DRI テレコムウォッチャー


VodafoneとVivendi Universal、Cegetel(フランス第2位の固定・携帯通信事業者)の支配をめぐり抗争

2002年11月15日号

 年々、果敢に他国の携帯電話事業者の買収をたび重ねることにより世界各国にその加入者数を伸ばし、今や世界最大、最強の携帯電話事業者となった英国のVodafoneは2002年10月、遂にフランス市場の攻略に取り掛かった。
 Vodafoneが目を付けたのは、Vivendi Universal(フランスの巨大な水道・電気通信・メディア・娯楽会社)が支配権を有しているフランス第2位の電気通信会社Cegetelである。Cegetelは傘下にSFR(FT所有のOrangeに次ぐフランス第2位の携帯電話事業者)を有しており、VodafoneはCegetelのマジョリティーもしくは100%の株式取得を通じてSFRを自社の支配下に置き、同社のグローバルネットワーク網の総仕上げを意図している。
 Vodafoneは2002年10月初旬、早くもCegetelに有するBT(24%)、SBCCommunications(15%)の株式取得について、それぞれ合意に達した。また同日に、Vivendi Universalに対しても同社が有しているCegetel株式(44%)を買収する提案を行ない、Cegetelを丸ごと買収する意図を明らかにした。
 現在Vivendi Universalは、前会長兼CEOのメシア氏の放漫経営の結果、巨額の負債を抱え、破綻寸前に陥った財務基盤を立て直すため、後任のフルツウー氏(Jean―Rene―Fourtou)が事業の切り売りを行っているさなかである。すでにCegetel、SFRの小数株主(それぞれ15%、20%の株式を所有)の地位を確保しているVodafoneにとっては、Cegetelの支配権を獲得し、ドイツ、英国に次ぐ携帯電話市場でありしかも競争業者が少ないフランスに本格進出するには絶好のタイミングであった。流石にM&Aの手腕について定評のあるVodafoneの会長兼CEOゲント氏(Sir Christopher Gent)らしい行動である。 
 ところが10月29日、Vivendi Universalの役員会はVodafoneによるCegetel株式(44%)取得の提案を拒否した。また同社はパリの商務委員会の力を借り、VodafoneによるBT、SBCCommunications両社が所有するCegetel株式の買取行使の期限を2002年12月末まで延期させることに成功した。Vivendi Universalは両社所有の株式について、先買特権を有している。つまり自社の電気通信部門を新生Vivendi Universalの中核事業の一つと位置付けているVivendi Universalとしては、本年末までの間にVodafoneからの攻勢に対抗して、Cegetel(ひいては傘下のSFR)の支配権を保持するため、BT、SBCCommunicationsの双方あるいは片方を買収するだけの資金獲得の見通しが付くか否かの検討に入ったものと見られている。
 最新のファイナンシャル・タイムズの報道によれば、Vivendi Universalは取引銀行11社に対し、Cegetel株式買増しのため追加融資の要請を行ったという。従ってVodafoneによるCegetel攻略が成功するか否かは、Vivendi Universal金融筋の回答いかんに掛かっている模様である。
 以下、VodafoneとVivendi Universal両社のCegetelをめぐっての角逐の模様を紹介する。

Vodafone、BT及びSBCCommunicationsからCegetel株式取得についての合意を得るとともにVivendi Universalに同社が有するCegetel株式44%の取得を提案

 2002年10月16 日、フランスの電気通信分野への一層の参入を果す目的で、Vodafoneが発表したBT、SBCCommunicationsとの合意及びVivendi Universalに対する提案を行った。その概要は次の通りである。なおVodafoneはいずれの取得もキャッシュにより行うといっている(注1)。

(1) BT、SBCCommunicationsからのCegetel株式の取得についての合意
   * VodafoneはBTが所有するCegetel株式24%を40億ユーロで取得する。
   * 同じくVodafoneは、SBCCommunicationsが取得するCegetel株式15%を23億ユーロで取得する。

(2) Vodafone、SBCCommunicationsに対し、同社がCegetelに有する株式(44%)取得を提案
   * Vodafoneは、Vivendi Universalが所有するCegetelの株式(44%)を67.7億ユーロで取得する。
   * この提案の期限は10月30日とする

 上記の合意内容を理解するためには、Cegetel、SFRへの資本参加企業相互の込み入った資本所有関係を頭に入れなければならない。図1を眺めていただきたい(注2)。

図 Group Cegetelと同社への参加企業の資本関係


 要は、Vodafone(Cegetelに対し15%を所有する小数株主)は、他の株式所有2社(BT、SBCCommunications)からCegetel Groupに有する株式計41%の売却約束を取りつけ、その既成事実(Vodafoneが56%のCegetel株式、ひいてはSFRの64.8%のマジョリティーを制することにより、両社の支配権を獲得することになる)を強力なテコとして、Vivendi Universalに対し、同社の有するCegetel株(44%)の譲渡(端的に言えば、大金67.7億ユーロという大金との引き換えによるVivendi Universalの電気通信部門からの完全撤退)を迫ったということになる。

