DRI テレコムウォッチャー from USA


このシリーズは毎月20日に掲載!!



放送業界の2つの大きな合併の動向  Comcast/AT&T BroadbandとEchoStar/DirecTV

2002年5月20日号


 4月の後半に連邦上院議会のアンチトラスト小委員会において,Comcastの社長Brian RobertsとAT&T Broadbandの会長Michael Armstrongは,ComcastとAT&T Broadbandの合併に対する証言を行った。この2社の合併は加入者2200万世を持ち,ケーブルTV市場の32%のシェアを持つ巨大なケーブルTV会社を作ることになる。アンチトラスト小委員会はこの合併のもたらす消費者への影響を検討した。 委員会のメンバーの何人かは巨大なメディア業界の登場は消費者の選択を狭める危険性があることの懸念を明らかにした。これに対してRobertsとArmstrongは,合併によりケーブルTV電話,ケーブルモデムなど新しいサービスの提供が進み,逆に消費者の選択の幅を広めることになると弁護した。
 以前であれば,この合併はFCCの許可する範囲を超え,認められる物では無かった。しかし,昨年連邦上訴裁判所はFCCがケーブルTV会社の加入者シェアを30%に押さえている規制を無効にした。これにより,ComcastとAT&Tの合併の障害は無くなった。委員会はこの合併には特にアンチトラスト上の問題は無いと判断しており,合併は許可される物と見られる。
 問題が残っているとすれは,ケーブルモデムのインフラとISPサービスのアンバンドル化である。FCCはTime WarnerとAOLの合併の際にTime Warnerの提供するケーブルモデムサービスとAOLのサービスのバンドルを禁じた。これと同様に,Comcast/AT&Tに対してはそのケーブルサービスのインフラとISPの部分をアンバンドルさせ,消費者が自由にISPを選択できるようにさせるべきであるとの意見がある。公聴会において,RobertsとArmstrongはアンバンドル化の技術テストはコロラドなどで実施していると説明したが,アンバンドル化を行うとは発言しなかった。ケーブルモデムサービスは今後の収入源として重要な物であり,自主的に譲ることは無いが,これにより合併に価値が無くなるほどの問題では無く,この2社の合併は大きな問題なく許可されるであろう。
 EchoStarComcastとAT&Tの合併と同様に大きな合併としてデジタル衛星放送会社のEchoStarのDirecTVを含む,Hughes社の買収がある。DBS業界はこの2社で成り立っており,EchoStarのDirecTV買収後は独占企業となる。しかし,EchoStarは同社とDirecTVの合併はDBS市場内だけで判断するべきではなく,放送業界全体として見るべきである,ケーブルTV業界の競合を育てるためにこの買収は認めるべきだと弁護している。EchoStarとDirecTVの合併により,チャンネルの容量が倍増することで,より多くの地域で地上波の再送信が可能となり,ケーブルTVに本格的な対抗が出来るようになるとEchoStarのCEO Charlie Ergenは発言している。
 議会は地域ごとに市場を独占しているケーブルTV業界への競合の必要性は認める物の,EchoStarとDirecTVの合併は消費者の選択を減らす物であるとして反対意見が多い。最終的な判断は司法省が下すが,FCCはEchoStarとDirecTVの合併による消費者への影響を検討し,その結果を出すことになる。これまでEchoStarはFCCの規定はケーブルTV事業者を想定して書かれた物であり,DBS事業者には対応しないとの態度を見せ,FCCの方針にはことごとく反対してきた。このことからFCCはEchoStarを問題視しており,FCCはEchoStarは多くの規定を無視してきたとの意見を発表しており,合併に賛成する報告をまとめるとは思われない。
 ErgenはデジタルケーブルTVに競合出来るサービス,あるいは衛星を使ったブロードバンドアクセスサービスもEchoStar,DirecTVそれぞれの資源では困難であり,合併をしなければ効果的な事業は出来ないとしている。EchoStarが双方向ブロードバンドサービスのGilat Satellite Networkから手を引いたのも,合併の実需性ををアピールするのが目的であるとの疑惑説も出ている。
 Ergenはまた,合併によりDBS会社が存在しなくなる訳ではなく,ルクセンブルグのSES Grobalが米国においてDBS市場への参入を検討しているなど競合は登場するとしている。しかし,それはまだ先のことであり,現状ではこの合併はDBS市場ではシェア100%の企業を作り,競合の登場を困難にすることは必然的である。EchoStarとDirecTVの合計加入世帯数は1,800万世帯であり,ComcastとAT&Tの合併後よりシェアは低い。しかし,DBS市場独占をすることのインパクトは大きい。司法省による判断は9月になるが,この合併が認められる可能性は低いようである。

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