DBS,デジタルケーブルを含めてテレビ放送をデジタルで受信している世帯はTV世帯の30%を越えたことでも明らかのように,放送業界は大きく進歩をしている。しかし,テレビ放送が普及を始めてから大した進歩をしていない物がある。それは視聴者調査の方法である。視聴者調査は広告の値段を左右し,放送業界に取っては欠かせない物である。しかし,視聴者調査はまだ参加者が紙と鉛筆で日記を付けることに頼っているのが現状である。テレビに取り付け,スイッチが入っている時間,チャンネルなどを記録する装置はあるが,これではどの時間に誰が見ているかは分からないので,日記がまだ重視されている。この「テレビメーター」にカメラを取り付け,誰が見ているかを分かるようにする装置も開発されたが,これはプライバシー侵害の懸念から採用はされなかった。
テレビ視聴者調査を独占しているNielsen社は電子日記を開発し,テスト運用を行っている。リモコンのような装置に誰がテレビを見ているかを入力し,テレビメータと連動して誰がどの番組を見たかの記録がとれる。紙と鉛筆よりは進歩であるが,参加者の自主的な入力に頼っているのは同じである。
また,入力を電子的にしても現在の方法の大きな弱点を埋められない。その弱点とは視聴者が家の外で見ている番組は記録されないことである。家庭の中だけでなく,レストラン,バー,待合室など色々な所にテレビは置かれている。これはラジオの聴視者調査ではより大きな問題である。ラジオは運転中に聞くことが多いが,運転中に日記に記入してもらうことは出来ない。また公共の場所でラジオが流れていても,どの局か分からないことも多い。
ラジオ聴視者調査を一手に行っているArbitron社はこれらの問題をすべて解決する「Portable People Meter(PPM)」を導入しようとしている。PPMはポケベル程度の大きさで,ポケットに入れたり,ベルトに取り付けたり出来る。PPMはテレビ,ラジオ局が放送に挿入する,人の耳には聞こえない信号を受け,その時間を記録する。参加者がPPMを持っている限り,自宅でも,外出先でも聴視しているテレビ,ラジオの番組が記録される。参加者はPPMを自宅でクレードルに差し込むと情報はモデムでArbitronに送られ,同時に充電が始まる。また,置き忘れにより誤った記録が統計に含まれるのを防ぐために,PPMには動作センサーが入っており,一定の時間以上動きがないと記録情報は集計されない。
PPMは導入コストが高いため,ArbitronはNielsenとの共同サービスにしようとしている。NielsenはArbitronがフィラデルフィアで行う1500人の参加者,8つのテレビ局,38のラジオ局,22のケーブルネットワークを対象とした本格的なPPMのテストに協力する。Nielsenはこのテストの状況を見て,Arbitronとのジョイントベンチャーを実行するか決める。PPMはこれまでに無い精度の情報を提供できるが,コストが高いために放送局が支払う調査コストが増える。テレビ,ラジオ局は当然この値段の増加を喜んではいない。
PPMの本格的な導入が行われれば,放送業界の広告料の値付けが大きくと変わると思われる。現在の調査は自宅内での聴視が対象であり,外出先でふれる番組は含まれていない。また,日記に定期的に記入するのは主婦が多くなり,子供,若者,それに男性の統計が少ない傾向がある。Arbitronが昨年にデラウェアで行った300人対象のテストでは地上波局の視聴率はNielsenの統計とほぼ同じであるが,ケーブルネットワークの視聴率がずっと多くなっている。この調査ではサンプル数が少なく,また局ごとの集計が行われていないのでこの差の理由は明確でない。しかし,ケーブルネットワークは子供,若者が見ている番組が多く,日記方式では漏れていた,それにバー,レストランなどではケーブルネットワークをつけていることが多く,それがこれまででは統計に入っていなかったなどの理由が考えられる。