シェアを大きく伸ばし他社を圧倒するノキア (欧州最大の携帯電話機メーカー)
2001年5月15日号 ノキア(フィンランドの通信機器メーカー、携帯電話の製造で世界最大)は、本年4月下旬に2001年第1四半期の決算を発表した。欧米のIT、電気通信事業者、通信機器メーカーが軒並減益、減収、あるいは赤字決算に追い込まれているなかにあって、同社は前年同期に比し、売上で22%、純利益で15%の業績アップを示している。同業他社(モトローラー、エリクソン等)が今期いずれも業績不振に悩まされ対策に苦労しているのと好対照である。
大きくシェアを伸ばしたノキア
特にノキアの圧勝は同社と並ぶ北欧の巨大通信機メーカーのエリクソンに深刻なインパクトを及ぼしている。エリクソンは、携帯電話用交換機、基地局も含め、売上の主体はネットワーク機器であるが、携帯電話部門の不振のため今期大幅な赤字を発表、その対応に追われている状況である。
本文では、明暗を分けたノキアとエリクソンの決算、ノキアの強気な今後の業績見遠し、エリクソンの赤字解消対処策、ノキアの快進撃が欧州携帯電話業界に及ぼすインパクトについて解説する。
本年4月20日、ノキアは2001年4月期の決算を発表した。次表に示すように、同社の携帯電話機部門、ネットワーク部門はともに業績が好調である。売上総額は80.07億ユーロで昨年同期比22%の増、純利益は10.45億ユーロで15%の増とほぼ先に同社が発表した業績目標に達している。
表 ノキア、エリクソンの収入、利益(単位:1億ユーロ、2001年第1四半期)
ノキア エリクソン 収入 伸び率(前年同期比) 収入 伸び率(昨年同期比) 携帯電話機 58.30 +20 7.9 −52 ネットワーク用機器 20.22 +35 48.5 +13 その他 1.55 −20 0.5 −22 総計 80.07 +22 56.9 −5 利益 10.45(純利益) +15 −0.53(営業利益) 0.83
(前年同期の営業利益)
注1:上記数値はいずれも両社発表のプレスレリースによった。ただ、エリクソンの数値はクローネで表示されていたので、ノキアとの比較の便を計るためユーロに換算した。
注2:「ネットワーク用機器」は筆者が付した名称である。原名はそれぞれ「Nokia Networks」、「Systems」であるが、双方ともに固定・携帯のネットワーク関連機器のすべてを含んでいるはずであるので、比較可能であろう。ノキアのCEO、Ollila氏は決算の発表に当たりおおむね次ぎの通りのメッセージを発表すると共に「業界でのノキアの地位が現在ほど強くなったことはない。われわれはさらに効率を高め、ノキアのブランドによる製品の競争力を強め、断固とした施策の実施により、高い利益率の向上に努める」と業界トップメーカーとしての業績を誇示し、事業の将来についての強い自信を表明している。(Ollila氏のメッセージはノキアのプレスレリースから引用した)。
- われわれは厳しい経済環境下での日々の挑戦をマネージするとともに、業界におけるリーダシップをより強固なものにすることができた。また携帯電話機、ネットワークの双方の部門でシェアを高める(携帯電話部門では、2000年末の30%→35%へ)ことができた。
- 現在の厳しい経済情勢とGPRSへの切り替えが過渡期にあるため、2001年後半の需要は不透明。しかしGSM電話機(現行の欧州第2世代の電話機)の伸びも堅調である。
- 2001年末から2002年始め(3Gサービスが始まる)にかけて携帯電話市場は大きく成長する。2001年の携帯電話需要は4.5億台‐5.5億台と予測する(筆者注;携帯電話の2001年末需要については、事業者、コンサルタントにより、幾つかの予測が行われているが、2000年と横這い近い所まで伸びが鈍るのではないかとの弱気な見方も強い。2001年のノキアの推計値は下限の4.5億を取ってもかなり強気である。なお調査会社のDataquestは、世界における2000年の携帯電話の総販売台数を総計4.12億であったと推計している。
- 2001年には、収入増20%達成が可能。2002年には3Gの需要が見込まれるので、25‐30%の事業の伸びが期待できよう。
