海外進出に成功したテレフォニカ・グループ
ー将来は中南米地域の経済情勢に掛かるー
2001年7月15日号 欧州の既存電気通信事業者がこぞって業績不振で悩んでいる中にあって、スペインのテレフォニカ・グループの業績は比較的好調である。
2001年第1四半期のテレフォニカ・グループの決算―収入・利益ともに大きく拡大―
この業績好調の主な理由は海外事業の成功にある。テレフォニカ・グループは同グループ前々代のベラスケス会長が1990年代の初頭に、周囲の強い反対を押し切って中南米諸国に対する大掛かりな投資作戦を開始した。以来、10年が経過している。 この間、テレフォニカの海外投資は見事にその成果を収めた。2001年第1四半期には、同社の中南米地域の電気通信事業(事業グループ、Telefonica Latinoamericana)の収入は国内部門電気通信事業事業グループ(Telefonoca de Espana Group)の収入を上回るまでに成長した。
周知の通り、中南米地域の多くはかってはスペインの植民地であった。以来、スペインとこれら地域は経済的,文化的なつながりを絶やさず,密接な国際関係を続けている。テレフォニカは、このように数百年にわたる歴史的な両地域間の緊密な絆を踏まえ、この利点を生かして、海外事業を成功させた。最近、業績悪化のため海外市場からの大幅な撤退を発表したBTとは対照的な成果だと評価できよう。
もっとも、中南米への進出を業績の支えにしているスペインの大企業はテレフォニカだけではない。REPSOL(石油)、ENDESA(電力)、Banco Santander Central Hispano(金融)、Banco Bilbao Vicaya Argentaria(金融)等スペイン企業の中南米地域への投資は増大しており、投資残高は1000億ドルに及ぶという。国内市場が狭いスペインの経済は中南米市場を取り込んで発展を続けているのであって、スペイン、中南米市場は今や、一蓮托生なのである(注1)。
ただ、中南米市場は、その地域における3大国のブラジル,アルゼンチン,メキシコともにかって強烈な通貨危機に見舞われたことがある。現在でもアルゼンチン,ブラジルの経済が安定していないため、当面の業績が好調であるにもかかわらず、テレフォニカの株値はさえない。さらに、スペイン市場での競争も激しく、アナリストたちはテレフォニカがこれまでのような順調な増収増益基調を維持することは難しいと観測している。
以下、2001年第1四半期の決算の数字を基にして、テレフォニカの事業を分析するとともに、同社の将来を展望してみる。
以下、2001年第1四半期におけるテレフォニカ・グループの業績、加入者基盤を示す3つの表を示す(注2)。
表1 テレフォニカ・グループの業績(単位:100万ユーロ)
項目 2001年第1四半期 2000年第1四半期 増減率 営業収入 7,603.3 6,447.7 17.9 EBITA 3,128.2 2,819.8 10.9 営業利益 1,355.6 1,183.6 14.5 純利益 431,8 346.0 24.8
表2 テレフォニカ・グループの加入者基盤(単位:1000)
項目 2001年3月 2000年3月 増加率 電話回線数 37,460.7 24,303.6 54.1 スペイン 20,511,9 19,510.6 5.1 その他諸国 16,948.8 4,793.0 253.6 携帯電話加入者数 19,259,7 12,205.9 57,8 スペイン 13,192,1 10,260.2 28.6 その他諸国 6,067.6 1,945.8 211.8 ペイテレビ加入者数 654,9 348,5 87.9 スペイン 327,6 215.0 52,3 その他諸国 327,4 133,5 145,3 総 計 57,354.2 36,858,0 55.7
表3 テレフォニカ・グループの事業部門別営業利益(単位:100万ユーロ)
項目 2001年第1四半期 2000年第1四半期 スペイン・グループ 579.0 436.3 携帯電話グループ 446.2 360.4 中南米グループ 634.4 561.8 データーグループ ‐32.5 1.1 Terra-Lycos ‐115,2 −72.6 電話帳ビジネス −16,3 0.3 メディアグループ ‐6.7 ‐15.2 Atento グループ ‐4.8 2.7 その他の子会社 12.2 2.5 調整項目 ‐38.2 −23.8 総 計 1,355.6 1,183.8
注3:AtentoグループはASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)を業とする上記の3つの表から読み取れるテレフォニカ・グループの事業動向、業績の特色を以下に列挙する。
- 2001年第1四半期(2001.1.1−3.31)の営業収入は前年同期に比し、17.9%と堅調であった。純利益は収入の増を上回り、24.8%の伸びを示した。同社のアリエルタ会長は利益が急増した理由として、グループ全体でコストの減少に努力した点を力説している(表1)
- 収入増,利益増の原因はテレフォニカ・グループのスペイン、海外における加入者基盤を調べるとより明かになる。2001年3月末の同社の総加入者数(電話回線数+携帯電話加入者数+ペイテレビ加入者数)は前年同期に比し,55,7%増え5735万となった。特に、中南米諸国における電話機数が2.5倍と大きく増え、グループに占める比率も42.6%と高くなっている。この傾向が続けば、今後,数年のうちに、中南米諸国での電話機数が本国の電話機数を上回ることとなろう(表2)
- 事業部門別に営業利益を見ると、テレフォニカ・グループのどこの事業部門が利益を生む原動力になっているかがよく判る。事業部門の主体は、スペイン・グループ(Telefonica de Espana Group,スペイン本国の固定電話サービス提供を行う)、携帯電話グループ(中南米外の携帯電話事業を行う)、中南米グループ(中南米における固定電話・携帯電話を含むすべての業務を行う)の3グループであるが、営業利益の絶対額では、中南米グループがトップであって、テレフォニカの海外市場への依存度の大きさが伺える(表3)。
