DRI テレコムウォッチャー




ベルアトランティックとGTEの合併による

         巨大電気通信会社  Verizon Communications  誕生へ


2000年7月1日号


FCC(米国連邦通信委員会)は6月16日、21箇条の条件付でベルアトランティックとGTEの合併を認めた。両社は6月末にも両社を統合した巨大電気通信企業、Verizon Communicationsを発足させると発表している。両社が合併で合意したのは98年7月28日のことであって、ほぼ2年近くのFCC審査の後にようやく宿願を達した。新会社は電話のアクセス回線数(6300万)、携帯電話加入者数(2500万)においてライバルのSBC Communicationsを抜いて米国最大、また売上げ高(1999年ベースで約600億ドル)でAT&Tに次ぐ米国第2位の電気通信会社となる。
ベルアトランティックとGTEの両社は統合の条件として、域内電気通信市場の開放(同時に開放した市場からの長距離通話サービスの開始)及び自社営業区域外への電気通信サービスの提供を確約している。すでに大きな市場シェアと優れた経営資源を兼ね備えている点を勘案すると新統合会社は AT&T、MCIWorldCom、SBC Communicationsといった米国の大手通信会社に強烈な挑戦を挑むこととなろう。
以下、FCCがVerizon Communicationsの設立に当たって付した条件、Verizon Communicationsの経営指標、米国大手電気通信会社の変貌等について解説する。


FCCが競争確保のために付した条件

FCCの審査が長引いた理由はアトランティックとGTEという強大会社の合併をどのような条件を付ければ認めることができるかを検討するのに期間を要したからであった。両社は同じく市内電話事業、携帯電話事業を核とした事業運営を行っているといってもGTEは長距離電話事業への進出を禁じられていない。このため長距離通信の提供もインターネットバックボーン回線の提供も行っている。このように規制の異なる2社を合併させる条件設定が難しい問題となった。
幸いベルアトランティックは競争業者の多いニューヨークの首都圏を営業エリアを抱え、かねてから長距離通信事業への進出に熱心であり、FCCとの緊密な連携のもとに長距離通信事業提供の準備を進めてきた。1999年12月には他の地域電話会社に先駆け、FCCからニューヨーク州における長距離・国際通信提供の認可を取りつけ、現在サービスを提供している。その他の点でもベルアトランチックはFCCの競争促進政策に協力的である。このようなFCCと同社の信頼関係が今回のFCCによる裁定に大きな役割を果たしたといえよう。事実FCCが合意承認に際し付した24箇条の条件も、ベルアトランティックが準備した原案がベースになっている。
24箇条のほとんどは新統合会社が競争会社に対し回線を開放、利用させる条件を示したものであるが、ここではもっとも重要なGTEの所有するインターネットバックボーン運営会社のGenuityの取り扱い、営業区域外長距離通信サービス提供の条件について紹介する。


● VerizonはGenuityの株式9.5%の所有を認められる。(つまり新会社は現在GTEの完全子会社であるGenuityの株式を市場開放して90.5%を売却しなければならない)もっとも、同社が5年以内に自社営業地域の95%を越えるエリアで長距離通信事業提供の認可を得た時にはGenuity株式の買い戻しをすることが出来る。

● 合併終了後、Verizonは3年以内に自社営業区域外の地域で、(1)競争地域電話サービス(従来からの電気通信サービスを含む)を促進するため、最低3億ドルを支出すること及び(2)最低25万の加入者に競争地域サービスの提供を義務付ける。同社は上記のいづれかを達成できない場合は7.5億ドルの支払いを要する。

(6月16日、FCCニュースリリース:Federal Communications Comission approves Bell Atlantic - GTE merger with conditionsによる)

FCCのケナード委員長はこの案件の裁定に当たり発表した声明文のなかで「この合併がMa Bell(筆者注:1984年AT&T分割以前の地域電話サービスがベルシステムの傘下で一元的に取り扱われていた体制)の復活だと主張するものもでるだろう。しかし私の統合支持は申請者であるベルアトランティックとGTEが電気通信市場を競争業者に開放すること及びブロードバンド技術の導入の誓約をしており、FCCがこれを強制できることによるものである」と述べている。

(6月16日、FCCプレスリリース:Statement of FCC Chairman William E. Kennard on the commission approval of Bell Atlantic/GTE merger)


