インターネット携帯電話(モバイルインターネット)は、日本の独走
2000年4月15日号
4月7日の新聞各紙はいっせいにわが国の携帯電話加入者数が3月末で固定電話加入者数を超えたと報じた。(電気通信事業者協会発表)電話の主役が固定から携帯へと移った事実が数字で裏付けられた画期的な出来事である。またNTTドコモの「iモード」サービス加入者数も3月半ばで500万を超えた。(ドコモ発表)売上には加速度が付いているので、多分皆さんがこの記事をご覧になる頃(4月15日以降)には600万近くに達しているのではないか。「iモード」以外の他の業者によるサービスの加入者数も合計で100万を優に超えており、本年末で日本のインターネット携帯電話加入者数は1000万の大台に達することは確実である。携帯電話加入者がインターネット加入者を持つということは、無線ISP業者になることでもある。NTTドコモはサービス開始以来、これまで第1位のニフティーを短期間で追い抜き日本最大のISP業者に躍進した。通信事業者がコンテンツ分野に大きく踏み込んだこととなる。
国際的にも日本は携帯電話加入者数で米国に次いで第2位、普及率で約40%と携帯電話大国である。特にインターネット電話の領域では他の先進国ではまだ商用化に熱を入れている段階なのであって、断然トップを走っている。さらに第三世代携帯電話への商用化も来年からの実施が予定されており、他国を大きく引き離すこととなろう。
日本は1990年代にインターネットを中心とするITの分野で米国に遅れをとった。ミレニアムの初年に当たる本年(2000年)はこの遅れの取り戻しを計るキッカケの年にしたいというのが心ある日本人すべての悲願なのであるが、このようにインターネット携帯電話(欧米では通常モバイルインターネットと呼ばれている)で現に日本が独走体制にある事実の意味するところは大きい。まさにインターネット携帯電話はIT革命のトップを走る日本の模範プロジェクトであって、将来に大きな期待を託すことができる。
以下、どうして日本のネット携帯電話がこれほど発展したのか、また欧米の現状はどうなっているかを簡潔に紹介してみよう。
激しい競争環境下でのNTTドコモ主導の事業運営の成功
インターネット携帯電話の市場をリードしているNTTドコモによる「iモード」サービスの成長の成功の理由はおおむね次の通りである。
第1に市場を研究し、ユーザーの好みに合うサービスとは何かを徹底的に見定めた上でサービスを市場化したことである。リクルートのトラバーユ編集長をしていた人材(松永真理氏)を開発責任者にしたのも英断だった。要は若者層にぴったりと焦点を当て、彼らが求めるサービス品目に最大限のウェイトを置いた戦略の勝利であろう。これはポケベル、通常の携帯電話について、首尾一環した同社のサービス開発方針を踏襲したものであった。マーケティングはカスタマー・オリエンテッドでなければならないというのは標準的なマーケティングの教科書の教えるところである。言うは易く行うは難いこの命題をそのまま実践して成功したのが「iモード」サービスではなかったろうか。
NTTドコモは「iモード」を特に目新しいサービスではなく、従来の音声サービスの付加機能だとの位置付けにしている。これまでの加入者が自然な形で「iモード」も試してみようかなという気(もちろん端末は新たに購入しなければならないにせよ)にさせるよう仕組んだのは優れた販売政策であった。将来はすべての携帯電話器を「iモード」対応にする計画だという。ともかく従来の形状(電話機器の重量、大きさに変更なし)で「iモード」機能を使えるようにした構想とそれを実現に移した技術は素晴らしい。もっともこの小型電話器にカッコ良さを見出し、苦もなく、メールの送受、情報の入手から簡易な電子商取引に至るまでをこなしてしまう日本の若者の感性と器用さがこのサービスを支えた点も指摘しておかなければならない。
第2に料金が手頃なことである。1万円から3万円程度の端末を買えば後は月額基本料300円、サービスを受けるごとにデータ量に応じた従量課金であり、月々の使用料は2000円程度で済むという。多少本気になってパソコンによりインターネットを使おうとするとISPへの料金、市内通話料込みで月額8000から10000円は掛かってしまう(これは私自身が体験しているところである)のに比べれば安い。
月額基本料、携帯端末の価格を安く押さえて料金のほとんどを使用料により徴収するというのは従来から携帯電話について行われてきた課金方式の踏襲である。正にこの料金方式により、若い顧客層が吸引されている。
第3はNTTドコモの経営方針が明確で首尾一貫しており、しかもこれがトップマネージメントを通じて適時適切に発信されていることである。ドコモは新年早々「ドコモ2010年のビジョン」を発表した。そのなかで生活のあらゆる側面にモバイル機能の利用を促進し、21世紀のモバイル社会を築きたいとの起業ビジョンが高らかに掲げられている。昨今先行き不透明な経営環境のなかにあって、日本の多くの企業はリストラに専念するあまり長期的な展望を失っているかに見える。IT革命の最先端の波に乗っているNTTドコモは21世紀初頭に10年後のビジョンが打ち出せる数少ない企業に属する。
