DRI テレコムウォッチャー




大きく論議を呼ぶAT&Tブロードバンド部門の将来

2001年8月1日号

 コムキャスト(米国第3位のケーブルテレビ会社)のロバート会長は2001年7月8日、AT&Tブロードバンド部門(米国最大のケーブルテレビ加入者を有する)を買収する提案を発表した。同社はそれまで、長期にわたりAT&Tと同部門の取得について交渉してきたが進展しないため、この挙に出たものである。
 AT&Tは、7月18日、この提案に対しその金額(AT&Tブロードバンドの引き受ける負債135億ドルを含め580億ドル)が安値に過ぎることを理由として、この提案を拒否した。
 また、AT&Tは今後、AT&Tブロードバンドの将来について、これまでの同社の基本路線の遂行に固執することなく、他社への売却(コムキャストの再提案を受けての同社への売却を含む)の可能性もあり得ることを明らかにしている。
 周知の通り、2000年10月、AT&Tは自社事業を4部門(AT&TWireless, AT&TBroadband, AT&TBusiness, AT&TConsumer)に分割して、AT&TWirelessを皮切にこれら部門を独立会社に再編、AT&Tブランドを核にしてAT&Tグループとしてのいわば「ファミリー経営」を行っていく意図を明らかにした。アームストロング会長が提唱し、みずから異常な熱意をもって推進してきた上記の組織分割方針は、その後株主総会で了承され、現にAT&TWirelessは所定のAT&T株主との株式交換を終え、AT&Tファミリー最初の独立会社としての運営を開始したところである。
 当初からAT&Tの組織改正は、他社からの買収提案があった場合、完遂することは難しいと批判されていたものであるが、今回のコムキャストの提案により、AT&Tは(1)自社が設定した組織改革方針を遂行できるか(2)AT&TWireless売却―ひいては他の3部門の売却につながり、結局AT&Tの解体をもたらすーを余儀なくされるかの正念場を迎えたこととなる。
 このような状況の下でAT&Tは7月26日、同社の2001年第3四半期決算公表の後を受けて、同社ブロードバンド部門の将来性を強く訴えるキャンペーンを開始した。
 当初、米国のジャーナリズムはAT&Tブロードバンドの将来について悲観的であり、早晩同部門が他社に買い取られることは避けられないとの論評が多かった。しかし7月26日のAT&Tの発表は、AT&Tブロードバンド部門の急激な業績回復を踏まえ、他のケーブルテレビ会社並みの業績向上を期限付きで約束した具体性のあるものであった。このため、1部米国の論説はこれを高く評価しており、上記(2)の方途を選べる可能性があることを明らかにしている(注)。
 以下、この案件に関する最新の情報(7月末現在)を紹介するとともに、AT&Tブロードバンド部門の将来について多少の私見を述べる。

コムキャストの提案

 コムキャストの提案は新株発行による株式交換方式でAT&Tブロードバンド部門を580億ドル(AT&Tブロードバンド部門が含む135億ドルの負債を含む)で買収するというものである(この件に関する以下の記述は、2001.7.8日付けコムキャストのプレスレリース、“Comcast makes proposal to merge with AT&TBroadband”)。
 コムキャストは、この金額はAT&Tブロードバンド分の1株当り株価を12.6ドルと評価しており、ケーブルテレビ加入者一人当り4,000ドル(通常のM&Aにおけるケーブルテレビ会社の販売価格は3.500ドルという)に相当し、同部門の価値を充分に評価したものであり、これ以上買収金額を上げるつもりはないと主張している。
 コムキャストは、AT&Tの収益性がコムキャストに比し劣っている実態を指摘し、「米国業界第1、第3のケーブルテレビ会社である両者統合のメリットとして、株主の株式価格が高まるだけではない。長期的に見て大きな成長の機会がもたらされるし、統合新会社はまた、ブロードバンドの未来を切り開く絶好の機会にある」点を強調した。
 また、ロバート会長は統合によるシナジー効果により、当面少なくとも年間12.5億ドル、長期的には年間26億ドルから28億ドルの利益がもたらされると述べた。

