明暗を分けた米国スーパーキャリア2社(AT&TとMCIWorldcom)の2000年第1四半期業績
2000年5月15日号
米国のスーパーキャリア2社(AT&TとMCIWorldCom)は4月末、5月初旬に相次いで、2000年第1四半期の業績を発表した。
MCIWorldComは強い増収、増益基調を維持しており業績は好調であった。これに対し、AT&Tは買収したTCI、IBM Global Network等により収入は伸びたものの、利益は昨年同期より大きく落ち込んでおり減益基調が明かに現われた。さらに同社のアームストロング会長が記者会見の席上、昨年10月に発表した数字より本年末の収入、利益の予測率を下方修正したため、同社の株価は大きく下落した。
以下、本稿ではこのように明暗を分けた両社の2000年第1四半期の業績の骨子及び両社の業績の差異をもたらした原因等について解説する。
AT&Tの業績―目立つConsumer Services(住宅部門)の収入の落ち込み
表1 AT&Tの部門別収入(2000年第1四半期)
(AT&Tプレスリリースによる)
サービス項目 収入額(億ドル) 成長率(前年同期対比、%) 総収入に占める構成比(%) Business Services 71 6.0 44.6 Consumer Services 51 -5.6 32.0 Wireless Services 22 40.7 13.8 Broadband Services 15 7.9 9.6 計 159 5.8 100
注1:Business Services及びConsumerServicesの成長率の算出に当たっては、BTとの合弁会社ConcertおよびIBMGlobalNetworkの収入が1999年度からAT&Tにあったものとして算出した。
注2:Wireless Services の収入には1999年に取得したVanguard Cellularが含まれている。(含めなかった場合の成長率は33.1%)
注3:Broadbandの成長率算出にあたり、1999年のTCI等ケーブルテレビ会社(AT&Tが取得した)に関する収入は1999年のAT&T収入とみなした。
上記の業務別収入一覧表で目立つことは、AT&Tのこれまでの基本サービス部門であるBusiness ServicesとConsumer Servicesの両部門(総収入の構成比率で4分の3を占める)の成長が振るわないことである。AT&Tは長距離通話を主体とするConsumer Servicesは競争の激化によりあるいは料金の引き下げにより、さらに携帯電話、IP電話への移行により業務量が収縮したことを率直に認めている。
AT&T収入の約半分を占めるBusiness Servicesの成長率が鈍いのは住宅用加入者主体のConsumer Servicesの収入の減少に劣らず大きな問題であると思われる。AT&Tは別にBroadbandの部門があるので紛らわしいが、この部門のサービスは当面ケーブルテレビサービスの提供が主体である。Business Servicesの部門は音声サービス以外に専用線の販売、インターネットアクセスさらには、ユーザーに対するIPのアウトソーシングサービス部門(AT&T Solutionが行っている)に至るまで、ケーブルテレビ、無線サービス(携帯が主体であるが、固定無線サービスもある)を除くすべてのサービスの提供を行っている。
両部門を合算した2000年第1四半期の総収入は121億ドル、これに対し昨年同期の両部門の収入は120.9億ドルであり、両数字に差はほとんどない。つまりこの四半期には合併により新たに生じた両部門(Wireless Services とBroaband)を除く旧来の基幹部門の成長が止まってしまったという意味で危機的状況が見られる。
次項で説明する通り、MCIWorldComはサービス別収入で音声サービスの収入が分離されており、全収入に占めるその比率が約53%となっている。この数字をAT&TのBusiness ServicesとConsumer Servicesの構成比76.6%とを対比し、AT&Tの脱音声サービス化が遅れていると断低するのは誤りであることを強調しておく。特にBusiness Servicesには非音声サービスの部分が多く入っているからである。AT&Tの収入の伸び悩みがITベースのデーターサービスへの転換の遅れが主原因だとは必ずしも言えない。競合するすべての分野でAT&TがMCIWorldComとの競争に負けていることこそが問題なのである。
批判を浴びたアームストロング会長の予測修正
