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  モバイル環境を一変する燃料電池  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)
2002年10月25日号

 無線LANや携帯電話など公衆データ通信の発達でノートPCやPDAなどのモバイル機器を戸外に持ち運んで使うケースが増えている。特にホットスポットなどではインターネットには接続できても、情報機器のバッテリが脆弱ではその将来さえ危うい。そこでこの危機的状況を救うのは、新しい考え方のバッテリ、すなわちあと2年で実用化される燃料電池といわれている。

■限界に近づく省電力技術

 バッテリはマンガン乾電池、水銀電池、充電タイプではニッケルカドミウム、ニッケル水素、リチウムイオンなどの電極や電解質の素材を改良することによって少しずつ性能を上げてきた。ちなみに人類最古の電池は2000年前にバグダット郊外の遺跡で見つかった「つぼ型電池」と言われており、厳密には電池としてではなく金銀装飾品のメッキに使われていた。つぼ1つで現在の乾電池1個(1.5V)程度のパワーはあったものと見られている。
 小型軽量化と省電力化が著しい携帯電話などでは、一般的な使い方であれば週に一度の充電済むようになってきており、ほぼユーザーのニーズは満たしていると言ってよい。しかしノートパソコンやPDAは、大容量のデータの扱いに大量のメモリ、高速ハードディスク、高速CPUに大型で鮮明な液晶ディスプレイなど桁外れに電力を消費するものばかりだ。一方でトランスメタ社の省電力CPUや反射型ディスプレイ、ソフトウエアによる電源マネジメント技術など省電力の技術は少しずつ進化はしているが、根本的な解決には至っておらず、ノートパソコンは1回の充電で8時間以上持たせることは実際問題まずは不可能だ。省電力技術もほぼ限界に迫っており、そこでブレークスルーとなるのが燃料電池だ。

■アポロ13号でも使っていた

 燃料電池の仕組みだが、電池とは言うもののメタノールやナフサ、ガソリンなどの液体燃料から水素を取り出し、空気中の酸素と反応させ、そのときに発生した電気を取り出すものだ。中学校の理科の実験で行った水の電気分解の逆をやるわけで、液体燃料から水素を取り出すときに二酸化炭素が発生することもあるが、基本的には電力と熱とわずかな水が精製されるだけのきわめてクリーンなエネルギーだ。ガソリンエンジンなどの内燃機関に比べはるかに効率も良い。実はこの仕組みは古い歴史があり、1965年の有人宇宙船ジェミニ5号で実用化されている。ご覧になった方も多いと思うが、1995年公開のトム・ハンクス主演映画「アポロ13号」で、液体水素タンクが爆発しメイン電源が不能になり節電のため暖房装置を切り、寒さに耐えるシーンがあったが、あれは燃料電池に使う酸素だったわけだ。アポロ13号は1970年の事件だった。
 燃料電池は電解質に何を使うかで種類が分けられるが、最も安定した手法が固体高分子型といわれるものだ。常温で反応するので小型化に適している。これよりもパワーが取り出せるものにジルコニアを使った固体酸化物型というのもあり、従来まで自動車用に考えられていたが、最近では固体高分子型が改良され、車でも使えるようになってきており、携帯機器も車もこの方式に収斂しつつある。

■ノートPC20時間、携帯電話1ヶ月

 燃料電池のパワーはリチウムイオン電池に比べ、5〜10倍の寿命が期待され、ノートパソコンであれば20時間、携帯電話であれば1ヶ月は連続して使える。この技術に対しては多くのITメーカーが開発にしのぎを削っており、モトローラ、インテル、ベンチャーの米国ポリフュエル、東芝、カシオ、NECなどが取り組んでいる。先ごろ開催されたPCエクスポで東芝が燃料電池の試作品で、同社のPDA Genioにステレオ装置をつなぎ音楽再生の実演を行っていた。このシステムは燃料のメタノール7ミリリットルで3時間駆動する。実用は2004年からだ。ちなみにメタノールの市販価格は1リットル20円とガソリンよりもはるかに安い。おそらく実際に使われるときは、メタノールなどの液体燃料は100円ライターのようなしっかりとしたケースに密封され携帯機器に差し込んで使うようになるだろう。あるいはメタノールに改良を加え、より安定した形にして、ガスライターのガスを注入するような形で利用されるようになるのかもしれない。実はこのあたりが重要なポイントだ。ガソリンはもちろんメタノールは航空機への持込は危険物扱いで禁止されており、そうなると飛行機では使えないことになるが、米国航空局の見解では、実用となる2004年までにはメタノールを改良した引火性の低い安全な燃料が開発されるとみており、この改良型であれば認可をする方向で考えているとされ、2004年からは問題なく飛行機でも使えることになるであろう。

■余談

 余談になるが燃料電池以外にモバイル機器向けの新たなエネルギーとして注目されているものにキネティック・パワー(人力発電)といったものもある。モトローラは今年春に、携帯電話用の人力発電装置を開発している。300グラムの筐体にハンドルが付いていて、45秒間まわせば通話時間が5分間伸びるという。うそのような本当の話だ。電話が普及して間がないころ、電話機に付いたハンドルを回して交換手を呼び出すレトロな電話機があったがそれを髣髴とさせる。また、スニーカーの踵部に埋め込んだコイルと磁石動かし、歩くたびに発電させるアイデアもあった。ジョギングしながらヘッドホンステレオを楽しむ人々はこれで乾電池を買うことから解放される。アイデアはいいが実際にはまだ両者ともお目にかかったことはない。


データリソース社では、「燃料電池」関連のレポートとして、

世界の据え置き型燃料電池市場-新興産業についての詳細な分析
Global Stationary Fuel Cell Markets : A Detailed Analysis of an Emerging Industry (米国アライドビジネスインテリジェンス社)

携帯型燃料電池の世界市場:予測と分析
Global Portable Fuel Cell Market Forecast and Analysis (米国アライドビジネスインテリジェンス社)

「携帯端末」関連のレポートとして、

移動体端末の将来予測 2002年版
Future Mobile Handsets(英国ARC グループ社)

米国プローブリサーチ社の「無線インターネットサービスとネットワーク市場 (WISN)」サービスのレポートから、

最先端のモバイル端末
Advanced Mobile Terminals (米国プローブリサーチ社)

モバイルターミナルにおけるPDA形式のOS
PDA-style Operating Systems in Mobile Terminals (米国プローブリサーチ社)

インスタット/MDR社の「Wireless Handset & Access Devices」など、Wireless セクターのレポート

などがあります。

また、「移動体・無線関連レポート」のページもご参照くださいませ。


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