企業活動の中でITが最も期待される分野にCRM(Customer Relationship Management)がある。最近BtoCのセグメントにおけるCRMで特に携帯電話の活用が注目されている。携帯電話は個人のライフスタイルを変えたように、これまで開発されたパーソナル情報機器のなかで最もモビリティが高く肌身離さず持ち歩くケースが多く、巨大なムービング・ターゲットを射程距離におく最も効果的なパスだ。特にBtoCにかかわる企業では喫緊の課題となるはずだ。
■ IT先進国米国を尻目に
痛快なことにこの動きは米国ではなく日本と欧州で先鞭をつけそうだ。 というのも携帯電話は日本ではもはや人口の6割が使っているし、北欧や英独でも4割〜5割の人口普及率を誇る。一方の米国はパソコンによるダイナミックなインターネットでは国民の5割が使っているが、携帯電話によるインターネットとなると日欧に遅れをとる。むしろパソコンをコアにした活用のPDAへの期待が高く、あくまでもPCオリエンテッドな市場といえる。ただし、最近携帯電話並みのサイズのパームOS搭載ブラウザフォンがサムソンやNokiaから米国で発売され、普及の兆しを見せており、米国市場も変わりつつあるのは確かだ。いずれにしても、携帯電話を媒介に現実のビジネスとしてCRMにチャレンジできる下地が出てきたのは日本と欧州といえるだろう。
■ 瞬時に120万のメールアドレスが入手
実は欧州では携帯電話のWebプロトコルであるWAPの普及がなかなか思うように進まず、顧客に密接にかかわることのできる携帯電話の潜在力は理解していたものの、企業がCRMに使う気運はあまり積極的ではなかった。せいぜいフィンランドのNokiaが「携帯電話とBluetooth機能でコーラが買える」と提案したが、口の悪いアナリストからは「So what?(それで一体だれが儲かるのか?)」とこきおろされたように、とかくモバイルがらみの話は、「話としては面白い」がビジネスチャンスとしての要素にかけた議論が多かった。しかし、風向きが変わったのはドイツでのある事件からだ。昨年ドイツのテレビのあるクイズ番組で携帯電話からのメールやSMS(ショートメッセージングサービス)による回答を募ったところ、瞬時に120万件のメッセージが寄せられたという。テレビ局のサーバーがダウンしたかどうかは定かではないが、要は瞬時に120万のメールアドレスが入手できたわけで、一般企業からすれば、これまで、いかにして個人が企業のマーケティング活動に参画してくれるのか、誰にどのような形であれば大切なメールアドレスを教えてくれるのか、CRMのはじめのボトルネックが一気に解決できることを教えてくれた事件と言われる。それ以来、欧州でも携帯電話によるCRMの機運が一気に高まった。現在ではブリティッシュエアウェイが携帯にフライトインフォメーションを流したり、携帯でチェックイン認証を行うようになった。また、欧州のほとんどの銀行はWAPやSMSによる情報サービスを行っており、日本のiモードやEzWebのような活況を呈してきた。欧州はもともとアルファベット語圏なだけにURLの入力もさほど苦痛ではないようだ。
■ URL入力のボトルネック解消
さて日本だが、やはり日本特有のボトルネックは携帯電話でのURLの入力だ。1分間に100文字を打つ若年層は別として、優良顧客層である40才代、50才代の顧客をどのようにホームページまで誘導するかが大きな課題となる。実はe-SystemというCRMソリューションの会社が、URLと簡単なソフトが記憶されたマッチ箱くらいのアタッチメントを携帯電話の充電部分のインターフェイスにはめ込むことで、簡単にホームページに誘導する仕組みを開発している。簡単なアプリケーションと言うのは、数字ボタンに命令を割り当てるしくみで、「困ったとき」「購入」「キャンセル」などといった機能を簡単に使えるようにしたことだ。この目論見は電話機のインターフェイスのままインターネット操作を簡単にしたもので、アルファベットのURL入力に弱い日本人に、携帯電話によるCRMへの敷居をぐんと低くした可能性がある。確かにこれだけで人々を携帯電話でWebに誘導できるほど世の中甘くはないが、ドイツでの事件や日本での工夫などがうまく積み重っていけば、CRMにおける巨大なムービングターゲットが実際に射程に入るのもそう遠くの話ではない。
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