ソニーと携帯電話製造部門合併の方策を選んだエリクソン表1であきらかな通り2001年第1四半期にエリクソンの携帯電話収入は前年同期に比し52%落ちこんだ。つまり売上が半分以下になったということである。エリクソンは携帯電話機の出荷数が昨年同期の1050万台から620万台に下がったと発表しており、上記の売上減の数字を裏づけている。
かりに2001年第1四半期の携帯電話機の総出荷数が昨年並み(1億台強)と仮定すれば、エリクソンのシェアは6%程度に下がったということになる。次項の図で紹介する通り、Dataquest社の推計によれば、携帯電話機分野における2000年末のエリクソンのシェアは10.0%である。3ヶ月間で4%という大変な落ち込みであって、同社は抜本的な体制の立て直しを迫られることとなった。
もともとシェアの低下はここ数年来続いていることで、今に始まったことではない(Dataquestの資料によればエリクソンのシェアは1997年の16.4%から2000年の10.0%へと3年間で6.4%も下がっている)。エリクソンの事業の中核はネットワーク用機器であって、収入に占める携帯部門のシェアは20%以下である。従って、昨年にもアナリストの多くは同社が業績の足を引っ張る携帯電話部門を改善するため、他社と提携すべきだとか携帯電話機製造部門から撤退すべきだとかの意見を出してきた。問題点を意識しながらも,抜本的な対策に踏み切れなかったエリクソンも本年初頭からのこの急速な売上の落ち込みを座視するわけにはいかなくなった。
エリクソンの携帯電話機部門がどうして弱いのかについては様々な論議が為されてきた。共通して挙げられる原因は性能面ではノキア製品に劣ってはいないものの、電話機のデザインが顧客にアピールしないという。こうなると携帯端末のデザイン企画者の感性の欠如ということになるが、今やわが国はもちろん、世界のどこでも携帯電話はファッション化してきている。ノキアは携帯電話を車、ハンドバック等ファション商品の一種と考える視点に欠けるところがあったということなのだろう(注3)。
(1) 電話機製造のアウトソーシングと大量の減員
エリクソンは本年1月末、電話機製造を集約して、そのすべてをシンガポールの機器メーカー、Flextronics International Ltdにアウトソーシングすると発表した。エリクソンは自社でしか行えない携帯電話機のR&D、設計、販売等の中核経営部門に専念し、他はアウトソーシングにより、コストを大幅に削減しようというバリューチェンの経営手法に則った決断である。
この決定は当然大幅な人員削減を伴う。エリクソンはすでに本年3月、主として上記の携帯電話部門のリストラクチャリングにともない12.000名の人員削減を行うと発表したが、第2四半期の業績発表の機会に、さらに10000人の減員計画を実施することを明らかにした。現在、エリクソンの社員数は107000人であるが、この20%近くの減員実施により、2001年末の社員数は85000人となる。また、携帯電話機部門の従業員は5000人にスリム化される。
(2) エリクソン携帯部門再建の切り札―エリクソンとソニーの携帯電話部門統合のうえ合弁会社設立へー
エリクソンが今後数年のうちに3Gが携帯電話の主流になる将来をも展望して選んだ選択肢はソニーとの提携であった。エリクソンとソニーの両社は4月24日、両社携帯電話部門を統合、合弁会社を設立する件について予備的合意を結んだ。 その概要は次ぎの通り。
- 名称はSony Ericsson Mobile。会長、社長はそれぞれ、ノキア、ソニーが派遣する。従業員は約5000人。資本はエリクソン、ソニーの折半。
- 設立の目標時期は2001年10月1日。
- ソニーのデザイン、マーケティング、ブランド、流通チャネルの分野での長所、マルチメディア製品、東南アジアにおけるプレゼンスとエリクソンの技術力、ネットワーク製品の強さを結合することにより、強力な新時代の携帯電話メーカーになることが目標。
- 当面する最大の課題は両社の技術力を結集して、統一ブランドの新携帯電話機を2002年当初にでも市場に出すことである(注4)
同額資本支出の合弁会社を創るといいながら、エリクソンのプレスレリースには同社が大きくソニーの実力に頼りたいという願望がにじみ出ている。
家電最先端製品のメーカーとして国際市場ですばらしい成功を収めているソニーではあるが、携帯電話の分野では欧州はもとより、わが国でも松下通信、三菱電機、NEC、京セラ、東芝に及ばず、そのシェアは微々たるもの(Goldman Sachsの推計では0.9%)である。従って、携帯電話が技術進歩により家電化しつつある現状を踏まえ、自社の得意の技術を駆使できる絶好の機会として、エリクソンと提携して欧州への本格進出を決意したものと見られる。
