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デジタルチューナを義務付けるFCC  FCCのデジタル放送普及戦略

2002年8月20日号

 普及の進まない地上波テレビ放送のデジタル化にいらだつ議会はFCCにプレッシャーをかけている。4月にFCCのPowell会長は業界に対して自主的な規制を出した。それに続き,今月FCCはコピー保護の対策に対する提案,それにデジタルチューナー内蔵を義務付ける規制を出した。

 デジタル放送にコピー保護が必要であることでは業界は一致している。問題はその技術と導入方法である。特に議論の対象になっているのは「broadcast flag」の導入である。Broadcast flagは番組にコードを入れることで,複製,その再流通を限定する物である。番組供給会社はコピー保護の技術が採用されなければ映画などの価値の高いコンテンツは提供しないと言っている。ネットワークは通常のテレビ放送にもコピー保護は適応されるべきだとしているのに対して,ケーブルTV,デジタル衛星TV事業者は通常の放送にもコピー保護を適応させることは必要以上に技術を複雑化させるとして反対意見を述べている。ハードウェア会社は複雑なコピー保護技術は製品のコストを上げるだけでなく,法律上認められている個人利用のコピーも困難にして,PVR等の需要が落ちることを心配している。FCCはデジタル放送のコピー保護規制を作る必要があるかの決定をするために業界の意見を聞くことを発表した。

 これ以上に大きな決定は,テレビセットにデジタルチューナ内蔵を義務付ける規制である。FCCはテレビメーカーに対して下記の規制を出した。

  • 2004年7月から36インチ以上のセットの50%以上にデジタルチューナを内蔵

  • 2005年7月から36インチ以上のセットのすべてと25〜35インチのセットの50%にデジタルチューナを内蔵

  • 2006年7月から25〜35インチのセットのすべてにデジタルチューナを内蔵

  • 2007年7月から13インチ以上のセット,チューナ内蔵のVTR,DVDのすべてにデジタルチューナを内蔵

 デジタルテレビが流通しなければデジタル化は進まないことは明らかである。しかし,この規制に対しては大きな議論が出ている。地上波ネットワーク,地上波局は賛成をしているが,メーカの団体Consumer Electronic Association(CEA),それに消費者保護団体は反対をしており,訴訟をする予定である。議論としては下記がある。

  • FCCにこの権限があるか: 規制の支持者はこれは1960年代にUHFチューナ搭載を義務付けたAll Channel Receiver Actと同様であり,FCCには権限があると言っている。しかし,反対派は60年代と現在では状況が異なり,地上波に頼っている視聴者は20%しかなく,これは地上波放送を特別に優遇する措置であり,合憲ではないと述べている。

  • デジタルチューナ搭載のコストはいくらか: 賛成はデジタルチューナ内蔵のコストはすぐに数十ドル程度になり,消費者へのインパクトはほとんど無いと言っている。これに対してCEAはデジタルチューナの値段は250ドル程度であり,2006年になっても数十ドルの値段にはならなく,テレビの値段をつり上げ,需要を減らすと言っている。消費者団体は値段が十数ドルであっても,地上波放送をケーブルTV,衛星放送で受信している80%以上の世帯には不要の機能であり,それを義務付けることに反対している。

  • デジタルケーブルとデジタル衛星放送との互換性は: 地上波デジタルチューナ内蔵のテレビとデジタルケーブル/デジタル衛星放送のセットトップボックス(STB)のインターフェースは決まっていない。ケーブルTV,衛星放送の加入者は無駄な機能にお金を払うだけでなく,既存のSTBが使えなくなり,さらにお金を使わなければならないかも知れない。ケーブルTV事業者の一部にはデジタルケーブルのチューナ機能も一緒に内蔵させるべきだとの意見もあるが,これはさらにチューナのコストを高くすることになる。

  • 価値があるのか: 地上波でテレビ放送を見ている世帯は20%以下でしかない。この規制でデジタルTVを義務付けることでどれほどの価値があるのか。これにより,ケーブルテレビ,衛星放送の加入者が地上波放送に切り替えるとは考えられない。20%以下の視聴世帯でしか必要としない機能であれば,テレビセットメーカはコスト削減のために最低のデジタルチューナを内蔵する可能性が高い。デジタルTVを購入したケーブルTV/衛星放送加入世帯は地上波デジタル放送を試して見るであろうが,これら世帯の殆どはちゃんとした地上波アンテナを持っていなく,性能の悪いチューナを使えば画像は良いはずが無く,逆に地上波デジタルの評価を落とすかも知れない。

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米国 アライドビジネスインテリジェンス「衛星ラジオ:車載用衛星および地上波デジタルラジオの世界市場  Satellite Radio: Global Markets for In-Vehicle Satellite and Terrestrial Digital Radio」

米国 インスタット/MDR 社 「デジタルラジオが実用化へ  Digital Radio Moves Into Drive Time」

フランス イダテ 社 「Satellite facing new developments on the TV market」

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フランス イダテ 社 「Digital TV receivers and video terminals」

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