCPUは速度が206MHzで2年前のノートパソコンの上位機種に匹敵するだけにパソコンのアプリケーションを多少改良するだけでPDA上で使えるようになる。一方のパームOS搭載のパーム機は、オーガナイザという電子手帳に近いハードウエアで、パソコンのデータを外に持ち出して使う相互補完的なコンセプトであり、今あるテクノロジー資源をうまく取込みながら進化してきた経緯がある。CPU速度は33MHzにとどめディスプレイもおおむねモノクロが好まれ、むしろバッテリ寿命は非常に優れ、2週間ぐらい平気で持った。複雑な情報処理はパソコン側に任せる考え方だけにこれでよかった。Webクリッピングという使い方も、米国ではワイヤレスの通信料金は高額なため、必要なデータ差分だけをダウンロードして使うという涙ぐましいコンセプトであった。

■ Wintelに席巻されるのか

 ところが、CPU技術の省電力高速化など、メモリの高集積化といった技術進化はそのままパソコンの技術がダイナミックにPDAに適用され、再びマイクロソフトの影響力が強化されようとしている。あろうことか、実はモバイル系のCPUではこれまでモトローラのDragonballZという非インテル系のチップが主流であったが、ARM社の設計を取り入れたインテル系のStrongARM(xScaleの前身)というチップが勢力を伸ばしてきている。つまり、この分野でもパソコンの世界をコントロールしたWINTELといった勢力に席巻されそうな状況である。パソコンメーカーがコミットしているだけに説得力をもつ。

■ モバイルの本質は多業種、様々な局面、複雑なニーズ

 さてそれでは、モバイルの世界もこのままWINTELに席巻されるのだろうか。
確かにパソコンは、ハードウエアの側面を見ると、デファクトスタンダードを作り上げることで業界のパワーを集約し、効率的な競争原理を持ち込み、コストダウンに結び付け発展を繰り返してきた。その結果ITの主役といわれるまでになったが、一方ソフトウエアの面を見ると、標準的なアプリケーションソフトが登場し、多少の手直しがあったとしても業務を基本的にパソコン側に合わせることで調整を図ってきた。またパソコンの持つ圧倒的なパワーが個々の調整局面でバッファとなったことも事実だし、このことがある程度のデスクトップにおける業務の画一化というか標準化をもたらした。
 そこでモバイルだが、この分野が期待されたのはまず未知の分野であっただけに様々なこれまでになかった現場でのアプリケーションに応用されるのではないかという点だ。運送、配送、工事現場、ルートセールス、地図、ナビゲーション、作業工程管理、メンテナンスなど。あるいはデータの処理速度よりバッテリ寿命をとにかく優先する業務、耐水性、耐熱性、耐振動性等を重視する業務。音声とデータ通信を同時に行いたい業務などなど。特にパソコンが入れそうで入れなかった業務にITが取り入れられることで、エンドトゥエンドの電子化が完成するというわけだ。
つまり、さまざまな現場業務に対応することが重要であり、その場合パソコンが成功した「標準化により集約する手法」がそのまま通じるとは思えない。つまり、モバイルは様々な業務、環境に適合することが要求されるためある程度のWINTELの影響力は否定できないまでも、パソコン業界が牛耳られたほどのシナリオは描きにくい。つまり、今携帯電話を含め様々なモバイルデバイスが生まれているが、どのデバイスにもどのアーキテクチャにも相応のチャンスはある。欧州でスマートフォンで人気のSymbianも日本では出遅れているが、電話機能を生かした新しいタイプのモバイルデバイスでも可能性はある。要するにモバイルとはニッチ市場の巨大な集合体であり、標準化は重要だがそれだけでは成功するとは限らない。パーム社の復活もこのあたりにあるのではないだろうか。

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