DRI テレコムウォッチャー


欧州携帯電話業界のトピックス2件
               ―VodafoneによるCegetel支配の失敗とMobilCom再建のスタート


2002年12月15日号

 2002年は、欧米、日本を問わず電気通信業界が最悪の不況に見舞われた年である。不況であればあるだけに業績が極度に悪化し破綻に追い込まれたり、また将来計画を変更しようとする事業者も出てくる。他方、強い財務体質を有する事業者は、不況期こそチャンスであるとして他社の吸収合併に乗り出す。テレコムウォッチャーではこれまで、前者の事例としてドイツのMobilComを、また後者の例としてはVodafone(英)によるフランスのCegetel(FTに次ぐフランス第2位の携帯・固定電話事業者)取得の試みを紹介した(注1)。
 不況は他面、デシジョンメーキングを早める作用をもたらすかのようである。どの企業でも決定を先送りしている余裕がないほどに、事態への早急な対応を迫られているからであろう。また年次の後半に生じた案件については年内決着の引力が働くという事情があるからでもあろうか、上記の英国・フランス、ドイツ・フランスのそれぞれ2国間にまたがる2つの案件は、予想よりも早く2002年内(12月の初旬)に一応の解決を見た。
 本項ではこの2つの案件の決着状況等について紹介する。

Vodafone、Cegetelの支配権取得に失敗

Vivendi Universalの役員会、先買権を行使してCegetelに有するBTの株式を取得する決定をくだす

 2002年12月3日、Vivendi Universalの役員会は次のような決定をくだした(注2)。この決定は、同年10月中旬にVodafoneが行った行動、提案(BT、SBCと両社がそれぞれCegetelに有する株式(BT:26%、SBC:15%)の取得についての合意および、Vivendi Universalに対して行ったCegetelに有するVivendi Universalの株式(44%)を67.7億ユーロで取得する提案)により、同社の電気通信事業の支配権取得の意図を明らかにしたことへの対抗措置である。

  • Vivendi Universalは、BTとの契約に基づく先買特権(preemptive right)を行使して、BTがCegetelに有する株式26%を40億ユーロで購入する(注3)。
  • Vivendi Universalは、上記40億ユーロをキャッシュ(27億ユーロ)および負債(13億ユーロ)で支払う。

 Vivendi UniversalのCEO兼会長のフルツー氏は、役員会のこの決定について次のように述べ、BTからのCegetel株式の取得が同社の財務再建計画に影響しないこと、Cegetelがどのように同社の将来の事業運営にとって重要であるかを強調した。

  • Vivendi Environment(注3)の1部株式売却も早期に合意がなされたし、当社の資産売却は予定より順調に進んでいる。
  • BTがCegetelに有する株式を取得することにより、当社はCegetel(固定電話会社)、SFR(携帯電話会社)両社の支配権を有することができる。これによりキャッシュの比率を高め、負債を一層軽減することができよう。
  • SFR、Cegetelはそれぞれ15年、6年前に設立されて以来、Vivendi Universalが運営してきた企業である。合計1,600万の加入者(うち1,300万はSFRの加入者)、8,600名の従業員を有し、2001年の収入は64億ユーロ、負債は5億ユーロ以下である。しかもキャッシュフローは大きい。これほど巧く管理された電気通信事業者を探すのは難しい。
  • 将来にわたり当社が株主の価値を増やす最適の方法は、Cegetel、SFRの株式過半数を握ることである

Cegetel Groupをめぐる資本関係の変動
 ここで今回のVivendi Universalの決定により、Cegetel Group(これまで煩雑さを避けるためCegetel Groupの語は使わなかったが、厳密には持ち株会社のCegetel Groupの下に2つの運営会社のCegetel(固定通信会社)、SFR(携帯通信会社)があるという構造になっている)をめぐり、出資企業の関係がどのように変わるかを次図に示す(2002.11.15付けテレコムウォッチャーに掲載した現行の関係図と対比していただきたい)。

図 Cegetel Groupをめぐる株式所有関係(Vivendi Universal、VodafoneがそれぞれBT、SBCの株式を買収した以降)