AT&T、自社ブロードバンド部門の業績向上とネットワークの高度化進展を強くアピール

(1)AT&T、コムキャストの提案拒否
 AT&Tの役員会は、コムキャストの提案に関し、次の趣旨の拒否回答を同社に送った(2001.7.18付けAT&Tプレスレリース、”AT&T Broadband Unanimously Rejects Comcast Bid”)。拒否理由として、AT&Tは次の2点を挙げている。

  • コムキャストの提案は、AT&Tブロードバンド部門の市場価値のすべてを反映していない(筆者注:即ち安過ぎる)。
  • 役員会はコムキャストの重層的な議決構造が企業統治の点でAT&T株主に不利益にならないかどうかを懸念している(訳者注:コムキャストの同族会社経営の影響を指摘したもの)。
 また、AT&Tは上記のコムキャストに対する正式の拒否回答以外の場では、同社が今後、AT&Tブロードバンドの将来について、他社(コムキャストによる再提案を含む)への売却をも含む選択肢を真剣に検討して行く方針を明らかにした。

(2)AT&T、AT&Tブロードバンド部門の将来性を強調するキャンペーン活動を開始
 AT&Tは、同社の2001年第2四半期の決算を発表した。この決算は前期に引き続き、住宅向け長距離通信収入の23.7%の大幅ダウン、事業向け通信収入の伸び悩み(2%の増)、前期に比し総収入の3%の減と前期以上に芳しくないものであった。しかし、唯一AT&Tブロードバンド部門の予想以上の業績向上(収入、EBITAは共に、13.7%増、18.3%から23.4%へと向上)を明かにしたものでもあった。
 AT&Tはこの決算数値を好機として捉え、同社のAT&Tブロードバンド部門はこれまで、ネットワークの高度化投資に資金を要し、これが大きく業績向上に当たっての足枷となってきたが、すでに投資は峠を超え、今後米国1の高度ケーブルテレビ会社として、発展して行くことは間違いないとの趣旨のキャンペーン活動を開始した。そのキャッチフレーズは、AT&Tが発表したプレスレリースにも見られるとおり、「AT&Tは単なるケーブルテレビ会社ではない」である(7.24付けAT&Tのプレスレリース、”AT&T Details Results and Outlines Growth Plans For Broadband Business “More Than a Cable TV Company”)。
 つまりAT&Tブロードバンドは単なるケーブル会社ではなく、住宅用世帯に対し、高度ケーブルネットワークを通じて、ケーブルサービス(特にデジタルケーブルサービス)、ブロードバンドインターネット、ケーブル電話サービスをパッケージで提供する企業であって、この試み(すなわち、AT&Tのアームストロング会長が推進してきた政策)は着々成功しつつあるというのがその趣旨であった。
 その骨子は次のとおり。
  • 高度サービス加入者数の成長状況:AT&Tブロードバンドは約、1,200万の加入者数を有しているが、うち、310万(デジタルビデオ)、84.8万(ケーブル電話)、130万(ケーブルモデム高速インターネットアクセスサービス)であって、計530万の加入者が高度サービス加入者になっている。 AT&Tブロードバンドの2005年における目標普及率はデジタルビデオ(50%)、ケーブルテレビ電話(30%)、ケーブルモデム高速インターネットアクセス(20%)であるり、AT&Tブロードバンドは充分この目標を達成できる。
  • 業績向上の見通し:AT&Tブロードバンド経理担当役員のソマーズ氏(Sommers)は、これまでTCI,Media Oneから引き継いだケーブル網に対する巨額の投資(1000億ドルと言われる)が一段落した今日、今後、さらに経費の縮減、リストラ(従業員数を53,000人から43,000人に縮小)を行うことにより次のような少なくとも、標準のケーブルテレビ会社並みの業績を確保すると確約した。(a)デジタルビデオ部門はすでに高収益を上げている。高速インターネットアクセス部門、デジタルケーブル部門はそれぞれ、2001年第3四半期、今後9ヶ月間で収支均衡にする(b)上記により、今後3年間に他のケーブル会社並みの40%のEBITDAを確保する。

