DRI テレコムウォッチャー




FCC(米国通信委員会委員長)の新たな規制・組織変革の方針、発表される。

2001年5月1日号

2001年1月22日、ケナード委員長(民主党)の後を受けてFCC(米国連邦通信委員会の委員長に就任した共和党のパウエル氏(Michael K. Powell)は、3月29日、下院電気通信・インターネット小委員会に出席し、その冒頭演説でFCCの新たな規制のあり方、組織変革の方針を明らかにした(注1)。

パウエル氏は1997年1月以来、FCC委員の地位にあり、幾つかのFCC裁定で、反対意見を提出し、ケナード委員長と対立してきた(注2)。従って、就任以前から同氏がケナード氏と異なった通信政策を打ち出すことは、当然、予想されたところであった。

予想通り、今回ようやくその概要が明らかになったFCCの新規制計画は、激動する電気通信業界の将来の目覚しい変貌を指摘しながらも、それゆえに、FCCは積極的に規制を通じて電気通信業界をある定まった方向に導くことは、厳に慎むべきだとの基本方針を強調した。市場原理にすべてを委ね、規制機関はレフリー役に徹するという共和党本流の考え方によるものであるが、前任者のケナード委員長が規制を通じて業界を主導しようとの志向が強かったため、今後、米国の通信規制のあり方は大きく変わることが予想される。

パウエル委員長はまた、FCCの組織変革についても強い意欲を表明し、機能別組織への移行を推進しユーザーのいかなる規制上のニーズにも迅速に対処できる職員の能力、専門知識の向上に力を入れると言明した。

以下、パウエル新FCC委員長の新たな規制方針及びFCC組織変革計画の概要、これら新方針がもたらすインパクトについて解説する。

FCCの目標

電気通信業界は現在、大きく変動している。電話、デジタル放送、ケーブルテレビ、ワイアレスインターネットなどの諸種のサービス領域でかって見られなかったほどの大きな変化が生じており、業界はこの変化に対応しようとしている。 このような変動期にある電気通信業界を規制する任に当たるFCCの責任は重大であって、変化に即応した業務遂行を計る必要がある。
  FCCの目標は、効率的(efficient), 効果的(effective, 反応が早い(responsive)業務遂行を行うことである。
  激しく業界が動いている今日、FCCは将来を予測することは出来ない。ただ、問題が生じた時、充分な能力を備えたスタッフの力により、問題解決を適時適切に行う必要がある。
  FCCの仕事はある日、思い掛けない場所で敵軍に遭遇した軍隊の戦闘活動に似ている。充分な訓練を積み、流動する状況に、迅速に対処できるチームが勝利を得る。

目標達成のための4点の施策事項

上記の目標を達成するため、FCCは次ぎの4点の施策を実行に移す。

l         規制業務の策定に当たってのガイドラインとなる諸種の法令に適合した明確かつ実的な政策ビジョン

l         明確かつタイムリーな政策決定が生み出せる焦点が定まった経営体制。これにより、強力な作業チーム、強固かつ効率的な事業遂行が可能となる。

l         技術、経済に関する専門能力を附与するための広汎な研修プログラム。

l         ダイナミックかつ融合化しつつある市場の実態に即した組織変革

 以下、以上4点のそれぞれの考え方を紹介する。

   政策ビジョン

l         新ネットワークが導入されるにつれて、あまねく安い料金でサービスを提供するとの「ユニバーサルサービス」の目標を遂行する。しかし、これを創造的な方法で行う課題を設ける。

l         これまでの甘い(permissive)絶えずその領域を伸ばして行くような規制を止め、真に必要な規制に重点を置く。

l         明確かつ常習的な濫用の証拠があった場合を除き、規制に基づく干渉は好まない。

l         競争及び、市場力により効果的な成果が生み出されるように努め、FCCの鋳型にはめて、市場を形成するようなことはしない。

l         デジタル・ブロードバンドの方向に規制の重点を移行しなければならないと信じる。しかし、理解不能なこと、予測不可能なことについては、謙虚な態度を取る。

l         FCCはデジタル・ブロードバンドのインフラの発展を容易にするため、あらゆる努力を払う。ベンチャーに投資資金が回り、技術革新が進むようにする。

 

 経営、事業運営の改善

l         予算と連動させた年次戦略計画を策定し、これを実行に移す。FCC,FCCの各職員の成果測定を行う。

l         上記目標達成のため、FCCの生産性測定方法を確立する。

l         米国のどの地域の住民からも、FCCに容易にアクセスしまた申請ができるようIT化を一層促進する。

l         事務処理電子化のメリットを職員の利益と結びつける(訳者注:即ち、在宅勤務を促進する)。FCCには、400名の在宅勤務職員がおり、この勤務を希望する職員でその希望を満たしていない比率は1%未満である)。

 

 技術、経済の専門家を育てるための研修計画

FCCは規制される側の電気通信業界の専門的知識を当てにできないので、今後、業務遂行に当たって技術、経済分野の高度の知識を要する。しかも、特に技術者の流動が激しく有能な人材は採用に当たり、他の機関、企業と激しい競争になる。

FCCは、”Excellence Engineering”計画を推進し、この計画により、部内研修、部外研修、教育機関への職員の派遣、部外からの講師の招聘を通じて、職員の技術の向上を図る。また、事務系職員の研修は、経済学、市場分析に重点を置く。

 