技術、マーケティングに秀で、海外市場でも大きな業績を上げている商売上手なソニーのことである。特に3Gの時代ともなると、同社がこれまで画像、ゲームの分野で蓄積してきた技術力が端末開発に大きな威力を発揮するだろう。
エリクソン、ソニーの提携による新会社が欧州携帯電話業界で確固とした地位を占める可能性は高いと思われる。ノキアの独走で体勢の見直しを迫られる欧州の携帯電話会社
表: 主要携帯電話メーカの市場シェア
表1を見て頂きたい(注5)。ノキアに次ぎ、世界第2位の携帯電話機器メーカーであるモトローラも1997年以来、2000年に至るまでシェアを7.5%落した。同社はまた、本年第1四半期にここ10数年間で始めて赤字決算を発表しており、また合計22000人にも及ぶ従業員の削減を決定している。前項で解説したエリクソンの状況とまったく類似した現象が生じていると言ってよい(注6)。同社は半導体部門の不振も赤字決算の原因になったとしているが、携帯電話の予想以上の販売減が大きく財務の悪化につながったことを否定していない。
実は4位以下の携帯電話メーカーも、シェアが一桁台であると製造に当たって規模の経済が作用しない。そのうえ技術進歩に追いつく為の研究開発への投資、他業者との販売競争に追いつくためのマーケティングの強化と数えていくとコストは嵩むうえに、携帯電話機の価格は低落している。このような情勢にあって、エリクソン以外にも類似の抜本的な携帯電話部門刷新の策を検討しているメーカーは多いといわれる。
4月下旬、アルカテルはエリクソン同様、同社の携帯電話機の製造をシンガポールのFlextronicsに委託すると発表した。同社は、その背景として本年第1四半期の携帯電話機の販売数が前年同期の半分になってしまい、利幅が大きく減少したことを挙げている(注7)。ただ同社は大きな減益となったものの、赤字に転落してはいない。
ノキアのOllila氏は5月上旬、(1)2000年末の同社のシェアは、4月に発表した35%ではなく37%であった(2)また同時期に、2001年末にシェア40%を達成すると述べたが、年末を待たず近々達成できるとますます強気の発言を行っている(注7)。
ノキアの一人勝ちは他業者のリストラさらには市場よりの脱落を導きかねない。すでに調査会社Sound ViewのHoffman氏は欧州携帯電話業界について、「市場から撤退する業者が出るのは確実である。しかも今後3ヶ月から6ヶ月で、そのような事態が起こるだろう」と予言している(注8)。
注3:4.20付けファイナンシャルタイムス紙の "Nokia wins mobile fashion stakes" を参照、この記事によればエリクソンの本拠であるストックホルムで若者たちの10人中8人がノキアの電話機を購入するとのことである。
注4:エリクソンの4.20付けプレスレリースの他、4.25付けファイナンシャルタイムス紙の "Sony earmarks $500m for Ericsson" を参照した。
注5:4.20付けエイシャンウォールストリートジャーナル、"Japan Takes Lead in 3G Phones" に引用されたDataquestの資料から作成した。
注6:モトローラの決算に関する記事は数多いが、例えば次ぎの2件の論説。3.26付け "Motorola's Growth Plan" (www.forbes.com)および4.20付け "Motorola says high-tech sector is in recession" (http:news.ft.com)
注7:2001.4.26付け "Alcatel Posts 19% Drop in Earnings; Plan to outsource Mobile Business" ( http:public .wsj. com)
注8:2001.4.20付け"Nokia the Unstoppable" (http:// yahoo.smartmoney.com)
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