5月7日、もめにもめていたHPとコンパックの合併がようやく決まった。昨年9月の合併発表から数えて7ヶ月余りの時間が経っていた。IT業界史上最大の買収であっただけに、また資本主義のメッカ米国での出来事であっただけに、様々な買収あるいは合併のテクニックが駆使されるなどの側面をみせてもらったことで、われわれ日本人は驚かされる事が多かった。いずれにしても新生HPはこれからほぼ1年間をかけてブランドを統廃合するなど実質的な作業にようやく動き出す。ここでは筆者が合併劇をめぐって驚かされたいくつかの出来事を検証してみよう。
■ 驚きその1「株主との対立」
まず、5兆円企業コンパック社の実質買収と言うだけでも驚いたが、キャッシュを使わない株式交換方式と言うテクニックを駆使することに驚かされた。通常買収と言えば一時的なキャッシュが必要となるため銀行の存在がクローズアップされるが、HPの新株をもってコンパック株と交換するテクニックであったことだ。実質的にHPサイドの所有比率は低下するため大株主にとっては新生HPでの支配力の低下を招く。のちに合併推進派のカーリー・フィオリーナら経営サイドに反対派として鋭く対立した創業者一族のウォルター・ヒューレットは全HP株の18%を所有していた。新生HPでのシェアは12〜13%と低下し、支配力はわずかだが薄れ、場合によっては機関投資家などの新たな合従連衡で力関係に変化が起きる可能性もある。もしかしたら、フィオリーナの狙いも実はそこのところ、創業者一族の支配力排除にもあったのもかもしれない。
■ 驚きその2「社員株主の存在」
合併推進派と反対派の争いは株主投票で結局議決権株比で2:1で可決されたが、最も影響力を発揮したのは、社員株主や機関投資家の中でも401Kで株を運用する数々の投資銀行や引退基金の動向であったことが報道を通じてわかってきた。社員の引退後の生活の糧となる401Kだけに、慎重な判断が要求されたであろうことは想像に難くない。社員株主はストックオプションなどで株式を株主となっている社員も多くの株式を保有しており、多くは賛成票を投じたといわれる。合併話がここまできて取り消しになった場合のダメージの方がもっと悲惨だったに違いない。このように実は米国では個人投資家がわが国と比べ物にならないほど普及しているだけでなく、401Kを通じて株式と個人の生活が密接に結びついていることも驚きをもって見るべきことかもしれない。
■ 驚きその3「縮小均衡の兆し」
「この合併を1+1>2ではなく、1+1<2になる」と予測する向きが多かったが、米国の調査会社が発表した世界のパソコン出荷で、早くもその兆候がみえててきたことだ。デルコンピュータ社の米国市場における出荷台数ベースのシェアは24.5%に増えた。HPとコンパック社が合併したとしても,両社を合わせたシェアは22.5%にとどまり,Dell社の1位は変わらない。HP社は海外のパソコンの生産設備の売却を検討しており、この流れはまもなく顕在化するとおもわれる。実はこの点については驚かなかったが、合併しないうちから縮小均衡の傾向が現れたことに驚いた。
■ 最後に驚いたこと
先ごろHP社は、同社としては最後となる第4四半期の決算を発表したが、売上高は106億2100ドルで、前年同期の116億6800 万ドルに比べ9%減。 純利益は2億5200万ドルで、前年同期の純利益4700万ドルに比べて436%増となった。ただ、驚いたことに、この期間の2億6,000万ドルの一時的費用を計上したが、1億4900万ドルは合併関連にかかった費用。 ところがもっと驚いたことに、このうち7500万ドルは、ウォルター・ヒューレット氏との対決にかかった費用と言う。すなわち株主投票やその勧誘活動にかかった費用という。これがなかったら利益が倍増していたかもしれないと考えると、HP社の取締役にも名を連ねるウォルター氏はきっと地団駄を踏んだに違いない。