組織変革

従来のFCCの組織は電気通信、放送、ケーブルテレビ等利用される技術別の構成であった。技術の融合化、IT・電気通信業界のサービス提供に当たっての垣根の消滅とともに、今後のFCCの組織は機能別に再編成されなければならない。

この方向に向かっての組織再編は、前ケナード委員長が既に推進してきたところであり、約1年前、「業務実施局(Enforcement Bureau)」及び「消費者情報局(Consumer Information Bureau)」が設置された。従って、FCCのこの分野での仕事はある程度、ケナード氏の仕事の踏襲である。

l         組織再編の目標は、(1)技術中心でなく、市場中心の機能別組織への編成(2)組織の階層を少なくする(3)機能の一層の統合化

l         すでに、将来の組織のあり方は、既に設置された「業務実施局」、「消費者情報局」の他、(電波管理)(免許附与)(競争)に関する部局になろうと予測する向きもあるが、まだ定めていない。

l         FCCは、このプロジェクトは議会(特に、下院電気通信・インターネット小委員会)と協議し、その他部外者、職員の意見を吸収し、慎重に検討の上決定し、実施に移す。

   新政策のもたらすインパクト

  パウエル委員長の新政策は、すでに一部、具体的なFCCの裁定に現れている。

例えば、FCCは、去る416日、Verizon が再提出したマサチューセッツ州における長距離市外通話提供の申請(2001.2.16日)を承認した。パウエル委員長は、今回の再提出に折り込まれた競争業者に対するアクセス料金の算出に対し、少し、弱い点があるがとしながらも、「当初の申請(2000.9.22)から、相当の日数が経過しているのだから、FCCはこれまでのような厳しい態度を取ると利害関係者、申請者が批判を受けることになろう」と物分りの良さを示し、申請を承認する理由としている(訳者注:この理由は、パウエル氏が正に前任者のケナード氏を批判した「甘い規制態度」だと思えるのであるが」(注3)

このFCC裁定に対しては、トリスタニ委員(Gloria Tristani,民主党)は反対票を投じているのであって、もし、ケナード氏が引き続いて在任していたら、Verizonのこの裁定は再度差し戻しになっていた可能性が強い。

このように、できるだけ市場の支配力を働かせて、干渉しない(米国のジャーナリズムはFCCの新政策を一言で表現するのにhand-off[手を引く]と言う表現をよく使っている)政策は、前任者のケナード氏の干渉好きの規制政策と対照的であるだけのに、米国電気通信業界に深刻なインパクトを及ぼすことなろう。 

 ただ、電気通信業界、IT業界が未曾有の不況に陥っている最中である。FCCの新政策が業界にどのような影響をもたらし、業界がどのような反応を示すかは定かでない.。ただ、先に述べたFCCVerizonに対するマサチューセッツ州での免許附与に見られるように、今後、地域電話会社の地域電話サービス競争を次々と認めていけば(現に、そのような観測がもっぱらであるが)、すでに、米国の電気通信業界で長距離通信業者(AT&T, WorldCom, Sprintも含め)はもとより、他の事業者に対しても強力になっている地域電話会社4社(Verizon, SBC Communications, BellSouth,Qwest)の立場が益々強まり、今後、「1996年通信法がもたらした最大の結果は、AT&Tに代えて、巨大地域会社4社を生み出したことにあるのか」との批判を招く事態の生じることが懸念される(この点については、2001.2.15日付けのテレコムウォッチャー「Verizon,自前設備で国際通信市場に本格参入する計画を発表」参照)。 

 上記の点はともかく、パウエル氏は議会筋からは、きわめて評判がよい。FCCの規制政策と密接に関係がある下院エネルギー・通商委員会の委員長のTauzin氏も電気通信.インターネット小委員会委員長のUpton氏も、パウエル氏の今回の演説を高く評価している。パウエル氏は成功裡に議会へのデビューを果したといえよう。

また、パウエル氏は、組織再編の必要性を強調するに際し、必要に応じた組織拡大に対しては予算増をお願いしたいと抜け目なく要請している。同氏は演説のなかで、FCCの人員、コスとを削減するとは一言もいっておらず、年間、2億ドルを超え、職員数約2,000人の現在のFCCの規模は当面、守り抜く構えのようである。パウエル氏は組織の利益を守る点でも、能吏であるようだ。 

12001/3/29付けFCCプレスレリース、“Opening Statement of Michael K, Powell Before Subcommittee on Telecommunications and Internet of the House Committee on Energy and Commerce

 注2:例えば、19995月、当時FCC委員のパウエル氏は、1999年度におけるFCCE-Rate(教育税)の増額に対し、「高コスト地域の資金補助に回すべきだ」との強硬な反対少数意見を提出したTech Law Journal, Press Statement of commissioner Michael Powell concurring in part and dissenting in part.
   因みに、学校、図書館に対し、大規模な資金補助を行うFCCE-Rate計画は、1998年から1999年に掛けての共和党議員の強い反対(基本に関する反対ではない)に抗して、パウエル氏の前任者ケナード氏の大変な努力によって、FCCの施策として定着したものであるが、このような経緯からして、パウエル氏は早晩、現行のE-Rateのシステムを縮小、あるいは修正する可能性は十分に考えられる。なお、E-Rateの概要については、テレコムウウォッチャー2000.9.1号「峠を超えた米国のデジタルデバイド解消策」を参照されたい。

32001.4.16付けFCCのニュースレリース、“FCC authorizes Verizon to provide long distance  service in Massachusetts”




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