DRI テレコムウォッチャー/IT ウォッチング

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  ボランティア精神に託すスカイパイロット社の"隣人ネット"  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)
2002年9月25日号

 無線LANを利用したホットスポットが広がってきた。すでにサントリー系のコーヒーショップ・プロント、ソフトバンクもスターバックスやマクドナルドで実験を開始、渋谷道玄坂のモスフードでも接続サービスを開始している。この夏からは東京都がホットスポットの接続実験に乗り出し、日本テレコムやNTT東日本など有力キャリアが参加し、有楽町の東京国際フォーラムや都庁、都立図書館など公共私設で無線LANが使えるなど、身近なものになってきた。無線LANはこのように人口集中の大都市圏でホットスポットとして花開きそうだが、一方米国の郊外のような広大な土地でも無線LANの技術が期待されている。今回は米国カリフォルニアのメッシュ技術による固定無線接続(FWA)サービスのベンチャー・スカイパイロット社の技術を紹介しよう。

■広大な米国ならではの悩み

 通常企業で無線LANを導入する最大の動機の一つは、LANケーブル敷設作業のコストダウンだ。それと同様に米国のカリフォルニア郊外のように広大な土地に家が散在するケースでもラストワンマイルの接続は単位面積あたりの家の数が少ないだけに、電柱を何本か立ててその先に家が1軒しかなかったりすると効率が悪い。既設の電話回線を使ってDSLを利用すればいいではないかと思いがちだが、米国の地域電話会社はDSLサービスに消極的だ。というのも地域電話会社はデータ通信事業参入と引き換えにほぼ独占支配している地域電話網を長距離電話会社に開放しなければならなくなるからだ。また伝統的にケーブルTVが強いこともあるし、そもそも電話料金が月2,000程度の定額サービスのため、DSLの魅力は日本に比べ半減している。ならば無線LANで家々をメッシュ(網の目)状に結び付けてしまおうというのがスカイパイロット社のサービス、NeighbourNetサービスだ。

■隣人同士のNeighbourNet

 NeighbourNetは基地局から最も近い家、といっても400メートル前後としているが、そこに頼み込んでアンテナを設置してもらう。そこからさらに400メートル以内の家にも加入を勧める、といった形で次々と網の目上に加入者を開拓していくというもので、ネットワークの形としてはピアトゥピア型の一種だ。通信規格はIEEE802.11aで5.4GHzだが、この周波数は2.4GHzとともに当局の規制を受けない周波数だ(日本では屋内での利用に限られる)。理論値で54Mbpsだが、実測で10Mbps出るという。アンテナの出力は通常オフィスや家庭で使う出力よりもやや高めにしておく。わが国でも一般家庭で普及している無線LANの規格、802.11bは有効範囲は50m前後とされる。その代わり多少の障害物があっても近距離であれば通してしまう。5.4GHzは障害物に弱いが、逆に見通しさえ良ければかなりの距離を飛んでくれる。日本でも北海道の広大な農場で、リアルタイムに天気予報を入手するために無線LANを使っている農家があるが、出力を多少高めにすれば5〜6km離れても問題なく受信できるらしい。家々は802.11aでつなぐが各家庭内では2.4GHz帯域の802.11bでホームLANを構成する併用型となる。

■インターネットの原点ボランティア精神

 NeighbourNetで重要な点は、ユーザーは人口のまばらな郊外で高速インターネットの恩恵を享受するだけでなく、自分も他の人に半分は貢献することになり、ある意味ボランティア精神が要求される。勝手に電源を切ってはいけないのだ。しかし、それでも時として切ってしまう人もいるので、最低このルートだけは残しておかなければならない家庭を"Seed"といってコアのルートにしている。つまり"Seed"がバックボーンの役割を果たすことになる。いずれにしてもここではユーザーは単なる最終端末ではなくルーターの役割を果たすことになる。会員が多くなればなるほど迂回ルートも豊富になり通信速度も速くなるというわけだ。これで土地が広大な余りにブロードバンドが使えないといういかにもアメリカならではのデジタルデバイドの1つは解消する。このサービスは現在テストサービス中であり、本サービス開始は現時点では未定だ。

■都市への応用形も

 このSkypilot社のサービスはあくまでも広大かつ平野部の過疎地に向いており、いかにもアメリカ型サービスだが、実はこの仕組みを逆に都市の過密地域で使おうという動きもある。Skypilot社のサービスでは家々がルーターになるが、都市部ではこれを個人のノートブックパソコンやPDAに応用しようと言うわけだ。つまり、Aさんが駅前のホットスポットにノートパソコンでアクセスすると、そこから50メートル以内のBさんがAさんを中継点としてアクセスするというわけだ。そうなるとホットスポットの有効範囲以外でもバケツリレーで無線LANが使えるようになる。まさに見知らぬ人同士ののボランティア精神の世界だ。ただし問題はこれがどのようなビジネスモデルになるのかは全くもって不明な点だが。


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