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急ピッチで進む米国携帯電話業界の統合 ー 2組の大手携帯電話会社2社、統合へ

2000年5月1日号


4月4日、ヴォーダフォン・エアタッチとベルアトランティックは両社の携帯電話事業(ヴォーダフォン・エアタッチはグローバルな携帯電話事業会社であるので、同社についてはかってエアタッチ社が所有していた米国事業の部門)を統合して、合弁会社(Verizon Wireless)を設立することで合意した。また翌4月5日、SBCコミュニケーションズとベルサウスは両社の携帯電話部門を分離、統合して、合弁会社を設立することで合意した。
昨年から本年に掛けて、米国の電気通信、ITの分野では大型合併が相次いで行われているが、今回のこの2組の合併はその焦点が電気通信業界のもっともホットな市場になりつつある携帯電話の分野で日を接して発表された点で注目に値する。(SBCコミュニケーションズとベルサウスは新会社の名称、所在地、CEOが誰か等については別途発表するとしており、いかに両社が、ヴォーダフォン・エアタッチとベルアトランティックのVerizon Wireless設立を意識して統合の発表を急いだかがうかがわれる)
米国の携帯電話は1980年代初頭のFCCの免許付与方針、国のエリアが広いこと等の事情により数多くの携帯電話事業者が生れ、通信方式も複数生じた。そのためにわが国や欧州諸国に比し、その発展が遅れる原因ともなった。今回の携帯事業者2社の設立発表で、携帯電話会社の統合は一挙に進み、今後米国携帯電話市場ではAT&T Wireless、Sprint PCSと共にナショナル携帯電話4グループの覇権争いを軸として市場が展開して行くこととなろう。
以下、この両携帯電話グループの形成及び米国の大手携帯電話業者の現状と将来展望について紹介する。



新携帯電話会社、Verizon Wirelessの誕生

英国の携帯電話会社のヴォーダフォンは1999年9月、米国携帯電話会社のエアタッチを合併し、欧米にまたがる世界最大の携帯電話会社となった。同社はその余勢を駆って、米国地域電話会社のベルアトランティックと交渉を続け、一時期同社によるベルアトランティック携帯電話部門取得について合意が成立したかのような報道もなされた。
ところが去る4月4日、ヴォーダフォンエアタッチとベルアトランティックは両社の携帯電話事業部門を統合し、合弁会社、Verizon Wirelessを設立したと発表した。しかもヴォーダフォンエアタッチ社が米国の携帯事業を直接コントロールすることを止め、ベルアトランティック社に経営を任せたとジャーナリズムは報じている。多分規制上の配慮(外資の参入度合いが強すぎるとの批判を受ける危険性がある)と最近、携帯電話事業の重要性がますます高まっている点からして、ベルアトランティック側も引き続き、携帯電話事業への参画を望んだことにより、このような結末となったものであろう。いずれにせよ同社は2400万の加入者を有し、一躍米国最大の携帯電話会社となった。
なお、既に合弁会社のVerizon Wirelessは発足しているものの同社は組織、役員、運営方針等について何らの発表も行っていない。



SBCコミュニケーションズとベルサウス、携帯電話部門を統合し、合弁会社を設立へ

SBCコミュニケーションズとベルサウスは4月5日、両社の携帯電話事業部門を統合して合弁会社を設立することで合意した。新会社の株式はSBCコミュニケーションズとベルサウスがそれぞれ60%、40%を所有する。また役員会のメンバー4人には、両社からそれぞれ2名が選出される。新会社の名称、所在地は未定であり、会社のCEOは社内外の候補者のなかから人選を進めているという。新会社は1620万の加入者にサービスを提供しており、VerizonMobileに次ぐ米国第2の携帯電話会社となる。
両社はこの合弁会社を通じて、インターネット携帯電話サービス、双方向メセイジングサービスから、各種パケージングサービスに至るまで、顧客に対するすべての無線サービスを提供することにより、全米地域でアグレシブに競争出来る体制を確立する方針である。
さらに新会社設立の利点として、次の諸点を強調している。(両社が4月5日に発表したプレスリリースによる)