第4に、日本の携帯電話市場は激しい競争市場の中でサービス品質が高まり拡大を続けてきたことである。周知の通りわが国ではNTTドコモを含め、j‐フォン、DDIセルラー、日本移動通信、ツーカー(間もなく、DDIに統合されることが決まっている)の5社が携帯電話サービスを提供している。この5社のいずれもがインターネット携帯電話を昨年中に開始した(NTTドコモは2月、DDIセルラーと日本移動通信は4月、ツーカーは11月、j-フォンは12月)。ドコモは抜群の知名度、サービス開始時期が早いこともあり現在のところ圧倒的な優位を保っているものの、他の4社もそれぞれサービス差別化の必要性を意識し、個性的で優れたサービスを幾つか提供している。例えばドコモのEメールは送受ともに最大文字数は250(全角)と比較的少ないが、他社はいずれも受信については2000から3000文字(全角)へと文字数を増やしている。またツーカーの最新機種の「カーラ」は折畳式にして画面キーボードを分けて使えるようにした結果、入力の取り扱い(特に長文のメールを扱う場合など)に便利なよう工夫している。これら競争業者は引き続きドコモに対し手強い競争業者となろう。
このように日本の携帯電話は世界に先駆けてインターネット対応のサービスを開始したが、このサービスは世界的にも高い評価を受けている。この点については携帯電話の販売により欧州一の通信機器メーカーへと飛躍し急成長を続けているノキア社(フィンランド)の会長兼CEOのオリラ氏が、携帯電話では日本は最先端市場でありモバイルインターネットに向かって事業を推進している」(日経主催の『世界情報通信サミットの貴重演説より』と賛辞を呈している。
NTTドコモは4月上旬、次世代携帯電話(国際標準IMT‐2000に準拠したW-CDMA方式による)の免許を郵政省に申請した。この方式はデータ伝送速度が現行サービスより桁外れに速く、多彩なマルティメディアサービスを展開することを可能にする。他の日本テレコム、DDI(DDI、ツーカーも統合の予定)の2社もドコモに倣い、免許の申請を行うものと見られる。ドコモは2000年5月、日本テレコムは2000年秋、DDIは2002年中にサービスを提供するという。日本テレコムのプロジェクトには同社に資本を所有している(AT&Tと共に30%)BTも参加しており、技術面、資本面で大きな役割を果たすことになろう。またDDIグループは提携する外国企業を探しているところだという。日本以外の諸国は次世代携帯電話の提供は2003年以降になる見通しなので、BTをはじめこのビッグプロジェクトに参画する外国通信事業者は自国でのサービス導入に際しての貴重な経験、資料を得ることができよう。
ただしこの第三世代携帯電話のプロジェクトを実施に移すには莫大な資金(わが国の場合、各社当たり5000億円から1兆円といわれている)が必要である。これだけ多額の資金を投じてこれを回収するには魅力的なサービスを開発し投資を回収するだけの売上げと利益を確保しなければならない。なにしろ世界に先駆けての世紀の最終携帯電話ビッグ・プロジェクトである。NTTドコモを始め提供に当たる各社ともに、サービスを軌道に乗せるには多大の労苦が要求されよう。
期待が持たれる海外進出
インターネット携帯電話に関しては海外進出への展望も開かれることとなろう。NTTドコモの現行のディジタル・セルラー電話(PDC規格による)は、性能が良いのにもかかわらず独自規格であるため海外への輸出ができずに終わってしまった。第三世代携帯電話については少なくとも欧州とはコンパティブルなシステム(ドコモの提案するW-CDMAと欧州が提案するUTRAは実質的に同一規格)だから、欧州諸国との国際ローミングも可能となり他国へのシステム導入を進めやすくなる。
NTTドコモは、昨年10月香港最大の移動体通信会社のHuchison Company Limitedに出資(約19%で約430億円)することで合意した。当然両社間で日本のW-CDMA方式携帯電話の香港への導入も考慮に入れての合意であろう。これをキッカケにNTTドコモが香港、さらには他の東南アジア諸国にもこのシステムの輸出を実現して欲しいものである。
欧米のインターネット携帯電話(モバイルインターネット)の概況
電気通信関係者が強くインターネットと携帯電話の結合の重要性を意識するようになったのは昨年10月に開催されたITU主催の恒例の大展示会『テレコム99』の機会だった。多くの機器業者が関連機器を展示したしこのテーマに関する講演も数多く行われた。マイクロソフト社のビルゲイツ会長は「将来PCは消滅するかもしれない」とショッキングな発言を行い参会者を驚かせた。
現在、欧米の電気通信業界、IT業界は『モバイルインターネット』にビジネスの機会を求めて熱狂的に動いている。その大きな事業規模の可能性についてジャーナリズムが大きく報道しており、例えばKatrina Bondというアナリストが発表した2003年に10億の加入者が生み出されるとの威勢のよい予測値(ファイナンシャルタイムス3.26日のモバイルインターネットに関する記事、Ready to take off more rapidly than the internet による)は日本でも広まっている。
また現に日本における「iモード」の成功がこれら事業者に大きな刺激を与えている。
(1) WAP規格にもとづくサービスの開発、提供に懸命(欧州)
GSM規格の携帯電話で世界をリードした欧州諸国は同様の共通規格でインターネットを携帯電話に接続するプロトコルを設定、これによるサービスの商用化を図っている。これがWAP(Wireless Application Protocol )である。この規格は1998年5月に発表されているが、現にWAP規格によるサービスは未だ少ない。