長期化が予想される解決

 AT&Tブロードバンドの帰趨についての解決は私見によれば、今後かなりの時日を要するものと考えられる。その根拠は次の通りである。
 第1は、現在AT&Tは、相当数の企業からの統合、合併についての話し合いを行っている。接触先が多くなるについて、買収を希望する側、売り手側の利害が交錯し、最終解決に向けての決断が遅れると考えられるからである。
 米国のジャーナリズムは、AT&Tと話し合いについて接触を行っている企業として、AOLTimeWarner(ケーブルテレビで米国第2位、総合メディア企業)、CoxCommunications(業界第5位のケーブルテレビ会社),Cablevision Systems(業界第7位のケーブルテレビ会社)、Walt Disney等を上げている(多くの米国の新聞が報道しているが、例えば2001.7.25付けのyahoo.online ”Media Giants Swarms Around AT&T Broadband”)。
 これと関連し、AT&Tの役員たちはAT&Tブロードバンドの業績が上向いていること、及び、AT&Tがこれまで、約1000億ドルの巨費をAT&Tブロードバンド部門に投資してきた経緯からして、先にコムキャストが提示した580億ドルの買収価格はあまりにも低く、売却金額は少なくとも700億ドルを上回るものでなければならないと主張しているという(2001.7.24付け、ファイナンシャルタイムズ、”AT&T insists on right price for cable even as profits sag”)。
 AT&Tは当面、このような強気の姿勢(公式の他社との話し合いでどれだけの売却価格を提示するかは不明であるにせよ)を取り得る立場にある以上、いづれの取得希望予定企業との成約をも難航させる要因にはなろう。
 第一は規制機関が他社によるAT&Tブロードバンドの取得の案件について、どう出るかの問題である。当初、コムキャストのAT&T取得の発表が行われた当時は、アナリスト達は一様に、FCCを始めとする米国規制機関は、両社の合併拒否を行うことはあるまいとの見解を示した。保守党政権下で、FCCは現在、ケーブルテレビ相互の持ち株保有限度を緩和(現在の30%の限度額を引き上げる)する規則を策定中であるし、RCCのパウエル新委員長は企業の合併問題をも含め、原則的に不介入方針を取ることで、知られているからである(因みにAT&Tブロードバンドとコムキャストの市場シェアはそれぞれ、23%と11%)。ところが、まだ初期段階にあると見られるAT&TブロードバンドとAOLTIme Warner両社統合(AOLTimeWarnerの株式シェアは18%)の話し合いに対しては、概ね,拒否されるか、あるいは統合会社の事業運営に大きな支障となるほどの条件が附与され、規制機関との関係で実現が不可能になるだろうとの見方が強い(例えば2001.7.25付け”yahoo.com”Buying AT&T cable to face tough regulators-analysts”)。
 AT&Tが自社の既定方針を貫き通せるか、他社からの攻勢に負けてAT&Tブロードバンドdの売却に踏み切らざるを得なくなるかを決定するのは、もちろんAT&T株主の意向次第であるが、上記の情勢からしてAT&Tブロードバンドの業績がAT&Tが説明した通り、今後も向上するか否かの見極めが大きな決め手となる。
 大胆な推論を敢えてすれば、(1)いづれに定まるかの見極めは、2001年第3四半期あるいは第4四半期の決算後、(2)また年内にAT&Tの身売りが定まっても、規制機関が承認するのは、2002年の上半期または下半期ということになろう。

  注:例えば米国の電気通信業界についての著名は独立アナリストのJeffrey Kagan氏はAT&Tアームソトロング会長が、7月23日に行った記者との電話会議について、「本日の電話会議は、AT&Tはブロードバンド部門が独立会社として将来輝かしい将来を有している点に関し、自社の立場の弁護に大きく貢献した」と述べている。




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