Venizon Communicationsの経営指標

今回の両社合併の主役はベルアトランティック、GTEのそれぞれのCEO兼会長のサイデンバーグ氏(Ivan Seidenberg)とリー氏(Charles R.Lee)氏である。FCCから認可が下りたとき、サイデンバーグ氏は「Verizonの規模、範囲、市場シェアの大きさにより、われわれは米国及び全世界におけるニューエコノミーの成長を利用できるだろう」と、またリー氏も「今回の合併によりわれわれは顧客に対し、国内で最もカバレッジの高い市場に、また世界ではもっとも魅力のある市場に一連の高品質、高成長のサービスを提供できる」と述べ、新会社の将来性について強い自信を示した。
当面、両者は共にCEOとなるが、2002年6月30日からリー氏は会長に移り、サイデンバーグ氏のみがCEOとなる。さらに2004年6月30日からはリー氏は退職し、サイデンバーグ氏がCEO兼会長となる。(注:*1)
以下にベルアトランティックの資料(注:*2)に基づき、新生Verizon Communicationsの幾つかの経営指標(2000年3月末のベルアトランティック及びGTEの経営指標の和)を示す。同社が市内アクセス回線、携帯電話事業において最大であるばかりか長距離サービス加入者も有し、さらに海外でもサービスを展開している様がうかがわれる。

(注:*1) 6月9日、ベルアトランティックのニュースリリース:Bell Atlantic and GTE to Create Verizon, The Next Great Brand in Communications及びBell Atlantic Merger with GTE Verizon Leadership Structure

(注:*2) 6月9日、ベルアトランティックのニュースリリース:Bell Atlantic Merger with GTE Verizon communications fact sheet


営業収入:
600億ドル
株式総価格(2000年6月9日現在):
1500億ドル
従業員数:
260,000
固定回線市場の世帯数:
3300万
米国におけるアクセスライン数:
6300万
長距離電話加入者数:
400万
携帯電話加入者数:
2500万
ページング加入者数:
400万
国際市場におけるアクセスライン数:
400万
国際市場における携帯電話加入者数:
600万



今後に予想される大型合併

FCCは今回のベルアトランティックとGTEの合併承認の裁定により、米国における大型電気通信事業者の合併に対する裁定をおおむね終了した。残っているのは昨年10月に合意されたMCIWorldComによるSprintの合併である。しかし最近、EU(欧州委員会)と米国司法省は合同協議の結果、両社の合併は国際通信部門、インターネットバックボーン部門における競争を大きく阻害するとの結論を出し、7月6日に予定されているEUの裁定は多分MCIWorldComに対し、全面的に合併を断念するかそれでなければSprintの携帯電話部門のみの統合にとどめるべきだとの内容になるものと外紙は報じている。(注:*3)
まだEUの裁定が出ない現在の時点で推測をするのは危険であるし、MCIWorldComが裁定に対しどのような意思決定をするか(Sprint合併を完全に断念するのか、あるいはSprintの携帯電話部門のみを合併するのか、さらには第3の方途があるのか)は未定である。
しかし仮にMCIWorldComがSprintの携帯電話部門のみを買収し、他の部門が売却されるとなると、またまた米国電気通信分野を狙っての大型買収の大きな材料が提供されることとなる。
例えば注目されるのはドイツテレコムの動きである。ドイツテレコムはかねがね米国電気通信市場への進出に並々ならぬ執念を燃やしており、先にもQwest Communications(Qwestが合併で合意していたUSWestをも含め)と合併について合意に近づいたが、USWest側の反対で断念した経緯がある。
最近ドイツテレコムはまたまた旧米国地域電話会社の買収を目指し、その目的のため大量の社債を発行する計画だと報道されている。(注:*4)旧地域会社といっても4社中2社(SBC Communicationsと新生のVerizon Communications)が巨大会社であって、買収する側に立つことはあっても買収対象にはなり得ない。他の2社のうちUSWestはすでに述べたようにQwest Communicationsに合併される予定となっている。
このような状況からすると、米国電気通信業界における大型合併は本年中に再び、実現に至るか否かは別にして、多分外資も加わった上でジャーナリズムを賑わわせることになる可能性が高い。