- テレフォニカ・グループは、世界有数のISPであるTerrq-Lycosを傘下に有しているが,同社は巨額の赤字を出しており、当面、同グループのお荷物になっている。また、その他の新規・付帯事業部門(データ,電話帳事業、メディア)も軒並み、業績が不振である点に注目すべきである(前任のビラロンガ会長は、採算を考えず,業務の多角化に走った点を批判されている)。
テレフォニカ・グループの経営の問題点と将来テレフォニカ・グループはこれまで、電気通信自由化の環境の下でたびたび他の電気通信事業者との提携を誘われながらも結局,独自路線を貫いてきた。最新の動きとしては,2000年の3月から6月に掛けて同グループの前ビラロンガ会長が積極的に推進したオランダのKPTとの合併案件があった。
しかし、この案件は主として、スペイン内の政界,議会筋からの強い反対を受け失敗に終った。俊敏さ、決断力を高く評価されながらも、とかく独断専攻の非難を受けていたビラロンガ会長は、2000年7月末に辞任に追い込まれ、後任にはアリエルタ氏(Cesart Alierta)が就任した。アリエルタ氏は前任者とは対照的で温和で、着実な実務家タイプの経営者のようである。アリエルタ氏は、CEOとしてアブリル・マルトレル氏(Abril―Martorell)を登用、CEOを置かず単独の意思決定を好んだビラロンガ氏とは異なった経営スタイルを取っている。就任以来、約1年、この間前述した通りテレフォニカ・グループの業績は大いに伸び、アリエルタ氏の評価はまずまず高いようである。
テレフォニカ・グループの業績がこれまで総体的に好調であったのについては、次ぎの三点が挙げられよう。第一点は,既に述べた中南米地域への進出の成功であって、これは同グループの経営陣の功績に帰するものである。第二点は、スペインが電気通信自由化を他のEU先進諸国(英国,ドイツ,フランス等)より遅れて実施に移したことである。
EU諸国の電気通信完全自由化の実施は欧州委員会が定めた1998年1月1日であったが、スペインは準備が整わないことを理由に、実施の延伸を申請し結局,11カ月後の1998年12月1日から実施を行った。この約1年の差がテレフォニカの市場シェアの防御に大きく貢献したと見られる。
第三の点は、テレフォニカ・グループが3Gのオークションに深くコミットしなかったことである。これは、テレフォニカが汎欧州3Gネットワークを構築して携帯電話分野での他の強豪各社(ボーダフォン、BT,DT,FT等)と覇を競う意欲をそもそも起こさなかった点が幸いしたものであろう。従って、テレフォニカ・グループの負債も3G構築でさほど増えることなく、金融筋からも欧州既存電気通信事業者のなかで稀に見る健全企業だとの評価を受けている。
このように、テレフォニカはこれまで比較的順調な経営を維持し今日に至ったが、同社の経営陣は将来について必ずしも楽観しておらず、今後、収益率は低落するだろうと見ている。それは、これまでテレフォニカ・グループの経営に幸いした上記の1,2の利点があるいははなくなり、或は逆に同グループの収益を低下させる要因になる危険性が指摘され始めたことによる。
まず、これまでスペインにおける自由化の進展の遅れがテレフォニカ・グループの業績保持に貢献してきた点について、テレフォニカは最近ようやくローカル・ループのアンバンドリングが進展し同グループの市内通信市場におけるシェアを大きく失う可能性を指摘している。
さらに、業務多角化(インターネット、メディア部門等)による赤字の増大も問題であって、これが同社の収益を大きく損なうような事態が生じれば早晩,政策の再検討を迫られることとなろう。
最近,特に論議を呼んでいるのは、アルゼンチン,ブラジルでの通貨不安が再び取り沙汰されている状況下にあって、テレフォニカが今後,従来通りの中南米市場からの増大する収入,利益を確保できるか否かという点である(注4)。
例えば、両国の通貨が大きく切り下げられるという事態が今後起きるとするとテレフォニカ・グループの業績は大きく,低下することを免れない。このような不安要因があるため、同グループの株価は最近かなり下がっている。
テレフォニカ・グループが本年、これまで通り欧州の他の既存電気通信事業者との差異化に成功し、業績向上を図れるか、あるいは、他社並みの業績不振に陥るかを見極めるには、まだしばらくの日時を要するようである。しかも、その鍵を握っているのは,中南米地域の経済情勢であるといえよう。
注1:2001.6.18付けWSJ.com "Spanish Investment in Latin America Provides Wealth ,but Also Has Risks"
注2:この表は、5.16付けのテレフォニカ・グループのプレスレリース、“Telefonica Net Profit Rose 24.8% in the First Quarter of 2001"によった。
注4:中南米諸国でのテレフォニカ・グループの悩みは実のところ、経済情勢,為替問題だけではない。例えば,外資に肝要なアルゼンチン、ぺルーなどの国では、テレフォニカ・グループはTelefonicaを冠した100%子会社(アルゼンチンの南部にサービス提供をするTelefonica de Argentina,ペルーのTelefonica de Peru)により、かなり自由に経営を行っているようである.。しかし、チリーで同社がマジョリティーの資本を持つCTC(Compania de Telecommunicaciones de Chile)では、テレフォニカ.グループはチリー政府の厳しい料金規制のため、欠損を続け、料金値上げについて長期にわたり交渉中である。テレフォニカ・グループが中南米における直接投資の詳細を公表していない理由は、国ごとの業績のアンバランスにあるのではないかとも考えられる。
注5:注2で紹介したWSJの論説の他、2001.6.25付けのBusiness Week online,"The Wrong Call on Telefonica?" The Spanish telecom is caught in the downdraft generated by its debt-ridden European peers. A closer look finds a lot to like"
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