DRI テレコムウォッチャー/IT ウォッチング

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  グリッドコンピューティングのインパクト  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)

2002年7月25日号

■グリッドコンピューティングとは

 グリッドコンピューティングとは複数のコンピュータをつなぎ合わせ、膨大なデータを手分けして処理してしまおうという技術だ。グリッドとは街中にマスメ状に張り巡らされた送電線からきていると言う。有名な例はSETI@Homeプロジェクト。プエルトリコのアレシボ電波望遠鏡で捕捉された日々宇宙から降り注ぐ電波をこのボランティア参加者が手分けして解析し、規則性のある信号を発見し、ETからのメッセージを発見しようとする試みだ。これは、全世界約200万ボランティアのパソコンがアイドリング時にスクリーンセーバーが立ち上がりその間解析作業をしてくれる仕組みだ。空き時間のコンピュータ資源を有効に活用する仕組みだ。これは地域電話会社のインターネットの接続が固定料金制で、常時接続が進んでいた米国ゆえのアイデアだが、わが国でもブロードバンドの進展とともに急速に注目を集めるようになった。
 最近、こういった仕組みをどんどん事業化する動きが出てきている。まず、たんぱく質の解析などの様々な科学技術計算分野で活用が進んでいる。たとえば米国エネルギー省の国立スーパーコンピュータセンタが中心となって各地の研究機関のコンピュータ資源をつなぎ合わせ、論理的に巨大なスーパーコンピュータをどこからでも使えるようにしようという試みも進んでいる。

■発展段階

 事業化ベースとなると、宇宙からのメッセージを探るような夢のような話と違い、セキュリティを保証したしっかりした枠組みが必要になってくる。まず第1段階としては、特定の企業グループや研究機関などが自社内のコンピュータ資源をグリッドで結び、あたかも1つの巨大なスーパーコンピュータを所有している形を取るであろう。第2段階では、信頼の置ける企業同士でグリッドを通じてコンピュータ資源を融通しあう。場合によっては、アプリケーション資源も融通し合うということが考えられる。たとえば、今回のワールドカップでチケットのネット販売ではJAWOCやバイロン社のサーバーがダウンしたが、一生に一度あるかないかのような100万人が一斉にアクセスする業務のためにサーバーの増強はばかばかしいが、グリッドを介して他社のサーバーやデータセンターに助けてもらえば、一時的に巨大な能力を持ったアクセスサイトを持つことになり、此度のような空席問題はおきなかったかもしれない。
 データ資源の融通と言う点では、グリッドはブローバンドのコンテンツ配信の実用化に不可欠なCDS(コンテンツデリバリーサービス)の役割を担うことも期待されている。コンテンツを全国各地のコンピュータに置きグリッドで制御すればユーザーは最も近いコンピュータからコンテンツをダウンロードできるようになる。その場合必ずしもセキュアで使用量が高価なデータセンターでなくともよく、信頼のおける個人、会員、ボランティア、コンピュータをあまり使っていない会社など誰でも良いわけだ。これはブロードバンドのコンテンツ配信技術を加速するかもしれない。もっともそんなキラーコンテンツがあればの話だが。

■背景と思惑

 グリッドコンピューティングが登場してきた背景には、まず第1にネットワークを通じてコンピュータ資源の無駄の排除と有効活用がうたわれているが、それよりも筆者はインテルやAMDなどプロセッサ企業の思惑が働いていると考えざるを得ない。一時期、パソコンのCPUが1GHを越えたあたりから「パソコンの性能はこれでもう充分、これ以上の性能競争は無益な争い」と冷ややかに見る向きがあったが、処理能力を融通し合えれば必ずしも無益な争いではなくなる。つまり、企業ユーザーもより高性能のパソコンを持つ動機が生まれ、インテルらの思惑と合致するわけだ。

■インパクト

 思惑はどうあれ、長期的にグリッドコンピューティングの需要はますます高まるだろう。そうなるとどういったインパクトが起こるか?まず第1に、企業のIT投資が縮小傾向になるだろう。企業はこの技術をTCO(総合保有コスト)削減に有効と考えるからだ。コンピュータ資源が融通できるということは保有すべき処理能力をピーク時にあわせなくて済む(全世界のユーザーがすべからく少なめの処理能力にとどめたらえらいことになるが.....)。次にグリッドは最終的に企業ITのバーチャル化が進行する引き金を引くことになるだろう。これはアプリケーション融通が起きるあたりから目に見えてくるはずだ。たとえばだが、トヨタが3次元CADを日産は2次元CADを互いに融通しあうと、あたかもユーザーは自社内に両方のシステムがあるように使い、アプリケーションを2重に持つ無駄は省けるというわけだ。使った分だけ相殺すればいい。
 そもそもコンピュータ資源の有効活用で始まったこのグリッドコンピューティングだが、これまで顧客の無知に付け込んで無駄なコンピュータ資源を売りつけてきたITベンダーにとっては、ゆゆしき事態となる。これによって適正なコンピュータ資源とはどのくらいなものかといった新たな議論が始まるかもしれないし、ITベンダーの収益構造に大きな影響をもたらす契機になるかもしれない。これが第3のインパクトだ。グリッドコンピューティングは確かにネットワーク技術、ブロードバンド技術、そしてリサイクル思想の申し子と言えるが、IT業界はこれでまた大きな曲がり角を迎えることになる。ちなみに、IBMがこの技術分野にとりわけ熱心にみえる。



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