 つまり、(1)Vivendi UniversalはこれまでCegetel Group、Cegetel、SFRに対する最大株主の地位から、支配権を有する株主の地位へと立場を強化する。(2)Vodafoneは、先に結んだ合意に基づきSBCからCegetel Groupへの株式15%を取得することにより、同グループの株式30%を取得するものの、これではCegetelGroupの支配権が握れず株式配当が増えるだけの効果にとどまり、同社にとって最悪の選択になった。
 こうしてVivendi Universalは、Vodafoneからの攻勢に対抗し、法廷にまで訴えて決定期間を延伸(2002.12.10まで)する権利を認められ、この期間を利用して同社の資産売却の見通し(米国に有するマルチメディア諸会社の全面売却、Vivendi Environmentの1部株式売却等)を整え、幾つかの金融機関(同社との取引金融機関のうち、最終的にどれだけの機関が同社の計画を支持したかは不明)からの諒承を取りつけ、Vodafoneの野望を挫く政策の決定を行うのに成功した(注4)。

Vodafoneの誤算―しかし同社はなおもフランス市場攻略の機会をあきらめずー
 これまで、幾件もの海外携帯電話事業の合併、取得を実施するに当たり天才的ともいえる戦略と勘の良さにより連戦連勝して一大グローバル携帯電話帝国を築きあげてきたゲント氏(Vodafone会長)にとっては、今回のVivendi Universalからの反撃は手痛い打撃であった。同氏は、Vivendi Universalが陥っている財務面でのピンチ状況からして、専買特権を利用して反撃をしてくる可能性はまずなく、それどころかBT、SBC両社からの株式取得の合意締結によりVodafoneがCegetel株のマジョリティー(56%)確保の既成事実を示しておけば、Vodafoneが提案した67.7億ユーロのCegetel株44%の株式取得提案(即、Cegetelを100%買収する提案)を拒絶できまいと読んだのである。この読みはゲント会長だけではない。当時、テレコムアナリストのほとんどはゲント会長と同様に、Vivendi Universalのフルツー会長はたとえ金策に駆け回っても、結局金融筋の諒承が得られずVodafoneの軍門にくだるものと予測していた。

 振返って見ると、Vivendi Universal自体の努力もさることながら、同社をとりまく金融機関、フランス財界が一体となって、就任早々のフルツー会長を盛りたて、フランス有数の電気通信事業であるCegetel Groupを英国資本から防衛しようとした意欲がこの防禦策の成功をもたらしたと考えられる。こうしてVodafoneによるCegetel攻略のための「カレー計画」は不成功に終った。(注5)
 もっともVodafoneは、未だCegetel攻略の構えを崩してはいない。あるVodafoneの関係者によれば、同社は、Vivendi Universalはキャッシュフロー上問題があるから、当面同社が今回の決定に添った実行ができるかどうかを見届けるとしている。Vivendi Universalの財務状況が安定するまでは、さらにチャンスを伺おうということであろう。(注6)

MobilCom、ドイツ金融機関の支援とFTによる大きな負担の肩代わりにより、3G計画を放棄し再建に向かう

充分な財務支援の目途がついたMobilCom

 ドイツの中堅携帯・固定電話事業者であるMobilComは、事業不振により3G事業の推進が難しくなり、大口株主であるFTと同社の前CEOシュミット氏の不和などもあり、2002年次一杯、ドイツ、フランス両携帯電話業界にとって大きな不安定要因となっていた。
 しかし、2002年9月中旬にドイツ政府が仲介に乗りだし、同政府の意向を受けて、Mobil Comに融資する金機関グループも政府保証の下に1.62億ユーロにおよぶ追加融資を決定した。
 これまで従来の紛争の経緯もあり、MobilComに対し冷やかな態度を取って来たFTもドイツ政府が背後に控えていること、FTのMobilComに対する約束違反問題を法廷で争われることになると同社に不利になると考えたのであろうか、3G実施打ち切りに伴うMobilComの負担を肩代わりする方向で折衝を続け、2002.11.30にこの案件について、MobilComと条件的な合意を結んだ(注7)。
 その内容は次ぎの2点であって、FTは3G遂行に伴いMobilComが負った負債、および今後3Gプロジェクト終結に伴い生ずる経費を大きく肩代わりすることを約したものである(注8)。この契約は、厳密には2003年1月に予定されている両社の株主総会での承認が要件となるものであるが、多分否決されることはあるまい(FTの場合、ボン前会長に対する批判はでるにせよ、当の本人が辞任しているのであるから責任追及は空振りに終るだろう)。