1. トップ市場20のうち19市場、50のうち40市場にすぐさまサービスが提供できる。これはほぼ米国全土に等しい。

2. ベルサウスは強いデータ伝送のアプリケーション(例えば双方向ページャーのRim950、PalmviITMPDAなど〉を持つ。またAOLはベルサウスのIntelligent Wireless NetworkでAOLのアプリケーションを無線で流す計画をしている。

3. 両社は15,000箇所の顧客とのアクセスポイントを有する。また全国的な提携業者との流通網が利用できる。

4. 両社はディジタルのTDMA、GSMの技術を使用しており、相互互換性があるため米国中に一環した信頼性の高いサービスが提供できる。

5. 両社とも優れた顧客サービスと網の信頼性について他社をリードしている。

もっとも上記の諸点のうち1、4については誇大PRであって多少のコメントが必要である。なるほど新会社が米国の主要携帯電話市場を押さえているのは事実であろう。しかし大西洋岸と太平洋岸の間に挟まれた広大な中西部エリアは主としてUSウェストのサ‐ビスエリアであって、新会社は参入できていない。「これはほぼ米国全土に等しい」とはとても言えまい。
また周知の通り、米国方式のTDMAと欧州方式のGSMとは互換性がない。現にAT&TワイアレスとBTがTDMA/GSMの複合端末を発注しているところであって、SBCコミュニケーションズとベルアトランティックによる合弁会社も将来この複合端末によって相互サービスを提供できるというのが真相である。
もっとも今回の両社の合意についてはFCC、司法省、EU(欧州委員会)の承認を要するのであって、承認に要する期間を斟酌すれば承認が下りたころには複合端末が市販されているとの見通しで、両社は上記の発表を行ったものであろう。
ちなみにこれまで携帯電話事業の統合については、FCCを初めとする規制機関は比較的早く、統合の申請を認めており、今回の案件も決着早いと見られている。




米国の主要携帯電話提供事業者の現状と予想される競争の激化

米国の主要携帯電話事業者6社の状況を次表に示す。



事業者名
保有加入者数
備考
Verizon Wireless
2400万
外資(ヴォーダフォンエアタッチ)が入っている
SBC/BellSouth連合
1620万
名称未定
AT&T Wireless
1260万
英国の電気通信事業者BTと提携しており
グローバルサービス展開している
Sprint PCS
470万
MCIWorldComの傘下に入ることで合意
NEXTEL
400万
独自基準のiDEN方式によりビジネス加入者にサービス提供
VoiceStream
150万
昨年Omnipoint、Aerialの2社を合併
GSM基準のみによる事業運営

註:上記加入者数のうち、Verizon Wireless、SBC/BellSouth連合、AT&T Wirelessについてはファイナンシャルタイムス4月7日号の「Baby Bells merger may lead to wireless offering」 の数字によった。他の3社については、1999年11月の電気通信協会セミナー資料(講師:カレントアナリシス社)を使った。携帯電話会社の成長は著しいので、後者の数値は現状よりかなり少ないはずである。(欄外にリンクがあります。)

