DRI テレコムウォッチャー  from USA

このシリーズは毎月20日に掲載!!


HDTVチューナ搭載のコストはいくら? - 義務化に喜んでいるZenith

2002年11月20日号

 2002年9月にFCCはテレビメーカーに対してテレビセットにデジタルチューナ内蔵を義務付ける規制を発表した。

  • 2004年7月から36インチ以上のセットの50%以上にデジタルチューナを内蔵
  • 2005年7月から36インチ以上のセットのすべてと25〜35インチのセットの50%にデジタルチューナを内蔵
  • 2006年7月から25〜35インチのセットのすべてにデジタルチューナを内蔵
  • 2007年7月から13インチ以上のセット,チューナ内蔵のVTR,DVDのすべてにデジタルチューナを内蔵

 FCCはHDTVチューナの搭載のコストは直ぐに十数ドルまで下がり,テレビの値段が大幅に上がることは無く,コンシューマへの影響はほとんど無いと言っている。しかし,TVメーカはFCCが計算に入れているのはチューナコンポーネントの価格だけであり,デジタルチューナに不可欠なパテント料が含まれていなく,これを考慮するとHDTVチューナ搭載の本当のコストは数十ドルとなり,TVセットの大幅な値上げは避けられないと反対している。

 デジタルTVチューナに不可欠な8-VSBのパテントを持っているのはZenithである。アメリカの最後のTVメーカであったZenithはいったん倒産し,1999年に韓国のLG Electronicsの子会社として復活した。Zenithが持っていた8-VSBの技術は1996年に米国のHDTVの規格に採用され,HDTVセットを作るにはZenithにこのパテント料を支払わなければならない。Zenithは8-VSBのパテント料がいくらであるか公表していないが,契約は4ドルから12ドルの範囲だと推定されている。

 Zenith,それにZenith支持派はパテント費用は色々な製品の製造で支払われている物であり,HDTVセットで問題にする必要ないと語っている。パテント料金はコンポーネントの製造コストと同じに,製品が出回れば下がっていく物であり,現在の料金で将来のコストを予測するのは間違いだと反論している。これは結局,この規制を止めさせるか遅らせるための口実でしかないとして,ZenithはFCCに対してこの申し立てを無視するように言っている。

 TVメーカ,それにメーカを代表するCEA(Consumer Electronics Association)はFCCのHDTVチューナ義務付けの問題はそれによりTVセットの価格が値上がりするだけでなく,政府が1つの企業を優遇することに通じると言っている。全米70%以上の世帯は現在,ケーブルTVに加入しており,地上波は受信していない。HDTVセットを義務付けると,70%以上の世帯に不必要な物を買わせる事になり,その結果,Zenithを優遇し,儲けさせる事になる事も反対をしている。CEAはFCCのデジタルTVチューナの義務化を止めさせる訴訟を起こしている。

 HDTVチューナ義務付けの反対派はFCCのデジタルTV普及の施策自体に反対をしているのではなく,現在の対策が不公平であることに反対をしていると語っている。デジタルチューナを義務付けるのであれば,地上波向けチューナだけでなく,デジタルケーブル放送への対応も義務付けるべきだとしている。しかし,これにはこれまでセットトップボックスのレンタル料金を毎月徴収し,STBにより加入者を囲んできたケーブルTV事業者が簡単に合意するはずはない。デジタルケーブルTVチューナをテレビセットに内蔵する事に関するTVメーカとケーブルTV事業者の話し合いは進展していない。CEAはもしこの話し合いに満足な形で合意できれば,デジタルTVチューナ義務付けに対する訴訟は取り下げると発表しており,FCC(それに米国議会)をこれに巻き込もうとしている。

「from USA」 のバックナンバーはこちらです





COPYRIGHT(C) 2002 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.