メディア大手の仲間入りを狙うBarry Diller　　- USA InteractiveとVivendi Universal Entertainment -

　2002年5月にフランスのVivendi Universal S.A.はBarry DillerからUSA Networkのエンタテイメント資産（ケーブルTVネットワークのUSA Network，映画スタジオのUSA Films，TVプロダクションのStudio USA等）を103億ドルで購入した。Vivendiは2000年にSeagramを買収し，Universal Studio等Universal系のメディア資産を手に入れたが，米国では目立った活動はしていなかったが，USA Networksの買収でこれは変わろうとしている。

　Barry DillerはABC，Paramount，Fox等の会社を経て，1992年にケーブルTV事業者のComcastが投資しているTVショッピングネットワーク，QVCの会長となった。QVCを成功させた，Dillerは1994年にQVCを使いCBSの買収を企てた。ComcastはDillerの企てを阻止するためにComcastの経営権限を取り，Dillerを首にした。DillerはQVCに真っ向から対抗するHome Shopping Network（HSN）を設立し，1997年にUSA Networkを手に入れた。

　DillerはHSNとUSA Networkを成功させただけでなく，QVC，HSNの大きな成長（現在収入ベースでは，QVCは全米で2番目，HSNは8番目のTVネットワークである）からいち早くインタラクティブコマースの可能性に目を付け，コンサート等のイベントのチケットエージェント会社のTicketmasterを手に入れ，オンラインでのチケット販売を始め，1999年にはTicketmasterとLycosの合併も企てた。DillerはスピンオフしたTicketmasteの株68%を持っているほか，Expedia（65%）， Hotel Reservations Network（68%）などのEコマース資産を持っている。

　水道会社のVivendiは1998年にフランスのペイTVのCanal+を手に入れ，2000年にはSeagramを買収し，アルコール飲料事業を売り，そのメディア資産を手に入れた。Universal Studioは大手映画会社であるが，TVに関しては流通チャンネルが無く，さらにVivendiにはこのメディア資産を有効に運営できる経営者は居なかった。VivendiのUSA Networkの買収は，TVプログラムの流通ネットワークを手に入れるためでなく，Dillerの力を得るためでもある。VivendiはDillerからUSA Networkを買い，Dillerは残されたインタラクティブコマースの資産（HSN，Ticketmaster等）を運営するUSA Interactive社を作った。Vivendiはこれまでのメディア資産，USA Networkを合わせ，USA Interactiveとのジョイントベンチャー，Vivendi Universal Entertainment社（VUE）を設立し，VUEのCEOにDillerを任命した。VivendiはVUEの93%を持っているが，経営はDillerに任せる。

　Dillerはメディア業界の大手になることを狙い続けてきた。USA NetworkをVivendiに売ったことで，DillerはUniversal系のメディア資産の経営者となった。VUEはプログラミングの流通を強化するためにTVネットワークの買収を狙うと思われる。Dillerが以前に狙ったCBSはParamountを持つViacomの手に落ち，ABCはDisneyの一部になっているが，NBCにはメディア大手のバックが無い。あるいは，7つ目の地上波TVネットワークとして登場したPAXも可能性がある。PAXはNBCに身売りの計画であったが，NBCがスペイン語系ネットワークのTelemundoを手に入れたことでこの可能性は短期的には無くなっている。PAXはTVネットワークとしての規模は小さいが，多くのTV局を手に入れており，局グループとしては全米3位に入っている。

　DillerはTVメディアを強化するだけでなく，USA Networkを売ったことで得た資金で，インタラクティブコマース事業の強化も狙っている。DillerはYahoo，Amazon.com，E-Trade等のEコマース会社に目を付けていると言われている。