  • FTは、MobilComが金融機関、機器メーカ(ノキアおよびエリクソン)、株主に負っている負債を肩代わりする(金融機関・メーカ分60億ユーロ、株主分10億ユーロの計70億ユーロ)。負債はFTの永久転換社債(いつでも売却可能)発行により実施する。
  • FTはMobilComが3G計画を終結するに伴う経費を5.8億ユーロを限度として負担する。この金額の約4分の1を2002年末までに支払う。建設途上にある3Gネットワークが第3者に売却された場合、FTは売却金額の80%を受け取る。

 なお、上記契約締結数日後の12月始めにFTは、フランス政府資金の導入を含む同社の再建計画を策定した(この計画については2003年1月1日のテレコムウォッチャーで紹介する予定である)。MobilComに伴うFTの負債の確定とFTの再建計画がいかに密接に関連していたかを示すものである。
 これまで欧州の3Gは、その高い免許料、ネットワーク構築のための高額の投資、しかも将来計画が順調に進むかどうかの不安等により、欧州携帯電話業界の最大の波乱要因である事実である点は、繰返しテレコムウォッチャーにおいて述べてきたところである。それにしても、FTに取りMobilComへの資本参加はあまりにも高い買物であった。

3Gの遂行を断念した縮小路線で再起を計るMobilCom
 MobilComのCEO兼会長のグレンツ氏(Dr.Thonsten Grenz)は、FTとの上記契約締結に当り、「われわれは今後、核となる事業に集中できる」と述べ、縮小均衡による事業の維持に意欲を見せている。
 しかし前任者シュミット氏の責に帰すべき問題であろうが、長期にわたるFT、ドイツ政府との紛争により、同社に対する顧客の信頼は大きく損なわれており、加入者数こそ490万で減少は止まっているものの、大きな負債、収入の逓減の下での同社の将来は不確定である。FTがかなり思い切った3G計画中止に伴う負担肩代わりに応じた後も、株価は下がっている。
 なおドイツでは当初、6社の携帯電話会社が3G免許を取得したが、先にQuam(スペインのTelefonicaとスウェーデンのSoneraによるコンソーシャム)が3G免許を返上、今回またMobilComがサービス提供を中止したため、3Gサービスの競争業者は4社(t-Mobile、 Mannesmann Mobile、 E-Plus、 Miag Intercom)になった。


(注1) VodafoneとCegetelの抗争については、テレコムウォッチャー2002年11月15日号の「VodafoneとVivendi Universal、Cegetel(フランス第2位の固定・携帯通信事業者)の支配権を争う」を、またMobilComの苦境については、それぞれ2002年4月15日および10月1日付けの「提携、統合への兆し見え始めたドイツの中堅携帯電話事業者―駆動力として期待されるiモードサービスー」「仏・独両政府、それぞれFT、MobilCom財務危機への支援を確約―法外な3G免許料の1部が徴収した政府に回るー」を参照されたい。
(注2)役員会の決定およびVivendi UniversalのCEOフルツー氏の見解は2002.12.3付けVivendi Universalのプレスレリース、 "Vivendi Universal's Board of Directors Makes Decision on Cegetel Stake"
(注3)先買特権とは、他の業者に先んじて買戻しを要求し得る権利である。Vivendi Universalは、この特権行使に際しての価格を他業者が提示する価格と同一と定めている。従って同社は先にVodafoneがBTに提示したのと同額の40億ユーロを支払うこととなる。
(注4)Vivendi EnvironmentはVivendi Universalが所有する水道事業であるが、最近フランス電力からの資本参加が定まった。
(注5)「Project Calais 」 Cegetel攻略のプロジェクトとして、VodafoneのコンサルタントとなったUBS Warburgが付けた名称だという。多分、歴史的に英軍がフランスでの戦争(特に100年戦争)に当り攻略する橋頭堡はカレーであったことから名付けられたものであろう。2002.12.5付けファイナンシャルタイムズ、"Vivendi's French friends foil Vodafone's big gamble"
(注6)2002.12.5日付けファイナンシャルタイムズ、"Vodafone hold cash for Cegetel"
(注7)MobilComは2000年当時、FTがMobilComに28.5%の株式を取得した時、FT会長が「3Gの推進に当っては、FTは100億ユーロまでの資金を出す用意がある」と発言したと主張して来た。今回のFT、Vodafoneの合意からすると、この約束は実際にあったものらしい。
(注8)2002.11.22付けのFTおよびMobileCom両社が発表したこの案件によるプレスレリース。
(注9)2002.11.28付けのYahoo!Finance, "MobilCom's Third- Quoter Net Loss Qrows on $9.81 Billion 3G Write Down"


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