先買権行使の準備を進めるVivendi Universal

 Vivendi Universalは、Vodafoneからの激しい攻勢に対し、早速反撃に出た。
 まず同社は、BT、SBCCommunicationsに対する先買権行使を意図して、Vodafoneの両社買収の実施期日を遅らせるため、パリの商務裁判所に訴えを提起した。
 同裁判所は10月28日、BT、SBCCommunications及びVodafoneに対し、3社の合意内容の実行を合意がなされた10月16日から50日後(12月末)まで延伸せよという旨の判決を下した(注3)。これにより、Vivendi Universalは買戻し権を行使するための準備期間を確保できるようになった。
 またVivendi Universalは、翌10月29日、役員会においてVodafoneに対し、同社からのCegetelへの同社の持ち株(44%)買収申し出を引き受けない旨の決定を行った(注4)。同社は、このような決定を行った理由として、Cegetelの市場シェア、財務状況、将来見通しを勘案したうえで、ベライゾンの申出価格(67.7億ユーロ)がCegetelの価値を正当に反映していないと述べている。
 さらに2002年11月初旬、同社は取引銀行11社(これまで融資を受けている銀行)に対し、同社がCegetelの所有を強めた方が結局は同社が現に有している巨額の負債(190億ドル)を返却する期間が短縮される(Cegetel Groupの収益率が高いため)との理由を付し、追加融資を要請した(注4)。
 上記の経緯からすると、Cegetelの支配権を従来通り維持するため買戻し権を行使したいが、当面金繰りが付かない、従ってVodafoneによる同社のCegetel株取得の要請には応じないことにすれば、近い将来に売却をする可能性もあるから、価格に不満がある点を理由にしてVodafoneとの関係は繋げておくという戦略に出たものと推察される。極力、先買権を行使してVodafoneの支配を排除する努力をするが、それが出来ない場合にはVodafoneとの関係が断絶しないための措置を講じたわけである。

予想されるVivendi Universalの対抗策

 Vivendi Universalが取ると予想されるオプションは、次表に示すとおりおよそ3通りが考えられる。

表 Vivendi Universalの対処策オプション
項目
内容
効果
オプションIVodafoneは、BT、SBCによるCegetel Groupが有する株式(それぞれ24%、15%)を取得する。VodafoneはCegetel Groupに対する支配権を取得。Vivendi Universalは、今までの最大株主の地位から、経営への権限を大きく喪失する。
オプションIIVodafoneは、オプションI に加え、Vivendi Universalが有するCegetel Group株式44%をも取得する。Vodafoneは、Cegetel Groupの100%株式所有を通じ、フランス第2位の固定、携帯電話事業を手中に収め、初志を貫徹する。
オプションIIIVivendi Universalが買取権を行使し、BT、SBCが有するCegetel Groupの株式のいづれか、あるいは双方を買い取る。 Vivendi Universalの巻き返しの成功を意味する。同社の通信事業部門の地位が外資に対し、強化される。

 オプションI、II は、Vivendi Universalの反撃が成功せず、Vodafoneの軍門に下った場合に生ずる。オプションII は、Vivendi UniversalがCegetel Groupの支配権はもとよりすべての株式を放棄するケースであるが、Vivendi Universalは面子の点からしても、実益の点からしても(収益率の高いCegetel Groupからの配当収入、将来の株価値上がりの期待)多分、起こり得ないであろう。
 また、オプションIII は、Vivendi Universalが11銀行から追加融資を得て、Cegetel Groupへの株式買い増しに成功するケースである。ファイナンシャル・タイムズは、フランス系の銀行の4社は融資の買い増しに積極的であるが、非フランス系9行はVivendi Universalの戦略に疑問を持っており、Vodafoneから比較的に有利な条件でCegetel Groupに有する同社株式(44%)を買い取る提案が出された機会に、その提案を受けたらどうかとの意見を出している銀行もあるといわれる。
 底流にあるのは、この電気通信不況のさなかにグローバル携帯電話網の構築を目指して進撃するVodafoneと昔日の世界第2のマルチメディア(1位はAOLTimeWarner)の地位から転落し、今や経営再建のための資産売却に狂奔するVivendi Universalとの間のあまりにも大きい格差である(注5)。
 近々、また遅くとも2000年中にこの案件は結論がでると考えるが、Vivendi Universalの反撃が成功する公算は少ないと考えられる。


(注1) Vodafone、Vivendi両社はともに今回の合意について公式の声明を発表していない。合意条件については、2002.10.16付けFT.com, "Vodafone to buy BT and SBC stakes in Cegetel"を参照した。
(注2)les echos.fr "Cegetel: Vivendi obtient un delai pour contre-attaquer"(10月 28日付け)
(注3)同上の記事による。
(注4)2002.11.3付けファイナンシャル・タイムズ、"Vivendi outlines Cegetel bid plans to banks"
(注5)Vodafoneはこれまで、欧州では英国、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オランダ、スエーデン、アイルランド、ハンガリー、アルバニア、ギリシャ、マルタの諸国で携帯電話事業(そのほとんどが1位ないし2位の業者)を取得している。この他、米国、中国、日本の市場にも進出しており、総加入者数は1億を越えている。2年前、欧州の携帯電話事業者がこぞって、3G免許を申請したときには、Vodafoneの他にBTMobile(英)、Orange(フランス)、T−Mobileの3社も、グローバル市場への進出を目指し、果敢な海外投資を行った。しかしその後、正に携帯電話事業部門への過大投資のため、親企業の経営が悪化し、いずれもグローバル戦略の縮小(BTの場合は改称したO2のスピン・オフ、Orangeの場合はイタリア市場、フランス市場からの撤退決定、DTの場合は米国に所有する携帯電話事業VoiceStream売却方針の決定等)に追い込まれている。
このような状況にあって、Vodafoneの事業拡大は、当面、連戦連勝、無人の野を進撃する趣きがある。しかしさしものVodafoneも120億ポンドもの負債を抱えており、金融筋、1部の観測筋は、同社の今後の事業拡大(もちろんさらに負債を増やさざるを得ない)に危惧を有していることも事実である。例えば2002.10.15付けファイナンシャル・タイムズ、"Vodafone faces a cash question".
(注6)2002.10.17付けファイナンシャル・タイムズ、"Vodafone moves to complete the jigsaw"。


テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから




<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2002 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.