AT&T一株当たり経常利益は、昨年の61セントに比し53セントと13.1%下がった。この数字はウオールストリートの予想通りである。ところがアームストロング会長が記者への報道発表の席上、本年は通年で収入は6%ないし7%の増(12月の発表では9%)また1株当たりの利益は1.80ドルないし1.85ドル(昨年12月の発表では1.89ドルから1.94ドル)に下がると予測値を変更したのが混乱の元となった。
このため、発表のあった翌日の5月3日にはAT&Tの株式は49ドルから41.93ドルへと急落、3日もさらに39.73ドルへと低落した。これはAT&Tにとっては13年ぶりの出来事だといわれる。このため、一昨年GT傘下のHuges Electoricsの会長からAT&Tにスカウトされて会長になったアームストロング氏には最悪の日となった。同氏は報道陣の対応を過剰だという。しかしこのような事態を招いてしまったのは同氏を始めとするAT&Tマネージメントの責任であることは疑いない。次項で述べるMCIWorldcomの好調さと対比すると長年にわたり優良巨大電気通信会社として名声を保ってきたAT&Tも、ついにたそがれ期に入ったかという感がする。ウォール街は敏感にAT&Tのバイタリティーの衰えを感知したのであって、アームストロング会長の発言はキッカケに利用されたに過ぎない。
また、AT&Tは2001年までに従業員の4%に当たる6200名を削減すると発表した。これも削減に次ぐ削減である。従業員のなかにはアームストロング氏がケーブル事業に巨額の資金を注ぎ込んでおり、その資金を捻出するための犠牲にされているのだとの批判が強いという。
MCIの業績 ―二桁台の増収増益を達成―
表2 MCIWorldComのサービス別収入(MCIWorldComのプレスリリースによる)
サービス種別 収入総額(億ドル) 成長率(前年同期対比) 総収入に占める構成比(%) 音声 53.63 3 53.7 データ 21.46 26 21.5 インターネット 11.02 46 11.0 国際 13.65 31 13.8 計 99.87 14 100
この表で示されるのはデータ、インターネット、国際各部門の力強い成長ぶりである。いうまでもなく、MCIWorldComは世界最大のインターネットバックアップ回線のUUNet(かっては、MCIの所有であったが、合併時に同社のものとなった)を所有しているが、インターネットトラッフィックの世界的な爆発的成長の流れに乗って、同社にいかに貢献しているかが伺える。
同社の利益も大幅に増え、昨年同期の7.24億ドルから13億ドルへとほぼ倍増した。
同社CEOのエバーズ氏は「当社はデータとインターネットが主導する新時代へと通信産業を導いている」と声明を発表し、業界のリーダとしての自負を示した。AT&Tアームストロング会長の記者会見が失敗に終わったのとの対比からすれば、同氏のこの声明はMCIWorldComの勝利宣言であるとも読み取れる。
両社の問題点
実のところAT&Tの抱えている最大の問題点は同社が社運を賭し、1000億ドルの巨費を投じて進行させているケーブルのディジタル化、双方向化である。これによりケーブルテレビ加入者を増やし、地域電話会社に支払うバイパス料を軽減すると共に高速高容量のインターネットアクセス利用者の需要にも応じようとする壮大なバイパス兼ブロードバンド計画である。アームストロング会長は工事は予定通り進んでいると再三再四言明しているが、それでもAT&Tの発表によれば、2000年末に予定されているケーブルテレビ加入者数は40万から、50万、また、高速インターネット加入者数は70万だという。かなりの数ではあるが、IT・電気通信の世界がドッグイヤーで急速に動きつつある現在、少しこれでは進展が遅いのではないか。これと関連し、ケーブル会社MediaOneとの合併申請の承認がFCCから得られていないのがAT&Tの経営全般に影響を及ぼしている。
いずれにせよ今回の業績に現われたMCIWorldComとの格差はあまりにも大きかった。AT&Tが株主、ユーザーからの信頼を回復し、IPべースの業務運営を軌道に乗せるのには経営陣、従業員の異常な努力が必要だろう。 絶好調のMCIWorldComにとって、当面の懸念材料はSprintとの合併がどような条件で認められるかということである。現在、FCC、米国司法省、EU(欧州委員会)が審査に当たっているが、FCCのケナード委員長はこれに懸念を示している。EUも厳しい姿勢で審査に臨む旨を明言しており、すでに欧州観測筋はEUがMCIWorldComに対し、UUNetの切り離し命令を出すのではないかと噂している。皮肉なことに、同社の好業績はSprintとの合併条件を厳しくするための好材料になるかもしれない。
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