普及率が高く携帯電話の先進国であるスウェーデン、フィンランドではWAPに基づくサービスが提供され、特に預金者の銀行との取引に使用されているようである。またこれに次いでサービス実施段階に入っているのは英国であって、同国の携帯電話会社のBTセルネット、オレンジはサービスを提供している模様である。
WAPではPC上でWebページを作成するための言語、HTMLを携帯電話用の言語のWML)に変換しないとインターネット携帯電話用のWebページが作成できない。この手間が大きいのでIP(インフォメーション・プロバイダーが協力を渋っており、これがサービスの離陸を妨げているという。
またサービスの対象としてはビジネス層を狙い、電子商取引のツールとしてインターネット携帯電話の利用を考えているようである。先のホームページ作成の難しさと関係があるようであるが、ビジネス用途の追求に走りつづければ大衆需要をいつ喚起するのか、そのキッカケがつかめなくなるのではないか。
このようにまだWAP標準のサービスが軌道に乗らない最中に欧州各国では、次世代携帯電話の事業免許の入札が行われている。インターネット携帯電話の将来性に対する期待の高さから予想以上の高値が付いており、欧州産業界を活性化させる一要因となっている。
(2) 日本、欧州の後を追いISP、携帯電話会社協力の下でサービス実施へ(米国)
米国の携帯電話サービスは欧州諸国に比して遅れている。加入者数は約8000万と世界一だが、普及率では日本や欧州の先進諸国に及ばない。またディジタル化率に至ってはまだ50%程度であり、これは今後のインターネット携帯電話の普及に大きな支障となろう。
何分PCが最も発達し、インターネットを創始した国のことである。インターネットとPCの組み合わせ以外のオプションに力を入れなかったのも当然だろう。この点進んだ携帯電話を武器としこれをインターネットと接続してITのこの部門で米国を追いぬこうとする日本及び欧州諸国に比し、少なくともこれまでは迫力に欠けていた。
米国では大規模なインターネット携帯電話プロジェクトはISPと携帯電話ネットワーク業者の共同で進められている。例えばISPのMNS(マイクロソフト傘下)はNextel Communications Inc及びVodafone Airtouchと提携し、サービス(メール、株価案内、MNSのポータルを通じての各種サービス等)を提供している。また携帯電話会社の中ではデータの提供について一番熱心であったSprint PCSもISPのYahooと提携し、同様のサービスを提供している。ISPのAOL及びEarthLinkも携帯電話会社のSprint PCSとインターネット携帯電話サービス提供について最近協定を結んだ。
米国ではこのようにISPと携帯電話会社の提携によりインターネット携帯電話事業が展開されて行くこととなろうが、ネットワークを持つ携帯電話会社が優位に立つのかコンテンツを提供するISPが主導権を握るのかは興味の持たれるところである。
なおさる4月4日、米国地域電話会社のベルサウスとSBCは両社の携帯電話会社を統合して米国第2位(1位はVodafone Airtouch)の携帯電話会社を設立することで合意したと発表した。この合弁会社設立の目的のひとつとしてインターネット携帯電話の提供をあげており、今後米国の大手携帯電話会社がこぞってこの潜在性の高い将来市場を目指して競争を展開することは確実である。(この件は米国の携帯電話事業を展望するに当たりきわめて重要であるので、次回に稿を改めて論じることにしたい)
なお欧州でも米国でもインターネット携帯電話について、端末の画面、キーボードが小さすぎて使いにくいとの苦情が現われていることは注目に値する。例えば欧州については、ファイナンシャルタイムスの(Japan passes mobile landmark, 00.4.8)、米国については、ビジネスウィークに掲載されたハーバード大学のBarro教授による(Novel, but still far from neat-0, 00.4.10)を参照されたい。(欄外にリンクがあります。)
すでに述べた通り、わが国の携帯電話は若者の感性に訴えることでインターネット機能付与も軽量・小型端末で成功を収めている。欧米でインターネット電話端末がより大型でないと受け入れられないとすれば、案外日本と異なった端末に収斂して行く可能性も考えられるのではないか。その場合は、端末の形状からすればPDS(情報携帯端末)と近似し、さらに言えば大衆需要の喚起も行えまい。
文中の参照記事はこちらから* ファイナンシャルタイムスの Japan passes mobile landmark, 00.4.8
* ビジネスウィークの Novel, but still far from neat-0, 00.4.10
テレコム一行レビュー(番外篇:i モード特集)* NTTドコモ「iモード」のホームページ。
* NTTデータとドコモのプロバイダ「i@DreamNet」サービス。一般ホームページをiモードで閲覧可能にするサービス。サービス延期のお知らせ
* iモードの検索エンジンリンク
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