(注:*3)例えば6月22日、フィナンシャルタイムズ:WorldCom deal blocked

(注:*4)例えば6月16日、cnet.com:Deutche Telekom hunting Baby Bells





消滅し始めた地域電話会社と長距離電話会社の垣根

表1-1、1-2に米国の大手通信事業者の状況を表示する。



表1-1 旧地域電話会社
会社名
収 入
利 益
利益率(%)
備 考
Verizon Communications
58,510.2
8,234.8
14.1
BellAtlantic、GTEを合併
   Bell Atlantic
33,174.0
4,202.0
12.7
上記のVerizonComの内訳
   GTE
25,336.2
4,032.8
15.9
SBC Communications
49,489.0
8,159.0
16.5
パシフィックテレシス、アメリテックを合併
Bell South
25,224.0
3,448.0
13.7


表1-2 長距離電話会社
会社名
収 入
利 益
利益率(%)
備 考
AT&T
62,391.0
3,428.0
5.5
MCIWorldCom
37,120.0
4,013.0
10.8
Sprintとの完全合併は拒否される
Sprint
19,930.0
-935.0
-4.7
Qwest Communications
17,109.6
1800.5
10.5
本年内にUSWestを買収の予定
   Qwest Communications
3,927.6
458.5
11.7
上記のQwest Communicationsの内訳
   USWest
13,182.0
1,342.0
10.2


注1:収入、利益の単位は100万ドル

注2:この表の数字は1999年末のものであり、資料としてはfortune.comホームページのIndustry Snapshot:Telecommunicationsを使った。また合併が確定しているBellAtlanticとGTE、本年内にUSWestを吸収するQwest Communicationsについては、それぞれ合併後の会社の1999年の収支状況を示した。(つまり1999年に合併が終了していて営業活動が行われていたかのように取り扱った)また内訳として合併前の会社の収支状況を示した。


上記の2つの表から、判読できる事柄を数点述べてみよう。
地域電話会社の利益率が軒並み10%を超えており、長距離電話会社の利益率より高いのが目立つ。その理由は2点。1つは地域電話会社のサービスの主体である地域サービス分野への競争導入が遅れている結果、これら会社にはいまだ料金を引き下げるドライブがさほど掛かっておらず、比較的有利な料金設定が出来ていることである。次に米国経済は1999年未曾有の好景気を謳歌したのに伴い電気通信に対する需要は大きく伸びた。地域電話会社は携帯電話の急速な加入者増をも含め、このような状況の下で設備増、トラッフィク増による収入、利益の拡大を実現することができた。
本文でも述べたとおり急速に業績を伸ばしてAT&Tを急追し、間もなく念願のSprintをも手中に収めるかと考えられていたMCIWorldComの前に英米規制機関(EUと米国司法省)が強硬なSprint反対の姿勢を示している。これによりAT&Tの業界第1位の地位は少なくともここ1、2年は安泰と見られるようになった。6月15日AT&Tは待望の米国第3位のケーブルテレビ会社MediaOneとの合併をFCCから認められ、加入者数1500万を有するケーブルテレビ業界第1位の地位は不動のものとなった。また同社はFCCがVerizon Communicationsの設立を認めるやただちに、Vodafone Airtouch、GTE、PrimoCo PCSの3社から3市場計130万にのぼる携帯電話システムを購入することで合意した。これでAT&Tの有する携帯電話加入者は1500万となる。これら2件の大型買収により、利益はともかく2000年度の同社の収入はかなり大きく増えることとなろう。
最後に、本年地域電話会社と長距離電話会社の境界線が崩れる現象が始めて現われるようになった。その良い例は本年7月末にも実現すると見られるQwest CommunicationsによるUSWestの吸収である。合併会社はインターネット技術を軸とした高品質、高度サービスをベースとし、USWestは同社が米国、中西部に有す顧客ベース(地域電話サービス提供加入者)を有する利点をフルに利用して将来の事業計画を立てることとなろう。 
1996年電気通信法の大きな目標の1つはまさに電気通信業界の垣根を取り払うことであったのであるが、法律制定後3年以上を経過した今、ようやくこの目標達成の兆しが見え始めたということができる。




文中の参照資料のメディア・機関へはこちらから
* FCC(米国連邦通信委員会:Federal Communications Commission)

* フォーチュン・コム

* フォーチュン・コム(Industry Snapshot: Telecommunications)

* フィナンシャルタイムス



文中の各社へはこちらから
* AT&T

* Bell Atlantic

* Bell South

* Genuity

* GTE

* MCI WorldCom

* MediaOne

* SBC Communications

* Sprint

* US West

* Qwest Communications

* Verizon Communications

* Vodafone airtouch



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