米国のセル式携帯電話事業は1983年AT&Tによりシカゴ市を皮切りにサービスが開始され今日に至っている。FCCはこのサービスを地域的な性格のものと位置付けたこともあり、当初全国を数十の地域に分けその地域ごとに地域電話会社(当時は7社)とその他の業者(いわゆる独立系)の2社に対しそれぞれ免許を交付した。その後激しい統合化過程を通じて、弱小業者が大手業者に吸収されたが、資本力が強く長年にわたりそれぞれの地域に密着して業務を行っている地域電話会社系業者の勢いが強かった。
1998年から現在までの期間は統合が一層進み地域電話会社系の携帯電話会社の統合が進展するとともに、特色あるサービスを武器としてニッチ市場への参入を計る独立系業者(NEXTELとVoiceStream)が出現した過程として捉えることが出来る。最近米国最大の携帯電話会社となったVerizon Wirelessの構成は、実のところ旧地域会社2社(ベルアトランティックとパシフィックテレシス)の携帯電話事業連合であるVerizon Wirelessを構成する当事者の一つとなったエアタッチの前身は旧地域電話会社の1社、パシッフィクテレシスの携帯電話部門であるから。またSBC/ベルサウス連合に至っては、SBCが自社携帯電話事業部門のの外に旧ナイネックス、ベルアトランティックの携帯電話事業部門も含んでいる。(周知の通りSBCコミュニケーションズは1999年10月ベルアトランティックを合併した。ベルアトランティックは既にナイネックスを統合していたため、SBCコミュニケーションは旧3地域電話会社が大同団結して設立された米国最大の地域電話会社となったという経緯がある。)
この結果、独力で携帯電話を運営している地域電話会社はUSウェストだけになってしまった。
EU(欧州委員会)の指導の下に行われた欧州諸国のディジタル携帯電話基準GSMの免許附与は各国について2社に対し、それぞれ全国エリアをカバーするよう義務付けたものであって、この周到な方針により1992年からじょじょに導入された同サービスは大きな成功を収め、GSM方式の携帯電話基準は世界(わが国と米国を例外として)を制覇したといっても過言ではない。先に述べた米国の携帯電話業者の統合状況はようやく全国をカバーする事業者が実現した点において米国が十数年の競争を通じての努力の末、欧州レベルの追いつきつつあることを示すものに他ならない。電気通信のほとんどすべての分野で世界をリードしてきた米国が多分にFCCの過度の競争政策の推進によって、大きく欧州、わが国に立ち遅れた事例である。
ところで大手携帯電話会社のうちグローバルなサービス、インターネット携帯電話サービスに最も熱を入れているのはBTと固く提携しているAT&Tである。また世界一の携帯電話事業者をもって任ずるヴォーダフォンエアタッチがベルアトランティックと組んで設立したVerizon Wirelessも欧州事業者の技術、ノウハウの影響を大きく受け、今後インターネット携帯電話サービスの提供に力を入れるのだろう。これに対しSBC/ベルサウス連合は合弁会社発足時のプレスレリースによる限り、にわかにインターネット携帯電話に邁進するとは考えられない。むしろベルサウスのIntelligent Wireless Network、PDT(情報携帯端末)の性能の高さを強調している点からして、携帯電話によるデータサービス(インターネットの利用も含む)については独自の路線を模索する可能性もあると思われる。なお初期のセルの免許によらず、後ほどFCCが附与したPCS免許に基づき、性能の高いネットワークを構築しているSprint PCSの戦略も注目される。
NEXTELはかって米国最大の独立系携帯電話会社、マッコウ社(AT&T Wirelessの前身)の元会長のマローン氏が資金援助を行っているセル式と異なった新技術を基にした会社である。PBXとも接続し、ビジネス加入者に特色のあるサービスを提供しようとしている。またVoiceStreamはGSM方式により、欧州諸国の加入者(同じくGSM基準を使用)と通話が出来る点を主なセールスポイントにして加入者の増大に努めている。いずれもニッチ市場を狙う特色ある携帯電話事業者だといえよう。
米国の携帯電話加入者数は世界最大の8000万程度に達しているが、普及率が30%と低い点からして、今後加入者は急速に伸びることが予想される。しかし既に述べたように欧州、わが国に比しその後進性は覆うべくもない。第三世代携帯電話の導入も欧州諸国よりさらに遅れ、2003年から2004年頃になると見られている。


文中の参照リンクはこちら
* ファイナンシャルタイムスの 「Baby Bells merger may lead to wireless offering」, 00.4.7

* カレントアナリシス社の詳細

* 電気通信協会セミナーの詳細


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